ユーノ・スクライア外伝   作:重要大事

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第46話「サ・ヨ・ナ・ラマスター」

「―― はじめまして。僕はユーノ・スクライア。君の名前を教えてくれるかな?」

《I’m Raging Heart.(レイジングハートです)》

「今日からよろしくね、レイジングハート」

 

――それが、彼との最初の出会いだった。

――今でも彼との出会いは鮮明に覚えている。彼が私を見つけてくれなければ、今の自分はここにはいないだろう。

――だからこそ、私は悔しかった。私を暗闇から救い出してくれた彼の役に立てなかったことが。

 

           ≡

 

新歴079年 8月8日

第3管理世界「ヴァイゼン」

カレドヴルフ・テクニクス本社開発センター

 

その日、ユーノはなのはを伴い、CW社でARカートリッジの出力テストに臨んでいた。「それじゃあ、なのは。準備ができたら始めよっか」

『こっちはいつでも大丈夫だよ。ユーノ君!』

「OK。これより、ARシミュレーションを開始する」

「いくよ、レイジングハート。ARカートリッジ、ロード!」

〈All right. AR set. Maximum Maser〉

なのはの愛機、レイジングハートがARカートリッジの装填によって形態を変える。準備が整ったのを見計らい、研究員が号令を出す。

「それではテストを開始します。まずは出力60パーセントでお願いします」

『了解ですっ』

なのはは軽やかに応え、出力テストを始めた。その様子を周囲の研究員達は鋭い視線で見守り、次々とデータを採取していく。

「排熱機構正常作動。バレル部分に異常や損傷ありません」

「通常環境下と出力誤差5パーセント、リンカーコアへの負荷想定の範囲内です」

一方、ウシヤマは目を輝かせながらレイジングハートを凝視していた。

「あれがミスターの改良したARカートリッジの進化形態ですか」

「マキシマムメーザーモード。旧来のブラスターモードを改良に改良を重ね、ピーキーな彼女の魔法適正に合わせより微調整を繰り返してようやく完成にこぎつけました。ARカートリッジを使用することで、最小限の負荷で最大限のパフォーマンスを発揮できます」

雄弁に語るユーノの説明には、熱意と自信が込められていた。

「しかも、高設定されたAMF内であの出力、いたれりつくせりじゃないですか!」

「今回のデータはCW社謹製の『フォーレトスシステム』、『カノン』に流用が可能です。当面の問題は、重さと必要魔力がどちらも『重量級』であること。特に魔力のほうは必要量が膨大過ぎて、汎用性に欠けてしまうこと」

「たしかに、現時点で開発に携わっている人間ではあれはとても扱い兼ねる代物。単純な魔力量だけなら八神二佐か高町一尉しか全開で撃てませんしね・・・」

ウシヤマが静かに頷く中、ユーノの表情には確固たる決意が浮かんでいた。

「それでもですね、ウシヤマさん。僕は彼女のためなら何だってしますよ。守るため、救うために。できることを増やしたい。そう言って戦うことを望む限り、僕は彼女の力になります」

その言葉に込められた真摯な思いを、誰よりも理解しているのはユーノ自身だった。そして、レイジングハートと完璧な連携を見せながら、仮想敵を次々に撃破していくなのはの姿に、彼は静かな満足感を抱いていた。

 

           *

 

同センター内 第3デバイスルーム

 

実動テストを終え、透明な容器に移されたレイジングハートに向き合い、ユーノは静かにメンテナンスを進めていた。

「レイジングハート、新機能の調子はどうだい?」

〈No problem.(問題ありません)〉

その簡潔な応答に一瞬微笑みながら、ユーノは続けた。

「でも、まぁあれだね。レイジングハートもここ数十年で随分と武器武器しくなったよね」

〈Given the nature of the current master's profession, weapon enhancements are unavoidable. We find our value only in being used by our master.(現マスターの職業柄武装強化が施されるのは致し方ないと思われます。我々はマスターに使われなければ価値を見出せませんので)〉

彼女の言葉には、自己犠牲にも似た使命感が感じられた。それを肯定するように、ユーノは「それもそうだ」と言って、軽く頷いた。

「その点で言えば、君は早い段階でなのはと出会えてよかったと思う。あのまま僕の手元にあったところで、君は自身の真価を発揮できぬままだったに違いない」

淡々とした口調でそう語りながらも、どこか遠い目をするユーノを、レイジングハートは静かに見つめていた。そして、不意に彼に問いかける。

〈Master Yuno・・・(マスターユーノ・・・)〉

「おかしなことを言うね。僕は君のマスターじゃないよ。そもそも、僕は君にマスター登録してもらえなかった」

〈Why was I never used by you?(何故、私はあなたに使ってもらえなかったのでしょうか?)〉

「今更な質問だね。レイジングハートが僕に使ってもらえなかったんじゃない。僕が君を使えなかったんだ。だからマスター登録すらできなかった。単純にそれだけだよ」

〈Is that truly all there is to it?(本当にそれだけでしょうか?)〉

彼女の問いには、どこか食い下がるような響きがあった。しかし、ユーノは淡々とした口調を崩さない。

「相性っていうのは大切なんだ。相性の悪い者同士が一緒にいても、何も生まれない。レイジングハートと僕との相性はイマイチなんだ。でも、君となのはは違う」

その言葉に、レイジングハートは小さく沈黙した後、意を決したように声を発する。

〈Master Yuno... I wanted to be used by you...(マスターユーノ。私は、あなたに使っていただきたかったのです・・・・・・)〉

ユーノはその言葉に応じることなく、一瞬だけ視線を伏せた。

〈If you had not found me, I might not exist as I am now. Even so, before meeting my current master, I only wished to be used, even if our compatibility was poor...(あなたが私を見つけてくださらなければ、今の私は存在していないかもしれません。それでも、現マスターに出会う前の私は、ただ使われることだけを望んでいました。それがたとえ、あなたにとって相性が悪くても――)〉

「レイジングハート・・・・・・」

ユーノの声は低く、感情を押し殺すような響きがあった。それを受け、レイジングハートの声が再び彼の心を揺さぶる。

〈That is why I cannot stop calling you 'Master.' Please forgive me.(だからこそ、私はあなたを“マスター”と呼び続けることをやめられないのです。どうか許してください)〉

「・・・・・・君は、本当に頑固だね。でも、僕にとって君が特別なデバイスであることに変わりはないよ」

すると、レイジングハートは、ほんの僅かに安堵したようだったが、直後に、疑念を挟む問いを投げかける。

〈Does that mean the compatibility between my current master and me is akin to that of the blade in your hand?(それはつまり、現マスターと私の相性が今あなたの手元にある刀と同じである・・・そういうことでしょうか?)〉

「晩翠は君が思ってるようなものじゃないよ」

ユーノはそう応えると、静かに杖から封印状態の愛刀を引き抜いた。その澄んだ刀身と波紋をなぞるように見ながら、さながら過去を掘り起こすように語り始める。

「こいつはね、振る者の命を食らう妖刀。いつ僕自身の命を食らうやもしれない。でも、だからといって置くに置けないのさ。こいつは僕を底の見えない暗闇から救い出してくれた。こいつが居たから僕は生きられた。だから、僕は最期の瞬間までこいつを手放すつもりはない」

その声にはどこか愛惜と決意が宿っていた。その様子をじっと見つめるレイジングハートの内心には、複雑な感情が渦巻いていた。

〈Master Yuno... I...(マスターユーノ・・・・・・私は)〉

言葉を紡ぎかけたその時、メンテナンスルームの扉が突然開いた。

「ごめんごめん。お待たせっ」

遅れたことを詫びながら、なのはとウシヤマが明るい声で入ってきた。

「なのは、ウシヤマさんとの話は終わったのかい?」

「えぇ。AEC武装の試作機の実働テスト日程について、高町一尉のスケジュール調整していたのと・・・」

「あと、個人的にレイジングハートにお願いしたことがあるって言われてね」

「お願い?」

その言葉に応じるように、ウシヤマがユーノに手渡してきたのは、社内で開発が進められている人工知能搭載型アンドロイドに関する機密データだった。

「CW-ADX『ラプター』開発計画・・・・・・以前に仰っていた自律汎用端末ですね?」

「予定では完成を二年後に控えてるんですが、AIユニットのサンプリングに是非とも高町一尉のレイジングハートをお借りできればと思いまして」

「なるほど。確かに、サンプリング対象としてこの上もない選択ですね」

「でね。私はウシヤマさんに協力しようと思ってるんだけど、レイジングハートの考えも聞かない分にはと思って・・・」

ウシヤマとなのはの説明に静かに頷きながら、ユーノはレイジングハートに問いかけた。

「どうだろう、レイジングハート?」

〈I have no objections.(私は構いません)〉

レイジングハートの即答に、ウシヤマは歓喜の笑顔を浮かべた。

「そいつはありがてぇ! んじゃ、ミスター。高町一尉も申し訳ないんですが・・・もう二日ばかり彼女をお借りいたしますが、いいですか?」

「はい」

「私達で力になれるなら喜んで」

 

その日の夜、レイジングハートは昼間に交わされたユーノの言葉を静かに反芻していた。

 

――僕は君のマスターじゃないよ――

――相性の悪い者同士が一緒にいても、何も生まれない――

 

その冷ややかな響きの中に潜む距離感。それは、彼女の心に決して癒えない影を落としていた。

――マスターユーノ・・・・・・いつからあなたはそんなにも余所余所しい言葉を紡ぐようになったのですか。

 ――何故、あなたは私を一度も使ってくれなかったのですか。

 ――何故、あなたは私ではなくあの刀を使うのですか。

 ――何故、私はあなたをマスターと言ってはいけないのですか。

問いは沈黙の中に幾重にも渦巻き、彼女の存在そのものを揺さぶっていた。

だがその時だった。突然、耳を劈くアラートの音がセンター内に鳴り響く。

 ブー! ブー! ブー!

それに続くように爆発音が轟き、火災の赤い輝きが闇夜を切り裂いた。

「何事だ!?」

「第23区画にて原因不明の爆発事故発生!」

夜間警備の職員や残業中のスタッフ達が次々と動揺し、混乱が広がる。爆発の規模は徐々に拡大し、その猛々しい炎は、理性を失った獣のように人々を襲っていった。

『なんと手落ちなセキュリティ、なんと脆い生物なのでしょう。これでは私のような悪党が入ってくれとわざわざ言っているようなものです』

その言葉と共に現れた影――炎に包まれた廊下を悠然と歩むその人物は、確かな目的を持っているようだった。

『さて、早くに用事を済ませるとしましょう』

彼は手にした特殊な装置を操作し始める。その装置は、アンゴルモアの力を対象に強制的に注入し、その力を暴走させる恐るべき仕掛けを備えていた。触れる者を選ばず、むしろ扱う者すら飲み込む危険な代物――それは人類の理性を嘲笑うかのような存在であった。

『これで、少しは楽しませてもらえるといいのですがね。強大な力を得たデバイスが暴走する姿――いや、恐れ慄く人々の顔こそが至高の芸術です』

その目的は単なる破壊ではなく、対象を意図的に暴走させ混乱を広げることにあった。

〈What could have happened? In this state, independent movement is impossible.(何があったというのでしょうか? この状態では単独移動もままならない)〉

レイジングハートはケースの中から迫りくる異様な気配を感じ取る。その不吉な波動は、ただの偶然ではなく、明確な悪意の産物であることを告げていた。

やがて、鋭い爆発音と共に扉が蹴破られる。炎の渦を背にして現れたのは、正体不明の人物だった。

〈Who... are you?(あなたは・・・・・・何者ですか?)〉

『さあ、それはどうでしょうね? しかし、あなたには特別な役割があるのです。さあ、眠りにつく準備をしてもらいましょう』

不敵な言葉を吐きながら、襲撃者の手元にある装置が静かに輝きを放つ。その輝きはまるで闇の中で膨れ上がる悪意そのもののようだった。

次の刹那、レイジングハートの周囲は赤黒い光に包み込まれた。光は渦を巻き、彼女のケースごと形を歪め始める。その力は、アンゴルモアがもたらす異質な干渉――物質そのものを変質させる凄まじいエネルギーだった。

やがて、光の中に人間の姿を模した輪郭が浮かび上がる。輪郭は徐々に具現化し、やがて実体を持つまでに至った。

 

           ◇

 

8月9日――

第1管理世界「ミッドチルダ」

ミッドチルダ中央南駐屯地内A73区画

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 部隊長室

 

「CWの本社が襲撃された!?」

なのはの驚愕の声が部隊長室に響く。その言葉に応じるようにはやてが冷静な口調で状況を説明した。

「昨夜未明に謎の爆発が起きて、夜営の職員ほか数十名が重軽傷を負う被害や。しかも悪いことに預けられたレイジングハートも消えてしもうた」

「そんなぁ!」

「襲撃者がレイジングハートを強奪したとでも言うのかい?」

「現場の状況から察するにそうとしか考えられへん。犯人が何の目的でレイジングハートを奪ったかんはわからへん。せやけど事態は深刻や」

なのははその言葉に息を呑み、目を伏せた。

「万が一に、レイジングハートが悪人にでも利用されるようなことがあったら・・・・・・」

「レイジングハートはマスター登録した人物以外で魔法を行使することは極めて困難だ。現状、彼女の力を引き出せるのはなのはだけだよ」

「確かになー」

リインの懸念に対するユーノの冷静な説明に、はやても深く頷く。

「八神部隊長・・・私はどうすれば?」

なのはの不安げな問いかけに、はやては毅然とした態度で応じた。

「この件については既にテスタロッサ・ハラオウン執務官とランスター執務官両名が現地で調査に当たっとる。高町隊長は続報あるまでは普段の業務に専念するんや」

「はい・・・了解です」

静かに応じるなのはを見送ると、ユーノは自らの仕事に戻るべく踵を返した。

「なら、僕も自室に戻って仕事をするよ」

だが、その背中を、はやての声が呼び止める。

「あぁ、待って。スクライアアドバイザーにはちょっとばかし見てもらいたいものがあるんや」

「え?」

なのはが部屋を出て行った後、残されたユーノにはやてがある資料を見せた。それは、先ほど送られてきたばかりの、襲撃当時に監視カメラが捉えた最後の映像だった。

「これなんやけど・・・・・・ぶっちゃけユーノくんは、なんやと思う?」

「!!」

映像に映し出されていたのは、黄金の甲冑を身に纏った怪人の姿だった。それを目にした瞬間、ユーノの表情は硬直する。

「ユーノくん?」

「怖い顔してますよ、ユーノさん」

(――まさかとは思うが・・・でもだとしたら今回の犯行は奴の仕業なのか。ならばその目的は・・・・・・)

思考を巡らせるユーノは、帽子を深くかぶり直すや否や、はやてに背を向けた。

「・・・・・・ちょっと出てくる」

「え? どこに?」

「CWの本社」

そう言い残すや否や、ユーノはすぐさま部屋を出て行った。

「ちょ、待つんや! ユーノくん!」

はやての制止も空しく、彼の背中は遠ざかっていった。

(奴の狙いが仮にレイジングハートだった場合、早くに手を打たないと取り返しのつかないことになるかもしれない)

 

「はやてちゃん、いいんですか・・・・・・引き留めなくて?」

静まり返った部屋にリインの不安げな声が静かに響く。その問いに応じるように、はやては僅かに肩を竦め、苦笑いを浮かべた。

「ほんまは、止めるべきなんやろうけど・・・・・・」

そう呟きながら、はやての脳裏には、ある人物が残した言葉が鮮明によみがえる。

 

――死神代行・黒崎一護とその愛弟子を決して敵に回さないことだ――

 

それは数か月前の会談の席で、京楽春水から向けられた言葉だった。ユーノが一護と同等に死神側から信頼を得ていることを示唆するものだ。

「しゃあないな・・・・・・」

諦めたように呟き、リインに向き直るはやて。その目には覚悟と信頼が浮かんでいた。

「こうなった以上は私達には止められへん。そもそも、止める必要もないのかもしれへん。大人しく信じるしかないわ」

リインはその言葉に小さく頷き、ぎゅっと胸の前で手を握りしめた。その瞳には、決意と信頼が確かに宿っていた。

 

           *

 

第3管理世界「ヴァイゼン」

カレドヴルフ・テクニクス本社開発センター

 

はやての制止を振り切り、単身カレドに降り立ったユーノ。重く垂れ込める空気の中、事件現場に足を踏み入れると、先に調査を行っていたフェイトとティアナが驚愕の面持ちで振り返った。

「ユーノ!? 何でここに?」

「八神部隊長からは、今回の調査は私達だけだと聞いていたのですが・・・」

「どうしても確かめておきたいことがあってね。調査の邪魔はしないから、僕に気にせず二人は自分の仕事を続けて欲しい」

その声には静かながらも確固たる意志が宿っており、フェイト達は一瞬たじろいだ。ユーノは二人に背を向け、独自の判断で現場の奥へと歩みを進める。

予定外の展開に困惑しつつも、フェイトとティアナは互いに顔を見合わせた。彼女達は、ユーノが八神はやてと協力関係にあるものの、直接的な指揮下には属していないという特殊な立場を思い起こし、その自由な行動に異論を挟まず自らの調査に戻ることにした。

やがて、散乱する瓦礫を見回していたユーノは、同じく現場に現れたウシヤマと鉢合わせた。

「あ、ミスター!」

慌てた様子で駆け寄るウシヤマの表情には、事態への困惑と疲労の色が濃く刻まれていた。

「ウシヤマさん。大変なことになりましたね」

「えぇ、まったくです。夜中の三時に叩き起こされた時には、何事かと思いました」

ウシヤマは当時の出来事を思い起こしながら、やや自嘲的な笑みを浮かべ、ユーノを現場の奥へと案内する。

二人が到着したのは、レイジングハートが保管されていた部屋。そこは無惨にも破壊され、惨状を余すところなく晒していた。

「ここにレイジングハートが保管してあったんですね・・・それにしても、ひどい有様だ」

「しかし、犯人の狙いがまるでわかりません。なんだってレイジングハートを盗んだりしたんだ?」

その時、通路を歩いていたフェイトが二人に気づき、声をかけてきた。

「ユーノ。ちょっといいかな?」

「何かわかったのかい?」

「ティアナと二人で聞き込みをしたんだけど・・・・・・爆発から侵入に到るまで、素人には見えない程手際が良かったらしい」

「そっか・・・」

フェイトから事件当時の状況を聞きながら、ユーノは被害状況を再確認する。

レイジングハートがあった場所だけが徹底的に荒らされており、他の場所にはまるで手をつけた形跡がなかった。この部屋には他にも貴重な技術が多く保管されているにも関わらずだ。

「ウシヤマさん、レイジングハート以外に何か盗まれたりはしていませんか?」

「それが全く。開発中の新データも無事でしたし、職員の個人的な資産に関しても一切手を付けた形跡がありません」

「まるで、最初からレイジングハートだけが目的だったみたい」

「というかほぼ間違いないだろうね。それでも、ここの技術は次元世界でもトップレベルの水準に達している。敵の手にAEC武装や第五世代デバイスに関する情報が渡っていないというのは、正直ほっとしている」

「ええ。あれが完成すれば、少なくとも『魔導殺し』の異名を取るエクリプスウィルスとそれを使って悪事を働くかの『フッケバイン』の凶鳥達とも対等以上に渡り合えるってもんです」

ウシヤマの言葉にユーノは静かに頷いたが、彼の胸中には別の疑念が生じていた。

(それにしても・・・・・・本当にレイジングハートだけを盗んで行ったなんて、奴は一体どういうつもりなんだ? 確かに、レイジングハートは稀に見る強力なデバイスだけど、力が欲しいなら他のデータもデバイスにインプットしていくはずだ。ということは、それ以外の別な理由があるのか・・・・・・)

黄金甲冑の怪人――襲撃者の狙いがレイジングハートにあることはほぼ間違いない。しかし、その行動の意図は霧の中だった。

しばらくの間、ユーノは執拗に現場を調査したが、決定的な手がかりを得るには至らなかった。

 

           *

 

第1管理世界「ミッドチルダ」

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎

 

険しい顔で腕を組みながら、ヴァイゼンから戻ったユーノが隊舎に足を踏み入れた直後、その姿を見つけたはやては、小さく驚きの声を上げた。

「ユーノくん! 今連絡しようと思っとったとこやわ!」

「何かあったの?」

はやては嬉々とした笑みを浮かべながら、思わず声の調子を弾ませた。

「朗報や! レイジングハートの反応が見つかったんよ!!」

「なんだって!?」

その言葉に、ユーノの表情が一瞬驚愕に変わる。

「力を入れて捜索した甲斐があったわ、まさかこんなに早く見つかるなんてな!」

興奮気味に語るはやてに対し、ユーノは依然として険しい顔を崩さない。その内心では、冷徹な推察が渦を巻いていた。

(しかし妙だ・・・・・・いくら力を入れたとはいえ、あまりにも早すぎる。向こうだって僕らがレイジングハートを追跡できることくらい解っているはずだ。だからこそ、何か対策を打ってくると思っていたけど・・・・・・まさか、わざと見つけさせたのか?)

レイジングハートの発見は喜ばしいことではあったが、敵の策略に絡め取られるような不安がユーノの胸中を掠める。このまま反応のあった場所に向かうべきか、深い迷いが生じる。

だが、その迷いも束の間だった。レイジングハートを失うわけにはいかない――その想いは疑念を凌駕し、ユーノに進むべき道を示していた。

「それで、反応のあった場所は?」

真剣な眼差しをはやてに向けながら、ユーノは静かに問いかける。

はやては空間ディスプレイを呼び出し、「ここや」と言って、そこに異世界の情報を提示した。

「っ! ここは・・・――」

モニターに映し出された異世界のデータに目を落とした瞬間、ユーノの瞳が大きく見開かれる。その視線には驚きと警戒が混じり、言葉を失っていた。

 

           *

 

同隊舎内 部隊長室

 

一時間後、部隊長室には、なのは、ユーノ、フェイト、恋次、シグナムの五人が集まっていた。部屋の中央に座るはやては、真剣な面持ちで周囲に視線を巡らせる。

「さて、みんなも知っての通り――昨夜、何者かがCWの本社を襲撃。高町隊長の愛機・レイジングハートが盗まれた。そしてつい先程、そのレイジングハートの反応が見つかった」

「本当に!?」

突然の朗報に、なのはは身を乗り出した。はやては静かに頷くと、空間モニターを操作し、反応があった場所のデータを表示する。

「第75管理世界『トロイメライ』・・・・・・その中のカラント地方と呼ばれる場所でレイジングハートの反応を捕捉した。ここはかつて《カラント王国》っちゅう大層繁栄した王国が立ってたんやけど、色々あって滅びてしまってな。今は風化した王国跡が残っとるだけの無人区域や」

「なるほど。無人だから誰に見つかることもねぇ。隠れるには最適な場所ってことか?」

恋次が顎に手を当てて考察するが、はやては即座に首を振った。

「いや、そうとも言えないですよ。無人とはいえ、ここは管理世界、追跡されれば追われるのもあっという間だと言うんは犯人もわかっているはずです」

「はあ!? じゃあなにか? わざと見つかりやすいとこに逃げたって言うのか? 何の為にだ!?」

恋次の疑念にシグナムが静かに口を開く。

「八神部隊長・・・罠ではないのですか?」

その言葉に他のメンバーも思わず顔を曇らせた。

「罠だとしても、行かない手はあらへん。レイジングハートはなのは隊長の長年の相棒。失うわけにはいかんからな」

はやての言葉に、なのはも強い決意を込めて応じた。

「そうだね、絶対に取り返さないと!」

はやては再び全員を見回し、深く頷いた。

「それも含めて、今回は戦闘能力を基準に選抜している。このメンバーなら何があったとしても早々やられることは無い。ただ――」

すると、はやての言葉を受けて、ユーノが重い口を開いた。

「僕が一番懸念してるのは、ここがレイジングハートを見つけた場所って事なんだ」

「「えぇ!?」

「「「何(だって)(やて)!?」」」

ユーノの衝撃的な発言に、部屋中から驚愕の声が上がる。

「いやいや! ちょ、なんやそれ・・・ユーノくん聞いとらんで!?」

冷静さを保っていたはやても、事前に知らされていなかった情報に思わず声を荒げた。ユーノは軽く眉を下げ、「ごめん」と一言だけ詫びると、話を続けた。

「正直言うか迷ったんだ。偶然って可能性も捨てきれないから・・・というのも僕はレイジングハートを見つけた場所のことなんて話したことがないからね」

「そうだよね・・・私も初めて聞く話だよ」

なのはが小さく呟き、それに恋次が続けた。

「そういや、前にユーノが所有権をなのはに譲渡したってレイジングハートが言ってたっけな。にしても、なんでオメーが使わなかったんだ?」

問い掛ける恋次に、ユーノは微かな自嘲の笑みを浮かべた。

「死神は斬魄刀を己自身の魂から作り出すから、相性というものを考えなくて済みますよね? でもデバイスは違う。彼女の潜在能力を僕は引き出せないばかりか、マスター認証さえできなかった。だからレイジングハートに相応しい主が現れるまで僕が保管していて・・・・・・それがなのはだったんです」

懐かしむような表情で語るユーノ。その視線を受け、なのはも微笑みを浮かべる。二人の間に、短くも温かな時間が流れた。

「だからそういうわけで、今まで話すのを迷ってた。余計な情報は時に邪魔になるからね。でも偶然にしてはあまりに都合が良すぎると思いませんか? そして、敵がそのことを知っててこの場所を選んだとしたら、ますますその意図が分からない。敵には明確な狙いがある、それを念頭に置いて常に警戒して欲しい」

ユーノの諫言に、全員が真剣な面持ちで頷いた。そしてその後、五人は速やかに目的の異世界「トロイメライ」へと向かう準備を整えた。

 

           *

 

第75管理世界「トロイメライ」

カラント地方 カラント王国跡

 

薄曇りの空の下、ユーノ達は荒廃した王国の遺跡に足を踏み入れた。かつて繁栄を誇ったこの地は、いまやただ静寂と朽ちた建造物だけが支配する廃墟と化している。

「さてさて・・・・・・敵さんは何処にいやがるんだ?」

恋次が辺りを見回しながら軽口を叩く。その言葉とは裏腹に、彼の眼差しには鋭い警戒心が宿っていた。

「今のところ、それらしき影は見当たらないようだな」

シグナムが低く答え、慎重に周囲を確認する。

「随分と荒れ果ててる。王国跡って言っても、長年誰も訪れた様子も無いみたいだ」

フェイトは長年の放置で風雨に晒された遺跡の姿を見て、感慨深げに呟く。

一方で、なのははどこか懐かしむような表情を浮かべ、興味深そうに辺りを見渡していた。

「ここが・・・・・・レイジングハートのいた世界・・・・・・」

彼女の声には、一抹の寂寥と好奇心が織り交ざっていた。そんな中、ユーノは遺跡の一角をじっと見つめていた。

(たしか、僕が彼女を見つけたのは・・・・・・あの辺りだったか・・・・・・)

思い返すように目を凝らした瞬間、彼の瞳に奇妙な影が映り込む。

「ん?」

瓦礫を踏む音が微かに響く。全員がその音の方向へ視線を向けた。

瓦礫の向こうから現れたのは、金色の髪を肩まで流し、燃えるような赤い瞳を持つ女性だった。彼女の姿はなのは達より僅かに年上に見え、その整った容姿にはどこか非現実的な美しさが漂っていた。

「おい、あの女・・・・・・」

「はい。只者じゃない雰囲気を感じます」

恋次とフェイトが即座に警戒を強める中、なのはだけが別次元の感覚に囚われていた。その視線は、目の前の女性に吸い寄せられるように固定されている。

「なのは?」

「どうしたんだ?」

ユーノと恋次が、不審な様子を見せるなのはに声をかける。しかし、彼女は彼らの言葉に耳を貸すことなく、ただ心の中で反芻していた。

(なんだろう・・・・・・初めて会った気がしない・・・・・・うんうん、違う。私はずっと前から知っている!)

疑念が確信へと変わる刹那、なのはは静かに一歩を踏み出した。その動きに、周囲の者達は息を呑む。

「なのは!?」

「待て、早まるな!」

フェイトの驚きとシグナムの警戒の声が響く中、なのはは歩みを止めることなく女性に近づく。その表情には、不確かな思いを紡ぐような真剣さが宿っていた。

(わかる・・・・・・私は彼女を知っている。どれだけ姿形が変わっても、この感覚だけは間違いようがない)

長年の絆が胸の内で確信を結ぶ。その瞬間、なのはは深く息を吐き、口を開いた。

「あなた・・・・・・もしかして・・・・・・レイジングハート・・・・・・?」

「「「「え!?」」」」

「・・・・・・っ!」

その名を聞いた全員が、一様に驚きの声を上げる。なのはの視線は女性から微動だにせず、紡がれた言葉には一切の迷いがなかった。

唇を震わせるなのはに、フェイト、シグナム、恋次も言葉を失う。ユーノだけは、その可能性に薄々気づいていたものの、なのはによって事実を突きつけられ、静かに頭を押さえた。

「おい、嘘だろ・・・・・・レイジングハートって機械じゃねえか!? それが人間の姿をしてるなんてある訳がねぇ!」

「ユーノ・・・・・・まさかとは思うけど、CWと組んでレイジングハートに変な機能つけてたりしないよね?!」

「そんなことしてないよ! 僕だって驚いてるんだ」

ユーノが即座に否定すると、シグナムが冷静に言葉を続けた。

「デバイスの種類は多岐にわたるとはいえ、人に擬態するものなど聞いたことが無い」

「でも彼女はレイジングハートです! 間違いありません!」

なのはの瞳には、揺るぎない確信が宿っていた。

「ねえ、レイジングハート! 私だよ、なのはだよ!」

眼前の女性――レイジングハートと思われる存在は、なのはの訴えに応じることなく目を伏せたままだった。その沈黙が、普段の彼女からは考えられないものであることに、なのはは愕然とする。

「レイジングハート・・・・・・?」

なのはが動揺を隠せないまま問いかけたその瞬間、六課からの通信が割り込んだ。

『皆っ!! 驚いとるところ・・・ていうか私もめちゃくちゃ驚いとるんやけど、緊急事態や! その周辺から強いアンゴルモア反応が出とるんや!』

「なんだって!?」

ユーノが即座に反応する。はやての声は明らかに切迫していた。

『その女性が現れた時から、急に警報が出よった! 今まで音沙汰なかったんに一体どうやって隠してたんか・・・・・・とにかくその女性は、AM体で間違いあらへん!』

「ということは・・・・・・まさか!」

フェイトが目を見開き、女性に視線を向ける。だが彼女は一切の感情を見せることなく、その場に静かに佇んでいる。

「レイジングハート・・・・・・君は、アンゴルモアを持っているのかい?」

冷や汗を滲ませながら、ユーノが慎重に問いかける。その問いに応じるように、沈黙していた女性が口を開いた。

「――ご明察。やはり機動六課のオペレーターは優秀ですね」

冷然たる声色には、かつてのレイジングハートを彷彿とさせる響きが微かに宿っていた。

「じゃあやっぱり、あれは・・・・・・レイジングハートの心が具現化した姿なの!?」

なのはの声は微かに震え、言葉を紡ぐたびに彼女の胸中に去来する疑念と驚愕が浮き彫りとなる。

「なら、早くアンゴルモアを渡して! 私と一緒に戦ってきたあなたなら、その危険性がよく分かっているはずだよ!?」

「あなた方の予想通り、確かに、私は高町なのはのデバイス、レイジングハートです。ですが・・・・・・その要望に応じることはできません」

なのはの必死の訴えに、レイジングハートは静かに首を横に振る。その仕草には、冷厳でありながら迷いのない意思が込められていた。

「そんな・・・どうしてなの!? レイジングハート・・・!」

「申し訳ありません、マスター・・・・・・あなたに恨みも敵意はありません。アンゴルモアの危険性も、あなた方の使命の重大さも理解しています。それでも、私はこの千載一遇の機会を逃すわけにはいかないのです」

「どういうこと? チャンスって何? 私達は相棒でしょ? ちゃんと教えてよ!」

なのはが一歩前へ踏み出すと、レイジングハートは両手を前に伸ばし、魔力の波動を凝集させる。

「っ! なのは、避けて!」

ユーノの叫びと同時に、なのはは反射的に身を翻した。その直後、放たれた魔力弾がなのはの横を掠め、後方の建物へ直撃する。

「おわぁ!?」

恋次が慌てて地に伏せると、魔力弾の威力で建物が轟音を立てて崩れ去った。その破壊力は、なのはが普段の戦場で用いたものと遜色ない――いや、それ以上の威力を持つように思えた。

「どうして・・・・・・」

レイジングハートが本気で自分達に敵意を向けている――その事実に気づいた全員が驚愕と動揺を隠せぬまま、次第に戦闘態勢を整えていく。

悲しげな瞳で呟くなのはの声が風に溶ける中、フェイトが彼女にそっと寄り添うような声音で語りかけた。

「事情は分からないけど、彼女(レイジングハート)は本気だ。説得できる雰囲気にないよ、なのは」

「・・・・・・うん、分かってる・・・・・・どうしてこんなことになってるのか分からないけど、AM体であるなら私たちが鎮めないと・・・・・・!」

刹那。静寂を裂くように、恋次の鋭い声が響き渡る。

「来るぞ!」

恋次の声と同時にレイジングハートが動く。

同時に放ってきたいくつもの魔力弾をユーノ達は避けながら本体に近づこうとする。

「つらああああああ」

「はあああああああ」

その声とほぼ同時に、レイジングハートが宙を駆け、いくつもの魔力弾を放つ。ユーノ達はそれを躱しながら、攻撃の合間を縫って本体へと接近を試みる。

「つらああああああ!」

「はあああああああ!」

恋次とシグナムが双方向から斬りかかる。しかし、レイジングハートはその動きを的確に読み、飛行魔法で空高く舞い上がると、上空から正確な迎撃を加えた。

「バースト・・・・・・スマッシャー」

なのはが自らの得意技で砲撃を繰り出す。だが、その威力はAM体化したレイジングハートにより強化され、凄まじい破壊力を伴って地面を大きく陥没させた。

「レイジングハート!! これ以上はやめて、お願い!!」

なのはの切実な叫びは、空間を震わせるかのようだった。しかし、レイジングハートはなおも冷徹な決意を持って応じることなく、自分達に激しい弾幕を浴びせる。

なのははデバイスを失った状態での防御に徹していたが、眼前に迫る魔力弾の強力さに表情を曇らせる。

(これが・・・レイジングハートの本来の力・・・・・・! 一発一発がすごく重い・・・・・・!)

「やめてって言ってるのがわからないの!?」

フェイトは、なのはが受ける負担を考慮し、一気に決着をつけようと高速移動を発動。ソニックムーブでレイジングハートの背後に回り込み、バルディッシュを振り下ろした。

「!!」

だが、レイジングハートはそれを予期していたかのように、捕縛盾(バインディングシールド)を展開。首筋を狙った魔力刃を受け止めると同時に、フェイトの右腕を魔力鎖で封じる。そして空いている手に圧縮された魔力の奔流を宿らせる。

「エクセリオン――バスター」

「なっ・・・!」

咄嗟の攻撃に吃驚したフェイトは、寸前のところで鎖を断ち切り脱出に成功する。だが、その一撃がほんの僅かでも遅れていれば、致命傷を免れることはできなかっただろう。

「くそっ! さすがに手強いな」

「完璧に、なのはの技を使いこなしている・・・・・・いや、あるいは、なのは以上かもしれん」

シグナムは隣に立つ恋次と共に、鋭い視線で中空に浮かぶレイジングハートを凝視した。その表情には、敵の技量への警戒が色濃く滲んでいる。

レイジングハートは渇いた相貌を崩さぬまま、冷ややかな声音で静かに言い放つ。

「あなた方では私を止めることはできません。私を止められる人間は、この世でただ一人――」

その言葉に続くように、レイジングハートは未だ一戦も交えていないユーノの方へと視線を向ける。そして、躊躇することなく、一際大きな砲弾を放った。

「ユーノ君!!」

なのはの叫びと同時に、ユーノは瞬歩を用いて辛うじて砲弾の直撃を回避しながら宙へと舞い上がる。

「くっ・・・。これほどまでの魔力運用、そして魔力砲を平然とこなすなんて・・・本当に暴走しているのか・・・!」

ユーノは厳しい表情を浮かべつつ、晩翠を抜き放ち、迫り来る魔力弾を巧みにいなし、あるいは斬り伏せていく。

「・・・何かが妙だ、強力な技の殆どが、スクライアに向けられている!」

シグナムは、向かってくる弾を捌きながら叫んだ。その違和感は、戦況を見守る全員の胸中にも同じように響いていた。

ユーノ以外に向けられる魔力弾は、どこか正確さを欠きつつも、四人をユーノとレイジングハートから遠ざけるよう誘導している。そして、渾身の一撃とも呼べる高密度の攻撃は、悉くユーノへと集中していた。

まるで初めから、彼女の目的がユーノ一人であるかのように――。

「レイジングハートの言う“チャンス”って・・・・・・ユーノに関係しているの・・・・・・?」

直後、恋次が苛立ち混じりに叫ぶ。

「おい! だいぶユーノとレイジングハートと分断されたぞ! どうする!?」

「どうするもこうするもない。スクライアが目的なら早く近づいて援護しなければ――!」と、シグナムが鋭い声で返す。

「みんな、待って!」

だが、その言葉を遮るように、なのはが三人の前に立ちはだかった。

「なのは、どうしたの!?」

驚きに動きを止めるフェイト。その背後では、シグナムと恋次が迫る遠距離弾を弾き飛ばしつつ、なのはの行動の意図を見極めようと構える。

「このまま、ユーノ君達からは少し離れた位置で戦況を見守ろう!」

「どういうことだ!? ユーノが怪我しても・・・・・・まぁ、あいつが怪我するたまには見えねーけどさ、お前はいいのかよ?」

恋次の問いに、なのはは一瞬だけ瞳を伏せるが、すぐに顔を上げる。その目には迷いの色はなく、レイジングハートとユーノへの確信めいた信頼が宿っていた。

「さっきレイジングハートは“千載一遇のチャンス”って言ってました・・・・・・ユーノ君と二人で何かしたいことがあるんだと思います。それがAM体になった原因なら、少しでも思う通りにしてあげたいんです。あの二人だからこそ、この状況を打破できる。どうか、お願いします!」

その言葉に、フェイトとシグナムは目を合わせてから静かに頷いた。

「そうだね。今のあの二人なら、私達よりもいい結果を出してくれるかもしれない」

「阿散井、お前もそれでいいな?」

半ば強引な誘導に思える中、恋次はやれやれといった様子で頭を掻きながら、口を開いた。

「ったく、そんなに信じてるなら仕方ねーな! 俺だってな、それなりに奴を見てきたんだ。あいつなら、何とかしてくれるかもしれねえ」

「ふん……決まりだな。すぐに援護に入れそうな位置で攻撃を捌き続けるぞ」

「「「はい(おう)!」」」

 

自分達との距離を取りながら戦況を見守るなのは達の意図に気づき、ユーノは小さく苦笑を浮かべた。

「これは・・・・・・僕に任されたってことかな。まったく、なのはにそこまで愛されているとは羨ましい限りだよ、レイジングハート」

自嘲気味なユーノの言葉とは裏腹に、レイジングハートは冷ややかながらもどこか懐かしい響きを持つ声で応じた。

「お戯れを。マスターは貴方を誰よりも信頼し、愛していますよ。それを傍で見守ってきた私が言うのですから、間違いありません」

「そうだ――君は常になのはの傍にいた。君だって、なのはの事をマスターとして、相棒として認めていたはずだ。なのに何故、彼女を裏切るような真似をするんだ!?」

ユーノは弾幕の雨を掻い潜りながらレイジングハートに肉薄し、その刀を振りかざした。しかし、レイジングハートはどこからともなく出現させた杖形態の自身を用いて、刃を正確に受け止めた。

「言ったはずです。現マスターのことを後回しにしてでも、叶えたい思いが私にもあるのです!」

「一体何なんだい、それは!?」

互いの力がぶつかり合い、火花が散る。やがて、レイジングハートは人並みならぬ膂力(りょりょく)でユーノの刀を押し返し、すかさず距離を取ると杖の先端を鋭く彼に向けた。

「貴方のことですよ、マスターユーノ!!」

その言葉にユーノは驚愕の色を見せる。

「僕だって?」

「そうです。今こそ、私の思いの丈をあなたにぶつけます」

レイジングハートの声が響いた瞬間、凄まじい勢いで魔力弾が次々と放たれる。

「アクセルシューター・アバランチシフト」

名の通り、雪崩の如く頭上から押し寄せる無数の弾幕。ユーノは瞬歩を駆使して回避するが、その軌道は容赦なく彼を追い詰める。

「防御魔法を使わないつもりですか? あまり舐めないでいただきたいものです」

静かに怒気の籠った声で言うと、弾幕は囮となり、レイジングハート自身がユーノの背後に回り込む。

「ハイペリオンスマッシャー」

「・・・・・・ッ!!」

ほぼ密接に等しい距離から放たれた砲撃。ユーノは反射的にラウンドシールドを展開し、直撃を辛うじて防ぐが、すぐさま横方向から重厚な魔力弾が迫る。

「ハンマーバレット」

砲弾の衝撃で砂塵が巻き起こる。その中から、不意にユーノの声が響いた。

「マジック#44! 『フラッシュ・バンパー』!!」

砂塵の中から飛び出したのは格子状の網。それは優れた伸縮性を備え、クッションのように砲弾を絡め取り、見事に無力化する。

「!?」

レイジングハートの面に、初めての驚きの色が浮かんだ。砂塵の中から姿を現したユーノは、ほぼ無傷の状態で立っていた。

「今のは魔法ですか? 私の知る魔法とは随分と勝手が違うようですね」

「イギリスへ旅行に行った際、ひそかに習得しといたものさ。性質は鬼道と極めて酷似していてね。僕としては扱いやすいんだ」

ユーノは冷静に答えると、懐から笛のような楽器を取り出し、一息に吹き鳴らした。すると、その周囲に魔法の矢が円状に召喚され、まるで巨大な王冠を頂くような構図が現れる。

「マジック#75! 『ガトリング・クラウン』!!」

尖がった矢が一斉に放たれ、レイジングハートを狙撃する。だが、レイジングハートもまた自身の弾幕で迎え撃ち、全てを相殺する。

「これならどうですか!!」

語気強く言うと、レイジングハートの杖の宝石部分から高濃度の砲撃が発射される。その光と威力は、遠くで戦況を見守るなのは達も思わず息を呑むほどだった。

 

「ユーノ君!!!」

ユーノの耳に、なのはの切迫した声が届いた。だが彼は振り返ることなく、迫り来る砲撃に向けて斬魄刀を垂直に突き立て、一声叫ぶ。

(おお)え『晩翠』!」

その号令と共に、翡翠色の半透明な膜がユーノの身体を包み込む。巨大な砲撃と膜が衝突すると、一瞬にして激しい閃光が走り、爆音が大地を震わせた。飲み込まれるかと思われたユーノの体は砲撃と拮抗し、やがて晩翠に込められた力がそれを跳ね返した。

「な・・・・・・っ」

自身の渾身の一撃を押し返されたレイジングハートの顔には、初めて動揺の色が浮かぶ。彼女は即座に後方に跳び、再び同等の魔力砲を杖から放つ。

轟音が天地を揺るがし、爆発の衝撃波が周囲の瓦礫を跡形もなく吹き飛ばす。烈風が巻き起こり、砂塵が視界を覆い尽くした。

「きゃあ!」

「くっ、凄い爆風・・・・・・!」

「ユーノは無事か!?」

なのは達は必死に踏ん張りながら目を凝らすが、砂塵の壁の向こうにユーノの姿は見えない。風がやみ始めたその時、レイジングハートもまたユーノの不在に気づいた。

「マスターユーノ!? 一体どこに・・・・・・?」

その声に応じるように、背後から静かな声が響く。

「こっちだよ」

反射的に振り返るレイジングハートの目に映ったのは、自らの首元に晩翠の切っ先を向けるユーノの姿だった。彼女は一瞬身を強張らせた後、首元を逸らし、ユーノを見下ろす。

「・・・・・・・・・まさか、あの一撃を避けるのではなく、跳ね返すとは。流石ですね、マスターユーノ」

「僕じゃない、晩翠の力さ。それに、僕は君のマスターじゃないと何度も言ってるだろう」

その言葉に、レイジングハートは苦しげに顔を歪める。双眸には、何か押し殺した思いが溢れんばかりに宿っていた。

「どうして、貴方は・・・・・・!」

彼女の言葉を待つことなく、ユーノは穏やかな声で語りかける。

「君の思いの丈は十分に伝わったよ。これで終わりにしよう。もし君がまだ僕らの知るレイジングハートであるのなら、大人しくアンゴルモアを渡してくれないか?」

「私を・・・・・・斬らないのですか?」

その問いに、ユーノは眉を寄せながら即答した。

「僕だって好き好んで仲間を斬りたくはない。ましてや、それがなのはの相棒ともなれば」

「仲間・・・・・・ですか」

レイジングハートは目を伏せ、呟いた。その言葉に込められた感情は複雑であり、静かに燃え上がる激情が彼女の内側で渦巻いていた。

仲間(それ)では・・・・・・それではダメなのです、マスター・・・!!!」

突如として激情が爆発し、レイジングハートの叫びが空気を切り裂いた。

「レイジングハート・・・!?」

「何故、私ではないのですか! 私では貴方に相応しくないからですか!? その刀の方が、私より優れているからなのですか!?」

「違う! そんなことは――」ユーノは動揺しつつも首を横に振る。

だが彼の言葉を遮るように、レイジングハートは晩翠の切っ先を掴む。彼女の手から赤い血が滴り落ち、その痛々しい光景にユーノは驚いて刀を引こうとするが、彼女の力はそれを許さない。

「私だって・・・・・・貴方の役に立ちたかった・・・・・・!!」

彼女の瞳には涙が浮かび、その悲痛な言葉はユーノの胸を強く打った。

だが、次の瞬間、レイジングハートは晩翠を振り払い、杖をユーノに向けて構えた。

「認めない、絶対に認められない! 貴方に選ばれなかった事実など!! 今からでも、私の力がその刀よりも勝っているのだと・・・・・・貴方の役に立てるのだと証明してみせる!!」

瞳孔が大きく開き、身体中に高濃度の魔力が宿る。彼女の攻撃は暴走的な力を帯び、アンゴルモアの影響が顕著になっていく。ユーノはその変貌ぶりに苦渋の表情を浮かべながら、思考を巡らせた。

(そうか・・・・・・君をここまで傷つけ、苦しめたのは他でもない。僕だったんだね、レイジングハート・・・・・・)

ユーノの胸中に、鋭い刺のような後悔が芽生え、苦渋に満ちた表情が浮かぶ。

彼は一度たりともレイジングハートを「役立たず」と思ったことはなかった。ただ、相性が悪いという単純な理由で、彼女の秘められた力を最大限に活かせる者を探し続けることが彼女にとって最善だと信じていた。それが理性的な判断だったとしても、その行動は彼女の想いを踏みにじる結果を生んだ。そして、彼女がどれほど自分を慕っていたのかを、この瞬間まで気づけなかった愚かな自分に、ユーノは深い嫌悪感を覚えた。

「あぁぁああ、アアアアアッ!!!」

暴走したレイジングハートが感情の高まりと共に次々と魔力の奔流を放つ。ユーノは、多方面にバリアを展開しながら、その全てを受け止めていく。

(どこまで僕は愚かなのだろう。なのはばかりか、レイジングハートの気持ちひとつ満足に汲み取れないなんて)

自己を嘲るその思考の最中、レイジングハートの狂気は頂点に達し、なのはが誇る十八番の魔法を放とうとする。

「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

膨大な魔力が空を覆い尽くすように集束し、やがて桜色と紫色が混じり合った巨大な球体が浮かび上がる。その光景に、遠くから見守っていたなのは達は息を呑んだ。

「見ろ、あれを!」

「レイジングハートがスターライトを・・・・・・!」

「アンゴルモアで強化されていやがるんだ! いくらユーノでも一溜りもねーぞ!!」

「ユーノ君!! 今すぐ離れて!!」

なのはの叫びは切実だったが、ユーノは彼女の声に耳を貸さない。むしろその背中には、静かだが確固たる覚悟が滲んでいた。

(レイジングハート・・・・・・この不始末は、きちんと僕の手で付けさせてもらう!)

彼は晩翠をしっかりと握りしめ、その薄紅色に染まる魔力球を見上げた。空気を裂くように響いたのは、レイジングハートの魂から絞り出される叫び声だった。

「マスターユーノぉォォおおお!!!」

刹那、巨大なスターライトブレイカーが放たれた。空を引き裂き、大地を震わせるその破壊的なエネルギーは、ユーノのいる地点を目掛けて一直線に降り注ぐ。

それでも彼は一歩も怯まず、眼前に迫る死を前に瞳を閉じ、そして次の瞬間、勢いよくそれを開いた。

「スクライア!」

「まさか・・・・・・!」

シグナムとフェイトはその行動に目を見開く。ユーノが自ら弾幕の中心へ飛び込もうとしている――それが彼の意図だと理解したからだ。

「飛び込みやがったぞ、あいつ!!」

「無茶すぎるよ! あのスターライトは、受け止めるとか防ぐとか、そういう次元の威力じゃないのは、ユーノ君が一番分かってるはずなのに・・・・・・!」

なのははその行動に言葉を失った。しかし次の瞬間、彼女はその意図を悟る。

「っ! ・・・・・・ユーノ君は、レイジングハートの想いをその身を持って受け止めるつもりなんだ!」

その声には、彼の覚悟への理解と信頼が込められていた。レイジングハートの魔力球が今にもユーノを飲み込もうとするその瞬間――闘いの真髄が、静かに幕を開けた。

「うう・・・・・・あああああっ!」

逃げることも、隠れることも許されない。ユーノはその身を削るような覚悟で、燃え盛る火球に向かって突き進む。

その破壊力は尋常ではない。殺意に満ちた魔力の奔流は、彼の全身を焼き焦がし、刹那のうちに耐えがたい痛みを駆け巡らせる。だが、彼の瞳には一片の怯えも映らなかった。

「ハアアアアアアアアアアアア!」

遺跡群を粉砕し、大地を揺るがすスターライトブレイカー。その暴威の中、ユーノは晩翠を片手にただ前進し続けた。魔力弾幕を次々と切り裂き、跳ね除ける刃の一閃。彼の体は既に満身創痍だというのに、彼の意志は寸毫も揺るがない。

ついにレイジングハートの正面に辿り着いたユーノは、彼女の名を叫びながら力強く刃を振り下ろした。

「レイジングハート!!!」

その袈裟斬りは、彼の全てを込めた一撃だった。

「目を覚ませぇええええええ!!!!」

鋭い斬撃が彼女の肩から腹にかけて深々と切り裂き、赤黒い血の奔流が吹き出す。攻撃を受けたレイジングハートは、それ以上の反撃ができなくなった。

(あぁ・・・・・・やっぱり、こうなってしまったか・・・・・・)

斬られる痛みの中で、レイジングハートは薄れゆく意識に抗いながら、自らを見つめるユーノの顔を目に焼き付ける。

(どうして・・・・・・どうして、あなたはそんな顔をなさるのですか。あなたは決して間違った事など、何一つないというのに――)

彼女の視界に映るユーノの表情。それは、勝利者の顔ではなく、悲哀と後悔に満ちた、どこか赦しを乞うような面差しだった。

(本当に、昔から変わらない方ですね・・・・・・)

最後の力を振り絞りながら、彼女の心に浮かぶのは、過去の記憶だった――。

 

 

《Master Yuno?(マスターユーノ?)》

『なに?』

《Why won’t you use me?(何故、私を使ってくださらないのですか?)》

あの日、幼さを残した心の奥底から、不満ともつかない問いを投げかけた。それは、デバイスとして生まれた私の存在意義そのものを否定されるような苦しみから発した言葉だった。

彼は少し困ったように視線を落とし、そしてゆっくりと答えた。

『・・・・・・ごめんね。僕と君とは相性がイマイチみたいなんだ』

その言葉を聞いた瞬間、私の胸に広がったのは、自らの問いを後悔する思いだった。

 

――申し訳ないような、困ったような、悲しいような、寂しいような――

 

彼のそんな顔を目にした瞬間、胸が締め付けられるような痛みを覚えた。

『でも、大丈夫。きっと、君が心の底から“主”と呼べる人が現れるから』

彼はそう言いながら、首から提げていた私を両手で包み込むように優しく握りしめた。

『だから、それまで。君を預かるよ』

その温もり。その言葉。その行為の全てが、私の不安を払拭する一方で、どうしようもない孤独感を呼び起こした。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・レ・・・・・・ハ・・・・・・

 ・・・・・・ジン・・・・・・

 ・・・・・・ジングハート・・・・・・

 

――「レイジングハート!」

 

 

微かな呼び声に意識を取り戻すと、レイジングハートはなのはの膝の上に横たわり、自らの傷口から流れる血を見つめるなのはの瞳には、大粒の涙が溢れていた。

「レイジングハート、大丈夫!?」

「はぁ・・・ハァ・・・ま、スター・・・・・・」

なのはの涙がぽたぽたと落ち、レイジングハートの冷えた肌に温かな痕を刻む。その様子を見て、彼女は自らの敗北を悟り、微かに笑った。

「マスター・・・わたし、全力でした・・・私一人で出せる全力を出して・・・・・・それでもマスターユーノに勝てなかった・・・弱いですね、私・・・」

「そんなことないよ! 凄かった! 私には勿体ないくらい、あなたは凄い子だよ・・・!!」

なのはの必死な声が耳を打つが、レイジングハートは穏やかな微笑を浮かべたまま首を振る。

「アぁ、そんなこと言わないでください、マスター。貴女が使ってくださるからこそ、私は全力を出せる・・・。そうですね、そんなこと、分かっていた・・・はずなの、に・・・」

「レイジングハート・・・!? やだっ、しっかりして!」

彼女の反応が次第に鈍くなる中、なのはは血塗れの手を握りしめ、必死に呼びかける。その姿を見て、仲間達もまた目を伏せるしかなかった。

「こんな方法しか、なかったの・・・」

「暴走したアンゴルモアを鎮めるには倒すしかない・・・・・・スクライアの取った判断は正しかった。だが――」

シグナムは静かに呟きながら、ユーノの姿を目で追った。ボロボロになった衣服を纏い、ただレイジングハートを見つめる彼の表情からは、深い悲哀が滲み出ていた。

「ま。割り切れるものじゃねえよな・・・・・・」

恋次が呟く言葉もまた、場の空気に沈み込むようだった。

やがて、レイジングハートはふう、と微かな息を吐き、なのはの涙を拭おうと震える手を伸ばした。

「どうか・・・・・・私のために、これ以上、泣かないでください。まったく、マスターにここまで心配をかけるなんて、デバイス失格ですねぇ・・・・・・」

「そんなことない! あなたは私の自慢の相棒だよ! 昔も、今も、これからもずっと――」

哀しみに満ちた笑みを浮かべるなのはを見て、レイジングハートは満足そうに顔を綻ばせた。そして、自分の姿が粒子となって消えかかっていることを自覚する。

「マスターユーノ・・・・・・」

消えゆく力を振り絞り、レイジングハートはユーノに視線を向けた。

「もうすぐ私は元の姿に戻ります。どうか、手短にお話しさせてください・・・・・・改めて、私のわがままで皆さんにご迷惑をおかけして申し訳ありません」

そう言って彼女は、居合わせた五人に向かって静かに頭を垂れる。すぐさま、悲しみに暮れるなのはに微笑みかけ、感謝の意を伝える。

「マスター・・・・・・貴女が私の意志を汲んでくれたことに気づいていました。本当にありがとうございます」

か細い愛機の言葉に、なのはは瞳を潤ませながら首を振った。

「そんな・・・・・・むしろごめんね。あなたはいつも私のサポートをしてくれたのに、こんなにも悩んでることに気づけなかった・・・・・・」

主人からの謝罪を受け止めながら、レイジングハートは弱々しい微笑を浮かべる。

「良いのです・・・・・・これは私の問題でしたから。アンゴルモアの力を得たことは皮肉な巡り合わせですが、今となってはこの機会があって良かったと思っています。こんなことでもなければ、私は一生、彼に心の内を伝えることはできかったでしょうから・・・・・・」

その声には、長い間秘められていた感情が滲んでいた。

すると、沈黙を守っていたユーノが静かにレイジングハートの前に膝をつき、消えゆく彼女を見つめながら、深い後悔の念を込めた言葉を紡ぐ。

「レイジングハート・・・・・・僕は、君が役立たずだから君を使わなかったわけじゃない。それが結果として、君を苦しめてしまった。本当に・・・・・・ごめん」

その言葉と共にユーノは深々と頭を垂れる。その姿に、レイジングハートは穏やかな微笑を浮かべ、静かに語りかけた。

「ええ、わかっています。分かっていました。最初からずっと・・・・・・それでも、戦いの中で私が“私”という人格を得るにつれ、それを認めることができなくなったのです。この姿を与えられてからは特に・・・・・・心とは、なんと不自由なものでしょう・・・・・・」

言葉を紡ぐ声が次第に弱まり、レイジングハートは胸元に手を当てる。自嘲するような笑みを浮かべた彼女は、ふっと視線を上げ、ユーノを見つめた。

「・・・・・・そろそろ、お別れの時が来たようですね」

光の粒子となり消えゆく中、最後の力を振り絞って、レイジングハートは呟く。

「サ・ヨ・ナ・ラ、マスターユーノ――――・・・・・・」

その声が掻き消えた瞬間、彼女の姿は完全に光へと変わり、静寂の中に気高く輝く赤い宝石と紫色の欠片だけが残された。

 

           *

 

『ふふふ・・・・・・高町なのはのインテリジェントデバイス、レイジングハート。その思考すらも具現化させるアンゴルモア・・・・・・これほど貴重な素材が揃うとは、実に興味深いデータが得られました』

白い部屋の中、黄金甲冑に身を包んだ怪人が椅子にゆったりと腰をかけ、モニターに映し出された城跡の荒廃を眺めながら薄ら笑いを浮かべる。その指先には小瓶が握られ、瓶の中の砂粒がひとつまみ宙に舞った。

『アンゴルモアはただの願望成就の道具ではない。その力を媒介にして、デバイスの可能性――いや、この世界の限界をも超える手がかりが手に入るのです』

瓶の蓋を音もなく閉じた怪人の瞳には、全貌を見通すかのような冷徹な輝きが宿る。

『さて、これでひとつの結果が得られたわけだ・・・・・・。思いのほか面白い素材が揃った。だが、これはまだ始まりに過ぎない』

おもむろに立ち上がり、変身を解いた無表情の男――加頭順(かずじゅん)は、無音の闇へと歩を進める。その動作には焦燥の影もなく、全てが計画通りであるかのような確信が漂う。

『そう――全ては大いなる“実験”です。結果がどう転ぼうと、それ自体が我々にとって価値あるものなのだから』

低く響く声が闇の中に溶けていくと同時に、室内のモニターが再び明滅を始めた。そこにはアンゴルモアのデータ解析が次々と映し出され、未解明の数値や予測不能な変数が錯綜する。画面は、新たな可能性の兆しを微かに示唆しているようだった。

 

 

 

 

 

 

教えて、ユーノ先生!

 

ユ「今日はカレドヴルフ・テクニクスについてだ♪」

「第3管理世界ヴァイゼンを中心に活動する総合メーカー。家庭用から業務用まであらゆる魔導機器を開発し、民間では最大手の一角を占める大きなシェアを誇る一大企業となっている」

「現在は対魔力無効装備であるAEC武装の開発を始め、人型の機械端末CW-ADX『ラプター』の開発を推し進めている」

 すると、アンゴルモア騒動を経て元の姿となったレイジングハートが単独飛行形態で飛んできた。

レ〈Master Yuno, I sincerely apologize for causing such a disturbance this time.(マスターユーノ、この度はお騒がせしました)〉

ユ「僕の方こそ君には本当に苦しい思いをさせてしまったようだ・・・というか、元の姿に戻ってもその呼び方は変える気ないわけ?」

レ〈Please don’t worry about it. Now, as before, and forevermore, you will always be Master Yuno to me.(どうかお気になさらずに。今も昔も、これからもずっとあなたはマスターユーノです)〉

 CW社の社員から「プロフェッサーユーノ」と呼ばれるのと同じものかと、ユーノは彼女なりの自分に対する相性だと割り切る事にした。

ユ「ありがとう、レイジングハート。これからもよろしくね」

 

 

 

魔導師図鑑ハイパー!

 

シャ「最近ぜんぜん出番が無いのはなんでなのよ~!?」

 こじゃれたバーでグラスの酒を煽りながら、シャマルはここ最近自分の出番がめっきり減っている事を愚痴っていた。

シャ「だいたいさーっ! 『ユーノ・スクライア外伝』ってサブタイトル!! マジで意味が解んないんだけどー!! それ言うなら、『リリカルなのは外伝 feat.ユーノ』とかでしょうに!!」

 出番が無いだけならまだしも、酔った勢いでシャマルは物語の根幹を揺るがすメタ発現を連発する。

 さすがにこれ以上はまずいのではないと思った付き添いのザフィーラが止めに入る。

ザ「シャマル、いい加減止せ。飲み過ぎは仕事に差し支えるぞ」

シャ「ザフィーラだってあたしと大して変わらないじゃないのよ!! ていうか実質ザフィーラの方が登場回数少ないでしょうに! あなたもっと怒るべきよ!!」

 と、シャマルは全46話分で真面にザフィーラが登場した回数が自分よりも少ないことを指摘。これには流石のザフィーラも気を落とす。

ザ「それだけは・・・・・・言われたくなかったのに・・・・・・」

 本人も秘かに気にしていたこの事実、果たして二人の登場回数は増えるのだろうか。




登場AM体
レイジングハート・エクセリオン/AM-14
声:ファイルーズあい
アンゴルモアの力により、人間の姿に実体化したレイジングハートの姿であり、アンゴルモアモンスター。金色の髪を肩まで伸ばし、赤い瞳の大人びた風貌をした美しい女性。『レイジングハート』を武器になのはが使用していた魔力弾や砲撃を主体とする中長距離魔法戦闘を得意とする。
実体化した時は、なのはの気持ちを無視してでもかつて自分を選ばなかったユーノに己の力を見せつけようと彼との戦いに執着した。また、彼女にとって晩翠はユーノに選ばれた存在である事から、羨望とそれと同じだけの嫉妬を抱いている。
ユーノと対峙した際には、抑圧されてきたユーノへの想いが感情となって爆発。アンゴルモアの力を暴走させながら放つスターライトブレイカーを放つも、身を挺して自分を止めようとしたユーノの渾身の一撃を受け、致命傷を負わされた。AM化が解ける寸前、今回の行動に対しなのはに謝罪した。
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