ユーノ・スクライア外伝   作:重要大事

49 / 50
第49話「俺はヒーローだ!」

新暦079年 8月15日

第1管理世界「ミッドチルダ」

ミッドチルダ中央南駐屯地内A73区画

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 アドバイザー室

 

プルルル・・・ガチャ。

部屋に響く発信音の後、電話が接続されると、液晶画面に映し出されたのは誇り高き魔王の姿。黒髪を靡かせ、不敵な笑みを浮かべたその男が、芝居がかった口調で応じる。

『ふふふ、この番号にかけてくるとは何と怖れ知らずな。よく聞け、我が名はベリアル家第999代当主にして、ノワールの現統治者――ディアブロス・ブラッドヴァンデイン・ベリアルと申・・・!!』

「知ってる。僕だよ、ユーノだけど。どこで覚えたのか知らないけど、そんな中二病っぽい、半分素が混じってる感じの自己紹介は間に合ってる。ヴァンの名前で僕に荷物が送られてきたんだけど?」

ユーノは、冷ややかな口調で相手を制しつつ、視線を箱へと移した。画面越しの魔王、ヴァンデイン・ベリアルはその問いに大きく反応し、喜々として応じる。

『おぉーもう届いたのか!! さすがは超特急便で頼んだ甲斐があったものだな! 中を見ていないのなら、今すぐ開封してみろ。魔王厳選のスペシャルアイテムが目白押しだ』

「スペシャルアイテム?」疑念を浮かべたユーノは箱を開封する。

『そっちで保存しても違和感のない形に加工・成型してある』

ヴァンの言葉を聞きながら、中から取り出したのは――栄養ドリンクを彷彿とさせるボトルだった。しかし、そのラベルに記された名称に眉を顰める。

「これ‥‥‥【ダイナマイトセクロス】って書いてあるんだけど? まさか‥‥‥」

『それはお前の夜のお供だ。精が付くから気をつけろ。ギンギンに燃えて屋根をぶち破るかもしれん』

「大きなお世話だ! こんなもの直ぐに捨ててやる!」

ユーノは苛立ちを露わにし、ドリンクを叩きつけようとするが、ヴァンが慌てて言葉を重ねる。

『じょ、冗談だ! 精力剤に見せかけたポーションだ。貴重な《フェニックスの涙》を溶かしてあるから、飲めばたちまち即回復! どうだすごいだろう?』

「すごいだろうって‥‥‥飲んでもいないうちから評価はできないよ」

淡々と応じながらも、ユーノは箱の中から次々と物品を取り出していく。次に目を留めたのは、瓶の中に納まった戦艦模型だった。

「ねぇ、このボトルシップみたいなのは何に使うものなの?」

手にしたそれは、戦艦のミニチュアでありながら、随所に悪魔的な意匠が施されている。

『それは【携帯用多目的戦艦イグニス】だ。巨大化して陸海空あらゆる場所で重宝する。無論、宇宙空間でも次元空間での航行も可能だ』

「ご都合主義の極みみたいなものだね」

嘲るように口角を上げつつ、さらに箱の中を探ると、かつ丼の写真がプリントされた携帯食用のパックが現れる。

「あと‥‥‥ヴァンがかつ丼好きなのは分かるけどさ、わざわざ持ち歩いてまでかつ丼食べたいって思う人の需要は少ないんじゃないの?」

芳しくないユーノの冷淡な指摘に対し、ヴァンは電話越しに情熱を滾らせる。

『ユーノ、カツ・ドゥーンは偉大な料理なんだぞ! あのあとお前から貰ったレシピを元に改良に改良を重ね、悪魔染みた美味さに昇華させることに成功したんだ! ひと口食ってみろ、お前の世界が変わること間違いなし!』

「はいはい、わかったよ。ま、何かの役には立つかもしれないし。有り難く貰っておくよ。じゃあーね、また連絡する」

電話を終えたユーノが荷物を片付けようとしたその時、部屋の扉が静かに開き、鬼太郎が姿を現す。

「あれ? 鬼太郎、どうしたの?」

ユーノが問いかけると、鬼太郎はまるで某バスケ漫画の名シーンを彷彿とさせるような表情で、涙目になりながら感情を吐露する。

「店長・・・!! 卍解がしたいです・・・・・・」

あまりにも突飛な訴えだった。ユーノは一瞬言葉を失い、目を見開いたまま固まった。やがて、呆れたように肩を竦めながら口を開く。

「いや、急になんなの? そんなバスケがしたいですみたいなテンションで言われてもね・・・・・・」

戸惑いながらも事情を尋ねるユーノの様子に、鬼太郎は意を決したかのように語り出す。

「前々から思うところがあったんすけど・・・・・・どうして俺は卍解できないんだろうって・・・・・・!」

「どうしてって・・・・・・卍解っていうのは、簡単に会得できる技術じゃないのは、鬼太郎だって知ってるはずだよ?」

鬼太郎は、俯きながらも熱の籠った声で返す。

「そうなんっすけど・・・・・・けど、俺だって卍解ができるようになりたいんです!」

その言葉に宿る切実な願いに、ユーノは少し表情を和らげつつ問いを重ねる。

「気持ちはわからなくもないよ。じゃあ聞くけど、そう思うに至った理由を教えてくれる?」

鬼太郎は目を伏せながらも、小さな声でその理由を語り始めた。

「この前・・・・・・恋次と模擬戦したんすよ・・・・・・」

 

           ≒

 

数日前――

同隊舎内 海上トレーニングスペース

 

波間が煌めく訓練場。模擬戦の開始を告げる声が響き、緊張が走る中、鬼太郎と恋次の対峙が始まった。

「狒狒王蛇尾丸!!」

恋次の叫びと共に、彼の斬魄刀が巨大な蛇の頭骨の形状を成し、鬼太郎へと襲いかかる。その迫力に一瞬目を奪われながらも、鬼太郎は冷静に見極め、鮮やかな身のこなしで躱した。

「甘ぇーぞ、恋次!!」

鬼太郎は斬魄刀を天高く掲げ、その刃先が燃え上がる炎を纏う。そして、赤熱(せきねつ)する一刀が空を裂き、爆炎が恋次へと襲いかかった。

「俺の必殺技!! パート2!!」

自信に満ちた声が響く中、鬼太郎はその攻撃が恋次に致命的なダメージを与えたと確信した。

「へっ! ・・・・・・お!?」

しかし、炎の向こうから現れた恋次の姿を目にした瞬間、彼の顔に驚愕が浮かぶ。ほぼ無傷の恋次が狒狒王の体を盾にして立ちはだかり、余裕の笑みを浮かべる。

「甘ぇーのはテメーだ!」

その言葉と共に、恋次は狒骨大砲を鬼太郎に向けて放つ。強烈な衝撃波が空間を震わせ、直撃を受けた鬼太郎は激しく吹き飛ばされる。

「のあああああああああああああああ!!!」

身体中に痛みを覚えながら、立ち上がる気力を奪われた鬼太郎は、膝をついたまま悔しげに拳を握りしめた。

「チクショー!! 何で勝てねーんだ!!」

恋次はそんな彼を一瞥し、不敵な笑みを浮かべると、軽い調子で言葉を投げかける。

「バーカ。卍解してる俺とテメーとじゃ、格が違うんだよ。ま、悔しかったら鬼太郎君も卍解して戦ってみることだな。‥‥‥あ、わりーわりー。できねーことをつい押し付けちまったみたいだな。ではははははは!!」

恋次のあからさまなマウンティングに、鬼太郎の胸中には怒りが沸き立った。勝者の傲慢な笑みが、彼の心にさらに深い悔しさの傷を刻む。

 

           ≒

 

過去の屈辱的な出来事を思い返しながら、鬼太郎は拳をぎゅっと握り締めた。その表情には、悔しさと怒りが鮮烈に浮かんでいる。

「くぅぅ~~~!! あの時のヤロウのふてぶてしい面・・・・・・今思い返しても腹が立って仕方ねーんすよ!! 何とかして、あの赤パインに一泡吹かせてやりたいんっすよ俺は!!」

その勢いのまま語る鬼太郎の横で、ユーノは心中複雑な想いを抱えていた。

(恋次さんも人が悪いというか、何も鬼太郎相手にマウントなんて・・・・・・実に大人気ないなー)

内心の呆れを押し隠しながらも、ユーノは黙って鬼太郎の言葉に耳を傾ける。その鬼太郎がさらに呟いた。

「それに・・・・・・」

声の調子がわずかに落ち、鬼太郎は肩を落とすように続ける。

「周りを見てると、俺だけ置いてけぼりを喰らってる気がしてならないんっす。どいつもこいつも向上心の塊っつーか、エリートっつーか。俺自身が一番分かっちゃいるんです。元来半グレみたいな俺が一番足を引っ張ってるってことも」

その言葉は、鬼太郎の胸の内に長らく燻っていた劣等感の吐露に他ならなかった。意外な心情を耳にしたユーノは、思わず目を見張る。

「鬼太郎・・・・・・」

その名を呼びながらも、ユーノは鬼太郎が内心で抱えていた重圧の大きさに驚きを覚えずにはいられなかった。

「だから、せめて命懸けで任務に当たるあいつらの足を引っ張らねー程度には強くなりたい。馬鹿は馬鹿なりに足掻いてみたいんっす」

鬼太郎の言葉は、自らの立場と能力を正確に理解した上での諦念と、それでもなお前へ進もうとする強い意思に満ちていた。その想いを汲み取り、ユーノはふっと口元を緩めると、椅子から立ち上がる。

「鬼太郎――」

言いながら、ユーノは鬼太郎の肩に手を置き、真剣な面持ちで口を開く。

「あきらめたら、双殛(そうきょく)の丘で処刑執行されちゃうぞ」

聞いた途端、鬼太郎は顔を上げ、ユーノを見上げた。数瞬の静寂が流れる中で、鬼太郎はおもむろに口を開く。

「店長・・・・・・そこは普通に“試合終了”でいいんじゃないっすか?」

「ブリーチ風にノリを合わせてやったんだよ・・・・・・」

ユーノは小さく溜息を吐き、言い訳めいた口調で応じた。

 

           *

 

第13管理世界「フェディキア」

 

夜の静寂を切り裂くように響くパトカーのサイレン。そのけたたましい音が闇夜に反響し、数台の車両が一斉に停車した。車両から降り立った現地管理局員達は、無線機を手に報告を始める。

「逃走中の犯人、ヴァイパー発見! 犯人ヴァイパー発見!」

その報告に応じるように、緊張が現場を支配する。

「ヴァイパー!!」

局員の一人が魔法の杖を構え、威嚇の構えを取る。しかし、蛇柄のジャケットを纏った凶悪犯・ヴァイパーは、隠し持っていた拳銃を素早く奪い取り、局員を人質に取った。その眼差しには猛獣のような鋭さが宿っている。

「うるさい!」

拳銃の銃口が火を噴き、乾いた銃声が夜空に木霊した。瞬く間に現場は銃撃戦へと突入する。

そんな混乱の只中、闇夜の(とばり)に紛れて現れたフード姿の人物が、ひっそりと現場を見据えていた。

「ふむ・・・・・・これは興味深い」

その冷徹な声が、喧噪の中で独特の存在感を放つ。

ヴァイパーは次々と銃弾を放つものの、弾薬を撃ち尽くした瞬間、やむを得ず局員達に肉弾戦を挑む。猛然と突進する局員達を相手に、大立ち回りを演じるヴァイパー。しかし、物量で劣勢となった彼は次第に追い詰められ、ついには包囲網に閉じ込められる。

「捕らえろ!!」

局員達の怒号が飛び交う中、ヴァイパーの逃げ場は完全に断たれたかに見えた。

だが、その時、予想もしない事態が訪れる。

「「「ぐああああああ!」」」

突如として飛来した謎の波動が局員達を襲い、一斉に弾き飛ばした。衝撃で体勢を崩す彼らを前に、ヴァイパーは状況を把握できないまま呆然と立ち尽くす。

その時、ゆっくりと近づいてきたフード姿の人物が、不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。

「・・・・・・成程。悪くない、素晴らしい、実に素晴らしい。フハハハハハハハ」

狂気を秘めた表情を右手で覆い隠すように押さえるが、内から溢れ出す高揚感を抑えることなど到底できるはずもない。

「誰だ? 俺はイマ最高に苛々(いらいら)している・・・・・・腹も減ってる」

ヴァイパーの低く鋭い問いに、フードの人物は口元を歪め、不敵な笑みを浮かべたまま応じた。

「では、取引しないか? ちょうど試したいことがあってね。君が私の実験に快く協力してくれるなら好きなだけご馳走しよう」

そう言いながら、フードの人物は静かにヴァイパーへ手を差し伸べる。その仕草にはどこか威圧感すら漂っていた。

ヴァイパーは胡散臭さを隠しもしないこの人物を睨みつける。揺れる灯火の中で二人の視線が交錯し、次の展開を予感させるように夜は更けていった。

 

           ◇

 

8月16日――

第1管理世界「ミッドチルダ」

機動六課 海上トレーニングスペース

 

「じゃあ、これから午後の訓練に入ります!」

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

一同が声を揃え、訓練が始まろうとしたその時、ユーノが駆け足で姿を現した。

「なのは! ちょっと待って!」

普段はアドバイザー室に籠りきりのユーノがここに現れたことで、全員が驚きの表情を浮かべた。

「ユーノ君?」

なのはが不思議そうに問いかけると、ユーノは軽く息を整え、両手を合わせて懇願の姿勢を見せた。

「ごめん、実は折り入ってお願いがあってさ・・・・・・鬼太郎をしばらく僕に預けてほしいんだ」

その言葉に、フォワードメンバー達の間にざわめきが広がる。

「それって・・・・・・ユーノ君が鬼太郎さんの訓練をするってこと?」

なのはの問いに、ユーノは軽く頷く。

「まぁそんなところかな。鬼太郎(たっ)ての希望なんだ」

ユーノが鬼太郎に目配せすると、鬼太郎はその意図を瞬時に察し、少し慌てたような調子で口を開いた。

「そ、そ、そうなんだよ!! ちょっくら勇者クラス並みにパワーアップしたいと思ってるんだが、店長でねーと裏技知らなくてよ! ははははは!!」

その場を取り繕うような言葉に、周囲の目が鬼太郎へと集まる。その中で不満げな視線を向けたのはヴィータだった。

「裏技って・・・・・・んな方法あったら誰も苦労しねーだろう。第一あたしもなのはも現役の教官なんだが、あたしらじゃ役不足だって言うのか?」

不満を隠さないヴィータの態度に、ユーノは慌てることなく弁明を始めた。

「フィジカルトレーニングや模擬戦等についてとやかく言うつもりはない。ただ、短期間でかつ鬼太郎にしかできないパワーアップのやり方を知っているのが僕だけって話。だからさなのは、鬼太郎を借りてもいいかな?」

その説明に、なのはは笑顔を浮かべて答えた。

「うん、もちろん! 私じゃなくてユーノ君といた方が強くなれるなら、是非ともそうしてほしいなー」

ユーノに全幅の信頼を寄せるなのはの返答に、恋次が腕を組みながらユーノを一瞥した。

「お前さ、なんつーか、こういう時だけ妙に張り切るよな」

冗談めかした口調ながら、その声には感心と探るような響きが微かに混じっていた。ユーノは一瞬目を閉じ、静かに息を整えてから答えた。

「必要な時に、必要なサポートをする――それがアドバイザーである僕の役割ですから」

静謐ながらも信念の籠った言葉に、恋次は「まぁな」と苦笑を浮かべ、視線を外した。

鬼太郎はそのやり取りを見ながら、改めてユーノの背中を頼もしげに見上げた。

「うっしゃ!! そうと決まれば店長、お願いします!!」

その調子の良さに、ユーノは半ば呆れつつも、促すように言葉を返す。

「返事と調子だけはいい奴だよ。修行はこことは違う場所で行うから付いてきて」

「押忍! つーわけだおめーら、次に戻ってきたときは超ビックリさせてやるからな! 期待してろよっ!!」

声高に叫びながら、鬼太郎はユーノに連れられてその場を後にした。去り際の彼の背中を見送りながら、フォワードメンバー達はその修行内容に思いを巡らせる。

「鬼太郎さん、何の修行をするつもりなんでしょうか?」

「まぁ十中八九死神関連の修行かとは思うけど・・・・・・」

キャロがおもむろに尋ねると、ティアナが少し考え込むようにして答えた。

すると恋次が腕を組み直しながら、どこか意味深な表情を浮かべる。

「俺は大方の見当は強いてるがな」

「何なんですか?」

さらに問いかけられても、恋次は小さく首を振りながら言葉を続けた。

「いや。敢えて言わないでおくさ。鬼太郎の名誉のためにもな」

恋次は視線を遠くに向けながら、微かに笑みを浮かべた。その心には鬼太郎の成長がどれほどのものになるのか――その未来への期待が灯っていた。しかし、その思いを言葉にすることはなく、静かに胸の中に収めるのだった。

 

           *

 

ミッドチルダ郊外 森林地帯

 

隊舎からかなり離れた場所まで瞬歩を駆使して移動したユーノと鬼太郎。目指す場所へ到着した時には、鬼太郎の肩が上下し、息が荒れていた。

「へ、へ、へ、へ、修行の一環とはいえ・・・・・・結構きついぜ」

息も上がらず平然とした様子のユーノが、諭すように応じる。

「この程度の瞬歩で息が上がるようじゃ、卍解を会得するなんて絵に描いた餅だよ」

ユーノの淡々とした言葉に、鬼太郎は思わず苦笑する。それでもなお辺りを見回しながら、疑問を口にした。

「つーかここでやるんすっか? 勝手に修行とかに使っても権利関係とかその辺の問題とか大丈夫なんすかね?」

意外にも真っ当な指摘に、ユーノは軽く驚きながらも微笑を浮かべる。

「ほう、鬼太郎にしてはずいぶん鋭い点を突くじゃないか。安心し給え、ここらの山はぜんぶ僕の私有地なんだ。だから好きに使って構わない」

聞いた瞬間、鬼太郎は目を丸くした。

「え!? この山ぜんぶ店長の土地なんっすか!? 冗談とかじゃなくて!?」

「冗談言ってどうするのさ。何かの役に立つかもしれないと思って数年前にポケットマネーで購入したんだ。そんなに高い買い物じゃなかったよ」

ユーノは平然と言ってのけたが、ミッドチルダで広大な森林地帯を私有する者など稀である。しかも、その土地を実用目的で購入したという話に、鬼太郎は改めてユーノの財力に驚嘆するしかなかった。

やがてユーノは手を翳し、周囲に広域結界を展開した。そうして修行のための準備は概ね整った。

「さてと鬼太郎くん。お待ちかねの卍解の修行といこうじゃないか」

「お、待ってましたー! こちとら超絶パワーアップして、恋次のヤロウに一泡吹かせてやるぜ!!」

意気揚々と斬魄刀「烈火」を取り出した鬼太郎に、ユーノは口元を緩めながら人の形を象った奇妙なモノを取り出した。その異様な外観に、鬼太郎は思わず身を引く。

「・・・な・・・何すか、その気味の悪りぃ人形は・・・?」

ユーノはその反応に構わず、得意げに説明を始めた。

「これは“転神体(てんしんたい)”と言ってね――隠密機動最重要特殊霊具の一つさ。鬼太郎の修行の為に、夜一さんから借りてきたんだよ」

「・・・よくわかんないっすけど、それが卍解の修行とどう関係してるんすか?」

疑問を隠さない鬼太郎に、ユーノは「では順を追って説明しよう」と静かに口を開く。

「そもそも斬魄刀には一部の例外を除いて『始解』と『卍解』が明確に存在していて、これら二つの解放を行うには決まった条件がある」

ユーノの言葉を鬼太郎は真剣に聞き入った。

「“始解”に必要なのは斬魄刀との“対話”と“同調”――つまり、斬魄刀が住まう世界へ出向いて本体から名前を聞き出せばいい。対して“卍解”に必要なのは斬魄刀の“具象化”と“屈伏”だ」

「ぐしょうか・・・? くっぷく・・・?」

聞き慣れない単語に首を傾げる鬼太郎に、ユーノはさらに説明を重ねた。

「“具象化”って言うのは対話の際に僕らが斬魄刀側の世界に行くのではなく、斬魄刀を僕らの世界へ呼び出すこと、早い話が『召喚』を意味する。“屈伏”は、端的に言えば斬魄刀に自分自身を認めさせること。本内ならば、この具象化にたどり着くまでには十年以上の鍛錬が必要なんだ」

「十年!? いやいや店長、そんな時間は俺には・・・・・・!」

「わかってる、皆まで言うな」

冷静に受け流したユーノは、人差し指を突き立て「そこで“転神体”の出番だ」と、その真の用途を語り始めた。

「これは斬魄刀の本体を強制的に転写して具象化することができるんだ。『烈火』をこれに突き刺せば斬魄刀の本体が“具象化”した状態となって現れる。そうすれば僕の力で具象化状態を保持できる。ただし、この方法で具象化できるのは一度きり。僕の霊力が尽きるまでがタイムリミットになる」

その説明を聞いた鬼太郎は、納得した様子で大きく頷いた。

「なるほど・・・だいたいわかったっす! じゃあ、そうと決まれば――・・・」

鬼太郎は躊躇なく転神体に烈火を突き刺した。その瞬間、眩い光が放たれ、斬魄刀本体が具象化を始める。

「桃谷鬼太郎様の・・・卍解修行の始まりだぜ!!」

不敵な笑みを浮かべた途端、光が辺りを包み込み、斬魄刀「烈火」の本体が満を持して顕現する。

 

           *

 

第13管理世界「フェディキア」

運河沿い 倉庫群跡地

 

「ひいいいいいい!!」

不良と思しき男がその場に崩れ落ち、腰を抜かした。

その目の前には、絶望的な威圧感を醸し出す脅威が立ちはだかる。周囲を見渡せば、男の仲間達は既に命を奪われ、無残にも血溜まりを作りながら転がっていた。かつて人だったものの肉塊が、まるで廃棄されたゴミのように散乱している。

「ま、参った・・・・・・あんたには敵わねー! だから・・・・・・命だけは・・・・・・!」

震える声で命乞いをする男に、怪物の怒声が轟く。

『アァ・・・? 寝ぼけた事ぬかすな。俺はまだ食い足りねぇーぞ!!』

その言葉と共に、怪物の眼光が鋭く光を放った。蛇の如き視線が標的を定めた瞬間、その巨躯が闇を裂いて飛び掛かる。

「うぎゃあああああああああああ!!」

男の絶叫が虚空に吸い込まれる中、骨を砕き、肉引き裂き、啄む音が冷たい夜風に乗って響き渡る。その凄惨な光景を、闇に紛れたフードの人物が静かに観察していた。その人物は克明に記録を取りながら、満足げな微笑を浮かべる。

「うむ。どうやら選んだ素体はアタリだったようだ。これほどの短期間でここまで馴染むとは。やはり私の作品は実に素晴らしい。フフフ、ハハハハハハハ!!」

満足げに笑うその声を遮るように、怪物が唸り声を上げた。

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』

低く重厚な咆哮が周囲の空間を震わせる。その姿は、既に新たな段階へと進化を遂げようとしていた。大柄な身体に刻まれた蛇の意匠が、一層禍々しい輝きを放つ。

破面魔導虚(アランカルロギア)――この悪夢の具現たる存在が次に狙うものは、一体何なのか。

 

           *

 

第1管理世界「ミッドチルダ」

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎

 

「はーい! じゃあ午後の訓練はここまでー」

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

訓練終了の声と共に、一同は規律正しい挨拶を返す。解散の雰囲気が漂う中、不意に浦太郎が口を開いた。

「そういえば先輩・・・店長とどんな修行してるのかな?」

「あ、やっぱり気になりますよね?」

何気ない問いに、ギンガが相槌を打つ。

「折角だからみんなで見に行きましょうよ!」

その場にいたスバルも興味津々といった様子で声を弾ませた。

だが、その提案にティアナが窘めるように声を上げる。

「やめなさい、悪いわよそんな出歯亀みたいな真似しちゃ」

しかし、ティアナの言葉にも関わらず、エリオは興味を隠せない様子だった。

「ですが僕もすごく気になります! あの二人がどんな修行をしているのか!」

エリオの真っ直ぐな言葉に、白鳥が少し斜に構えた調子で言葉を挟む。

「うむ。私は個人的にあのような無粋な男の修行になど一ミリも興味はないのだが、皆が行くというならまぁ仕方あるまい」

「その科白はとても興味ある人間の言い方だよ白鳥君・・・」と、吉良が呆れたように呟く。

その一言に場が少し和み、苦笑いが漏れる中で、スバルはふとなのはに視線を向けた。

「なのはさんも気になりますよ!」

突然振られたなのはは「え?」と戸惑った表情を見せるが、少し考え込んで答えた。

「ん~・・・・・・まぁ気にならないと言われれば嘘になるかなー。実際、魔導死神化してからのユーノ君に関する戦闘データは一護さんとこの前のエリオの戦いを除いてほとんどないからなー」

その言葉を聞いたスバルは勢いづき、さらに食い下がる。

「だったら行きましょうよ! 今からでも遅くないですよ!」

だが、その熱意に水を差すように、恋次が静かに手を挙げて制した。

「男の修行に首を突っ込むもんじゃねーよ。あいつらだって変にギャラリーが居たりしたらやりづれーだろ?」

その一言に一同が一瞬沈黙し、スバルも「まぁ、たしかに…」と、渋々納得したように頷く。

「恋次にしては気の利いた科白を言うではないか?」と、ルキアが意外そうな表情を浮かべながら口を開いた。

「俺にだって気遣いくらいできるわ。んじゃ、俺は先に隊舎に戻ってるぜー」

そう言い残し、恋次は皆と別れた。しかし、彼の足取りは隊舎には向かわず、静かに二人の霊圧の気配を追っていた。

「へへ。あいつらにはあぁは言ったが、俺としても鬼太郎が卍解の修行をするって言うのは興味が湧いてくるからな」

恋次の表情には、好奇心と期待が入り混じった微笑が浮かんでいた。彼はそのまま霊圧を辿り、ユーノと鬼太郎の元へ向かうべく、隊舎の外へと足を運んだ。

 

           *

 

ミッドチルダ郊外 森林地帯

 

霊圧を追跡し、瞬歩で移動を続ける恋次。その目は鋭く、気配を頼りに正確に進路を定めていく。やがて、視界に目的地らしき場所が広がった。

「あれだな」

彼は木々の間から目を凝らし、修行の光景を見定める。そこにはユーノが鬼太郎を見守るように立っており、手には転神体を制御するための紐を握り締めていた。その姿は一瞬の隙も見せず、緊張感が漂っている。

「ユーノ!」

声を張り上げた恋次に、ユーノは僅かに驚いた様子で振り返った。

「やっと見つけた。こんなところにいやがったか」

恋次の姿を認めたユーノは、眉を寄せながら答える。

「よくここが分かりましたね。一応結界を張っていたんですが・・・」

自分達の居場所を突き止められたことに驚きつつも、恋次の力量を感じ取ったユーノが意外そうに呟いた。

「仮にも三番隊長の肩書きを背負ってるんだ。索敵能力には自信があるんでな」

「その言い方だと、僕が恋次さんの敵みたいに聞こえるんですが?」と、ユーノは半ば呆れたように眉を上げた。

ユーノの静かな反論に、恋次は肩を竦めて笑った。

「言葉の綾だよ。細かいこと気にすんじゃねーって。それよか早く中に入れてくれよな」

恋次の軽い口調に少し考え込んだ後、ユーノは結界の一部を解き、恋次を招き入れた。

結界内に足を踏み入れた恋次は、周囲を一瞥しながらユーノの手元に目を向ける。彼の目に映ったのは、転神体の制御に使われる紐だった。

「その紐・・・・・・前に一護が使ってた転神体のものだな? 夜一さんから借りたのか?」

恋次の問いに、ユーノは「ええ」と、軽く頷いた。

「あとで高くつきそうですが、背に腹は代えられませんので。鬼太郎がどうしても卍解したって言うものですから」

ユーノの答えを聞いた恋次が、なるほどといった表情で視線を紐から鬼太郎の方へ移したその瞬間、

 

「いい加減にしやがれ!!!」

不意に鬼太郎の怒鳴り声が森の静寂を切り裂いた。その叫び声に目を向けた恋次が目の当たりにしたのは、予想の斜め上を行く奇妙な光景だった。

「つぎ鬼ごっこ! 鬼ごっこしよう!」

見れば、スモックのような大きめのTシャツに半ズボン、長靴を履き、さらに炎を模した被り物を付けた幼い少女が、鬼太郎に向かって無邪気に笑いかけていた。その姿はまるで幼稚園児か小学校低学年の子供を彷彿とさせる。一方、鬼太郎は満身創痍の状態で肩で息をしている。

「お兄ちゃん、ちゃんと追いかけてきてね!」

少女は屈託のない笑顔を浮かべながら言うが、その瞳が一瞬だけ鋭い光を宿し、次の瞬間にはまた悪戯っぽい笑みに戻った。

「お兄ちゃんがどれだけ本気で追いかけてくれるか、見てるよ!」

「だー・かー・ら!! 俺は卍解の修行をしたいんだよ!! なんで俺の言ってることがわかんねーんだよ!!」

鬼太郎は腹を立てながらも、少女の言動に振り回されている様子が一目瞭然だった。しかし、少女は彼の叫びなどどこ吹く風、無邪気さをさらに加速させたように叫ぶ。

「じゃあスタート!! お兄ちゃんが鬼だよー!!」

少女はその小さな身体からは想像できないほどの速力で走り出し、辺りに砂埃を巻き上げた。

「げっほ! げっほ! こ、コラぁ!! 待てクソガキ、コノヤロウ!! 俺と戦かえってんだぁ!!」

鬼太郎は怒りながらも少女を追いかけるが、その動きにはどこか滑稽さが漂っている。その様子を見て、ユーノは必死に笑いを堪え、恋次は戸惑いを隠せなかった。

「な・・・・・・なんだありゃ? なんで鬼太郎の奴、ガキと遊んでやがるんだ?」

すると、ユーノは笑いを漏らしながら真実を暴露する。

「プププ・・・・・・信じられますか? あれが鬼太郎の斬魄刀ですよ♪」

「えぇー!! 嘘だろう!!? アレが!?」

恋次は衝撃を隠せず、再び鬼太郎と鬼ごっこに興じる少女――もとい斬魄刀の本体を凝視した。鬼太郎が必死に追いかける一方で、少女は「キーン」と声を上げながら軽快に走り回っている。

「いやー、まさか僕もあんな姿だとは思いませんでした。『烈火』って名前だからもう少し厳つい感じのを想像していたんですが・・・・・・あれじゃ『烈火』じゃなくて、『れっかちゃん』ですよ♪」

 正鵠を射たユーノの言葉に恋次も笑いを堪えきれなくなり、声を上げて笑った。

「ぷっははははは!!! こりゃ傑作だぜ!! ガキみてーなあいつの斬魄刀の本体もガキとは出来過ぎだろう!! つーかこれ、マジで卍解の修行なんだよ? どうやって屈伏させるつもりだよ?」

その問いにユーノは笑いながら頷き、鬼太郎の奮闘を静観する。

「こん畜生め!! 大人を舐めんじゃねーぞ!!」

その時、業を煮やした鬼太郎は烈火本体に飛び掛かる。

しかし、少女の姿を象った斬魄刀「烈火」は目を輝かせ、小さな手のひらを鬼太郎に向けた。

「えい!」

刹那――愛らしい声に続いて放たれたのは、炎の渦を巻き起こす爆炎だった。

「熱ちぃいいいいいいいいいいい!!! アチチチチチチチ!!!」

全身を焼かれた鬼太郎が跳び上がる一方で、少女は無邪気に笑い転げる。

「あはははは♪ お兄ちゃん、おもしろーい!」

「て、てめぇ!! ガキが火遊びなんか十年早えーんだよ!! アチャチャチャ!!」

鬼太郎は無邪気だが手加減を知らない烈火本体に振り回され続けていた。その光景に恋次は呆れと驚きを交えた口調で言う。

「子どもってよ・・・・・・忖度しない分、世界で一番残酷な生き物だと思うんだが」

「そうですねー」

ユーノは軽く頷き、二人のやり取りを静かに見守り続けた。

 

           *

 

次元空間 時空管理局本局

 

静寂が広がる次元空間に佇む時空管理局本局。その重厚な会議室で、はやては上司であるリンディに呼び出されていた。薄暗い室内に展開されたモニターが淡い光を放ち、緊張感が漂っている。

「第13管理世界『フェディキア』で確認された連続殺人なんだけど、本局はこれを機動六課に対処してほしいと考えているわ」

リンディの切り出した言葉には、静かながらも鋭い決意が込められていた。その表情を見て、はやてもすぐにただの殺人事件ではないことを察した。

「機動六課に、というと・・・・・・単なる殺人事件って訳じゃないってことですね?」

上司の意図を読み取ったはやての直感が鋭く働く。リンディは彼女の言葉に軽く頷き、モニターに映像を投影した。

「この猟奇的なまでの犯行は、とても人間の所業ではないわ。現地の警邏隊が確認した犯人と思われる姿を捉えた写真を見てほしいんだけど」

リンディが資料として展開した写真。その画面を見た瞬間、はやての表情が強張った。

「これは!?」

モニターに映し出されたのは、明らかに異形の存在だった。その姿には人の形を残しながらも、胸に空いた孔や仮面の名残といった、常識では考えられない特徴があった。

リンディは険しい表情で、その存在の正体を語り始めた。

「胸に空いた孔・・・・・・仮面の名残・・・・・・以前、吉良さん達がエヴァリーナで遭遇した破面魔導虚(アランカルロギア)の特徴と一致しているわ。目的は今のところ不明だけど、これ以上の被害を出すわけにはいかないの」

その言葉に、はやては深く頷き、内心で覚悟を固めた。

「わかりました。この事案、機動六課で対処いたします。必ず事件を速やかに鎮静化させます――」

 

           *

 

 悲劇は突然訪れた。

 あの日、遊園地に遊びに行った俺たち家族は天国から地獄に叩き落された。

『母ちゃあぁぁん!! 父ちゃぁぁぁん!!』

 何の前触れもなく、それは起こった。

 気が付くと、目の前には血塗れになった両親が倒れていた。

 そして同じように、俺の両親を殺した犯人の男も駆けつけた警官によって射殺された。

 以来、俺の人生の歯車は狂っちまった。

 

『ヒーローだと? テメェ、なに寝ぼけた事ぬかしやがる!?』

 高校時代、俺は荒れに荒れた。他校の連中と毎日のように喧嘩三昧だった。

 だがそれは、奴らが俺の夢を笑ったからだ。

『俺は本気だ! 誰になんと言われようが、ヒーローに俺はなってやるんだ!! そんで、誰も泣かずに済むようにするんだよ!!』

 俺の様な悲劇を生まない為に、力の無い奴が虐げられない為に、それを護れる強い男になる為に、俺はヒーローになること夢見ていた。

 ヒーローには力が必要だ。ただがむしゃらに力を欲した。その為にボクシングを始めたが、それだけじゃ俺が目指すヒーローにはほど遠かった。

 ちょうどこの頃だった。ユウレイが視えるという人さまには理解し難い特技を持つ俺は、死神の能力に目覚めた。

 そして、程なく知った。この力を持った意味と俺自身の役目を――

 神さまがどうして俺にこのギフトを与えたのかは分からないが、きっと神さまは俺の願いを聞き入れてくれたに違いない。

 俺は馬鹿だし、無鉄砲だし、周りの人間よりも誇らしい人生を歩んだとはお世辞にも言えねぇ。

 けどよ・・・・・・俺にだってプライドってもんがあるんだ。

男として生まれたからにはよぉ、何が何で成し遂げて見せるんだ。俺自身の夢のために、俺は――命を懸ける!!

 

           ≡

 

ミッドチルダ郊外 森林地帯

 

ぼんやりとした意識が徐々に戻り始めたと思った瞬間、鬼太郎の頭に冷たい水がぶっかけられた。

「ぶっぱー!」

驚いて飛び起きた鬼太郎の目に映ったのは、憎らしい笑みを浮かべた恋次の姿だった。

「よう。やっと起きたか?」

その飄々とした声に鬼太郎は目を見開く。

「れ、恋次・・・! なんでオメーがここに居やがる!?」

居るはずのない恋次の登場に驚愕しながらも、鬼太郎は反射的に問いかけた。恋次は余裕たっぷりの笑みを浮かべたまま応じる。

「俺に負けたのが悔しくて卍解の修行とはいじらしいじゃねーか! だが、今の調子じゃ卍解できる日はまだまだ遠いよなー」

「う、ウルセー!! 俺の事はほっときやがれ!!」

咄嗟に強がりを見せた直後、鬼太郎の腹から空腹を訴える音が響き渡る。その音は、エネルギーの枯渇を如実に物語っていた。

「あ~・・・腹減ったなー。チキショー、かつ丼でも食いてーぜ!」

「んなもんあるか」

「ありますよ」

その言葉に鬼太郎と恋次は「え!?」と、声を揃えて驚き、ユーノの方を振り向いた。

しばらくして、ユーノが差し出したのは、ヴァンから貰った即席かつ丼だった。その見た目は、まるで食欲を煽るかのように輝いている。

「うおおおお!! マジかー!! 店長、マジ(まんじ)っすね!!」

「それどういう意味かわかってるの?」

呆れるユーノに構わず、鬼太郎は歓声を上げ続ける。一方で恋次は疑問を口にした。

「つーか、なんでかつ丼なんてあるんだ?」

ユーノは「まぁ色々ありましたね」と言って、少し遠い目をしながら答えた。

(まさかこんなにも早く役に立つとはな思わなかった・・・恐るべし、魔王の直感)

内心では、ここにいないヴァンの趣味嗜好が意外な形で活躍したことに驚きを隠せないでいた。

鬼太郎は疲れた体に英気を流し込むべく、差し出されたかつ丼にがっつりと食らいつく。

「うっめー!! なんだこのかつ丼は、悪魔的!! いや犯罪的だ!! よっしゃー、こいつ食ったら修行再開だ! あのガキ、人を散々おちょくりやがって。俺を舐めるとどういう目に合うか思い知らせてやるぜ!!」

その言葉と共に、鬼太郎は修行への熱意を胸に、がつがつとかつ丼を平らげていく。その姿を見ながら、ユーノと恋次はふと顔を見合わせ、思わず表情を綻ばせた。

 

かつ丼で腹を満たし、鬼太郎は倒れるようにして仮眠に入った。その寝息はどこか子供染みた無邪気さを漂わせ、静まり返った森の中で微かなリズムを刻んでいた。

「ったく。食うだけ食って寝るとは・・・・・・どこまで単純なんだよコイツは」

恋次が軽い呆れを交えた口調で呟くと、ユーノが微笑みながら応じた。

「そこが鬼太郎のカワイイところじゃないですか。浦太郎なんかよりもよっぽど好感度高いですよ」

「マジかよ、お前の中でこいつの好感度は浦太郎よりも上なのか? あいつが聞いたらなんて思うだろうな」

二人の会話には、微かに暖かさを滲ませる空気が流れていた。だが、その一方で恋次はふと真剣な表情に戻り、問いを投げかける。

「・・・・・・お前的には、この状況はどう見てるんだ?」

恋次の問いにユーノの表情も引き締まり、考え込むように視線を遠くにやった。そして重い口調で語り始める。

「・・・・・・あまり好ましいとは言えませんね。元々鬼太郎はあなた方のような正規の死神じゃないうえに、ずっと我流で力を磨いてきたんです。僕が初めて出会った時には、既に始解を会得していましたからね」

ユーノの言葉に、恋次は頷きながらもさらに続ける。

「まぁ、ちゃんとした訓練も受けずになんちゃって死神で今までどうにかなっていたのが不思議なんだよ。不器用なコイツなりに努力してるのは認めるが、具象化した斬魄刀の本体を屈伏させるどころか、弄ばれる始末だ。こんなんじゃ卍解なんて夢のまた夢だぜ」

眠り続ける鬼太郎を見ながら、恋次は頬杖をつき、彼の潜在能力に対する懸念を口にした。

「でもあのとき、鬼太郎の瞳から僕は感じ取ったんです。何が何でも成し遂げるという強い意志と覚悟を――」

しかしユーノは、揺るがぬ信念を込めて語る。その言葉には、強い確信にも似たものが込められていた。

「僕は信じます。鬼太郎の本気を、その可能性を――――」

ユーノの言葉に、恋次は思わず微笑みを浮かべる。その姿はまるで父親のように鬼太郎を見守るユーノの様子に気付いたからだ。

 

ピピピ・・・。

その時、静寂を破るように通信端末が電子音を響かせた。通信が繋がると、モニターに映ったのは八神はやてだった。

『総合司令室・八神はやてより前線各位へ通達。第13管理世界『フェディキア』に破面魔導虚(アランカルロギア)と思われる個体を確認。同時に、アンゴルモアを積み荷として運んでいたトラックがその破面魔導虚(アランカルロギア)に襲撃されました』

「何だと!?」

はやての声に緊張が走り、恋次とユーノが顔を見合わせた。

『隊長陣及び死神部隊は出動準備。待機中の隊員は準警戒態勢に入ってください。現在、クロノ提督率いる武装部隊が現場で応戦しています』

通信の内容を聞き終えると、恋次がユーノに視線を向け、真剣な口調で言った。

「聞いたか? 破面魔導虚(アランカルロギア)の別個体がまた出やがったぜ」

「恋次さん、あなたは直ぐに現場へ向かってください。僕も直に行きます」

「直にって・・・まさか、コイツの修行に付き合うつもりか!?」

恋次は驚き、声を荒げる。だがユーノは静かに首を振り、その場を離れる気配を見せなかった。

「今ここで鬼太郎の修行を放り出すわけにはいきません。僕には店長として、鬼太郎の家族としてこの修行の行く末を見届ける責任があります」

「けどよ! あんな調子で直ぐに卍解を会得できるわけがねぇー! コイツは一護とは違うんだ!!」

「ぎゃーぎゃーぎゃー、やかましいんだよ!!」

しかし、その時――恋次の声に反応するように鬼太郎が突然目を覚ました。

「人がせっかくいい夢見てたと思ったら・・・・・・」

体を起こし、肩をボキボキと回しながら鬼太郎は口を開く。

「俺がオレンジ頭と違うだと? はっ、舐めるなよ恋次! 桃谷鬼太郎、クライマックスはここからだぜ!!」

語気強く根拠のない自信を誇示すると共に、鬼太郎は勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

           *

 

第13管理世界「フェディキア」

首都ハイウェイ 高架橋

 

「ぬおおおおおおおおおお!」

先んじて、現地入りしていたクロノは高架橋での激闘の中、敵に首を摑まれ、大空中で無力にもがき苦しんでいた。全身を覆う無数の傷跡、疲労に滲む表情、デュランダルを手にする力さえ衰えつつある。

『どうした? まだ食い足りないぞ俺は・・・・・・もっと祭りを楽しもうぜ!!』

アンゴルモアの力によって進化を遂げた破面魔導虚(アランカルロギア)・スターブバイパーの咆哮が、耳を劈くように響き渡る。

「クロノ提督!!」

「バケモノめ、艦長を放せ!」

クラウディアのクルー達が一斉に魔力弾を発射し、スターブバイパーを狙うも、鋼皮(イエロ)に阻まれ、弾き返される。

『弱い奴らに用はない。消えろ』

低い声で言うと、蛇の頭部を模した左上の突起が鞭のようにしなり、襲い掛かる。その動きはしなやかでありながら猛々しく、瞬く間にクルー達を薙ぎ払った。

「みんなー!!」

目の前で仲間達が倒れゆく様子に、クロノは歯を食いしばる。そして、デュランダルの先端を敵の顔面へ押し付け、渾身のスナイプショットを放った。

「この・・・・・・スナイプショットぉ!!」

爆発の衝撃でクロノは敵から逃れることができたが、立ち上る炎の向こうには、無傷に近い姿のスターブバイパーが悠然と立っていた。

『あぁ・・・! 痛いな・・・痛くて痛くて・・・・・・脳みそが沸騰しそうだ!! 最高に愉しいぜ!!』

(・・・・・・まるでダメージを負っていない・・・・・・魔導虚(ホロウロギア)とは比べ物にならない硬さをしている!)

クロノの視線は、異常なまでの耐久力を誇示する敵の体躯に釘付けになる。

『どうした!? まだまだ俺を愉しませろ!』

血気盛んに再び襲いかかるスターブバイパーの攻撃が、鋭く空間を切り裂き、クロノを打ち据えた。

「ぐああああ!」

鋭い一撃が防御を貫き、クロノは吐血しながら後退する。スターブバイパーは間髪入れず跳躍し、空を裂く勢いで追撃を仕掛けようとした――その時。

 

「――次の舞・白漣」

怒濤の如く放たれた氷結の技が敵の攻撃を寸でのところで遮る。駆け付けたルキアの援護により、クロノとクルー達は救われた。

「クロノ! だいじょうぶ!?」

「フェイト‥‥‥みんな‥‥‥」

フェイトと仲間達は手早く応急処置を施し、クロノを支え起こす。その間にもルキアの視線はスターブバイパーに鋭く注がれていた。

「あれが噂の破面魔導虚(アランカルロギア)・・・確かに、凄まじい霊圧だ!」

〈新手か? いいぞ、最高の祭りの始まりだ!!〉

ルキアの技によって氷結したスターブバイパーは、瞬く間にその凍てついた外殻を砕き、新たな皮膚を生成して姿を現す。

〈嗚呼‥‥‥いい感じに整ったな〉

「何なのコイツ? もしかして相当にイカれてる?」

「見なくてもわかるである」

「あなた、何が目的でこんな馬鹿なことをするの!? 答えなさい!」

スバルと白鳥が緊張感を高めながら警戒を強める中、ティアナはクロスミラージュの銃口を向け、毅然と問いただす。

『目的だと? そう言うのを愚問って言うんだよ』

その声に応えるように、スターブバイパーは嘲るような笑みを浮かべた。

『ふふ・・・極論すればだ、俺に目的なんて存在しない。覚えておくといい。世の中には手段の為になら目的を選ばないというどうしようもない連中が存在する。俺みたいにな』

ニッコロ・マキャヴェッリの『君主論』にある言葉を捩り、スターブバイパーは「手段のために目的は選ばない」と笑い飛ばす。その狂気じみた思想を前に、誰もが理解を拒絶するような沈黙に包まれる。

「く・・・狂ってるぞ貴様ッ!?」

クロノは震える声で叫び、目の前の存在を否定する。しかしスターブバイパーは薄く笑みを浮かべたままだ。

『お前達がそれを口にするのか? 半世紀ほど遅いぞ。では逆に問おう。貴様らの正気はどこの誰が保証してくれる?』

核心を突くような問いに、全員が答えを失う。

『さてと・・・おしゃべりはこのくらいにして、そろそろコイツを試すとしよう〉

その静寂を破るかのように、スターブバイパーは隠し持っていた物体を取り出した。見た瞬間、全員が目を奪われる。

「あれは・・・積み荷として運び込まれてたアンゴルモアか!?」

「おい、それをどうするつもりだ!」

『今からそれを見せてやるのさ。自称“健常者”の集まりよ、狂気の先にあるものを死かと見届けろ!』

次の刹那、アンゴルモアを胸の孔へと埋め込むや、禍々しい光と霊圧の嵐が吹き荒れる。視界を埋め尽くすその光が消えると、スターブバイパーの姿は大きく変貌を遂げていた。

その体躯はアンゴルモアのコアを中心に渦巻き、その周囲を不気味な霊圧が蠢いている。見上げるほどに巨大なその姿は、嵐そのものが具現化したかのような圧倒的な威圧感を漂わせている。

『さぁ‥‥‥愉しい祭りの準備は整ったぜ!』

声高に笑うと、スターブバイパーは巨大な尻尾を振り回し、周囲に霊圧の波動を放つ。その衝撃で地面は震え、空気すら歪むかのような圧倒的な力――これが、今次元で初めて確認された破面魔導虚(アランカルロギア)の「帰刃(レスレクシオン)」である。

破面魔導虚(アランカルロギア)のAM体か!?」

クロノも、かつて遭遇した事がないほどの威容だった。

その外見は、極めて長大な身体がアンゴルモアのコアを中心に渦を巻き固定され、その先端に五つの枝分かれした頭部を持つ。さながら、ひとつの巨大な手や大の字を描く異形そのものだ。

『ハハハハハハハ!!! まとめて食らってやる!!』

AM化によって凶暴性を一層増したスターブバイパーは、大口を開き、毒の牙をミサイルのように射出する。その動きは無駄のない精密さを備え、相手の行動を先読みしているかのようだった。計算されたかのような一撃は六課のメンバーを圧倒し、誰一人として反撃の糸口を摑めない。

『どうした、もっと愉しませてくれ!』

スターブバイパーは満足げに笑い、その巨大な身体を回転させ、周囲を薙ぎ払う。圧倒的な戦闘センスを目の当たりにしたクロノ達は、言葉を失い茫然とするばかりだった。

「く・・・キャロ! 私とアレの動きを止めるぞ!」

「はい! ルキアさん!」

ルキアとキャロは、互いの力を合わせ、スターブバイパーの動きを封じようとする。

「雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて(これ)(むつ)に別つ――縛道の六十一『六杖光牢』!!」

「錬鉄召喚! アルケミックチェーン!!」

六つに枝分かれた光の牢がその胴体を拘束し、魔力の鎖がその首を締め上げる。二人の術が見事に決まり、ルキアの声が響く。

「よし、捕縛成功だ!」

「今ですみなさん!」

この好機を逃すまいと、フェイト、ギンガ、浦太郎が一斉に技を放つ。

「ジェットザンバー!」

「リボルバースパイク!」

「ブリザードスピアヘッド!」

三者の連携攻撃がスターブバイパーの巨体に食い込み、その威力を見せつける。さらに白鳥が追撃の構えを見せた。

「食らうがよい! 琴線斬第一章 二十二節“(いわお)落石(らくせき)”!!」

白鳥が奏でる音波は対象の頭部に直接響き渡り、その神経を痺れさせる。スターブバイパーの咆哮が響く。

『うあああああ・・・ああああ・・・・・・! こ、こんなもんで俺を縛り上げたつもりか・・・・・・甘いんだよ!!』

音波に苦しみながらも、その巨体がさらに力を帯び、拘束を強引に引き千切る。拘束を解いたスターブバイパーが咆哮を上げると、全身が激しく回転し、尻尾の一撃で周囲を薙ぎ払った。

「「「「ぐあああ」」」」

「キャロ! ルキアさん! 浦太郎さんに白鳥さん!」

驚く間もなく、キャロ、ルキア、浦太郎、白鳥が次々と吹き飛ばされる。クロノはその光景を目の当たりにし、息を呑んだ。

『ハハハハハハ・・・・・・』

スターブバイパーの身体が自らの傷を瞬時に修復していく。再生のたびに禍々しい霊圧が膨れ上がる様子に、クロノは愕然とする。

「傷が・・・あっという間に!?」

「前にユーノが言っていた。破面(アランカル)の中には『超速再生』能力によって傷ついた体を瞬時に癒す個体がいるみたい」

フェイトの言葉を聞くと、ルキアは刀を杖代わりに膝を立て、冷静さを保ちながら険しい表情で言葉を続けた。

「・・・・・・破面(アランカル)は進化の際、強力な力と引き換えにその能力を喪失することが殆どだ。この破面魔導虚(アランカルロギア)は、我々死神の常識から逸脱した存在! 一筋縄ではいかぬ」

言いながら、スターブバイパーが傷を癒すたびに、その霊圧が大きく揺れ動く様子を感じ取ったルキアは、眉を顰めた。

「だが傷を治すたびに、莫大な霊力を消費する‥‥‥。このまま再生を続けさせれば、いずれ霊力が尽きるやもしれん。もっとも、その前にこっちが倒されるかもしれぬが」

ルキアは震える体で眼前の脅威を見据えた。その震えには恐怖だけでなく、敵への憤りも含まれていた。

『もう終わりか? つまらん・・・・・・つまらないぞ!!』

スターブバイパーの激昂が響き渡る。その鋭い牙が、ルキアへと狙いを定める。その一撃は容赦なく彼女を喰らおうとしていた。

 

「狒狒王蛇尾丸ッ!!!」

咄嗟の声と共に、蛇の巨体が敵の攻撃を阻む。恋次が間一髪で駆けつけ、蛇尾丸の口がスターブバイパーの牙を押し返す。

「恋次!!」

「すまねー、遅くなった!」

『お前は俺を愉しませてくれるのか? どうなんだ!?』

狂気を貼り付けた笑みを浮かべたスターブバイパーは、蛇尾丸に狙いを移す。巨体を躍動させて突進し、恋次と蛇尾丸を押し出すほどの力で激突する。

「のおおおおおおおおおおおおおお!」

恋次は地面に叩きつけられ、コンクリートの破片が飛び散る。その額から血が流れ落ちる中、恋次の瞳には悔しさが宿る。

「卍解した恋次さんをパワーでゴリ押しするなんて・・・・・・」

驚愕する仲間達の視線を背に受けながら、恋次は蛇尾丸を立て直そうと必死に操る。

「恋次、何をしているのだ!? なぜ“真の卍解”を使わん! カッコつけのつもりか!?」と、ルキアが鋭い声で叱責する。

「そんなんじゃねーよ! こんなところで使うわけにはいかねーんだ。奥の手見せたら、スカリエッティの野郎に攻略されるかもしれねーだろ!」

「戯け! 使える能力を出し惜しみして、自分や仲間が倒されたら何もならぬ! 攻略されるもへったくれもない! とっとと使え!!」

「それ言うならお前だって卍解使えるだろうが!」

「この傷だらけの体を見てわからぬか!? 使いたくても、この状態では制御はおろかその力の殆どを引き出せぬわ!」

『外野がごちゃごちゃ煩いぞ。せっかくの愉しい祭りを邪魔するな!!』

二人の激しい言い争いの隙をつき、業を煮やしたスターブバイパーは鋭い牙をルキア達に向けて発射する。

「「「「うあわあああああああああ!」」」」

牙のミサイルは彼らを直撃し、アスファルトの上に激しく叩き付けられる。

「ルキアぁ!! テメェー!! よくも!!!」

堪忍袋の緒が切れた恋次は怒りに駆られ、狒狒王蛇尾丸を再び操りスターブバイパーに向けて放つ。

『ハハハハハ!! そうこなくっちゃな!!』

スターブバイパーはその攻撃を受け止め、さらに巨大な体で押し返す。その咆哮が辺りを震わせる中、恋次の目には後悔が浮かんでいた。

「くっ・・・・・・くそ・・・・・・こんなことなら最初から使っておきゃよかったぜ!」

『愉しい祭りも、そろそろ潮時だな』

スターブバイパーの冷笑と共に、巨大な体が空高く跳躍する。鋭い牙を剥き出しにし、恋次に狙いを定めたその巨躯は、獲物を丸呑みにする準備を整えていた。

 

だが、次の瞬間――空を裂いて飛来した火球が、スターブバイパーに直撃した。

〈ぐわあああああああああああ!〉

凄まじい熱量を伴った火炎がスターブバイパーを包み込み、全身を焼き尽くすように広がる。敵が苦悶の声を上げる中、炎の向こうに一人の男の姿が現れる。

斬魄刀「烈火」を掲げた桃谷鬼太郎だ。彼の立ち姿には堂々たる気迫がみなぎり、その目は自信と覚悟を宿している。

「よう!! 待たせたな!!」

恋次の前に立つ鬼太郎の声は、頼もしさを帯びていた。

「鬼太郎・・・・・・おまえ・・・・・・! 卍解は!?」

焦りと期待が入り混じった恋次の問いに、鬼太郎は軽く笑って答える。

「皆まで言うな。ここに来たからには、きっちりモノにしてきたぜ――店長! 後のことは頼んます!」

鬼太郎は振り返り、仲間達の治療にあたるユーノに視線を向ける。

「思い切り暴れてこい!」

その一言に、全幅の信頼が込められていた。

「へへ――この時をどれだけ待ち望んだことか!」

鬼太郎の口元に浮かぶ笑みは、不敵そのもの。全身に漲る闘志が、その場の空気すら震わせるようだった。

炎の熱と激しい霊圧が交錯する中、鬼太郎の挑戦がいよいよ幕を開ける。

 

           ≒

 

「うぅ・・・・・・まだだ・・・・・・」

 気が遠くなるほどの時間が過ぎたように思えた。

鬼太郎は満身創痍だった。それでも彼は、不撓不屈の心で、最後の瞬間まで諦めずに粘り続けた。

そのとき、不意に『烈火』の動きが止まった。

これまで遊び半分で彼を翻弄してきた少女が、ふと指を咥え、静かに言葉を紡ぐ。

「お兄ちゃん」

 烈火が、鬼太郎に語りかけた。

 鬼太郎は煤だらけの顔で自分に声を掛ける『烈火』の姿を見た。

 『烈火』はそこで一度表情を消し、先刻とは違う、何かに満たされたような笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「ごうかくだよ、お兄ちゃん!」

 

「あん? 合格だ?」

意味が解らずに尋ねる鬼太郎に、『烈火』は満足げな笑顔を浮かべる。

「うん! これでようやく、次のステップに進めるね!」

その言葉が何を意味しているのか、鬼太郎にはまだよく分からなかったが、少女の無邪気な笑顔にはどこか達成感のようなものが滲んでいた。

「お兄ちゃん、ちゃんと最後までがんばってくれてありがと! 遊びって、本気でやるとすっごく楽しいよね!」

その笑顔の裏に、ほんの少しだけ秘められた意図のようなものを鬼太郎は感じ取った――それが何かは、言葉にはできなかったが。

「あのね、あのね、わたしは・・・・・・ずっとお兄ちゃんとこうやって思いっきり遊びたかったんだよ!」

 鬼太郎は黙って相手の言葉の続きを待った。

「そして、お兄ちゃんはわたしとたくさん遊んでくれました。わたしはね、すっごく、すっごーく!! 楽しかった!! だからね、いっぱい遊んでくれたお兄ちゃんには、ご褒美をあげます!!」

「おい、ちょっと待て・・・・・・まさか・・・・・・それって・・・・・・」

 

鬼太郎の中に、『烈火』の力が流れ込んだ。

その刹那、彼の脳裏にはこれまでの修行の日々が一気に蘇った。何度も失敗し、何度も笑われ、それでも立ち止まらず挑み続けた自分。

――そうだ、俺はいつだって、不器用で、失敗ばっかりだった。

――それでも、諦めなかった。

握りしめた斬魄刀から伝わる力に、自分がこれまで積み重ねてきたものの重みを感じながら、鬼太郎は込み上げる熱いものを押し殺すように、微かに笑みを浮かべた。

この瞬間、鬼太郎は己の中で思い描いていたものとは一切異なる方法で、『烈火』を屈伏させる事に成功する。

 

 そして――真の英雄(ヒーロー)が此処に誕生した。

 

           ≒

 

そして、鬼太郎は静かにだが力強く告げる。

死神の極致である、力ある言霊を。

 

 

「 ――――卍解 」

 

 

 灼熱の炎が鬼太郎の周囲を円環状に包み込み、次の瞬間、赤い霊圧の嵐となって辺り一面に吹き荒れた。

「鬼太郎さんが・・・卍解を!?」

「店長と修行してたのはこのためだったんだ・・・!!」

全員が鬼太郎の修行目的が卍解習得であると理解すると共に、ユーノは治療を続けながら鬼太郎の晴れ舞台を待ち望んだ父の如く眼差しで見つめる。

 

 

「  ――――――鳳仙烈火(ほうせんれっか) 」

 

 

轟然たる嵐が、ぴたりと止む。

炎の渦の中心から現れた鬼太郎の姿は、見る者の心を奪うほど荘厳だった。

両手には灼熱の炎で形成された刀剣。背中には鳳凰を思わせる巨大な炎の翼が広がり、その堂々たる立ち姿は、まさに炎の帝王を彷彿とさせた。

スターブバイパーが鋭い視線を向ける中、鬼太郎は自信に満ちた笑みを浮かべて言い放つ。

「行くぜ!」

地面を力強く蹴り、爆発的な突進力で一気に間合いを詰める鬼太郎。背中の炎が推進力を生み出し、彼の動きに疾風の如き速さを与える。

「つらああああああああああああ!」

両手の剣を振り抜くと、圧倒的な火力を伴った斬撃が敵を切り裂く。スターブバイパーは虚を突かれ、その火力に狼狽し、想定外のダメージを負った。

「まだまだ!!」

鬼太郎の炎の翼がさらに大きく燃え上がり、その力が彼を宙へと舞い上がらせる。

「と、飛んだー!! 先輩が飛んだよー!」

浦太郎が驚愕の声を上げる中、鬼太郎は空を縦横無尽に飛び回り、次々とスターブバイパーへ鋭い一撃を浴びせる。

「おらあああああああああああああ!」

斬撃に炎が絡み、焼ける痛みが敵を襲う。これまで味わったことのない苦痛にスターブバイパーは激しく怒りを露わにした。

『はっ、イライラさせてくれるなお前! そんなに俺に喰われたいのかよ!!』

牙のミサイルと毒液を空の鬼太郎に向けて放つスターブバイパー。しかし、鬼太郎は翼を盾のように広げ、迫る攻撃をすべて燃え尽きさせた。

「はっ! 俺には通じねーよ。さーてと、正真正銘のクライマックスといくか!」

言うと、両手の炎剣を掲げ、鬼太郎はその力をさらに高める。刀身から放たれる炎は、生きた野獣のように咆哮し、彼の周囲に燃え広がる。

「前にディスカバリーチャンネルで観た奴を試してやるよ。オメーも毒ヘビなら、焼けば少しは美味くなるだろうぜ!!」

刹那、巨大な炎の塊が鬼太郎の手から解き放たれる。

大炎烈火(たいえんれっか)嵐空牙(らんくうが)

滾る炎の野獣はスターブバイパー目掛けて突進し、その圧倒的な熱量で敵を呑み込んだ。炎の野獣が咆哮を上げると同時に、スターブバイパーは巨大な口の中に飲み込まれた。

『ウオオオオオオオ・・・・・・!』

スターブバイパーは巨大な炎の野獣に呑み込まれながら、全てを蒸発させる火力によって瞬く間に焼き尽くされていく。

『祭りが・・・俺の祭りが・・・終わる・・・・・・』

その燃え盛る灼熱の中で、彼の瞳に一瞬だけ影が差した。

まるで、己の信じてきた「戦い」という存在そのものに、どこか歪んだ違和感を覚えたかのような表情だった。

だが、その微かな迷いすら、次の瞬間には紅蓮の渦に呑まれ、二度と見ることは叶わなかった。

炎が全てを焼き尽くし、スターブバイパーの体が完全に燃え果てた瞬間、アンゴルモアがその体から排出され、地面に転がる。

「おっといけねー。うっかり焼きすぎちまったぜ」

鬼太郎は、炎を操る卍解の力に未だ完全には馴染めていない様子ながらも、余裕を見せるかのように地上へ降り立つ。勝利の余韻を味わいながら、彼は転がるアンゴルモアを手に取り、封印ケースへと慎重に収めた。

周囲の仲間達は息を呑み、彼の姿を見つめていた。

その視線を一身に受けながら、鬼太郎は快活な笑みを浮かべ、アンゴルモアを高々と掲げる。

「どうだ! 俺がヒーローだぜ!!」

彼の屈託ない言葉に、恋次は一瞬呆然としたが、次第にその顔には笑みが浮かび、やがて認めるように頷いた。

「あぁ、そうだな。お前は俺らのヒーローだよ!」

 

 

 

 

 

 

教えて、ユーノ先生!

 

ユ「今日は卍解会得までの過程をおさらいするよ♪」

「卍解を会得するためには、斬魄刀の“具象化”と“屈伏”が必要だ。この具象化というのは、斬魄刀の本体を僕達がいる現実の世界へ呼び出すことを言うんだ」

「そして、呼び出した斬魄刀の本体を屈伏させて手に入れる力――それが卍解だ。始解の時と比べると卍解時の戦闘能力が単純な話では、5倍から10倍にまで膨れ上がる」

と、そこへ今回の修行で使われた転神体を貸し出した持ち主・四楓院夜一が不敵な笑みを浮かべながらユーノの肩に手を回してきた。

夜一「ふふー、ユノ坊~。貴重な転神体を貸し出してやったんじゃ、この仮は高くつくからのうー」

ユ「わ、わかってますよ・・・! それで、僕に何をたかるつもりですか?」

夜一「そう悪意ある言い方をするでない。なーに、ちと最近霊術院で働き過ぎたせいか腰が痛くてのう~、マッサージを頼もうと思ってのう」

ユ「マッサージ・・・ですか?」

 貴重な道具を提供したにしては実に簡単な見返りを求める夜一の言動。ユーノは疑念を抱き眉間に皺を寄せる。

 やがて、夜一にマッサージをすることになったが、それを行う直前、夜一は黒猫の姿へと変身した。

夜一「この姿の方が奥手のお主もやり易いじゃろう。さぁ、遠慮せず来い」

ユ「な・・・ん・・・だと・・・・・・!?」

 ユーノは全身を膠着させる。目の前には彼にとって最大の天敵たる猫がいるのだ。

 夜一の真意は、猫の姿となった自分をユーノにマッサージしてもらうというものだった。彼の苦手なものを把握したうえで、敢えてこの方法をとったのだ。

夜一「どうした? 早くせんと日が暮れてしまうぞ?」

ユ(ぐぐぐぐぐ・・・・・・これだからこの人は苦手なんだよ、道徳的にも生理的にも!!)

 四年を経て翡翠の魔導死神として成長を遂げてもなお、ネコだけはどうしても克服が出来ないユーノだった。

 

 

 

魔導師図鑑ハイパー!

 

 フェイトとはやてが世間話をしながら廊下を歩いていると、不意に見かけない子供の姿を捉える。

は「ん?」

フェ「誰だろう? あの子?」

 二人がおもむろに近づくと、辺りをうろうろしていた見た目幼稚園くらいの背丈の少女が二人に満面の笑みを向けてきた。

烈「こんにちはー!!」

 屈託ない笑みで挨拶をされた瞬間、二人のハートは射抜かれる。

フェ・は((かわいい~~~♡♡))

 一瞬で少女の可愛さの虜となったフェイト、はやての二人。一方、謎の少女は自分に好意を持って接してくる女性二人をつぶらな瞳で見つめる。

は「きゃーめんこいわー!! あ、そうだ! 飴ちゃん舐めるか?」

フェ「どこから来たのかな? おなまえは言える?」

烈「えっと・・・・・・」

 人差し指を口元に当てながら考える素振りを見せる少女。と、そのとき――

鬼「だぁ! おまえ、こんなところに居やがったのか!」

烈「あ、お兄ちゃん!!」

 廊下の突き当りから小走りで走って来た鬼太郎が少女に声をかけると、少女はとりわけ嬉しそうに鬼太郎の元へ走る。

鬼「勝手にウロチョロするんじゃねー! 俺から離れるなよ!」

烈「はーい!!」

 鬼太郎からおしかりを受けてもなお笑顔を振りまき、少女は鬼太郎に連れられ二人の元を後にする。

 予想外な展開に終始困惑するフェイト、はやては互いに顔を見合わせる。

は「どういうことや・・・・・・あの子はまさか・・・・・・」

フェ「鬼太郎さんの・・・・・・隠し子!?」

 と、壮大な勘違いを起こすフェイトとはやてだった。




登場人物
ヴァイパー
声:小山剛志
第13管理世界「フェディキア」における凶悪殺人犯。自分の中に理由なく溢れてくる闘争心と憎悪に溺れる暴力性により、銃を持つ警官複数人さえも生身で殴り飛ばすほどの高い戦闘能力を備える。強い飢餓感に見舞われると感情が高ぶり苛々するようになり、その気質によって、多くの人間を理由なく暴行や殺害に及ぶなど数多の悪事に手を染めていた。
謎のフードの男にその性質を認められ、ご馳走するという条件を飲んで魔導虚の素体となり、やがて破面魔導虚「スターブバイパー」へ進化を果たすなど非常にポテンシャルも高い。
アンゴルモアを強奪するも彼には望みや目的というものはなく、戦いに喜びを見出して戦っており、ヴァイパーにとって戦いという「手段」の為ならどのような「目的」であっても構わないというおよそ常人には理解できない願いを秘めている。
物語終盤、奪ったアンゴルモアを取り込むことで強制的に帰刃を成し遂げる。この力をもって機動六課メンバーや卍解状態の恋次を追い詰めるも、土壇場で卍階習得を終えて駆けつけた鬼太郎との戦いで形勢が逆転。最期は鬼太郎の放った「大炎烈火・嵐空牙」を受けて全身を炎に呑まれながら戦いが終わることを嘆きながら消滅した。



登場破面魔導虚
スターブバイパー(Starve Viper)/AM-17
『無印』期 第49話「俺はヒーローだ!」に登場。英字表記はSTARVE VIPER。
声:小山剛志
魔導虚から破面魔導虚へ進化を遂げたヴァイパーの姿。
全身が大柄なヘビの意匠を持つ破面魔導虚で、何人もの人間を捕食する事で急速な進化を遂げる。ヘビのような鞭状の腕を振るい相手を締め上げたり、破面化によって獲得した堅牢な鋼皮は魔力弾を完全遮断する。
戦いそのものを渇望するヴァイパー自身の凶悪性も相まって、クロノ率いるクラウディアメンバーを追い詰め、さらには応援に駆け付けた六課メンバーでさえも戦慄を抱かせる。
名前の由来は、「空腹」と「蛇」をそれぞれ表す英語から。
帰刃:(刀剣解放名称不明)
アンゴルモアを取り込みそのエネルギーを吸収してオーバーロードして変化してしまった姿。位置づけ的には破面の刀剣解放である「帰刃」とも通じるが、改号も名前も全てが謎のまま。黒く長い渦を巻いた胴と大きな手を持った姿をしており、身長は50メートルに及ぶ。
極めて長大な身体がコアを中心に渦を巻いた状態で固定され、その先端に5つの枝分かれした頭部が付いていると言う、まるでひとつの巨大な手、もしくは大の字の様なフォルムをしている。
あらゆるモノを溶かす猛毒を帯びた牙をミサイルのように発射して攻撃する。傷ついた体を超速再生能力にって癒す、さらには恋次の卍解「狒狒王蛇尾丸」の攻撃にも耐えうる頑丈さを併せ持つと言った解放前とは比べ物にならない力を秘めている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。