ユーノ・スクライア外伝   作:重要大事

5 / 50
第5話「我が手に斬魄刀を」

新暦079年 3月31日

第97管理外世界「地球」

松前町 スクライア商店 地下訓練場

 

 大詰めを迎える見極めテスト―――恋次が最終テストに取り掛かった頃、一足先にテストを終えた吉良は浦太郎と、どこか納得いかない様子の鬼太郎とともに一護達の元へ移動していた。

「ったく! あんなのアリかよ!! 男らしくねーぞ!!」

「でも負けは負け。吉良さんはれっきとした戦術で先輩を打ち負かしたんだよ」

「けっ! 何が戦術だよ。男なら正面切って斬り込むのが筋だろう!」

「悪いけど・・・僕は君とは戦いに対する考え方が真逆でね。どうにもそういう突撃思考っていうのが理解出来ない」

 結果から言えば吉良は鬼太郎との戦いに勝利し合格した。しかし、この勝敗結果を鬼太郎は非常に不服に感じていた。

 常に攻撃の要として猪突猛進する鬼太郎とは対照的に、吉良の戦法は常に相手の出方を窺い牽制し迎撃する言わば“後の先”の戦術。しかも吉良の持つ斬魄刀の能力もまた鬼太郎とは相性の悪いものであり、こうした要素が重なり合って常時ペースを狂わされた鬼太郎は敗北を喫した。

 自分が追い求める戦士像と乖離した後ろ向きな戦い方をする吉良を激しく非難するが、当人は苦笑しがちにも全く悪びれる素振りはない。彼からすれば鬼太郎の戦闘スタイルの方が異常であり、理解の外にあるものだった。

「突撃思考って言えば・・・・・・吉良さんところの隊長さん、恋次さんも先輩と同じタイプですよね? ここだけの話・・・あの手の人と一緒にいると疲れませんか?」

「おいバカ亀! それはつまり俺と一緒にいると疲れるって言ってるようなもんだよな!?」

 婉曲的(えんきょくてき)に浦太郎から見下された事を業腹に感じる鬼太郎。

 終始苦い笑いを浮かべる吉良だったが、気持ちが全く理解できないわけではなかったからどうコメントをすべきか判断が付かなかった。

 雑談をしている間に一護と金太郎、白鳥ら屯している場所まで近づいていた。足音が聞こえると、一護が振り返り吉良へと視線を配る。

「おぉ吉良。テストには合格したのか?」

「一応はね。それより・・・阿散井くんのほうは?」

「今ちょうどオモしれーところだぜ。ユーノが刀抜いて戦ってんだ。これ見逃したら損だぜ!」

 

 ―――ドン!

 杖から引き出した細身の直刀で硬い岩石を粉々に砕いていくユーノ。恋次は攻撃を回避しながら見た目からは想像し難いユーノの剣腕に驚きながら素直に評価する。

「や・・・やるじゃねーか! そんな()せー剣と腕でよ!」

「ありゃ褒められちゃいましたね。まいったな♪ でもだからといって手加減はしないですよッ♪」

 飄々としながら逃げ回る恋次目掛けて手持ちの剣を幾度となく振り下ろす。恋次は負け惜しみの様に「望むところだちくしょうめ!!」と叫んだりした。

 そのとき、ふとある疑問を抱いた恋次は思考する。

(・・・まて。まてまてまて? よく考えたらあれってただの仕込み杖じえねぇのか? たしか魔導師の連中はデバイスってのを武器代わりに使ってるって言ってたな。浦太郎にしても、金太郎にしてもそうだ。あんなモンで魔法を使える筈が無え!!)

 武器の形や能力からしてデバイスである可能性は極めて低い。そう考えた恋次の警戒心は一瞬薄らいだ。

(だったら別に、斬られたって何ともない筈――――――)

おもむろに後ろを振り返った次の瞬間、

 バンッ! 頬を撫でるようにユーノの刀が斬りかかり、気が付くと額から肩にかけて僅かに血飛沫が飛び散った。

「え?」

 咄嗟の出来事に思考が一時停止する。呆気にとられる恋次を見ながら、ユーノは嘆息を漏らす。

「気を緩めましたね。“浦太郎や金太郎みたいにデバイスを持ってない” “だから斬られてもどうってこない”・・・・・・そう思いませんでしたか?」

 ユーノは恋次の思考を見透かしていた。それが図星であると分かった後、恋次に対する失望感で胸が痛む。

「『不調法(ぶちょうほう)』と言う言葉を100回辞書で引いて下さい」

 言うと、握り締めた自分の剣に向かって解号を唱える。

 

「―――激昂(げっこう)せよ・・・―――『晩翠(ばんすい)』」

 

 パキ・・・ベキン・・・ベキ・・・。

 不気味な音を立てながら徐々に姿を豹変(ひょうへん)させるユーノの刀。

「なっ・・・・・・・・・・・・・・・!」

 淡い緑色に発光する刀身。柄の数箇所にヒスイと呼ばれる宝玉が埋め込まれ、(つば)の無い直刀へと姿を変える。恋次は自身がよく知る斬魄刀同様に形状変化を伴ったユーノの武器を目の当たりに愕然(がくぜん)とした。

「見覚えありませんか? あなた方死神のよーく知ってる武器ですよ・・・こいつはね」

 口角を上げこれ見よがしに斬魄刀を見せつけるユーノ。予想だにしなかった展開と出来事にまるで頭がついていかない恋次だったが、暫し沈黙が流れた末、驚愕の表情を浮かべ閉ざされた口を開く。

「斬魄刀・・・・・・・・・だと・・・・・・」

「その通り。死神だけが持つことを許された特殊な刀。個々の魂を写し取った刀の名を唱える事で力を解き放つ」

 狐につままれた様な顔で呆然と立ち尽くす恋次へ刀身を突き付け、ユーノは「そしてこれが()()能力(チカラ)の姿」と口にする。

「いくよ、『晩翠』。」

 自身の相棒に声をかけ、ユーノは恋次と近くの巨大な岩ごと手持ちの斬魄刀、『晩翠』をもって豪快に斬りかかる。

 

 ―――ドン!

 

 一振りで石巌(せきがん)を木端微塵に吹き飛ばす。

 その衝撃は凄まじく、観戦していた一護達も身の危険を感じすかさず安全圏まで下がり避難する。

「な、なんて破壊力だ・・・! いやそれよりも・・・どうしてユーノさんといい、桃谷くんといい、さも当たり前の様に斬魄刀を持ってるんだ!?」

 柄にもなく声を上げ吃驚する吉良。

 疑問を突き付けられ、鬼太郎は逆切れ口調で「るっせーな! 話せばいろいろ長くなるんだよ!」と、不貞腐れた様に呟いた。

「にしても阿散井隊長も災難であるな。ブルータートルにゴールデンベアー副店長・・・連戦に次ぐ連戦で疲労困憊している身でアレと戦うなどとはどうかしている」

「知らなかったのかよ。ユーノはあんな顔で実は結構Sなんだぜ」

 などと語り合うかたわら、一護達は岩場に隠れ二人の戦いをじっと観察し続ける。

 

 衝撃によって勢いよく吹き飛ばされた恋次は、体制を立て直すや懐目掛け飛び込んでくるユーノの斬撃を受け止める。

 キキキ・・・。鍔迫り合いの末に距離を置くとすかさず自身の斬魄刀を解放する。

「咆えろ、蛇尾丸ッ!!!」

 血気盛んに刃筋を目いっぱいまで延伸、遠方に佇むユーノへと斬りかかる。

 目の前から迫る凶刃にもかかわらず、ユーノは不敵な笑みを浮かべるとともに、右手の差し出す。その瞬間、翡翠色の輝く円形のミッドチルダ式魔法陣を展開させ斬撃を中空へ弾き逸らした。

「バリアだと!?」

 初歩的なシールド系防御魔法『ラウンドシールド』でも、恋次からすれば未知なる魔法の力に変わりない。

 ユーノはせせら笑い、「僕だって浦太郎や金太郎と同じ魔導師だって事を失念していませんか?」と呟き、更なる魔法の構築と展開を行う。

「ストラグルバインド」

 すると恋次と蛇尾丸の周囲に魔法陣が複数出現。円の中心部分から紐状の物体が幾つも現れ、その悉くが複雑に絡み合い恋次の体と蛇尾丸を丸ごと捕縛する。

「な・・・何だこりゃあ!? 力が、抜ける・・・・・・!」

 身動きが取れないばかりか、徐々に全身から力が抜けていく感覚に陥る恋次。

「破道の五十八、『闐嵐(てんらん)』」

 バインドの餌食となった対象物を見据えたユーノは、晩翠を持つ手とは逆の手を突き出し、詠唱破棄した鬼道を放つ。

 刹那、ユーノの手から放たれる巨大な竜巻。抵抗する暇さえ与えられないでいた恋次目掛けて猛烈な突風が襲い掛かる。

「のぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 竜巻の直撃を受けた恋次は、ストラグルバインドの効果が切れると同時に遠方へと吹き飛ばされた。猛烈な風によって周囲の岩肌へと激しく激突。途轍もない衝撃と轟音が訓練場へと鳴り響く。

 何度同じ目に遭えばいいのだろうか。体にも確りと刻み込まれたデジャブにいい加減飽きを感じ始める。

「な・・・・・・・・・・・・舐めるじゃ・・・・・・・・・ねえぞぉぉぉ!!!」

 血走った眼で標的を捕え、逆上した恋次は愛刀片手に全力疾走。ユーノの元へ猪突猛進に斬り込んで行く。

「無鉄砲に突っ込んでいきやがったぜアイツ。あれじゃユーノに虐めてほしいって頼みに行くようなもんだぜ」

 浅はかで直情的な恋次の行動を見ていた一護は、これから起こり得る事の顛末を予測しながら傍観を決め込む。

 

【挿絵表示】

 

 周りが固唾を飲んで見守る中、恋次は必死そうに斬魄刀を振り回して斬りかかっているのに対し、ユーノは常時泰然自若。焦燥など微塵も無い様子で恋次の剣を的確に()()()()()()()躱し続ける。

(くそっ! コイツさっきから目閉じてるんだぞ! なのに・・・なんで一太刀も当たら無えんだッ!?)

「そんなにガツガツ攻められても困りますよ。僕にその手の趣味はないんですから」

「ざけんじゃーぞ!!」

 必死な分、あからさまに余裕を見せつけられるのが極めて腹立たしく感じた。

 これ以上自分のペースを崩される訳にはいかないと、恋次は斬撃から体術へと切り替え、がら空きとなっているユーノの右側に回し蹴りを叩き込む。

 しかし次の瞬間―――あらかじめ攻撃を予測したかの如く、ユーノの右腕は恋次の脚を受け止め、その威力を完全に殺した。

「な・・・・・・。」

 努々(ゆめゆめ)力を緩めたわけじゃなかった。恋次はただただ目の前の事象に呆気にとられる。

 対するユーノは中空へと舞い、体を回転させて威力を付けた強烈な踵落としを炸裂―――アドバンテージを維持し続ける。

「ぐっ・・・は・・・・・・」

 圧倒的な力の差。浦太郎や金太郎とは比較にもならない次元の異なる強さ。隊長に就任してからも一日たりとも鍛錬を怠らなかった恋次だが、ユーノはそんな自分の鍛錬度合いを嘲笑うかの如く立ちはだかる。

 辛うじて顔を上げると、目の前には無傷のまま仁王立ちをするユーノがいる。

 とことこん悔しい思いの恋次は、歯を食いしばり何とか一矢報いようと、手持ちの剣を思い切り振るう。

「つらあああぁぁぁ!!!」

 獲物を捉えんとする猿猴(えんこう)の牙。

 刹那、捕えようとした矢先ユーノの姿が消失。気が付くと、恋次の額に中指を突き立てるユーノがポーズをとっていた。

 

 パチン―――。

 

 やった事は至極単純だった。だが威力が桁違いだった。鬼の様なデコピンと同時に弾き飛ばされた恋次は岩壁へと叩きつけられ、体がめり込み吐血した。

「チェーンバインド!」

 ユーノは決して攻撃の手を緩めなかった。魔法陣から呼び出した翡翠色の鎖で恋次を拘束。雁字搦めにした標的を縛り上げ、手元の鎖を数本同時に手繰り寄せる。

「広がれ戒めの鎖。捕えて固めろ封鎖の檻。アレスター・・・チェ―――ンッ!!!」

 ドカンッ!! 恋次ごと絡まった鎖は勢いよく爆発した。

「店長、マジすっげーぇぇ!!」

「やはり本家は質が違うな」

 デバイスの補助すら受けずたった一人でこれだけの芸当をやってのけるユーノの才能に、鬼太郎と白鳥はただただ称賛を抱く。

(あ・・・・・・阿散井くんが・・・・・・・・・防戦一方だなんて・・・・・・!?)

 爆風で見えなくなった恋次の安否を気遣う吉良は、仮にも隊長格である筈の恋次がほぼ一方的に()()使()()()()()()()()()()によって、フルボッコにされる光景にただただ目を疑い空いた口が塞がらなかった。

(なんて人だ・・・・・・確かに只者ではないという雰囲気は感じられたが、まさかこれ程までの力を持つだなんて・・・・・・もしかすると彼は一護くんを超える規格外なんじゃ・・・・・・!?)

 ある意味では的を射ている吉良の推測。周りも薄々勘付いた様子ではあるが、敢えて口に出そうとする者はいない。わざわざ口に出さずともその規格外振りは火を見るよりも明らかだから―――。

 連続攻撃を終えたユーノは無言のまま、土煙上がる岩場を見つめながら晩翠片手に恋次が出てくるのをじっと待つ。

 と、次の瞬間・・・―――

「・・・・・・卍解(ばんかい)・・・・・・!!」

 膨大な霊力の放出とともに、砂塵の中から巨大な蛇の頭部らしき物影が現れる。

 視界が完全に晴れた先、ユーノの瞳が捕えたのは―――狒狒(ひひ)の骨と毛皮を身に纏い、巨大な蛇の骨と化した斬魄刀を従えた阿散井恋次だった。

狒狒王蛇尾丸(ひひおうざびまる)!!!」

 

 『卍解』―――死神として頂点を極めた者のみに許される斬魄刀戦術の最終奥義。死神として他と隔絶した超然たる霊圧を生まれ持つ『四大貴族(よんだいきぞく)』といえど、そこに至ることができる者は数世代に一人と言われ、それを発現できた者は一つの例外も無く尸魂界(ソウル・ソサエティ)の歴史に永遠にその名を刻まれる。それが卍解である。

 

「おいおい! 卍解って・・・何考えてんだよお前・・・!?」

「阿散井くん! いくら何でもそれはやり過ぎだ!」

 敗色濃厚とは言え、ユーノ相手に卍解を使用した恋次の判断は短慮過ぎると考える一護と吉良。だが当人は全く余裕がない様子で険しい表情でユーノを見据えていた。

「へぇー。それが恋次さんの卍解ですか・・・。一護さんから話は聞いていましたが、さすがに壮観ですね」

 一護以外の死神―――正規の死神の卍解をこの目で見るのはユーノにとっても初めての事だったが、不思議な事に驚いてはいるものの臆したり畏怖を抱いた様子は無く、極めて平静だった。

(こいつ・・・・・・人が下手に出れば調子に乗りやがって・・・・・・今に吠え面かかせてやる!!)

 この期に及んで自分を逆撫でするかの如く立ち振る舞うユーノという存在が疎ましくて仕方なかった。

「阿散井くん!! 少し冷静になるんだ! 確かに彼は強い。だからといって卍解なんて・・・――「うるせーよっ!」

 吉良の諫言(かんげん)を遮り、恋次は苛立った声色で口にする。

「こいつは見た目こそはなよなよしちゃいるが、戦ってみて分かったんだよ。こいつの本性が! そんな甘い奴じゃ無えんだよ。一筋縄じゃこいつの帽子を落とすことなんざ出来無()え。隙を見せればこっちが逆にやられちまう! だったらせめて、全力全開でぶつかってやるのが礼儀ってもんだろうが!!」

 高らかに声を荒らげる野良犬。恋次は右手に持った骨状の柄をぎゅっと握りしめ、蛇尾丸に霊圧を注ぎ込んで攻撃体勢となる。

「全力全開、か。いいですねその真っ直ぐな言葉・・・・・・ならば見せて下さい。あなたの全力全開をこの僕に―――」

 戦士として逃げる事は出来ない。むしろこの挑戦を全力で以て答えるつもりで、ユーノもまた真正面から恋次の卍解とぶつかり合う気構えを持つ。

 対峙する二人は静謐(せいひつ)に闘気を衝突させる。

 やがて、機が熟したその瞬間―――攻勢に出た恋次が卍解状態の蛇尾丸を操り『始解(しかい)』時とは比較にもならないダイナミックな攻撃を繰り出す。

 目が光った蛇尾丸の頭部が標的の頭から食らいつこうとする。これをユーノは当然の如く『瞬歩』で躱し、獲物を食らい損ねた蛇尾丸はその場に遭った大地を抉り取りながら岩岩を咬み砕く。

(瞬歩まで会得してやがるのか・・・・・・胸クソ悪いっ!)

 移動補助体術としての歩法を極める事で眼にも止まらぬ高速移動『瞬歩』が使用でき、死神の中でも隊長格または隠密機動(おんみつきどう)に属する者が得意とする。恋次はユーノが次々と高度な死神の戦闘技術を披露する様がとても面白くなかった。

「でえぇぇぇい!!!」

 帽子を落とす事がこのテストの合否ポイントだが、それを為すのは思いのほか骨の折れる作業だった。恋次は徹底的に攻撃の手を緩めず果敢に攻め続け、瞬歩でちょこまかと逃げ回るユーノを捕えようとする。

 そしてついに、僅かな間隙を突いてユーノを捕える事に成功した。巨大な蛇の頭部は中空を大きく旋回してから食らうべく獲物へと襲い掛かる。

 一方、獲物とされたユーノは飛行魔法で滞空しながら晩翠の刀身で蛇尾丸を受け止め、肌でひしひしと伝わる卍解の力を冷静に分析する。

「・・・成程。さすがに卍解という圧は有りますね」

「へっ。舐めた口叩いていられるのもここまでだぜ! こいつで幕引きだ!」

 語気強く宣言した次の瞬間、刃と刃ひとつひとつを繋ぐ霊圧を開放させ、そのすべてを狒狒王蛇尾丸の口腔内へと蓄える。

狒骨大砲(ひこつたいほう)!!!」

 口上を合図に、狒狒蛇尾丸の口から赤み帯びた霊力がレーザーの如く飛び出し巨大な霊圧の砲弾となって撃ち出された。

 砲弾は射線上に立つユーノを的確に捕える。しかし当人は逃げるどころか、ふてぶてしい笑い顔で立ち尽くしていた。

(避け無えのか!?)

 至極当然な疑問を抱く恋次。と、次の瞬間・・・―――

「輝け、『晩翠』!」

 おもむろに剣を天に(かざ)し、ユーノは飛んでくる砲弾目掛け晩翠を振りおろす。

 刹那、直刀の刃から高密度に圧縮された霊圧が生み出す飛ぶ斬撃―――『翡翠斬(ひすいざん)』が繰り出される。

 ドン! 名の通りの翡翠の斬撃は狒骨大砲と勢いよく衝突。互いに威力を殺し合い対消滅させると、技そのものの威力を打ち消した。

「「なっ・・・・・・。」」

 到底あり得ない光景に絶句する恋次。吉良もまた、恋次と同じかそれ以上の衝撃を受けてしまう。

(し・・・始解の技で・・・狒骨大砲を掻き消した・・・だと・・・・・・!?)

 ただただ信じられない。信じたくない。卍解を会得してからの数十年間、愚直に強さを求め弛まぬ鍛錬を積み重ね研鑽(けんさん)させてきた自分の技を、会って間もない男―――それも正規の死神でも何でもない者に踏みにじられるこの如何とし難い屈辱と言ったらない。

「舐めてるのはあなたですよ」

 呆然自失と化している恋次を前に若干低い声色で呟いたユーノは、晩翠を肩に乗せてから「・・・この僕を誰だと思ってるんですか?」と、問いかける。

「伝説の死神代行・黒崎一護の唯一無二の弟子として斬術を収め、浦原喜助から鬼道の術を学び、四楓院夜一(しほういんよるいち)から白打(はくだ)のイロハを叩き込まれた【翡翠の魔導死神】なんです。卍解を解放したから即帽子を落とせるとでも? そういう短慮なところが不調法だと何故気づかないのですか?」

 痛烈な批判を浴びせた直後、ズボンのポケットから飛び出した紅色に染まった結晶体。ユーノはそれを触媒として掌の中で握りしめ、ゆっくりと詠唱を開始した。

「我は神を斬獲(ざんかく)せし者 我は始原(しげん)の祖と(つい)を知る者」

 その呪言(じゅごん)を聞いて、恋次は吃驚しゾクリと背中を震わせる。

(こいつ、まさか・・・・・・。)

()は摂理の円環へと帰還せよ 五素より成りし物は五素に (しょう)(ことわり)を紡ぐ縁は乖離すべし  いざ森羅の万象は(すべから)く此処に散滅せよ 遥かな虚無の果てに」

(ば・・・・・・莫迦な・・・・・・あり得ねえ!! こんな奴が()()()()()()()()()を操れる筈が・・・・・・―――)

「―――破道の八十九・改変 『燬鷇剿滅神炎炮(きこうそうめつしんえんほう)』―――」

 

 ドカ―――ン!!!

 

 七節に及んだ詠唱を完了させた直後、ユーノの正面に形成された赤み帯びた二重の円環より放たれる剛暴(ごうぼう)極まりない霊子の大波導。炎熱、冷気、電撃などの属性を強引に重ね合わせることで生み出される虚数エネルギーによる分解消滅の衝撃波は、阿散井恋次という標的を丸ごと呑み込み、ついには大爆風を起こさせる。

 爆雲が立ち込める訓練場。固唾を飲んで見守っていると、煙の中から人の形を保つ影が見えてきた。

 視界が晴れ、一護達が目の当たりにしたのは爆風によって全身至るところに火傷を覆い、満身創痍となりながらも二本足で立っている恋次だった。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、クソ・・・・・・」

 今の一撃を食らいながら何故立っていられるのか。その答えをユーノは早期に気付いた様子で口にする。

「咄嗟に狒骨大砲を放ち、僕の鬼道の威力を減殺しましたか。大したものですよ。だけど・・・・・・その体じゃもう真面に戦えないでしょう?」

 意識を保っていること事態が不思議な状況。今の恋次はほとんど気力を振り絞って立っているだけに過ぎないことは誰の眼から見ても明朗だ。

「・・・やれやれ。あなた当初1分でカタを付けると言っていましたね? それがどうですか。1分どころか10分も経過してますよ」

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、う・・・うるせーよ・・・こんなの大したことじゃねえ・・・」

 意地を張って強がる姿はいかにも滑稽だった。

 聞いた直後、ユーノは恋次の顔面を鷲掴む。そして躊躇せずゴンっ、と強烈な音を立てて地面へと叩きつける。

「がぁ・・・は・・・・・・」

「阿散井くん!!」

 瀕死の恋次を容赦なく追い詰めるユーノの凶行。これ以上は危険だと思い、吉良が救出に向おうとした矢先、咄嗟に腕を掴まれる。

 吉良が視線を向けると、真顔の一護が制止を求める。

「今行ったらお前から先に殺されるぞ」

「き、君は・・・・・・阿散井くんを見捨てろというのか? こんな戦いは認められない! 今すぐ彼に言ってやめさせるんだ! 君は仮にも彼の師匠なんだろ!?」

「止める理由が()えのに止められる訳が無いだろ。アイツは・・・ユーノは生半可な気持ちや覚悟で戦ってる訳じゃない。思慮深いアイツの事だ。いろいろ考えた上で筋を通そうとしてるんだ」

 一護が言うと、傍で聞いていた金太郎も便乗し吉良の肩に手を乗せる。

「ここは見守りましょう。我々に出来るのはそれだけです」

「く・・・・・・。」

 到底承服できる事ではなかった。だがそれでも今の自分がいったところで何の役にも立てないという事は概ね予想が着く。吉良は断腸の思いで静観を決め込んだ。

 

 容赦、慈悲、すべてをかなぐり捨てて恋次を徹底的に追い込むユーノ。

 倒れ伏す恋次の周りには血溜まりが出来、彼が操る狒狒王蛇尾丸も術者が瀕死状態となった事でほぼ活動を停止する。

 恋次は立ち向かう気力さえ殺ぎ落とすユーノの巨大な霊圧を正面から当てられ、晩翠の切先を突き付けられる。

「どうします? まだ()()()で向かってきますか? なに、僕の帽子を落とすだけだ。どうにもできないことじゃない。だけどそれはもう、度胸や勇気じゃないってだけの話」

「・・・・・・・・・・・・っ。」

 喉が詰まって発声すらままならない。ユーノは「・・・先に言いましょうか」と呟き、警告する。

「まだ大見得を切って僕と戦う気なら、僕はあなたを殺します」

 声を凄ませ身に纏う霊圧で相手の戦意を削ぎ落とす。

 闘気、殺気、鬼気、さまざまに表現されるあらゆる覇気の形。恋次は目の前から迫る桁違いな霊圧に中てられ、まともな呼吸さえ出来ないでいた。

(息が・・・・・・できねえ・・・霊圧で・・・肺が押し潰されちまいそうだ・・・もう・・・指一本も動かせねえ・・・)

 死神としてのキャリアなら断然自分の方が上。だが、そのキャリアさえ凌駕する力の差が自分と目の前の優男の間には存在している。力及ばず挙句に戦意さえ失いかけている自分をただただ嘲笑する。

(―――情けねえ・・・何が三番隊隊長だ――――――・・・何なんだ、俺は? 全く救いようの()え野良犬だ・・・俺は・・・こいつに・・・)

 ――――――勝る気がしねえ――――――・・・!!

 

「何をやってるんだよ君はっ!!」

 そのとき、腐りかけていた恋次の心へと木霊する仲間の声。

 力を振り絞って声のする方を見れば、滅多な事で声を荒らげない筈の吉良が自分を見ながら大声で恫喝(どうかつ)していた。

「君がここで負けたら、また一人のエゴの為に大勢の命が傷つくんだぞ!! 君はあのとき言ったよな!! “俺が隊長になった暁には、金輪際(こんりんざい)誰の涙も見せない”って!! あの言葉は嘘だったのか!!?」

「――――――・・・っ!」

 (もや)のかかった脳細胞を刺激する良い薬となった。

 吉良の言葉で恋次はすっかり我に返る事が出来た。口角を上げると、ユーノに対する恐怖を捨て去り、おもむろに立ち上がる。

 静かに立ち尽くす恋次を見ながら、ユーノもまた静かに剣を構える。

 一護達が固唾を飲んで見守るかたわら、恋次は心中で自分の思いを、それが生み出す覚悟を今一度確かめる。

(そうだよな吉良・・・何をビビッてるんだよ俺は・・・ビビることはねえ・・・ただ堂々と胸張って・・・前に踏み出せばいいことじゃねえか・・・!)

 自分の中の覚悟が決まった瞬間、瞳を大きく開く。同時に恋次の全身から溢れ出すこれまでに無い様な巨大な霊圧。

 ユーノは一瞬驚愕の表情を浮かべたが、それは直ぐに嬉々としたものへと変わる。

「いくぜ蛇尾丸・・・これが()()()の、全力全開だ!!」

 付き従える蛇尾丸は恋次の背後で咆哮を上げながらユーノを威嚇。全身全霊の力を込め、恋次は正真正銘最後の一撃を眼前の敵―――ユーノ・スクライアへと放つ。

「オロチ王奥義!!  “蜿蜒長蛇(えんえんちょうだ)”!!」

 全身に駆け巡る霊力のすべてを蛇尾丸へと流し込み、蛇尾丸そのものが熱破壊能力を秘めた巨大な砲弾へと姿を変える。ヘビがうねうねと曲がり蛇行するが如く、蛇尾丸も周囲の障害となるもの一切合財を粉砕する、まさしく一撃必殺の奥義だ。

 恋次の全霊圧が注ぎ込まれた蛇の王。それが真っ赤な血煙を滾らせ襲い掛かる。

(おお)え! 『晩翠』!!」

 嘗てない危機感を抱き目を見開くと、咄嗟に晩翠を水平に立てて事態に対処した。

 

 攻撃が収まった瞬間―――・・・破損したユーノの帽子がゆらゆらと宙を舞ってゆっくり足下へと落ちてきた。

「・・・ふう・・・・・・」

 安堵の溜息を吐き、ユーノは全身を翡翠色で覆われた半円ドーム型の結界で身を守り、狒狒王蛇尾丸によるダメージを辛うじて回避した。

「この“玉翠(ぎょくすい)東屋(あずまや)”が無かったら、下手したら上半身丸ごと持っていかれてたかもしれないな・・・」

 技を解き、傍らに落ちていた帽子を拾い上げて土埃を払う。

「・・・やれやれ・・・帽子も・・・壊れちゃったな・・・」

 とは言うものの、声色は帽子が壊れてしまった事への悲嘆以上に、この状況を作り出してくれた事に対する満足感を孕んでいた。

「しかし・・・“真の卍解”を使っていないとは言え、まさか最後の一撃がここまでとは・・・恋次さん・・・あなたはある意味でなのは並に恐ろしい死神(ひと)だ・・・」

 壊れた帽子を被り、ユーノは全身全霊の力を使い切ってその場で気を失った恋次を一瞥。そしてそれがもたらした結果―――蛇行した蛇尾丸によって大きく抉り取られた大地を目で辿る。

 やがて、今回のテスト結果に申し分ないと結論付け、口角を上げ宣言する。

「―――これにて見極めテスト全日程を終了。阿散井恋次さん。吉良イヅルさん。あなた方のその力を認め、ここに合格を宣言します!」

 

           *

 

 私は、独りだ。

 独りだから、背中がとても冷たい。

 背中が冷たいと、すごく寂しい。

 どうして独りなんだろう?

 どうして背中がこんなに冷たくて、寂しいのだろう?

 それはきっと――――――私が前だけしか見ていなかったら、一番大切な人の事を見失っていたから。

 

           ≡

 

 新暦067年、とある冬の日――――――。

 時空管理局員武装隊候補生・高町なのはは異世界での任務を終えたその帰り際、生死に関わる瀕死の重傷を負った。

 直接的な原因は、突如現れた未確認体(アンノウン)に不意を突かれた事への刺し傷。そして、間接的な原因となったのは、彼女が日頃から続けていたハードトレーニングと度重なる戦いによって蓄積された疲労によるものだった。

 執刀した担当外科医や、八神はやてに仕えるヴォルケンリッターの一人、湖の騎士シャマルなどによれば、例え手術が成功しても再度魔法を使うことはおろか、立って歩くことさえ危うくなるという絶望的なものだった。

 だが、彼女は死ぬ気のリハビリを乗り越えて半年の末に怪我を完治させた。そして自分の無茶で二度と他人に迷惑をかける事は良くないという教訓を得て、再び彼女は大空へと舞い戻った。

 しかしこの美談の裏には語られない話がある。

 ある日の夜。ユーノが入院中のなのはに会いに来たときの出来事だ――――――・・・。

 

           ≒

 

新暦069年---

時空管理局本局 医療センター

 

 午後9時過ぎ―――。

 無限書庫での業務を一旦抜け出し、ユーノは宛がわれたなのはの病室の前に立つ。一呼吸置くと、おもむろに呼び出しブザーを鳴らす。

「はい・・・どうぞ」

 部屋の中からなのはの声が聞こえてくる。

 ユーノはおもむろにドアを開き、彼女がいる病室の中へ入る。

「やぁ、なのは」

「ユーノくん・・・」

 このとき、ユーノは暗がりではあるが、なのはの両眼が充血していていた事に気付いた。

 自分がここへ来るずっと前から、彼女は不安と恐怖に押し殺されそうになって涙を流していた。フェイトやはやて達には心配をかけまいと、彼女達がいる前では決して弱みを見せない気丈な彼女も、いざ一人になったときは唐突に襲いかかる強い不安と恐怖に負けてしまい涙を流してしまう。どんなに優秀な魔導師と言えど、彼女はまだ11歳の少女なのである。

 そんな彼女の性格を熟知していたユーノの表情は忽ち曇り、心の中は益々複雑な思いでいっぱいとなる。

「なのは・・・調子はどうだい?」

「う、うん・・・だいじょうぶだよ。ほら、この通りだいぶ良くなってきてるし! ・・・まぁ、魔法も足もまだ動かせないけどね・・・」

 笑顔で取り繕いユーノでさえも誤魔化そうとする彼女の態度を見た瞬間、彼は我慢できなくなった。

 ぎゅっと、今にも泣き出しそうな表情でなのはへ近づき、ユーノは無言のまま強く彼女を抱きしめる。

「ふぇ・・・? ゆ、ユーノくん・・・なにを・・・・・・」

 普段の彼からは想像もつかない大胆かつ突飛すぎる行動。なのはも思わず頬を赤く染めて驚愕に満ちた顔を浮かべる。

「・・・・・・無理してくてもいいよ」

 不意に耳元で呟かれた言葉に、なのはは一瞬耳を疑い目を見開いた。

 ユーノはただ遣る瀬無さそうに終始戸惑いを抱くなのはを強く抱きしめたまま、思いの丈をありのままに伝える。

「・・・泣きたいときは泣いたっていいんだよ。なのはは強いから、みんなに心配させたりするのが嫌いだから・・・今もそうやって笑って誤魔化してるけど、僕にはそんな見え透いた嘘は通じない。辛いことがあったら、周りを気にせず声が枯れるまで泣いたっていいんだ。誰もなのはのことを責めたりする人はここにはいない。僕の前だけでもいいから・・・・・・泣いたって、いいんだ・・・・・・」

「ゆ・・・ユーノく、ん・・・・・・うううぅぅぅ・・・・・・」

 その瞬間、箍が外れ―――これまでずっと堪えてきたものが一気に溢れ出す。

 擦り切れるほどの大声を上げながら、なのはは大粒の涙を流し、ユーノの胸の中でこれまで抱えてきた辛い本音を赤裸々に暴露する。

「わあああああああああああ!!! 怖かったぁぁぁぁぁぁあ! わたし・・・本当はすっごく怖かったっっぁああ!!! 痛くて痛くて!!! 死んじゃうかと思ったよぉぉぉ!!! もう、みんなやユーノくんに会えなくると思ったらすごく怖かったぁぁぁあ!」

 ユーノは泣き叫ぶ少女を優しく抱きしめ、耳元でなのはの本音をすべて聞き取った。

「魔法も使えなくなる!!! 歩くこともできなくなる!!! わたし・・・そんなのイヤだ!!! せっかくユーノくんが教えてくれた大切なものなのに、それが使えなくなるなんてイヤだ!!! わたし、もう一度飛びたい!!! 一緒にフェイトちゃんやはやてちゃん、みんなと局でお仕事したいよ!!! 私の魔法で救える命があるなら救いたい!!! だけど・・・わたしは・・・わたしは・・・・・・」

「・・・・・・だいじょうぶ。なのはならきっと元通りに治るよ。今はまだその時じゃないってだけで、その足も魔法も必ず良くなる。だから自分を信じて・・・僕や周りの人達を信じて、一緒にがんばろう」

 曇りの無い優しい眼で確りと自分を見つめ笑顔を浮かべたユーノ。それを見た瞬間、なのはの心に今までにはなかった奇妙な感情が芽生えた。

 だが、そのことに気づく前になのはは素直な自分の気持ちを受け入れてくれた優しいパートナーの温もりを感じ、嬉し涙を浮かべながらその身を委ねたかった。

「・・・ユーノくん・・・しばらくのあいだ・・・こうやってさせて・・・・・・」

「うん・・・・・・。君の気が済むまでやるといい」

 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 

 

 昔からひどく大人びた性格をしてて、周りに遠慮しがちだった私が初めて感情をぶつけられたのはユーノ君だけだった。

 フェイトちゃんやはやてちゃん、お父さん、お母さん、お姉ちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんでもない。ユーノ君ただ一人だけだった。

 だからこそ、私にとってユーノ君は他の誰とも違う特別な存在だった。

 無限書庫の仕事が終わると、ユーノ君はいつも病室に駆け付けてくれて、私の傍で私の事を気にかけてくれた。

 何気ないことでも、私はユーノ君と一緒に居られる時間が凄く愛おしかった。

 苦しいリハビリに挫けそうになったときも、ユーノ君は私の一番近くで励ましてくれた。

 嬉しかった。そんなユーノ君の優しさが、私は大好きだった。私はあの頃からずっとユーノ君の優しさに救われていた。

 だからこそ気づかなかった。ユーノ君が他の誰よりも“孤独”であったことに―――どうして、私は一度も気付けなかったんだろう?

 

 ユーノ君は生まれた時から“ひとり”だと言っていた。

 本当ならユーノ君もずっと寂しくて、誰かに甘えたいはずなのに・・・・・・ユーノ君は誰にも甘えたりもしないし、私以上に周りに遠慮して生きていた。

 なのに、どうしてユーノ君は朗らかに笑っていられたの?

 そしてあの事故を機に、ユーノ君から本当の笑顔が消えた。いつの間にか私の好きだった優しい笑顔は無くなり、どこか取り繕った「作り笑い」を浮かべるようになった。

 教導隊に入って自分の役職もある程度固定されるようになると、ユーノ君と接する機会は日増しに少なくなっていった。メールでのやり取りはするけれど、お互いに仕事が忙しくて直接会って話す事はひと月に一度・・・ひどい時は数か月に一度と言うときもあったっけ。

 私は寂しかった。だから会えたとき、その嬉しさは普通じゃなかった。

 ヴィヴィオも懐いて、できれば三人一緒に居られる機会がもっとあればいいのに・・・・・・そんな願望を抱いていた矢先だった。

 ユーノ君が居なくなった――――――。私の前から姿を消した。

 私は泣いた。子供のように、泣いて・・・泣いて、泣いて、泣き続けた。

 心に土砂降りの雨が降り注ぐ。

 この雨は、きっとこの先もずっと降り注ぐ。きっと止むことはないだろう。私にとってこの雨はユーノ君への贖罪そのものなのだから・・・・・・・・・。

 

           ≒

 

現在―――

ミッ住宅街 高町家

 

「ユーノ、く・・・ん・・・」

 中途覚醒したとき、なのははベッドの中で啜り泣いていた事に気付かされた。枕は自分が流した涙で塗れていた。

(また・・・・・・あの夢か・・・・・・・・・)

 ここ最近になって当時の出来事を夢で見る事が多くなった。

 奇しくも今日は、白鳥と初めて会った日。彼女にとって白鳥はユーノと何らかの接点を持っている重要な人物だった。

 出来る事なら彼ともう一度会いたい。彼に会いたいのではない。彼と通じているであろうユーノと会いたいのだ。

「ユーノ君・・・・・・どうして私に何も言わずにいなくなっちゃったの・・・・・・」

 焦がれれば焦がれるほど、彼との距離は縮まるどころか遠くなる気がしてならない。

 この四年の間に生まれた心の空白。どんなに埋めようとしても埋められない。今のなのはの心はとても空虚だった。

 

           ◇

 

4月7日―――

第97管理外世界「地球」

空座町 南川瀬 クロサキ医院

 

 スクライア商店で行われた見極めテストから七日が経った。

 壮絶な死闘を制した恋次と吉良は、ユーノ達がミッドチルダへの道を開く準備を整えるあいだ、黒崎家に下宿していた。

 織姫は二人を快く歓迎してくれたものの、家主である一護はかなり不機嫌であった。

 それもそのはず―――・・・吉良はともかくとして、恋次に遠慮という言葉は無い。気が付けば鯨飲馬食(げいいんばしょく)。織姫が作った手料理を(むさぼ)り食い尽くしていた。

「うめえっ!! 井上、しばらく会わない間に料理の腕上げたな」

「えへへ♪ こう見えて昔っから料理の腕には自信があるからね! これぐらいは当然だよ。ささ、吉良さんも遠慮せずにどうぞどうぞ!!」

「そ・・・そうかい・・・じゃあ、お言葉に甘えて」

 恋次の図々しさとは対照的に貴族という家柄出身の吉良は良識を弁えている。それでもかなり遠慮気味ではあった。

「吉良、御馳走してもらってんだから遠慮するなよ!! ここでちゃんと喰っておかねーと、ミッドチルダ(あっちの世界)に着いたら即行貧血でぶっ倒れるぞ」

 遠慮しがちな吉良に恋次は頬袋いっぱいに食べ物を含んだ状態で呼びかける。

「てめぇは少し遠慮しろボケぇ!!」

 パンッ!! 恋次の図々しさに業を煮やした一護が激怒。恋次の顔面目掛けパイを押し当てた。

「てめえ一護っ!!! よくもこの俺の顔に泥を塗りやがったな!!!」

「泥じゃねえだろ!!!  つーかモノ含んだまま喋んじゃねえよ! ガキかてめぇは!?」

「んだと―――!!!」

 顔中がクリームでいっぱいの恋次は激怒し、一護と壮絶な喧嘩を始める。

 その様子を呆然と眺める吉良とコン。対する織姫はどこか嬉々として楽しそうな様子で見ていた。

「やれやれ・・・あの二人にも困ったものだね・・・」

「バカはいくつになっても直らねーな」

「でも、何だかんだ言って二人ともとっても仲良しだと思うな。こうして見るとさ、昔のことを思い出すなー・・・」

 ふと、織姫は十年前の記憶を脳裏に思い起こす。

 初めて恋次達と出遭って以来、一時衝突は遭ったものの、今では互いのことを打ち明けられる気兼ねない仲となった。大人になってもその関係は変わらず、時を隔てても顔を合わせれば笑い合い、喧嘩し合える関係が本当に愛おしくてたまらない。そう感じた織姫に吉良とコンもまた共感し、互いにほくそ笑む。

「・・・そうだね・・・たまにはこういうのも良いかもね」

「まっ、今日のところは多めに見といてやるか」

 黒崎家の一夜は騒々しくも、かくも平穏に過ぎていくのであった。

 

 深夜未明―――午前1時。

 ユーノからの通達が恋次達の下へと届き、その指示に従って二人は黒崎家のリビングの窓を開け静かにその時が来るのを待つ。

「・・・なぁ・・・・・・本当にこれでいいんだよな・・・」

「彼からはそう言う指示が出てたけど・・・」

 言われたとおりに窓を開けてみたものの、内心かなり不安が付きまとっていた。それは吉良は勿論、一護達も同様だった。

「にしても・・・」

 眉間に皺を寄せながら、一護はユーノが連絡してきた際の内容を今一度思い出す。

 

『今晩午前1時! マドを開けて待ってて下さいね! 一護さんの家の!』

 

「・・・俺はどうにもイヤな予感がバシバシするけどな・・・」

「そ、そんな。あなた考えすぎだよ。ユーノさん、別に悪い人じゃないでしょう?」

「それは分かってるんだけどさ・・・あいつ、この四年の間に誰かさんにすっかり毒されちまったもんだからよ・・・心配で仕方ねーんだ・・・」

「浦原さん二号ってわけだね」

「よりにもよって一番厄介でタチの悪い人に中てられちまうとは・・・」

 秘かな同情を一護へ向けつつ、恋次は窓から入ってくる春のそよ風をその身に受けながら、夜空に浮かぶ満月を感慨深そうに仰ぎ見る。

「・・・・・・・・・・・・・・・いい風だなー・・・」

 と、呟いたその時だった。

「・・・あ?」

 前方から飛んでくる奇妙な物体に目を凝らす。

 高速で近付いてくる物体。よく見ると、表面にはユーノの似顔絵と「スクライア商店」と書かれたロゴが印刷されていた。

「な、何だ・・・!?」

 次の瞬間、リビングへと入り込んだ物体はベチャッという気味の悪い音を立てて、血色の如く粘着性のある液体を壁に付着させた。

「・・・き・・・・・・っ、気色悪りぃなおい!? 何が・・・」

「この展開・・・・・・まさか!?」

 引き攣った顔で一護達が壁を見つめていると、液体は重力に従いゆっくりと下へ流れ出すと―――・・・そこに血染めのメッセージを浮かび上がらせる。

 

〈これから直ぐに(スクライア)商店前に来られたし〉

 

「「「「「ギャ―――――――――ッ!!!」」」」」

 恐怖の余りこの場に居合わせた全員が絶叫する。

「やっぱりだ!!! な・・・何してくれてんだよあのバカ弟子!! ひとん家の壁にこんなもん!!! これじゃまるっきり浦原さんところと変わんねぇじゃねえか!!」

「一体コレはなんの演出のつもりなんだ!? 惨殺現場のダイイングメッセージじゃあるまいし!!!」

 すると、そんな恋次のツッコミを耳にした織姫がふと言って来た。

「恋次くんダメだよ、そんなありきたりなこと言っちゃ! ツッコミの才能がないって言われるよ!」

「あ? 何だそりゃ・・・ン?」

 そのとき、恋次は壁に現れた文字に「P.S.」と書かれた部分を見つける。

「追伸だぁ? え~~・・・と、なになに・・・」

 目を細め、本文の後に出てきた追伸の部分をおもむろに読みあげる。

 

〈P.S. 今、これを見て『そんなありきたりなこと言ったらツッコミの才能がないと言われる』と言ったり、『ダイイングメッセージみたい』などと思った人は・・・そもそもお笑いの才能がないですよ♪〉

 

「ガ―――ンッ!!!」

「「やかましいわっ!!」」

 予想外の指摘にショックを隠し切れない織姫。

 それとは逆に、一護と恋次はユーノへの怒りを堪え切れず、クッションを力いっぱい息の合った動きでほぼ同時に投げつけた。

 

           *

 

午前1時過ぎ―――

松前町 スクライア商店

 

 召集を受けた恋次と吉良は、一護が運転する車でスクライア商店へと移動。

 店の前に着いたとき―――伊達で煙管を口に咥えたユーノが、全員の到着を心待ちにしていた。

「お―――っ。全員時間ピッタリに到着ですね! 結構結構♪」

「当然だろう。そのために此処へ来たんだからな」

「準備のほうは・・・整ったんですか?」吉良が問いかけると、ユーノは咥えていた煙管型のペロペロキャンディを取り出し、「もうバッチリですよ♪」と伝える。

「ささ、立ち話も何だから一度店の中へ入ってくださいね。ちゃんと聞いてくださいよォ。でないと、ミッド(むこう)へ着いて直ぐに管理局に捕まることになりますからね」

 

 その後店の地下訓練場へ降りた一護達。

 すると、浦原商店の地下勉強部屋を初めて訪れた時と同じような感激を覚えた織姫が、新鮮なリアクションを取った。

「・・・す・・・すご――――――い!! ユーノさんの店の地下にもこんなでっかい空間があったなんて! かっこいい! 秘密基地みたい!! 浦原さんとこにも負けてないや!!」

「そうか?」と、思わず小首を傾げる一護。

 話を聞いていたユーノは、歓喜の涙を流しながら織姫の手を握り締める。

「・・・す・・・素晴らしいリアクション・・・! やっぱ織姫さんだけですよ、僕の汗と血の滲む努力を誉めてくれるのは・・・!」

「えへへ―――♪ どうもどうも!」

「いや・・・それ明らかに努力の方向性間違ってると思うのは俺だけかな・・・」

「安心しろ一護。俺も同じ事を思ったところだ」

 対立し衝突ばかりを繰り返す一護と恋次が珍しく共感する稀有な事例が何とも奇蹟の様であった。

「おっほん! では改めて、皆サーン、こちらにごちゅうも―――く♪」

 手をパンパンと叩きながら、ユーノは全員の注意を自分へと向けさせる。

「ではいきますよ―――♪ ほい!」

 パチン! 指を鳴らした瞬間、空間の裂け目から現れる巨大な扉。その扉を見るや、恋次は目を見開き吃驚しながら、恐る恐る問う。

「そりゃ・・・・・・“地獄の門”、か・・・!?」

 尸魂界(ソウル・ソサエティ)同様に死後の世界でありながら、その干渉を厳しく禁じられている冥土―――地獄へと通じる門と酷似した物の存在に息を飲む恋次と吉良。

 これを聞いた途端、ユーノは「やだなあ! そんな物騒なもんじゃないですよこれは♪」と、飄々とした笑みを零す。

「これがミッドチルダへと続く道。その名も“幻魔(げんま)の扉”。知り合いの魔王からもらった特注品なんですよ」

 魔王という言葉が指すのが単なる比喩表現なのか、あるいは本物なのか。どちらにせよ未だユーノの素性が知れない恋次と吉良は胡散臭そうに扉とそれを所持するユーノ本人を見つめる。

 しばらくして、恋次達を見据えたユーノは飄々とした態度を改め、真面目な雰囲気でおもむろに語り始める。

「・・・この扉の最大のメリットは、願った場所へどこへでも行くことが出来るという事です。つまりその気になれば、尸魂界(ソウル・ソサエティ)へだって行く事もできます」

「ま、マジかよそれ!?」

「でも何でワザワザそんな回りくどい道具を使う必要があるんだよ? お前の転移魔法でやれば済む話だろ?」

 率直に疑問に感じた事を口走る一護。

「そうしたいのは山々なんですが・・・現在、時空管理局は各世界で出現する魔導虚(ホロウロギア)の対応と、スカリエッティ捜索の為に異世界移動に対する監視を強化しています。転移魔法の様な足の着く方法だと恋次さん達の活動に支障が及んでしまいます」

「そう言えば・・・ユーノさんの話だと、魔導師は僕ら死神の様な霊魂の存在を視認できてしまうんでしたね?」

 あらかじめユーノから聞かされていた事実を思い出す吉良。

 死神や滅却師(クインシー)完現術者(フルブリンガー)と呼ばれる霊力を戦いに使用する者がその霊力を生み出す内部器官として【魄睡(はくすい)】と呼ばれるものがあり、同時にそれを喪失すると霊力を失う。

 対する魔導師・騎士は【リンカーコア】と呼ばれる魔力の生成器官があり、大気中の魔力素を体内に取り込んで蓄積することと体内の魔力を外部に放出するのに必要である。これまでリンカーコアそのものの生成プロセスには謎が多く、魔法発祥の地・ミッドチルダでさえその謎を解明できずにいた。

 しかし、ユーノは数年に渡る研究の結果、ある一つの(こたえ)に辿り着いた。遺伝や先天的な資質によって元来【魄睡】と呼ばれていた器官に様々な要因が作用する事で突然変異を起こし、魔力生成に特化した器官に変貌したものこそが、【リンカーコア】と呼ばれるようになるという事を。この事から純粋な霊力こそ持たない魔導師や騎士もまた、魔力を代替に霊的な存在である魂魄や死神、(ホロウ)を視認できるようになるのだ。

 以上の事から霊力と魔力は使用用途や能力の差こそあれど、本質的な源を辿るとすべては魂魄という人間本来が持つものに起因した共通の力なのである。

「管理局は死神の存在を認知していない。死神も管理局と言う組織の実態と魔導師の力量を正確には理解していない。異なる二つの組織同士がぶつかりあって戦争になる事だけは避けたい。その為の幻魔の扉なんです!」

言うと、ユーノは人差し指を突き立て再度幻魔の扉について力説。

「こいつは管理局のサーチャーにも引っかかることはない超がつくほどイカすアイテムでしてね、事実僕もこれを使っていろいろ情報収集しています」

「・・・・・・・・・・・・・・・つまりこれを使えば僕たちは安心して・・・」

「そう! 変に何も考えず扉の向こうをくぐれば、無事にミッドチルダへ転移完了! めでたしめでたしというわけです♪」察しがついた吉良からの問いかけにユーノは明朗快活に答える。

「よ―――し! わかった!」

 話を聞いた途端、一人意気込んだ恋次が浅はかにも前に出そうとする。

「んじゃさっそく乗り込む・・・「人の話は最後まで聞きましょうね♪」

 ドンっ!

「ゼヘッ!!!」

 ニコニコしながら、ユーノは持っていた杖で恋次の腹部を突く。腹を押えながら悶絶(もんぜつ)する恋次に一護達は哀れみの視線を向ける。

「ここからが大事なところ。すべては『到着後』なんです。恋次さん達にも前もって周知していたと思いますが、あなた方は機動六課という組織と必ず合流して下さい。これは要望ではありません。命令だと思って下さい」

「ててて・・・なんでそこまでしてその機動なんたらとやらにこだわるんだぁ? つーかお前とどういう関係があるんだ?」

「今はまだ話せませんが、いろいろと事情があるんですよ。とにかく、彼らと上手く接触が出来ればあなた方の今後の活動はうんとし易くなる。安心して下さい。彼らは他の機動部隊と違ってかなり居心地はいいですから。あなた方に対して害意を向ける事はほぼありません」

「んなこと言われてもよぉ・・・・・・」釈然としない恋次が声を漏らす。

「今さらビビッちまったかぁ? 前だけ見て進めばいいだけだろうが!」

 そのとき、話を聞いていたスクライア商店従業員―――桃谷鬼太郎と亀井浦太郎の二人が共に近付いてきた。

 鬼太郎は自身の斬魄刀を紐で吊るし肩から下げ、浦太郎は新調した眼鏡の位置を微調整しながら自分らを見つめる恋次達に言い聞かせる。

「案内役とサポートは僕らがつとめます」

「てめえらは俺らに黙ってついて来ればいいんだよ。先に言っとくが、前に進もうとする意志の有る奴だけ来い」

「迷わず、恐れず、立ち止まらず、振り返らず。残していく人達の思いを()せず、ただ前に進むだけ。それがあなた方には出来ますか?」

 おもむろに問い掛ける浦太郎。

 聞いた直後、恋次は鼻で笑った。やがて前に出て自信に満ちた表情で答える。

「・・・何寝ボケたことヌカしやがるんだ。ここに集まった時点で俺たちの心は決まってんだよ!」

「分かっていますか恋次さん。負けちゃったら二度と尸魂界(むこう)にも帰れなくなりますよ」

「隊長格の実力舐めるなよ。俺が魔導師や(ホロウ)如きに後れを取る確率はゼロだ!」

 覚悟の籠もった一言を聞く事が出来た。一護とユーノは安堵し、ガイドを務める予定の浦太郎も口角を緩めほくそ笑む。

 

 いよいよ、そのときがやってきた。

 ガチャ・・・ガガガガ・・・。閉ざされた扉が重い金属を立ててゆっくりと開かれていく。扉の前に立った恋次、吉良、浦太郎、鬼太郎は固唾を飲んで、中に広がっている亜空間を凝視する。

「用意は良いですか? 中に道らしい道は在りません。暗がりに向かって進めばミッドチルダに着く筈です」

「―――ああ」

「―――はい」

「浦太郎と鬼太郎も気を付けるんだよ。何かあったら直ぐに僕か金太郎に連絡を入れること。あと、()()()()()()()()()()()

「「はい(押忍)ッ!」」

 バタンっ―――。軋み立てる幻魔の扉が今、完全に開かれた。

 阿散井恋次、吉良イヅル、亀井浦太郎、桃谷鬼太郎はそれぞれの胸に秘めた覚悟を再確認し、

「行くぜ」

「「「ああ(おお)(はい)」」」

 恋次が発した言葉を合図に、四人は一斉に地を蹴り扉の中へと入って行った。四人が入ったと同時に、幻魔の扉は再びその扉を固く閉ざした。

(――――――任せましたよ――――――・・・・・・恋次さん・・・吉良さん・・・浦太郎に鬼太郎も・・・なのはやみんなにもしものことがあったら、僕の代わりに守ってほしい・・・)

 物憂き気味な様子のユーノはミッドチルダへ向かった恋次達に思いを馳せ、同時に秘かな自らの願いをも託す。

(ユーノ・・・・・・お前も本当は・・・・・・)

 痛いほどにユーノの心中を察し理解していた一護。織姫とコンの二人も一護同様に、どこか自分に対し一歩引き気味で、尚且つ煮え切らない思いをずっと燻らせているユーノを見るが辛かった。

 複雑な心境で自分を見つめる彼らに無理に作った笑みを見せ、「―――さて」と呟き帽子をかぶり直す。

「僕は僕のやるべき事をしないとな」

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:久保帯人 『BLEACH 8・17・19・27巻』 (集英社・2003、2005、2007)

原作:久保帯人 著者:成田良悟『BLEACH Spirits Are Forever With You I・Ⅱ』(集英社・2012)

 

用語解説

※白打=死神の素手による体術

 

 

 

 

 

 

教えて、ユーノ先生!

 

ユ「今日は魂魄と霊力の関係について教えるよ♪」

「『魂魄』、もとい魂は人間を始めとする生物に等しく存在する誰もが知ってる事だ。そしてその魂魄が持つ“霊なるものに働きかける力”―――それが『霊力』と呼ばれる」

「霊力は高いほど霊体の動きが俊敏になり、実の肉体を遥かに上回る運動能力を発揮できる。また、霊力は魂魄が消滅の危機に瀕した時に最も上昇しやすい傾向がある事が分かってる」

一「にしても、まさか霊力と魔力が同じ魂魄の力の一部だったとは驚きだぜ。よく気付いたよなお前」

ユ「前々からこの二つの力には何か因果関係があるじゃないかなーとは思ってたんですよ。で、本格的に調べて見たら案の定って訳です♪」

白「やれやれ。厄介なことになったものだ。こうも私の姿が視える人間が多いとおちおち仕事も出来ぬぞ」

 と、何の気なく言った白鳥だが、そんな白鳥をユーノと一護はどこか疑心に満ちた瞳で見つめていた。

白「な・・・なんだ主ら。その瞳は? 言いたい事があるならハッキリと申せ!」

一「じゃあハッキリ言うけどよ・・・・・・お前って何か死神らしい仕事してたかなーって思ってよ」

ユ「いっつも僕の店に寄って買い物しているか、翠屋で士郎さんが淹れたコーヒー飲んで寛いでる姿しか思いつかないんですが・・・」

白「私だってちゃんと仕事はしている!! 嘘ではないぞ!! 私はれっきとした死神の仕事をしているのだ―――!!!」

 語気強く言い張るものの、最後の最後まで白鳥が二人からの信用を勝ち得る事はなかったのである。

 

 

 

魔導師図鑑ハイパー!

 

 恋次達を見送った後、ユーノはふとした懸念を抱く。

ユ「さて、無事ミッドに着いてくれれば幸いだけど・・・・・・浦太郎達がヘマをしないか心配なんだよなぁー」

一「そういや、浦太郎って昔はお前と同じで管理局に務めてたんだっけか?」

織「かなり上の立場の人だったって聞いてますけど・・・」

ユ「えぇ、一応は。ちなみにここにいる金太郎も、元・管理局の重役でした」

コ「じゃあ、あの赤髪は?」

 コンが鬼太郎の身元について尋ねると、ユーノは扇子を広げ飄々とした態度で答える。

ユ「あれはただの“頭の悪いやんちゃ坊主”ですよ♪ ハハハハハハ!!!」

 聞いた後で、一護達は苦笑いを浮かべずにはいられなかった。

一「それ・・・あとで鬼太郎が聞いたら泣くぜ・・・」

織「でも本当のことだし・・・・・・」

コ「ヤロウもたぶん自覚してるんだよな、きっと・・・」




次回予告

恋「幻魔の扉とやらに飛び込んだ俺たち」
吉「辿り着いた異世界・・・・・・そこには僕たちが今まで見た事の無いビルや建物が立ち並んでいた!」
浦「そしていよいよ、本格的にスカリエッティが不穏な動きを見せ始める。ミッドチルダを震撼させる災いとは!?」
鬼「次回、ユーノ・スクライア外伝・・・『魔導虚(ホロウロギア)来襲!』。お楽しみに! ていうか店長・・・いくらホントの事でもさっきのは無いっしょー!!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。