ユーノ・スクライア外伝   作:重要大事

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第6話「魔導虚(ホロウロギア)来襲!」

新暦079年 4月8日

第1管理世界「ミッドチルダ」

ミッド住宅街 高町家

 

 午前7時30分。

 高級住宅を思わせる閑静な一軒家に住まう一人の少女が居た。

 金髪に聖王家の特徴である右目が緑、左目が赤の虹彩異色(オッドアイ)を持つ少女は、ハート形の目覚ましを止めると、閉ざされたカーテンをバッと開ける。自室に燦々(さんさん)と照らす春の太陽を取り入れ、その光を浴びながら大きく伸びをする。

「うん! 今日もいい天気!」

 ―――わたし、高町ヴィヴィオは10歳。ミッドチルダ在住で、St(ザンクト).ヒルデ魔法学院初等科に通っています。今年の春から4年生です。

 手早く学校指定の制服へと着替え、両サイドの髪を青いリボンで結ぶと入念に鏡の前でチェック。

「よしっと!」

 問題が無いことを確認すると、ヴィヴィオのもとへウサギのぬいぐるみを模したインテリジェントデバイス【セイクリッド・ハート】、通称クリスが近づく。

「クリス! リボン曲がってないよねー?」

 笑顔で問いかけると、無口なセイクリッド・ハートは右手をぴょんと上げて「問題ない」と強調。それを聞いたヴィヴィオも破顔一笑する。

「ヴィヴィオ~! あさごはんだよ~」

 一階から朝食を告げる優しい女性の声がした。それがヴィヴィオにとっての母親のものである事は直ぐに分かった。

「はぁ―――いっ! 今いきま―――すっ!」

 軽快な足取りで階段を下って行くヴィヴィオ。

 リビングに着くと、待っていたのはエプロン姿で朝食の準備を進めるポニーテールの女性、高町なのは。そのかたわらで浮遊する赤い宝石こと、なのはの愛機【レイジングハート】がいた。

「おはよー、ママー」

「おはようヴィヴィオ」

 ―――わたしのママ、高町なのはさん。

《Good morning Lady.(おはようございます ヴィヴィオ)》

 ―――そしてママのパートナー、レイジングハート。

「レイジングハートもおはよう。手伝おうか?」

「いいよ。座ってて」

 ―――うちのママは《公務員》さんです。

 四年前の都市型テロ『JS事件』を経てなのはと親子となったヴィヴィオは、平和な日常を享受しつつ幸せな生活を過ごしていた。

「いただきまーす!」

「はーい」

 バランスの偏りが無い様熟考された彩りや栄養価に優れたラインラップ。ヴィヴィオはおもむろに口へと含む。

「どう?」と、率直な評価を尋ねるなのはにヴィヴィオは。

「うん・・・おいしい!」

 娘の口から飛び出た「おいしい」の一言。それが何よりも嬉しかった。

「よかったー。どんどん食べていいからね♪」

 ―――ちょっと子供っぽいとこもありますが、料理が上手で明るいのはすてきなところ。親子二人仲良くやってる、と思います。

 

 登校時間となった。なのはは通勤の時間を娘に合わせて家の鍵を閉めると、通学かばんを背負うヴィヴィオのもとへ歩み寄る。

「ヴィヴィオ。今日は社会科見学に行くんだっけ?」

「うん、そだよー。遊覧船で埋め立て島にいくんだー」

「何もないと思うけど、気を付けて行ってきてね。ママも緊急招集とがなければ、なるべく早く帰れるようにするから」

「わかった」

 仕事柄ヴィヴィオにはなるべく寂しい思いをさせたくない。できるだけ一緒に居られる時間を作りたい。そんななのはの気持ちをヴィヴィオも十分に理解していた。

「さて、それじゃ」

「うん」

 別れ道のタイミング。二人は顔を見合わせ、ポン! と笑顔でハイタッチを交わす。

「「いってきまーす!」」

 それが二人の毎朝のルーティンであった。

 

           *

 

 ―――アレ? なんだこれ、空が真っ白だ・・・。

 ―――アレ? 真っ白なのは俺じゃないか・・・。

 ―――アレ? こんなのどっかの漫画で見た事が・・・。

 

 

 

 微睡(まどろみ)の時が終わり、閉ざされていた瞳がゆっくりと開く。

 暗かった視界が徐々に開けて来た。そのとき、恋次の眼に映ったのは―――鬼太郎のものと思しき肛門部分だった。

「・・・・・あ?」

 なんでこんなものが寝起きにある? そう思った矢先。

 ブッ! と、目覚めたばかりの恋次目掛け鬼太郎は躊躇い無く放屁をかました。

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」

 鼻腔を通じて入り込む強烈な異臭に忽ち絶叫。覚醒し切っていない全身の神経を瞬時に覚醒させるばかりか、過剰防衛反応を引き起こした凄まじい放屁。条件反射で悶え嘔吐する恋次を見ながら鬼太郎が声をかける。

「よう! やっと目覚めたか。どうだ気分は?」

「てめえ・・・人の寝起きになにとんでもねーことしてやがる!?」

「ジャスミンの香りとともにすっきりとした朝を迎えられたんだ。最高の目覚めだろうが」

「今までの人生の中で最悪の目覚めだったよ!! 何がジャスミンの香りだ!! 発酵し過ぎたぬか漬けみたいな臭いが鼻についてとれねえよ!!」

 的確かつ生々しい譬えだと思い、傍で見ていた吉良は苦笑しつつも発狂寸前の恋次を宥めようと近付いた。

「それくらいにするんだ阿散井くん。それより周りをよく見ろ。どうやら目的地に着いたみたいだよ」

 その言葉を聞き、恋次は吉良が指差す方へと目を転じる。

 眼前に広がってきたのは―――・・・これまで恋次や吉良が見た事も無いような天まで届く摩天楼が列挙する街並み。空には衛星である月が二つ浮かび、明らかにそこは自分達が知っている現世、もとい地球とは異なる世界だった。

「こ・・・ここがミッドチルダか・・・?」想像を遥かに上回る光景に終始唖然とする恋次。

「ええ。そうですよ」

 彼や全員を一瞥し、ミッド在住経験のある浦太郎がこの世界の情勢について簡潔に説明する。

「ここはミッドチルダの政治と経済の中心地である首都『クラナガン』からおよそ北東に20キロほど離れた場所に位置する高台で、ミッド全域でも割と田舎と呼ばれる場所です。中心部に近ければ近いほど、人口も軽く億単位に達します」

「へえ・・・こんなに文明が栄えているのに田舎に当たるだなんて・・・」意外そうな声で吉良が呟いた直後。

「なぁおい。あのデカいのはなんだ・・・」

 恋次が一際巨大な建造物に目が行き彼方に見える物を指差した。

 雲を突き抜けんとする巨大なスカイスクレーパー。首都から数十キロ離れた場所からでも窺えるところから相当に高い建物である事は容易に想像がつく。

「アレは時空管理局地上本部。僕が以前勤めていた職場ですよ」

「職場って・・・お前ってひょっとして管理局の一員だったのか?」少し驚いた顔を浮かべながら恋次が問い質す。

「亀は四年前までそれなりに名の知れた陸戦魔導師だったんぜ」

「ま。とっくの昔に辞めちゃったけどね♪」

「そうなんだ・・・」

 何故だかは分からなかった。だが少なくとも吉良だけは、浦太郎の作り笑顔の裏に何か()()()()()()()()()()が燻っているのではないか―――そう感じてならなかった。

 

 ピピピッ! ピピピッ!

「なんだ・・・?」

 唐突に恋次の伝令神機がけたたましく音を立てる。画面には「非通知」とだけ表示されており、どこか気味が悪かった。

 まさかな・・・・・・。こんな異世界で、しかも死神の携帯端末に発信できる者など居る筈がない。そう思いながら恐る恐る受話器ボタンを押し耳元へ近づける。

『どぉ~~~もォ!! イヤ――――――恋次さん、ご機嫌いかがですか♪』

「ゆ、ユーノかぁ!?」

 非通知の相手はまさかのユーノ・スクライアだった。

「おまえ・・・なんで俺の伝令神機の番号知ってんだよ・・・つーかどうやって地球からここまで掛けてんだよ!?」

『フフフ・・・あなたが見極めテスト後に気を失ったのを見計らいまして、こっそり拝借させてもらいましたよ。ついでに異世界間通信機能も搭載させてもらいました♪』

「お、お前なぁ!! 人の仕事道具になに勝手なことしてんだよ!!」

『まぁ細かいことは良いじゃないですか。それよりどうですか? 初めて見る異世界は?』

「え・・・まぁそうだな、正直何から何まで想像以上だった。とてもじゃないが、こんな場所に魔導虚(ホロウロギア)が出るだなんて思いたくもないがな」

「ユーノさん。僕たちに連絡をしてきたのは、単なる伝令神機の発信テストの為じゃないんですよね?」

 スピーカーフォンにした恋次の伝令神機を通して吉良がユーノの意図を勘ぐりながら質問をする。

『さすがは吉良さん! 恋次さんと違って実に聡明でいらっしゃる』

「俺と違っては余計だろうが!」

『いかにも―――僕がわざわざ連絡を寄こしたのは一重にあなた方のこれからの行動について指示を出すためです』

「指示?」

 言っている意味が分かりかねる恋次。ユーノは電話越しに説明をする。

『知らない場所に来た時に一番怖いのは闇雲に動き回ってしまい迷子になる事です。限られた時間の中で当てずっぽうで動き回ったところで時間の無駄。徒労になってしまいます。まずはどう動くべきかと狙いをピンポイントに定めさせてもらいました。只今、全員の端末に共通データを送信しましたので見てもらえますか?』

 ユーノから送られてきたデータを四人は一斉に確認。画面にはミッドチルダ全域の地図と、赤い斑点模様で点滅表示された機動六課隊舎の場所が記されていた。

『その赤い斑点が記されている場所―――そこが今回あなた方が最優先で目指すべき場所。すなわち、機動六課隊舎です。ここに行けば、《八神はやて》というちびダヌキか《クロノ・ハラオウン》なる腹黒い中年オヤジが居ますから、彼女か彼に会って事の成り行きを正直に話して下さい』

「いや話せって言われてもよ・・・それで簡単に信用してもらえるわけねえだろ?!」

『大丈夫です。クロノは確かに疑い深い奴ですが・・・・・・どちらにせよ彼らはあなた方と()()()()()()()()()()()()し、むしろ手を組んだ方がメリットがあると理解する。いいですか、向こうからの尋問を受けた際、口が滑ってでも《ユーノ・スクライアから教えられて来た》だなんて言わないで下さいね。というか僕の名前自体言わないで下さい。じゃないと、僕本気で怒りますからね♪』

「・・・もし言ったらどうなるんだ?」

 敢えて聞き返した恋次。直後、伝令神機からユーノの声が聞こえなくなった。これが何を意味するか察しがつかない訳ではなかった。

「わかった、わかったよ! 言わなきゃいいんだろ・・・・・・」

『よろしい♪ じゃあ、何かあったら直ぐに連絡して下さいね。こちらもその都度メールで指示を出すかもしれません。あと、改造ついでに魔導虚(ホロウロギア)反応を感知する機能も組み込んでおきました。あとでチェックして下さいね』

「だ・か・ら! 人の仕事道具を無断でイジってんじゃねえって・・・!」

『ではでは、ご健闘をお祈りしていま―――す!』

 ブツッ・・・。ツー・・・。ツー・・・。

「っておい! もしもし!! もしもぉ―――し!! ったく・・・あの野郎は・・・」

 言いたいことだけ言ってさっさと切りやがって・・・と、心中ユーノへの不満を募らせる。

「阿散井くん・・・これからの事だが」

「あぁそうだな。とりあえず、機動六課とやらに行ってみるっきゃねーか。アイツの指示に従うのはどうにも(しゃく)なんだが、俺らがこの世界について何も知らないのは確かだ。こうなったらあの優男にとことん利用されてやろうじゃねえか!」

「だったらまずは車は調達しないとな。地図だと機動六課までは車で2時間はかかる場所にあるぜ」

 未知なる世界へと降り立った死神は、大都会の眺望を望みながら―――これから先の事について思案する。

 

           *

 

 新暦079年―――。

 次元の海の第1世界「ミッドチルダ」。近代魔導技術が花開くこの世界には物が溢れ、人が溢れ、都会はオアシスを失っている。

 この偽りの平和を営む日常の裏側で、人々の想像を絶する未知なる難敵が今、活動を開始した事に誰一人気付いていなかった・・・・・・。

 

           ≡

 

午前10時02分―――

ミッドチルダ南東区 ゴミ埋立地「ドリームランド」

 

 遊覧船に乗ってヴィヴィオ達が訪れたのは、ミッドの最終処分場として知られる埋め立てされた人工島、ドリームランド。早い話が「夢の島」である。今日はここで4学年共同の社会科見学が行われていた。

「えー・・・リサイクルを何度繰り返しても追いつかないほど、世界中がゴミで溢れています・・・」

 ペリカンや海カモメが飛び交い、異臭漂う島に住みつくハエに集られながら、修道服に身を包んだ担任教師ノア・ギミエットが険しい顔で説明を続ける。

「このゴミの島に集められた・・・粗大ゴミを観察して・・・!! 限りある資源を今後どうやって使っていくか・・・よく考えたあとで・・・わあああ!!! かかか、感想文を提出してもらいます!!!」

 少し大げさすぎる気もすると思いつつ話を聞くヴィヴィオ。ハエを異様に嫌がるノアを見ながらほくそ笑む。

「そ、それじゃあケガの無いように各自解散!!!」

 彼女の言葉を合図に生徒達は各班ごとにゴミの島を散策する。

 ミッドチルダ政府がまとめた統計によれば、クラナガンだけでも1年間に出るごみの量は、およそ4432万トン。25メートルプール約42万杯分にもなると言う。それを象徴するかの如く島には溢れんばかりのゴミがまざまざと広がっていた。

「075年型の魔導掃除機をもう捨てる奴がいるとはね・・・」

「もったいなーい。」

「すげえ! この記録ディスクレコーダー、まだ使えるぜ!!」

「んもクサい!! もう帰りたい!!!」

「壊れてもいないのに捨てるなんて、始めから買わなければいいのにね・・・」

 率直な事を感じながらゴミの島を観察していた折、ヴィヴィオは不意に周囲から奇妙な気配を感じとる。おもむろに振り返った先を見れば―――ゴミの山で形作られた入口らしき物があった。

(なんだろう? ・・・すごくイヤな予感がする・・・)

 本能的な畏怖からくる発汗。ヴィヴィオは皆に気付かれぬ様こっそりと、引かれるがまま入口の方へと歩いて行った。

 暗がりを真っ直ぐに一歩ずつ突き進む。きょろきょろと辺りを見渡していたとき、目の前に古くなったテレビのモニターらしき物がびっしりと敷き詰められていた。

 恐る恐る画面に手を添えてみた次の瞬間―――突然画面が一斉に光り始め、砂嵐が映し出されたと思えば、みすぼらしい姿の男性やら白い仮面の怪物やらが交互に高速で映し出される。

「うわああああああ!!」

 何だか怖くなったヴィヴィオは、一目散に外へ飛び出す。

 外に出ると、入口の前では彼女が居ない事を心配していたクラスメイトのリオ・ウェズリー、コロナ・ティミル、バウラ・ウシヤマ、ミツオ・スドウの四人が待っていた。

「ヴィヴィオ!」

「どうしたの大声だして?」

「よくわかんないけど、なんだか大変なの!」

「大変って・・・なにが?」

 と、コロナが問いかけた直後。

 ゴゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴ、と島全体が音を立てながら大きく揺れ動く。

 次の瞬間―――ゴミの中から突如として姿を現わす全長60メートルには達する馬の様な白い仮面を付け、胸に孔の空いた巨大な怪物。その巨大さと異様さ目の当たりにしたヴィヴィオは堪らず声を上げて絶叫する。

「うっ・・・うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

           *

 

 ブーッ! ブーッ! ブーッ!

 

 非常事態を告げる警報が鳴り響く。

 機動六課隊舎ロビーでコーヒーを飲みながら新聞を読んで寛ぐ男性、クロノ・ハラオウン(29)のもとに、眼鏡を掛けた女性―――機動六課管制官シャリオ・フィニーノ(21)が通信越しに切羽詰った声で呼び掛ける。

『クロノ提督大変です!!! ドリームランドで大規模な魔力エネルギー感知です!!!』

「何っ!?」

 飲みかけのコーヒーを口から零すほどに驚く。クロノは直ちに額から一筋の汗を浮かべシャリオに指示を出す。

「“緊急招集(エマージェンシーコール)”発令だ!!」

 

 ブーッ、ブーッ、ブーッ。

「っ!!」

「八神どうした?」

「あ、いえ。なんでもありませんよ」

 現在、陸士108部隊の指揮官ゲンヤ・ナカジマ三佐と会談の途中だった機動六課部隊長・八神はやては怪訝に思いながら、ロングアーチから発信されたメッセージを確認。タッチパネルを開くと、赤いミッド文字で《EMERGENCY》と表示されていた。

(な・・・なんやて!?)

 これが通達された以上彼女がここに長居する事は出来ない。緊急招集とはそれほどまでに重大な意味を成す言葉だった。

 急いで隊舎に戻る為、はやては罰の悪い顔で目の前のゲンヤに首を垂れる。

「ナカジマ三佐、すみませんが急用ができましたので・・・今日のところはこれで失礼させてもらいます!」

「急用? ・・・まぁいいや。お前さんも無理しすぎるなよ」

「おおきに師匠。ほんならギンガ、近いうちにまた」

「はい。八神司令もお気をつけて」

 ゲンヤの許諾を得たはやては、ゲンヤの補佐官であり彼の娘ギンガ・ナカジマ陸曹(21)にも会釈。トレンチコートを肩にかけ部屋を飛び出した。

「はやてちゃん。急いで乗ってください!」

「ごめんなリイン、わざわざ迎えに来てもろうて」

 隊舎を出たはやてを待っていた一台の車。それを運転する銀色の髪の少女―――リインフォース(ツヴァイ)は、駆け足で車へ駆け込んだ彼女を気に掛ける。

「ほんならいこか。みんなを待たせたらあかんしな」

「はいですっ!」

 ハンドルを握り締め、仕えるべき主とともにリインが運転する車は機動六課隊舎へと直行する。

 

           *

 

 『JS事件』の首魁、ジェイル・スカリエッティは軌道拘置からの脱獄を果たすと、管理局の決死の追跡をも躱し、消息を絶った。

 事態を重く見た本局は、予てより危険度の高かった古代物質(ロストロギア)《アンゴルモア》の回収を表向きの理由に、聖王教会と三提督からの後ろ盾を得るとともにかつての機動部隊を再編・復活させる事で事態収拾とこれから起こり得る未曾有の大事件に対処しようとした。

 その名も、【時空管理局本局 特定遺失物管理及び特殊脅威対策班】―――通称【機動六課(きどうろくか)】である。

 

           ≡

 

ミッドチルダ中央南駐屯地内A73区画

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 総合司令室

 

 既に主要な前線メンバーが一堂に会していた。

 集まっているのは、フォワードの核となる若い魔導師が四名。【シルバーのエース】の異名を持つスバル・ナカジマ防災士長(19)、ティアナ・ランスター執務官(20)、エリオ・モンディアル二等陸士(14)、キャロ・ル・ルシエ二等陸士(14)と飛竜フリードリフ―――いずれも元・機動六課メンバーである。

 それ以外にも彼らを指揮する隊長陣―――高町なのは一等空尉、フェイト・T・ハラオウン執務官、シグナム一等空尉、ヴィータ二等空尉、機動六課監査役のクロノ・ハラオウンが控えている。

「お待たせなっ!!」

「遅れて申しわけありませんですっ!」

 招集がかかってからおよそ20分遅れて、部隊全体の指揮を司る女性―――八神はやてと補佐官リインが隊舎へと帰投。急いで持ち場へと付く。

「ずいぶんと遅かったな」

「いやー、ちょうどナカジマ三佐と会談中でな。おまけに軽い渋滞にも引っ掛かってしもうたわ」

 申し訳ない程度に言い訳を並べるはやて。クロノは嘆息を吐くと、「まぁいい・・・次からは気を付けろよ」と軽く苦言を呈し、今回の件を不問とする。

「ほいで、どやい感じなんや・・・現場の様子は?」

『ヴァイス陸曹長から送られてきた映像があります。メインスクリーンに映します』

 管制官ルキノ・ロウランが現場の映像を司令室のモニター画面に表示される。

 全員が注目すると、映し出されたのは異形の巨大生物。嘗て見た事の無い怪物の姿を目の当たりにした瞬間―――全員は我が目を疑った。

「何やの、あれは!?」

「恐らく・・・七日前にフェイト達が地球で戦った怪物と同類だろう」

 状況を呑み込めないはやての代わりに、クロノが冷静沈着に推測を述べるが、それでも額には脂汗が浮かんでいた。

『こちらヴァイス! 空中から視察したところ、怪物は電気製品のクズで体を作ってる模様!!』

 現場偵察のヘリパイロット、ヴァイス・グランセニック陸曹長からの現場管制によって巨大生物の全貌が少しずつ明かされていく。

 そんな中、現場に居合わせたヴィヴィオ達は―――。

「みんな! 早く乗るのよ!!」

 直ちに避難しようと遊覧船に生徒を誘導するノア。

 しかし直後、轟音と衝撃によってノアを始め多くの生徒が船から投げ出された。

「ノア先生っ―――!!!」

 運悪く船に取り残されたヴィヴィオ達は投げ出されたノア達へ必死に手を伸ばすが、その行為も虚しく遊覧船は怪物の体の一部として吸着された。

 

『サーチャーからの映像を見た限りでは、どうやら船ごと取り込まれてるようです』

「子供が五人か・・・」

「なんてことだよ」

 最悪の状況に苦悶の表情を浮かべるシグナムとヴィータ。

「ちょっと待って! あれってまさか・・・・・・!?」

 画像を拡大してより詳しく分析を掛けようとした矢先、なのはの目が見開きハッとした表情を浮かべる。

 目を凝らしてもう一度確かめる。分析に掛けるまでも無く、船に取り残されていたのが愛娘のヴィヴィオとその友人達である事が分かった。

「ヴィヴィオだ!! 間違いないよ!!」

「そんな・・・ヴィヴィオ達が怪物に捕まったなんて!?」

 ただでさえ最悪の状況に悪い要素が追加された。

 するとここで、逸早く現場へと降り立ったヴァイスが司令室へと呼びかける。

『こちら、ヴァイス! 他の生存者は全員救助しましたが・・・・・・おっ!?』

 報告の途中、中空から聞こえてきた風を切る物音に即座に反応するヴァイス。見上げれば、ヴァイスの頭上を空戦魔導師の団体が滑空しているのが見えた。

「いっけねー! 哨戒任務(スクランブル)中の航空武装隊だ!」

 

「撃ち方用意!! 撃てーっ!!」

 ヴィヴィオ達が取り残されている事など露知らず、首都防衛の要たる地上本部航空武装隊は白き馬の仮面の魔導虚(ホロウロギア)・バリオスFへと一斉砲撃を仕掛ける。しかし彼らの火力では傷を負わせるどころか、強固なバリアシステムによってすべて弾かれ、ダメージを与える事すら不可能。

 業を煮やしたバリオスFは、右腕の砲門を広げると高熱のエネルギーを集積させた砲撃を射線上に立つ魔導師部隊目掛けて発射―――これを一瞬で蒸発させた。

 中空で爆雲が立ち込める。あまりにショックな光景にヴィヴィオ達は絶句し、愕然とする。

 リアルタイムで映像を目の当たりにしていたシャリオは驚愕しつつも直ちに能力を分析。神がかったタイピング操作で技の分析に成功する。

『魔導電子レンジを集積させた家電粒子砲です!』

「あんな奴がこのまま上陸したら・・・首都は壊滅する!!」

 圧倒的な破壊力を見せつけられたクロノは勿論、誰もが容易に最悪の顛末を想像しゴクリと息を呑む。

『どうするんですか八神司令、クロノ提督!! 子供がいたんじゃ防衛隊も攻撃できないじゃないですか!?』

 切羽詰ったヴァイスの声が司令室へと反響する。

「たとえ攻撃しても、魔導師隊の火力では奴のバリアシステムは破壊できんさ」シグナムが沈着な態度で言及。

「バリアシステムをすり抜け、なおかつヴィヴィオ達を救出できる・・・・・・そないな事が出来る魔導師なんか――――――」

 

「私に行かせてください!!」

 直後、司令室に木霊する一人の女性の声。

 名乗りを上げたのはヴィヴィオの母にして、機動六課の戦術の切り札(エース・オブ・エース)でもある空戦魔導師・高町なのはだった。

「私が必ずヴィヴィオ達を助けます!! お願いします!!」

「なのはさん・・・」愛弟子のスバルが懸念に満ちた表情で彼女を見つめる。

「しかし、いくら君でも今回ばかりは危険すぎる。相手は我々にとって未知なる敵だという事はわかってる筈だ」

 日頃から無茶をしがちななのはを制止させようと苦言を呈するクロノ。だが、それで彼女が潔く引き下がる器ではない事も熟知していた。

「関係ないよ・・・相手が誰だろうと関係ない。私はただ、自分の子ども一人救えない母親になんかなりたくない。それだけだよ」

 案の定彼女は引き下がる気など皆無。自分の子供を救いたいという私情を孕みながら、眼はどこまで真っ直ぐだった。彼女に微塵の恐怖も無ければ、敗北と言う二文字さえ無かった。

「お願いします!! 八神司令、出動許可を下さい!!」

 何としてもヴィヴィオを救いたいという気持ちを前面に押し出し頭を深く下げ続ける。その熱意を感じ取ったはやては、沈黙の末に重い口を開く。

「―――ええやろう。部隊長命令により、高町一尉の出動を許可します」

「っ! あ・・・・・・ありがとうございます!!」

「せやけど一人で行かせるつもりはない。テスタロッサ執務官、ヴィータ二尉も同行してくれるか?」

「「了解!」」

 もしもの時のブレーキとして、はやてはフェイトとヴィータの二人を同行させる事にし、二人もそれを快く受け入れ敬礼。

「目的は飽く迄人質の救出。敵との直接的な戦闘はなるべく回避するんだぞ」

 

           *

 

午後10時54分―――

ミッドチルダ南東区 ゴミ埋立地「ドリームランド」 海上10キロ

 

 空の上から眼下に広がる光景を見下げる四人の人影。

 額から黒いバイザーを掛けていた恋次は、バイザー越しにバリオスFの情報を解析。紛れも無く魔導虚(ホロウロギア)である事を確かめると、ふぅーと溜息を漏らした。

「・・・ったく。到着して早々魔導虚(ホロウロギア)に出くわしちまうとは・・・俺らってツイてるのか? それともツイてないのか?」

「・・・どっちだっていいけど・・・あれは“巨大虚(ヒュージ・ホロウ)”を素体とした魔導虚(ホロウロギア)だね」

「あの遊覧船には逃げ遅れた子供が数人取り残されています。僕の見たところ全員魔導師の子どもですね」

「つーことは俺らの姿はまる視えって事か」

「子供を救出。かつバケモノ退治と来たか。いいぜ・・・・・・燃えて来るぜ。これぞ少年漫画の王道だぜ!!」

 阿散井恋次を筆頭に集まった男達―――吉良イヅル、亀井浦太郎、桃谷鬼太郎の四名は空の上から標的・バリオスFを見据える。

「いくぜ吉良。阿散井三番隊、ミッドチルダでの初陣を飾るぞ!」

「ああ。」

 一言呟いた後、吉良は両手を合わせ詠唱を唱える。

鉄砂(てっさ)の壁 僧形(そうぎょう)の塔 灼鉄熒熒(しゃくてつけいけい) 湛然(たんぜん)として(つい)に音無し! 縛道の七十五、『五柱鉄貫(ごちゅうてっかん)』!」

 詠唱の終了と共に、バリオスFの真上に光り輝く紋章が浮かび上がる。そこから地面に向けて五本の光柱(こうちゅう)が延び、バリオスFの身体を突き刺すような形で全身の動きを封じ込めた。

 

「今の何の音!? それにこの傾きは!?」

 突然の衝撃と傾き。船内に取り残されたヴィヴィオ達も驚愕する。

 と、そのとき―――ヴィヴィオ達の生命エネルギーを感知した触手が、少しずつだが確実に延びて来た。

「ああああ、あっちいけー!!」

「ママァ―――!!!」

(なのはママ・・・フェイトママ・・・!!)

 絶体絶命。万事休す―――身を寄せ合い子ども達が死を覚悟した、次の瞬間。

 ドガンっ! 壁を突き破って侵入してきた巨大な刀身がヴィヴィオ達へと迫る触手を根こそぎ破壊。

 中へと入って来たのは蛇尾丸を掲げた恋次と吉良、浦太郎と鬼太郎から成るスクライア商店派遣メンバーだった。

「よう! 助けに来たぜガキども!」

「えっと・・・管理局の人・・・じゃない?」

「なんだっていいさ!! すげーやおじさん、カッコいいぜ!!」

「おいおいオジさんはないだろう! 第一俺はオジさんなんて年じゃねえ!」と、バウラの言った一言に恋次は釘を刺す。

「さぁみんな、ここから脱出するよ!」

「はい!」

「たた、助かったぁー!」

 子供を連れいざ脱出しようとした矢先。

 ドドドドド・・・。ドドドドド・・・。激しい物音を立てながら、五柱鉄貫で縛られている筈のバリオスFが動き始めた。

「何だ!?」

 事態の変化に戸惑う恋次達だったが、直後―――。

「「「「どはああああああああああああああ!!!!!」」」」

 ドカンという物音を立てて、船の奥から現れた巨大な(かんぬき)状の物体が恋次と吉良、浦太郎、鬼太郎の体を直撃。その勢いで全員船の外へと投げ出されてしまった。

「「「「「オジさんたち―――ッ!!!」」」」」

 否応なく海へと放り出された四人。水面下から顔を覗かせると、ある驚くべき光景を目の当たりにした。

「な・・・何ッ!?」

 陸橋へと差し掛かった途端、バリオスFは柔軟に体を変形させ列車形態となった。

「変形したのかよ!?」

 ヘリの真上からバリオスFを窺っていたヴァイスも冷汗を流す。

 ヴィヴィオ達が乗った遊覧船を体の一部へと組み込み、バリオスFはレールウェーを通じてハイウェーを爆走。都心クラナガンを目指す。

「「「「「うわああああああああああああああ!!!!!」」」」」

 列車形態に変化したバリオスFはヴィヴィオ達を乗せたまま猛スピードで加速を続け、周囲の駅を利用する者を問答無用で吹き飛ばし、なおもスピードを上げて都心を目指す。

『怪物は地下鉄構内に侵入、都心に向っています!!』

『セントラルアベニューステーション到着まであと3分弱!!』

『半径10キロ圏内に、避難勧告発令!!』

 現場の状況を逐次報告するシャリオ、ルキノ、アルト・クラエッタを軸とする管制官。

「何故都心を目指すのだ!?」

 状況整理に奮闘する司令室。モニターを眺めるシグナムはまるで敵の行動意図が読めず疑問を浮かべるばかりだった。

 

 同じ頃―――。

 ヴィヴィオ救出へと向かったなのは、フェイト、ヴィータの三人が首都上空を高速で飛翔していた時だった。

 ドドドド・・・。地響きを上げるとともに多量の粉塵が舞い、地面を突き破って現れたのは例の巨大な魔導虚(ホロウロギア)だった。

「なのは! ヴィータ! あれを見て!」

「アイツは・・・!」

「あの中にヴィヴィオが!?」

 列車形態から元の姿へ戻った直後、バリオスFは眼前に(そび)えるある建物を見つめながら右に装備された魔導電子レンジ荷電粒子砲、左には魔導冷蔵庫冷凍ビーム砲をそれぞれ構える。

 バリオスFが標的としたのは、ミッド地上の正義の象徴にして首都防衛の砦たる管理局地上本部だった。

「あの馬ヤロウ、地上本部をブっ壊すつもりだ!!」

「そんなことさせない!!」

 地上本部の破壊を目論む怪物の狙いを理解したなのは達は、これを食い止めるべく一様に行動を起こす。

「見てヴィヴィオ、お母さんだよ!!」

「なのはさんにフェイトさんだ!!」

 コロナとリオが遊覧船の窓からでもはっきりと見える桜色と金色色、橙色の魔力光を指差しながら、それがヴィヴィオと自分達の希望の光である事を主張する。

「なのはママ・・・フェイトママ・・・がんばって」

 無力な自分を呪いながらも、ヴィヴィオは愛する母達の勝利を切に祈り両手を胸の前で握りしめる。

「いくぞ、アイゼン!」

〈Jawohl(了解)〉

 ヴォルケンリッター・鉄槌の騎士の異名を取る少女・ヴィータは【(くろがね)伯爵(はくしゃく)】とも呼ばれるアームドデバイス《グラーフアイゼン》を掲げると、その形態を著しく変化させる。

「ロード、カートリッジ!!」

〈Gigant Form〉

 生粋の古代(エンシェント)ベルカの力で敵を完膚無きまでに粉砕するのが彼女のモットー。それを端的に体現せんと、愛機に組み込まれたカートリッジを三発ロード。手持ちの鉄槌の形状を身の丈ほどもあるハンマーヘッドへと変化させる。

「つらあああああああああああ」

 ドカン!! 地上本部へ攻撃を繰り出そうとしたベリオスFの頭部を叩き割る一撃。

「「「「「うわあああああ」」」」」

 体勢を崩し横転しようとした瞬間、フェイトとなのはが素早く遊覧船の中から落ちそうになったヴィヴィオ達を悉く救出。安全なところへ退避させる。

「ヴィヴィオ、怪我してない!?」

「ママッー!」

 大好きな母親が助けに来てくれた。ヴィヴィオは嬉しさいっぱいになのはの胸の中へと飛び込んだ。

「ありがとう!!! 助けに来てくれて!!!」

「当然だよ。私はヴィヴィオのママだよ。ここは私たちに任せて、みんなはもっと安全な場所に―――「ぐああああああああ」

 避難誘導の指示していた直後、ヴィータがギガントフォルムのグラーフアイゼン片手に付近のビル壁へと投げ飛ばされる光景が目に入った。

「「ヴィータ(ちゃん)!!」」

 なのはもフェイトも挙って目を見開き驚愕する。

 満身創痍となったヴィータは険しい顔で、冷凍ビームを撃とうとしているバリオスFを見据える。

「させない!」

 彼女の危機を救おうと、フェイトは咄嗟に前に出て巨大な雷の刃で攻撃。冷凍ビームの軌道を曲げる事に成功。

「トライデントスマッシャー!」

 左手から片手で放たれる直射系砲撃魔法。放射面の魔法陣中央から一本、続いて同じく放射面の魔法陣の中央を基点に上下に一本ずつ、枝分かれするように三ツ又の矛状の三つに分かれた。着弾点で結合することで反応、雷撃を伴う大威力を発生させる。

 ドカーン!! これを受けてなお、相手は強固なバリアシステムによって守られており、装甲の破壊は叶わない。

『バリアシステム破壊率ゼロ。フェイトさん、全く効いていません!!』

「だったら! 今度は私の番!」

 シャリオからの指摘が胸に響く中、彼女の無念を引き継いだのはエース・オブ・エースの高町なのは。

「最大威力で撃ち抜く。いくよ、レイジングハート! ブラスター1ッッ!」

〈Blaster system, limit one release〉

 ベースとなるエクシードモードの状態で、使用者、デバイス、双方の限界を超えた強化を主体とした高町なのはの「最後の切り札」―――その名を《ブラスターモード》。自らの魔力に自己ブーストをかける事で限界まで出力を強化する。

 レイジングハートのフレームと同素材で構成された遠隔操作機・ブラスタービットが4基が操作主の周囲に同時展開される。愛機およびビット先端には彼女から供給される極めて高い出力と密度の濃い魔力エネルギーが収束されていた。

「エクセリオン・・・バスタァァァ―――!!!!!」

 極大の魔力砲撃が一直線上に発射された。

 射線上に立つバリオスFへと直撃した際、なのはの力押しによって強固なバリアシステムが少しずつ破壊されていく。

「砲撃着弾によるバリアシステム破壊率・・・20、25、35・・・50ッ!!」

「おっしゃ!!! ぶち抜いたぁぁぁ!!!!」

 熱狂的な野球ファンの如く過剰なリアクションをとって見せたはやて。

 苦労の末―――バリアは突き破られバリオスFの右腕は桜色の砲撃に呑まれ吹き飛び、その場に地響きを立てて倒れ込む。

 熱狂的な野球ファンの如く過剰なリアクションをとって見せたはやて。

 苦労の末、バリアは突き破られバリオスFの右腕は桜色の砲撃に呑まれ吹き飛び、その場に地響きを立てて倒れ込む。

「「「「「やったあああああ!!!!」」」」」

 救出されたヴィヴィオ達は離れた場所で歓喜の声を上げる。一方のなのは達は警戒を解かぬ様牽制しつつ怪物の様子を見守る。

 すると倒れたバリオスFはゆっくりと体を起こすと、超速再生によって破壊された右腕を即時に復活させる。

『駄目です!!! 10秒以内に再生してしまいます!!!』

「やっぱりあの時と同じ・・・」

「どうすれば・・・」

 苦悶の表情を浮かべるなのは達。と、そのとき―――。

 

 ドカ―――ンッ!!

 

 巨大な炎の塊が飛来し、バリオスFへと着弾。

 着弾後に白い仮面ごと頭部を背後へ向けたとき、ビルの屋上にて立ち尽くす四人の人影の姿を捕える。

 腕組みをしながら自信に満ちた笑みを浮かべる阿散井恋次。傍らで静かに敵を見据える吉良と浦太郎、そして赤を基調とした身の丈を超える巨大な斬魄刀を肩に担いだ鬼太郎がヤンキーの如く地面に(かかと)を据えていた。

「あの人達は・・・さっきの!」

「生きてたんだねぇ~ッ!!」

「なんだよアイツら? どこの回しもんだ!?」

「なのは、あの人達の格好って・・・!」

「うん・・・前に白鳥さんが着ていたものと同じ! もしかして、あの人達もユーノ君と何らかの関わりがあるんじゃ!?」

 なのはの推測は的を射ていた。そんな彼女の心境など毛ほども知らないでいる恋次はただ目の前の敵に対し挑発的な態度を取り続ける。

「オイタもその辺にしといた方がいいんじゃないのか? ここはてめえの居るべき場所じゃねえ。さっさと帰ってクソして寝てろ。もしくは・・・」

 言いかけた矢先、背部の魔導扇風機で空を飛んだバリオスFが、胸部からはペットボトルをロケットの様に飛ばすミサイルを発射した。

「全員散開!」

「「「ああ(はい)(おう)!」」」

 恋次の合図で四人は直ちに散開。

 ここから彼らはそれぞれの個性と磨き上げた技を用いて魔導虚(ホロウロギア)殲滅へと取りかかる。

「俺は最初からクライマックスだぜ! 必殺!! 俺の必殺技!!」

 刀身に“炎”と刻まれた常人が振り回すには余りある鬼太郎が操る斬魄刀『烈火(れっか)』。全身の霊力を刃へと集中させ、見据えた敵目掛けて豪快な一振りを振り下ろす。

「俺の必殺技・・・パート2!!」

 煌々(こうこう)(たぎ)る灼熱の炎を刀身へと収束、一気に高温の火炎弾を飛ばす『熾烈波(しれつは)』と呼ばれる技がバリオスFの身体を焼くと同時に斬る。

 炎を上げながら苦しそうに悶絶する魔導虚(ホロウロギア)。それを見ながら、恋次は吉良と浦太郎に指示を出す。

「吉良、浦太郎、援護しろ!!」

「わかった」

「んじゃまぁ・・・僕もすこーし本気出そうかな」

 近くのビルへと降り立ち、浦太郎はカートリッジを一発消費し足下にベルカ式魔法陣を展開。手持ちのデバイス・フィッシャーマンの先端を掲げる。

「ドルフィンドライブ!」

 途端、巨大なイルカを模した水の塊を作り出す。浦太郎は作り上げたイルカを使役し、炎に苦しむバリオスFを攻撃。急激な温度変化を加えて動きを怯ませる。

 この頃合いを図っていた吉良は中空より狙いを定めると、鞘から引き抜いた己の斬魄刀の名を唱える。

(おもて)を上げろ、『侘助(わびすけ)』」

 静かな解号とともに、手持ちの剣がケペシュ状に変化する。

 吉良は変化した刀で敵の身体の至るところへ斬りつける。するとどうだろう・・・相手はたちまち重力に押し潰される様に地に平伏し動けなくなった。

 この光景に唖然とするなのは達。状況が何ひとつ理解出来ないでいると、最後の止めを刺す為に恋次が蛇尾丸を掲げながらベリオスFの頭部目掛けて降りて来た。

「こいつで、終いだあぁぁぁ!!!」

 

 バシュン―――!

 

 仮面を真っ二つに割る恋次の豪快な一刀。

 バリオスFは断末魔の悲鳴を上げると、体を構成していた主構成物質『霊子』を分解させながら、その命を全うする。

「た・・・倒したのか・・・・・・」

「あの人達は一体?」

「あ! アレを見て!」

 恋次達の素性を疑っていた折、なのはがある事実に気づく。

 彼女が指差す方を見ると、分解されるバリオスFの体からみすぼらしい格好に身を包んだ男性が気絶した状態で現れた。

「なに?!」

「怪物から人間が出て来た、だと・・・!?」

 予想外の事態に死神も魔導師達も当惑する。

 

「・・・やはりそうか。あの魔導虚(ホロウロギア)は人間を取り込んで進化するタイプだったのか」

 このとき、戦闘の様子を遠目から窺っていた人影―――翡翠の衣と(ホロウ)の仮面を模した被り物で素顔を覆い隠した人物は頭の中で思っていた通りの結果に息を漏らす。

 やがて結果が判明すると、誰にも気付かれぬ間に瞬歩で静かに姿を眩ませた。

 

           *

 

 事件解決後、魔導虚(ホロウロギア)の体内から救出された男性の身元は機動六課へと連行され、入念な身体検査とともに事件への関与について徹底的に調べられた。

 

           ≡

 

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 総合司令室

 

「身元はコルディア・フューゴ。地上本部出入りの建設業者ですが、不正入札で取引停止になっています。その為会社は倒産。一家離散。どうもそれからゴミの島に住むようになったと思われます」

「つまり・・・逆恨みで地上本部を破壊しようとしたのか?」

「呆れた動機ですね」エリオも思わず悲嘆する様な話だった。

「では、例の怪物との関連は?」

「逆行催眠で彼の記憶を辿ってみました。ビデオを出します」

 シャリオが手際よく映像をモニターに映す。画面中央には催眠術によって当時の記憶を遡るコルディアが険しい顔で座らされている。

 全員が固唾を飲んで見守る中、コルディアがゆっくりと語り出す。

『よ・・・四人の機械人間が・・・俺に・・・復讐する気があるなら力を与えてやると・・・あぁ、それは何だ? あ・・・・・・おああああああああああああ!!』

 異常なアルファ波とベータ波の乱れ。著しい乱れが見られた直後、映像が切り替わり映し出されたのは何故か競馬の写真だった。

「なんだこれは?」

「この男が倒産を回避しようと最後の賭けをして大負けした時の競馬の馬です」

 端的に説明したルキノは、競馬の写真と並行して街を破壊したベリオスの頭部の写真をモニターに映す。不思議な事に二つの写真はぴったりと重なる様に酷似した特徴が多く見られた。

「よく似てますね・・・」

「どうやら素体となる人間の感情や経験に影響されるという事か。あの怪物は―――」

 

「怪物じゃねえ。魔導虚(ホロウロギア)だ」

 そのとき、司令室へと入って来たのはコルディアとともに機動六課隊舎へと連行されてきた恋次達だった。

「あなた達は・・・先ほどの・・・・・・!」

「一体何者なんですか?」

 問いかけるフェイト。恋次は皆を代表として名乗り上げる。

「俺は阿散井恋次―――・・・死神だ」

「えっ!」

「死神・・・だと・・・!?」

 恋次の素っ頓狂な言葉に居合わせた管理局員全員が愕然。

 魔導師や騎士にとって、死神とは死に際に現れる鎌を持ったイメージの産物であり、不吉の象徴というイメージが強かった。現に恋次が自らを死神と名乗った直後からどこか畏怖の念が困った目で見つめてくる。

 ここまでは概ね予想通りだった。恋次や吉良は特に慌てる様子もなく、彼らの気持ちに寄り添った。

「ま。いきなりんなこと言われても理解できるようなもんじゃねえよな。俺だって最初この世界や魔法使いについて何も知らなかったんだからな」

「僕たちはあの怪物・・・魔導虚(ホロウロギア)の殲滅とその実態を詳しく調査する為に尸魄界(ソウル・ソサエティ)から派遣されてきたんだ。」

「えーと・・・・・・イマイチ話が飲み込めないんですけど・・・」

「ソウル・ソサエティ・・・って、なんですかそれ?」

「えーっと・・・・・・俺も正直人に説明するのは苦手なんだが、簡単に言うとだな。元々あのバケモノ・・・・・・魔導虚(ホロウロギア)ってのは俺ら死神が倒すべき悪霊、(ホロウ)ってのが突然変異したものなんだ。本来は霊力資質の持たない者は(ホロウ)自体視ることすらできねえ。ところがだ・・・一人の男に手によって奴らは堅気の連中にも視れる存在に進化した。その男の名はジェイル・スカリエッティ」

「「「な・・・・・・。」」」

「スカリエッティが、あの怪物を!?」

 全員が度肝を抜く真実。誰も一連の怪物騒動に絶賛行方不明中の次元犯罪者が関わっているとは予想だにしていなかったのだ。

「知ってるぜ。お前ら一度はそいつを逮捕してブタ箱に入れた事があるんだろ? でもって、今は脱走したそいつを追ってこの機動部隊を復活させたって」

「な、なぜそこまでこちらの事情を・・・!?」

「誰に聞いたんですか?」

 率直な疑問をぶつけるティアナとスバル。恋次はユーノとの約束を破らない為に彼らには真実をはぐらかして答える。

「・・・そうだな。俺の口から言えるとすれば、胡散臭い性格の駄菓子屋店主から聞いたってところまでだな」

「ちなみに、その駄菓子屋の店主って言うのは僕らの上司のことね」

「ん? ちょっと待て・・・・・・貴様のその顔、どこかで見たような・・・」

 浦太郎に目が行ったシグナムが怪訝そうに彼の顔を見つめる。

「おや? 僕のことを知ってるみたいだね。じゃあ名前を聞けば思い出せるかもしれないね。僕の名前は亀井浦太郎って言うんだ」

()()()()()・・・だと!?」

 浦太郎の本名を聞いた途端、シグナムを始めこの場に居合わせた全員が先程とは全く別の理由で度肝を抜いた。

「亀井浦太郎ってまさか・・・六年前まで首都防衛隊第一班陸戦戦技教導隊で活躍した・・・あの!?」

「若干16歳で上級キャリア試験を一発合格して一佐まで出世した超エリート・・・!」

「次元世界でも極めて稀少な『水』の魔力変換資質を持っていて、高い防御力から“地上部隊の鉄壁”と称された“陸のエース・オブ・エース”・・・亀井浦太郎一等陸佐(いっとうりくさ)!!」

「そんな有名人がどうして・・・ここに!?」

 浦太郎の名に震撼する機動六課。

 まさかここまでの反応が見られるとはさすがの浦太郎も予想外だったが、決して悪い気分ではなかった。一方の恋次と吉良、鬼太郎は予想外にも注目を浴びる浦太郎を終始呆然と見つめていた。

「あはは・・・いや~~~ワケあってさ、ウチの店長からここにいる恋次さん達のサポートをしてほしいって言われたんだよ。本当なら僕一人でも十分だったけど・・・」

 言いながら鬼太郎の方へ視線を向け、彼を見ながら露骨に見下した様な表情を浮かべる。

「おいてめえ! なんだその目は!? その顔は!? 人をそんな蔑んだ目で見るんじゃねえよ!!」

 思わず激怒した鬼太郎と浦太郎は忽ち口論に発展。それを横目に恋次と吉良が溜息を吐こうかと思った矢先―――

「あの―――」

 不意に声を掛けられた。視線を向けると神妙な面持ちのなのはが見つめていた。

「ひとつ・・・聞いてもいいですか?」

「あ、あぁ・・・・・・なんだよ」

 真剣な眼差しで問いかけるなのは。恋次と吉良が相互に疑問符を浮かべる中、意を決した彼女はその口で問いかける。

「あなた達は・・・・・・―――ユーノ・スクライア、という男性を知っていますか?」

「「・・・っ!」」

「「な・・・・・・っ」」

 問われた直後、恋次と吉良は絶句。さらには口論をしていた鬼太郎と浦太郎もまた表情を凍りつかせた。

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:久保帯人 『BLEACH 9巻』 (集英社・2006)

原作:久保帯人 著者:成田良悟『BLEACH Spirits Are Forever With You I・Ⅱ』(集英社・2012)

原作:都築真紀 作画:藤真拓哉『魔法少女リリカルなのはViVid 1巻』 (角川書店・2010)

原作:都築真紀 作画:緋賀ゆかり『魔法戦記リリカルなのはForce 1巻』 (角川書店・2010)

 

 

 

 

 

 

教えて、ユーノ先生!

 

ユ「今日から僕の出番が極端に少なるけど、めげずにがんばっていくよ♪ という訳で、今回は僕のお店・スクライア商店についてだ♪」

「スクライア商店は何でも取り揃えてあるよ。子供に人気のお菓子はもちろん、大人でも懐かしいと思える物がたーくさん。さらにはちょっとした家電製品や調理器具、そして極めつけは闇市場(ブラックマーケット)でしか買えない様な武器や武具、魔導師・死神の使う専用グッズも取り揃えてあるよ♪」

「なお只今、キャンペーン実施中! 当店でお買い上げの皆さんにはなんとなんと・・・!!」

 言いながら、ユーノはその手にポイントカードを高く掲げる。

「じゃじゃ―――ん!! 持ってると幸せになれるスクライア商店限定のポイントカードを差し上げるよ♪ 100ポイント溜まった方には全員には全国で使える5000円分の商品券と交換するよ!」

織「うわぁー!! それいいな!! よーし、私も今度からユーノさんのお店で買い物しようーっと!」

一「織姫、頼むからそれだけはやめてくれ・・・!」

 真っ当だが胡散臭さ全開ゆえに一護の心配は尽きなかったのであった。

 

 

 

魔導師図鑑ハイパー!

 

ア「ユーノッ、来たわよー」

す「こんにちはー」

 スクライア商店を訪れる二人の美女。

 アリサ・バニングスと月村すずか。いずれもユーノの友人である。

ユ「やぁ二人ともいらっしゃい♪ どうしたんだい急に?」

ア「べ、別に・・・ちょっとそこらを通ったから立ち寄っただけよ・・・こっちもあんたの顔を見に来るほど暇じゃないし」

す「ふふふ。とか言いながら、アリサちゃん・・・ユーノ君の食事を気遣ってお弁当を作って来てくれたんだよ」

ア「こ、コラすずかッ!! 余計なことな言わないでよ!!」

 アリサは極度の照れ屋、もといツンデレだった。顔を真っ赤にしながら背中に隠したお弁当袋が何ともいじらしい。

ユ「ははは。相変わらずアリサは素直じゃないというか・・・なんというか・・・」

ア「アンタには言われたくないのよ!! そんなこと言うヤツにはお弁当食べてさせてあげないんだから!!」

 そう思って弁当箱を確認するが、手の中は既にもぬけの殻だった。

ア「あ、あれ!? お弁当は・・・」

ユ「あぁごめん。お腹が空いてたものだから言われる前に食べちゃったよ♪」

 言いながら、ユーノはアリサが朝早くに起きて作ったお弁当を食べていた。

ア・す((いつの間に食べてる・・・・・・!?))

 果てしないユーノに対する恐怖感情が二人の間に芽生えた瞬間だった。




次回予告

ユ「君達に、最新情報を公開しよう。」
「忘れもしない兄の面影。優しかった兄の面影。だが、それは突如として凶気へと変わる。捕われたティアナの魂を救い出せ!」
「ユーノ・スクライア外伝 NEXT、『面影は永久(とわ)に』。次回も、この小説にファイナルフュージョン承認!」
一「って、なんの次回予告だよコレ!?」
ユ「『ティアナのおもちゃの銃』―――これが勝利のカギだよ♪」






登場魔導虚
バリオスF
元建設業者で、ホームレスに落ちぶれたコルディア・フューゴが巨大虚を素体に融合したドリームランドにある大量の産業廃棄物を取り込み誕生した魔導虚。
右腕は魔導電子レンジの塊から成る荷電粒子砲、左腕は魔導冷蔵庫の塊から成る冷凍光線砲となっている。背部の魔導扇風機で空を飛び、体を列車形態にする事が可能。胸部からはペットボトルをロケットのように飛ばすミサイルを発射可能。強力なバリアシステムと超速再生能力を備えている。倒産回避のためフューゴが競馬で大勝負に挑んで敗れた影響か、頭部の仮面が馬の顔に似ている。
社会科見学に来ていたヴィヴィオ達が乗った遊覧船ごと取り込み、チューブ状の走行形態で地下鉄内を走り、ミッドチルダ地上本部へ到着するとこれの破壊を図った。なのは達や現場に駆け付けた恋次達の活躍によって倒される。
名前の由来は、ギリシア神話に登場する不老不死の神馬の名前「Balius」から。
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