二か月前―――
新暦079年 2月
時空管理局本局内部 運用部・第1会議室
機動六課の再編に向けて行われた事前協議。元・部隊長を務めた八神はやてと後見人筆頭クロノ・ハラオウンは、本局第四技技術部主任マリエル・アテンザより、
「捜索指定遺失物・
暗い部屋で投影される映像を真剣に凝視するはやてとクロノ。
映像はこれまでに確認されてきた
「さて、今回新たに調査部によって発見された
マリエルがそう口にすると映像も切り替わり、投影されたのは直径1センチにも満たない小さな紫紺に輝く結晶体だった。
「通称“アンゴルモア”。外観は小さな紫紺の欠片なんですが、直径僅か1センチの小さな欠片ひとつひとつに超高密度の高エネルギー反応を秘めた極めて危険度の高い物質である事が判明しています。アンゴルモアは過去に三度発見されており、そのいずれもが周辺を巻き込む大規模な災害を起こしています」
マリエルが実際の事故映像を見せようと画像を切り替える。
はやてとクロノは発見時に起こった事故画像を見て息を飲んだ。半径20キロに渡る広大な土地が焼け野原と化し、中心部には巨大なクレーター状の窪みが出来ている。窪みの周囲にも目を転じるが、残存する生物はおろか周囲の建造物もすべて焼失していた。
「凄まじいまでの魔力爆発だな・・・」
「せやけど規模が尋常やない。まるで隕石でも落下した様な感じや」
眉間の皺を寄せる二人。さらに映像は切り替わり、次に映し出されたのは研究施設と思しきものだった。
「現在、アンゴルモアが発見されたのはいずれも観測指定世界を始めとする未開の世界。その中には極めて高度な魔力エネルギー研究施設も発見されています。こういった施設の建造は許可されていない地区で、災害発生直後にまるで足跡を消すように破棄されています。悪意ある・・・少なくとも法や、人々の平穏を守る気の無い何者かがアンゴルモアを収拾し、運用しようとしている広域次元犯罪の可能性が極めて高い・・・・・・というのが、本局警防部及び調査部の見解です」
「なるほど。ほんで、そのアンゴルモアを利用している広域次元犯罪者が逃走中のスカリエッティである可能性を考慮し、本局はアンゴルモアの回収とスカリエッティ一味を確保する名目で機動六課の再編を考えとるちゅうことやな?」
「ああ。騎士カリムの予言にもアンゴルモアを匂わせる
「事情はわからんでもないわなー」
大筋の内容を理解し、出されたコーヒーを口に含んだ後、はやてはマリエルに質問する。
「マリーさん、ひとつ質問があります。その
「その事なんだけど・・・・・・実はとても信じ難い話なの」
「なんですかそれは?」
「調査団が持ち帰ったアンゴルモアを特殊な年代測定法で確認したところ、この物質が造られたのは少なくとも今からおよそ1万年ほど前―――すなわち、主要世界において人間が文明と呼ぶにはあまりにも技術が拙く未発達だった時代に造られた可能性が高い事が判明したわ」
「1万年前だと!?」
聞いた直後、普段冷静なクロノとはやても飲みかけのコーヒーカップを床に落とすほどに動揺した。
「んなアホな! となると、この結晶一つ一つが1万年もの大昔に造られた超高度なオーバーテクノロジーの塊ちゅうことですか!?」
「少なくとも、客観的なデータではそのように裏付けられているわ」
会議を終え、局の廊下を歩きながら二人は今回の件について各々所感を口にし合う。
「・・・昔、地球にノストラダムスいう予言者がおってな。そのノストラダムスが記した予言書の中に出てくる“恐怖の大王”・・・その名前がアンゴルモアいうんや。今回発見された
「アンゴルモアが次元世界にとって不吉をもたらす
「願わくばアンゴルモアが破滅をもたらす恐怖の大王でない事を祈るよ。私たちはアンゴルモアに関してあまりにも情報が少なすぎる。そやけど、その脅威の片りんを世界各地のいろんな場所で既に確認済みやからね」
「もしもこんな時、ユーノがいてくれたらな・・・・・・・・・・・・おっと。無い物をねだっても仕方のない事か」
だが、このとき彼らは気付いていなかった。
≒
4月12日―――
第1管理世界「ミッドチルダ」
ミッドチルダ中央南駐屯地内A73区画
機動六課 ミッドチルダ地上隊舎
午前6時過ぎ―――。
阿散井恋次と吉良イヅルは潮風に当たりながら、隊舎へと向かう道を歩いていた。
「ふぁ~~~///」
恋次の大欠伸を隣で見、吉良は苦笑しがちに「寝不足かい?」と、率直に問う。
「どうにもベッドって奴に馴染めなくてな・・・それに、この世界の言語の習得にだいぶ手こずっててよ・・・」
現在、恋次はミッド全域で使われているミッド文字の習得に時間を費やしているが、それがなかなか覚えられないらしく、結果としてここ数日徹夜勉強が続いていた。
吉良は実直に勉強に励む恋次を内心称賛する一方、涼しい顔で呟いた。
「・・・ミッド文字はどちらかと言えば地球で言う英語圏の文字に近い様だね。僕は昔、
「けっ。それは俺への自慢か? 生憎と俺はお前と違ってその辺の事情にも疎いんもんでな・・・。第一俺は、枕変わっただけでも寝付けねーっていうのによ・・・・・・こんな事なら枕くらい持ってくれりゃ良かったぜ」
ドドーン!! ドカン!!
そのとき、隊舎から然程遠くない海上から小規模な爆発音が聞こえてきた。
恋次と吉良が音のする方へ目を転じたとき、再び爆音と白い煙が黙々と上がっているのを捕えた。
「何の騒ぎだ? こんな朝っぱらから・・・」
「おそらく機動六課メンバーの早朝訓練じゃないかな」
「そういやここの連中の実力とやらをまだ詳しくは知らなかったな。ちょうどいい。暇つぶしがてら行ってみようぜ」
*
同時刻 機動六課 海上トレーニングスペース
「でやあああああああああ!!」
「おっと」
市街地戦闘を想定して作られた仮想戦闘フィールドにて、二人の魔法使いが火花を散らす。若き竜騎士として切磋琢磨するライトニング隊ガードウィング、エリオ・モンディアル。その相手を務めるのは同じくガードウィングの亀井浦太郎。
現役の騎士と元・地上部隊のエース。一見すると若く体力面に優れるエリオの方が優勢に思えるだろう。だが、浦太郎はエリオには無いアドバンテージを持っている。それは海千山千という数多くの修羅場を潜り抜けて来たという経験の差であり、付加して巧みな魔法スキルもある。
エリオは額に汗を浮かべるとともに、手持ちの槍型アームドデバイス《ストラーダ》の取っ手を握りしめ、浦太郎の懐へと潜り込む。
「うおおおおおおおおおおお」
威勢よく槍を振り下ろすエリオだが、浦太郎は終始涼しい顔で回避。手持ちのフィッシャーマンを手足の如く意のままに操り、間隙を突いてエリオの腹部へ鋭い蹴りを叩き込んで怯ませる。
「ん~・・・。なかなかってところかな。だけど僕を釣り上げるには少し食い足りないね」
(この人・・・まるで僕の動きを先読みしているみたいだ! さっきから全力で撃ち込んでるのにクリーンヒットが取れない!)
最近は自隊の隊長であるフェイトにも模擬戦で拮抗するところまで腕を磨き騎士としての自信を持ち始めていたエリオ。だが、世間にはまだまだ自分よりも強い相手が居るという事を否が応でも思い知らされる。
「さてと・・・待つ釣りっていうも悪くないんだけど。僕はやっぱり攻める釣りの方が好きなんだ」
宣言した直後、浦太郎の姿がエリオの視界から忽然と消えた。
(消えた!?)
そう思った次の瞬間、エリオの背後へと回った浦太郎が不敵に笑いながら、攻撃を繰り出した。
咄嗟にストラーダを盾にして浦太郎の一撃を受け止めるエリオ。間一髪のところで命拾いし、浦太郎と大きく距離を取って牽制。
(
「君も僕に釣られてみるかい?」
いつもの口癖を披露した浦太郎は、再度エリオの視界から消えると「自己加速魔法」と水流魔法を併用した攻撃を怒涛の如く攻め続けた。一方のエリオも自分の十八番を潰されまいと、同じく高速移動魔法「ソニックムーブ」で対抗。雷の魔力変換資質を用いた魔法を使用しながら浦太郎との激しいせめぎ合いを行う。
魔法技能が優れた者同士の模擬戦は常に手に汗握る展開となる。離れた場所で観戦をしていたなのは達も固唾を飲んで見守る。
「よう。朝から盛が出るな」ちょうどそこへ、恋次と吉良が訓練場へと足を運びなのは達と合流する。
「あ、おはようございます恋次さん。吉良さん。ちょうど良かった。今、浦太郎さんとエリオが模擬戦中なんです」
フェイトに言われて二人も早速ビルの上から浦太郎とエリオの戦闘を観覧。すると恋次と吉良はエリオと戦う浦太郎の様子を見た瞬間、ある事実に気が付いた。
「アイツ・・・手抜きだな」
「だね」
「え・・・えぇぇ!? あ、あれで手抜いてるんですか!?」
予想だにしなかった言葉だった。耳に入れるや、スバルは驚愕に満ちた声を上げる。
「俺は前に浦太郎と一戦交えた事があるが、そんときに比べれば今のアイツの力は3割程度ってところだろう」
「さ、3割・・・って!?」
何かの冗談だと思いたくなるが、恋次の言う通り浦太郎はエリオの実力を的確に見極めるという体で実際よりもかなり手加減をしていた。だが・・・
「ぐあああああ」
元エース級魔導師の実力は未だ健在。成長著しい若い世代に後れを取るような事は無かった。勝敗を分けたのはやはり百戦錬磨、端的に経験の差である。
模擬戦の勝敗が決したとき、エリオは尻餅をついた状態で勝者の浦太郎にフィッシャーマンを突き付けられていた。
「僕の勝ち、だね♪ イイ線行ってたとは思うよ。精進すれば君はもっと強くなるよ。僕が保証する」
「は、はい・・・・・・ありがとございました!」
負けて悔しいという気持ちもある。だが実力が確かなのは明白だ。エリオは騎士道精神に則り礼節を弁え、模擬戦に付き合ってくれた浦太郎に感謝の意を唱えた。
「エリオ君が、負けちゃった・・・」
「噂には聞いていたが、どうやら実力は本物のようだな。伊達に地上本部の防衛の砦となっていたわけだ」
「の割には手抜きだけどな。俺はアイツのああいう戦い方は好きにならねえよ」と、鬼太郎が悪態をつくや、エリオと共に戦闘フィールドから戻ってきた浦太郎がこの苦言に噛み付いた。
「別に先輩が好きな戦い方をするつもりはないし、頼まれたってしてあげないよ。ま、どうせ模擬戦闘なんだから全力で戦う必要も無いしね」
「しかしそれではエリオの騎士としての誇りはどうなるのだ?」生粋の騎士たるシグナムが率直な意見を口にする。これに対し浦太郎は・・・
「誇りって・・・どうして戦いの場で相手の心情まで汲み取る必要があるの? 誇りとか矜持とか、そんなものに拘って勝ちを見逃すのは三下のする事だよ。いずれにせよ、優秀な人間ってのはそういう事も含めて徹頭徹尾したたかで盤石なんだよ。昔からよく言うじゃない。能ある釣り師は餌を隠すって♪」
「そんな諺聞いたこと無いけどね。」吉良の冷静なツッコミが飛び交う。
「けっ! 亀の癖にエラそうに講釈なんか垂れやがって。知ってんだぜ。管理局辞めたおめえが相当やさぐれてたってことくらい。あっちこっちいろんなところで詐欺を繰り返して・・・「だああああああああああああ!!!」
うっかり口を滑らせた鬼太郎だったが、聞いた途端に狼狽えた浦太郎が鬼太郎の口を塞ぎその場を取り繕う。
「ななな、何言っちゃってるのかな先輩は♪ 僕がそんなことする訳ないじゃないの♪」
「で、でも本当の話じゃねえか!」
「だからってわざわざ言う必要はないでしょうが!」
小声でやり取りする二人の様子を傍で怪訝に見つめる六課メンバー。浦太郎は人には言えない自分の過去を周囲に悟られまいと終始場を取り繕った。
「あのー・・・」
すると、不意にシャリオが浦太郎の持っていたフィッシャーマンを興味津々に見つめながら、おもむろに問いかける。
「もしかして、浦太郎さんのデバイスは『ジェイド・ロッド』じゃありませんか♪」
「ジェイド・ロッド? シャーリーそれって、あの謎の天才魔工技師『アニュラス・ジェイド』のジェイド?」
「そうですッ!!!」
フェイトの問いかけに激しく同意し目をキラキラと輝かせる。シャリオは生粋のメカオタクであり、魔導師用デバイスの制作・管理を行うことができる「デバイスマスター」の資格を取得している。今回、一般的なデバイスとは仕様や性能が大きく異なる浦太郎のデバイスに対し並々ならぬ興味を持ったのだ。
「カレドヴルフ・テクニクス専属! その本名、姿、プロフィールの全てが謎に包まれた奇跡のデバイスエンジニア!! 世界で初めて“レペティション・エミッティング・ユニット”を実現した天才プログラマー! 『ジェイド・ロッド』と言うのは、そのアニュラス・ジェイドがフルカスタマイズした特化型デバイスのモデル名で、レペティション・エミッティングに最適化されているんです!」
「特化型デバイス・・・? なんだそりゃ?」
デバイスの話をし出した途端、急に饒舌になるシャリオとは裏腹に、その手の話には疎く魔法テクノロジー全般について知識が欠如している恋次は終始目を丸くする。
見かねたティアナが恋次の為に、デバイスの種類についてレックチャーをしてくれた。
「デバイスにもいろいろと種類があるんです。人格型AIを備えた《インテリジェントデバイス》。魔法プログラムの記録媒体としての意味合いが強い《ストレージデバイス》。他にも《アームドデバイス》や《ユニゾンデバイス》、《ブーストデバイス》と言った風に用途に合わせて様々あります。中でも同一系統の魔法のみを最大9種類までインストールでき、魔法の発動速度に優れたデバイスを《特化型デバイス》といい、現在主流となっている第三世代デバイスと比較した際、一部機能が二・三世代上を行っているという点で、ジェイド・ロッドは別名《第4.5世代デバイス》とも呼ばれています。そして、これを世に送り出したのが先ほどからシャーリーさんが仰っているアニュラス・ジェイドなんです」
「ちなみにだけど、僕のフィッシャーマンは魔法の処理速度、そして系統の異なる魔法術式を処理するという汎用型の長所を兼ね揃えた《汎用兼特化型デバイス》でね、アニュラス・ジェイドが一からチューンナップした物なんだ」
「ほ、本当ですかぁぁぁ―――!!!」
聞いた途端に発狂したかの如く歓声を上げるシャリオ。やがて、その場で土下座した彼女は浦太郎に懇願する。
「お願いします!! 是非ともそのデバイスを見せてもらえませんか!! できれば今後デバイスのメンテナンスも私にやらせてください!!」
「えぇ!? あぁー・・・ごめんね、君の気持ちは嬉しいんだけど・・・こいつは一般には出回っていない非売品でね。いろいろ見られたくない部分もあってどうしてもダメなんだ」
「そ、そんな~~~! あのアニュラス・ジェイド手製の代物、しかも非番品モデルが目の前にあるのに触れられないなんて~~~! デバイスマスターとして死ぬ前に一度は触れておきたいんです!!」
涙うるうるで浦太郎へと頼み込むその姿はいつになく必死であり、ここに来てまだ日が浅い恋次達は兎も角、彼女の事をよく知る六課メンバーもやや引き気味だった。
「なあ、あんな杖ひとつにあそこまで食い下がるとは・・・・・・あいつ精神状態だいじょうぶなのか?」心配になった恋次が隣に立つフェイトに問いかける。
「えーと・・・シャーリーはときどきああなる事がありまして、根は良い子なんですよ。多分・・・」
「なんでちょっと自信なさそうになるんだい?」
吉良の的を射た指摘に誰もが苦笑を浮かべるばかりだった。
数時間後―――。
早朝訓練を終え日常の勤務に当たっていた折、部隊長八神はやてからの呼び出しを受け、なのは、フェイト、そして阿散井恋次の三人は彼女の元へ集まった。
「仕事中に呼び出してごめんなー。実はついさっき本局技術部のマリーさんから連絡もろうて、機動六課から数名を第181観測指定世界『プラスター』まで同行させてほしいいう依頼が入ったんよ」
「第181観測指定世界へ、ですか?」
「理由は?」
「アンゴルモアに関する事なんや」
「っ! アンゴルモア・・・・・・」
はやての口から飛び出たアンゴルモアという単語に、なのはとフェイトは一様に眉を顰める。
「っておい・・・なにオメーらだけで分かった気になってんだよ!? 俺は何もわからねーんだよ!! 黙って
一人蚊帳の外に置かれた恋次は説明される暇も無く、ただただ言われるがまま現地へと派遣させられる事となった状況に、不満を露わにするばかりだった。
*
マリエル・アテンザの依頼を受けた機動六課は、部隊長八神はやてを筆頭に、スターズ分隊より高町なのは、ライトニング分隊よりフェイト・T・ハラオウン、オブザーバーとして死神・阿散井恋次を第181観測指定世界『プラスター』へと派遣。
現在、
≡
時空管理局LS級艦船「ヴォルフラム」 艦内ロビー
「・・・二か月前、プラスターの広大な砂漠地帯で謎の巨大爆発が起きたの」
「爆発?」
「突如夜空に強烈な閃光を放つ発光物体が現れ地上に落下・・・爆発直後、広大な地域が真昼の様に明るく照らし出されたそうなの。二か月経過した今でも墜落現場は異常な熱を放ち、広範囲に渡って厚い蒸気に覆われているのだけど、衛星からの超音波画像で直径5キロにも及ぶ巨大なクレーターが確認できたわ」
「5キロ!?」
「隕石でも落下したのか?」
「最初はその可能性かと思ったんだけど・・・それにしてもこれほど巨大なクレーターを作る隕石が落下したのなら、惑星規模の影響が出ている筈だわ」
「確かに妙ですね」
「原因究明の為、本局は現地に調査団を送ったわ。その一人、ウォルター・ワイリー教授は私とは旧知の天文学者なんだけど・・・」
些か沈んだような表情を浮かべると、マリエルは「八神部隊長。」と声をかけ、一冊の冊子を取り出し手渡した。
「それを見てちょうだい。ウォルター教授の報告書よ」
「拝見します」
報告書を受け取ったはやては早速中身に目を通し始める。
「実は・・・・・・爆発現場のクレーター内でアンゴルモアと思しき高エネルギー反応が観測されたわ。だから今回あなた達を呼んだの」
「なるほど。しかも爆発があった日付は・・・!」
「なんなんだよ?」
怪訝にしていた恋次がおもむろに問いかける。
はやては報告書から目を離し、なのは達の方を見ながら眉を顰め一つの事実を告げる。
「二か月前・・・
「「「え(なに)!?」」」
聞くや、思わず耳を疑うなのは達。
偶然か必然か。どこか強い必然性を感じられる状況に思えてならない中、一行を乗せた次元航行船ヴォルフラムは現地へと急いだ。
*
午前11時28分―――
第181観測指定世界『プラスター』
砂漠地帯 定置観測基地
熱高い場所を避けたクレーター手前に設置された観測小屋を訪れた一行。
しかしながら、人の気配は無く、施設はもぬけの殻と化していた。
「おかしいですね。小屋には誰もいません」
「表に観測車両が無かった。調査に出ているのかも」
そう言った矢先―――施設周囲を
「調査団の車っぽいものを見つけたぜ。先に言っておくが、こいつは朗報とは呼べるものじゃねえ」
観測車両が見つかったのは、クレーターの山頂付近に程近い場所で、恋次が発見した時には既に車体は大破、横転した状態だった。
なのは達が壊れた車体を詳しく調べると、外装部分には生き物が引っ掻いたような痕跡が所どころに見受けられた。
「爪痕にも見えますね・・・」
「調査団の人たちは、ここで何かに襲われたっちゅうことか」
「念の為、調査団の捜索に応援を要請しといたよ。あと二時間くらいで到着する筈だって」
「マリーさん、観測車両の方は?」
「耐熱カーボンが完全に駄目になってる。中の観測機器もすべてお釈迦。データは全て消去されているわ」
「お-――い!!」
すると、クレーターの周囲を隈なく捜索していた折、またしても恋次がある重大な物を発見したらしく駆け足で寄って来た。
「下の蒸し暑い方へ行ってみたらよ。こんなものが落ちてたぜ」
恋次が発見した物を確認すると、それは壊れた眼鏡と思しき物だった。
「そ、それは・・・・・・ウソ・・・・・・!!」
壊れた眼鏡を見た途端、マリエルの顔は青ざめ口元を押さえる。
幸か不幸か、恋次が偶然に発見したこの眼鏡こそ―――マリエルと旧知の仲である天文学者ウォルター・ワイリーが愛用していた物だった。
これが発見された事が意味するものが解らない者はこの場にはいない。極めて悲痛な現実と向き合わなければならないと覚悟しつつ、それでも一縷の望みを容易に捨て去る事が出来ないのもまた心情だった。
なのははフェイト、はやてらと顔を見合わせると、ウォルターの遺品を掲げて沈痛な面持ちでいるマリエルに提案する。
「マリーさん、一度クレーターを調べてみましょう。あの奥に何か秘密があるそうです」
「私となのはで下まで降ります。はやてと恋次さんはマリーさんと一緒に小屋で待っていて欲しいんだ」
「了解や」
「ヘマすんじゃねえぞ」
「・・・わかったわ。じゃあ、二人ともお願いするわね」
観測小屋に戻ったマリエル、はやて、恋次の三人はクレーターの下へと降り調査を開始したなのはとフェイトらの様子をモニターで監視。
『外気温65度、湿度76パーセント・・・。現在さらに上昇中』
「二人とも。十分注意してね」
『はい、分かりました』
なのは達は耐熱性に優れた防護服に身を包み、いつ敵が襲ってきてもいいようにとデバイスを起動待機状態にしながら、逐一報告を行う。
「外気温78度、湿度80パーセント・・・」
慎重に慎重を重ね、クレーターの中心部へ向かって下降する。
このとき、二人は中心に向かうほど外気温と湿度が上がるにつれ、周囲から言い知れぬ物の気配を感じていたが、それがどんなものかまでは想像が及ばなかった。
降下を開始してから数分が経過。ようやくクレーターの中心へと到達した。
「クレーターの中心に到達しました。なのは、何か反応はある?」
「何もないよ。地温も地下も別に・・・」
ブーッ! ブーッ! ブーッ!
次の瞬間、コンピューターが異常な高エネルギー反応を感知。けたたましいアラートが施設中へと鳴り響く。
「このエネルギー反応は!」
「様子がおかしい。すぐ引き返すんや、なのはちゃん! フェイトちゃん!」
『ちょっと待って!』
「どうした、何があった!?」
『出たんです・・・
「
風切り音を響かせて、胸に空いた孔と西洋の悪魔を思わせる白き仮面。背中から、バッタやコオロギ、トンボを連想させる半透明の
巻き起こる風に乗って、
なのはとフェイトが対峙した時、その数は―――
「遊ぼう」 「遊びましょう?」 「遊んでよ」
「遊ぼう」 「なにして遊ぼうか?」 「殺し合いだね!」
「たのしそう!」「面白そう!」「混ぜて!」 「私達もいれて!」
「僕たち強いからね!」 「Agwooooo」「遊んで・・・・・・ほしい、かも・・・・・・」
「遊ぼうよ!」 「貴方達が
「一万回
と、ケラケラ笑いながらなのは達を襲う、様々な『
「な、なんなのこいつら! これ、全部
今までに遭遇した事の無い奇妙な
「
一体の
『
それが、この
個別の名前を持たず、一纏めで『プーカ』とだけ呼ばれる、奇妙な集団。
彼らは常に共に行動し、軍隊
『彼』であり『彼女』でもあるその集団は、百体以上の群れから構成されている。
その群は『みんな』であると同時に『一つの個』でもあると見なされ―――
彼らは誰よりも無邪気に、誰よりも残酷に、そして誰よりも自由に大空を飛び回る。
時折『遊び相手』を見つけては、壊れて動かなくなるまで遊び倒す。
それが彼らにとっての日常であり―――目をつけられた力の無い者達にとって、彼らは日常の終わりを告げる悪夢の集団となる。
「イチイチ相手してる時間は無さそうだね。フェイトちゃん、ここは一気に殲滅しよう」
「うん。いつでもやれるよ」
次の瞬間、なのはのレイジングハート・エクセリオンによるバレルフィールドが展開。直後、なのはの魔力をフェイトのバルディッシュ・ザンバーの刀身に集中させる。
「フィールド形成! N&F中距離殲滅コンビネーション!」
「空間攻撃ブラストカラミティッ!」
レイジングハートとバルディッシュ―――二人はそれぞれのデバイスに収束させた魔力を共鳴させ、周囲の魔力素を取り込みながら数倍にまで増幅させる。
「「ファイアァァ!」」
二人が同時に叫んだ瞬間、圧縮された桜色と金色の魔力が一気に放出され、通常とは比べものにならない威力の砲撃がクレーター内一帯に放出される。
反応する暇もないまま、広範囲に広がる空間制圧魔法の閃光に巻き込まれて吹き飛んでいくプーカ達。
「やったの!?」
消滅はさせられないまでも、戦闘不能状態に追いこむ事はできるだろうと踏んでなのは達は大魔法を使用した。
実際、半分ほどのプーカ達が、大地の上にひっくり返って倒れ込んでいるのを確認する。
だが―――それは同時に、もう半分のプーカ達が、まだ生きているという事を示していた。
不思議な事に、撃たれた個体の傷が、
「くっ・・・・・・ブラストカラミティを受けてこの程度なんて!? この
「なのは、ここは一旦クレーターの外へ出よう。多分、上のはやて達も私たちと同じ目に遭ってると思うんだ」
緊迫した表情でなのは達はこの場で小悪魔達の相手をするのは得策ではないと判断。飛行魔法でクレーターの外へ脱出を図る。
だが、なのは達の安易な行動は、すぐさまプーカ達の反感を買った。
「お姉ちゃんたち、逃げちゃダメ!」「もっと遊ぶの!」「遊ぼう!」「遊ぼうよ!」「俺 アソぶ 誰か」「殺して遊ぶ!」「殺されて遊ぼう!」「ハラ ヘッタ」「アハハハハ!」
倒れている仲間の心配は
次の瞬間、逃亡を図るなのは達を見据えると、プーカ達が一斉に翅を鳴らして楽しそうに『遊び』を開始した。
「「が・・・!!」」
彼らの囲んでいる空間に、濃い風が吹き始めたかと思うと、飛行中のなのはとフェイトは、著しい平衡感覚の乱れと激しい倦怠感に襲われた。
そして、気付いた時には飛行制御もままならぬなくなり、二人は理解の及ばぬままに墜落。プーカ達は動けない二人を取り囲みケラケラと笑っていた。
「なのはちゃん! フェイトちゃん!」
「静かにしろ! 何の音だ・・・」
微かだが、恋次は建物の中で反響する翅を羽ばたかせた際に生じる独特の摩擦音を聞き取った。
はやてとマリエルも嫌な予感がした様子で、恋次の傍で警戒を強めていると、『それ』は突然目の前に現れた。
壁が突き破られ、建物内に侵入してきた数十体と群れを成すプーカの一団。恋次達は瞬く間に彼らに包囲された。
「
「くっそ! 調査団はこいつらにやられたのか!」
「どうするんですか?!」
「ここは力づくでも突破するっきゃねえ! 俺に任せろっ!」
広域殲滅が主体のはやてが殺傷能力の高い
その事を考慮し、恋次は腰元に帯びた蛇尾丸を抜くと、目の前で小うるさく翅を羽ばたかせるプーカ達目掛けて剣を振り回す。
「―――
敵全体に向けて『蛇尾丸』を振り回すという力技。
敵を倒すまではいかなくても、目の前で群がるプーカの軍勢を払い除けて退路を確保するという点では十分な役割を担った。
「今のうちだ!」
退路を確保した恋次は、はやてとマリエルを引き連れ大急ぎで小屋を離れ、建物の外へと疾駆した。
「遊べ・・・・・・」 「遊べ」 「遊べ!」 「あそ・・・・・・べ・・・・・・」
「アソベ」 「遊べ」 「遊べッ!」 「遊べ」
「あっそべーッ!」 「遊べ!」 「あ、あそ、べ?」
「遊べ」 「遊べ!」 「遊べ・・・・・・」 「Aasobbee・・・・・・」
複数の小悪魔達が、一斉に口を開く。調子こそ違うものの、誰もが同じく『遊べ』という単語を口々にする。
なのはとフェイトは、魔法の発動ははおろか意識すらも混濁した状況に全身の力が入らない。絶望的な状況に為す術も無く、小悪魔達の
(ここまでなの・・・わたし・・・・・・やられちゃうの・・・・・・・・・)
朦朧とする意識で、なのはの脳裏に蘇る光景。
11歳の冬に襲ってきた
(嫌だ・・・・・・死にたくない・・・・・・・・・ユーノ君、助けて・・・・・・・・・・・・!)
死への恐怖に支配される彼女の心。そして、無意識に彼女が救いを求めたのは他でもない―――行方知れずとなった生涯唯一人の魔法の師・ユーノだった。
「お姉ちゃん達! どうして寝てるの!」「まだまだ遊びたいよー!」「ねえねね、何して遊ぶ?」「さっき撃ったの、かっこよかったね!」「もっかいやってよ!」「どうやるの?」「どうやったの!?」「こう?」「こうかな?」「イた カっ た」「僕もやる!」「私もやる!」「オレモ!」
プーカ達は、倒れているなのは達を見据えると、瞳を輝かせながら右腕や口、額など、それぞれの体の一部を二人に向けた。
「
「セろ」 「虚閃!」 「虚閃」 「虚閃」 「虚閃」 「虚・・・・・・閃・・・・・・」
「虚閃」 「虚閃」 「虚閃!」 「虚閃」 「虚閃」 「虚閃」 「虚閃!」 「せろ」
「虚閃!」 「虚閃」 「虚閃」 「虚閃」 「虚閃」 「セロ!」 「虚閃」
「虚閃」 「虚閃」 「虚閃」 「虚閃」 「虚閃」 「虚閃」 「ゼロ」 「虚閃」
「虚閃」 「せ・・・・・・ろ・・・・・・?」 「虚閃」 「虚閃!?」 「虚閃」 「虚閃」
「虚閃」 「虚閃」 「虚閃」 「虚閃」 「虚閃」 「虚閃」 「虚閃」 「虚閃」
それだけでは飽き足らないとでも言うように、次々と
数十秒後、ようやく彼らが
「・・・・・・?」「?」「?」「!」
奇妙な霊圧を感知し、彼らはクレーターの一点に目を凝らした。
すると、そこには―――素顔を黒を基調とした仮面で覆い、深緑色のローブを纏った正体不明の人間が立っていた。
「誰だろう」「誰だっけ?」「えーと」
「ワカラナイ」「聞いてみようよ!」「聞いたら、遊ぼう!」「遊んで、殺そうよ!」
小悪魔達は興味を抱き、一斉にその人物へと近づいた。
しかし、その人物はちらりとこちらを向いたかと思うと、倒れているなのはとフェイトを抱きかかえ、その姿を、空気の中に溶けこませるかのように消し去ってしまった。
「え?」「なにいまの!」「凄い!」「初めて見た!」
突然の現象に、プーカ達はざわついた。
特殊な方法や備え持った能力を利用して姿を消す
「な、何なんや一体!?」
プーカ達の群れに襲われていたはやて達の前に忽然と姿を現した仮面の人物。四方を囲むプーカ達を退け、三人の命をも救う。
困惑し警戒心を抱く彼女や恋次らを見据え、仮面の人物は両手に抱きかかえていたなのはとフェイトを引き渡した。
「なのはちゃん! フェイトちゃん!」
「二人ともだいじょうぶ!?」
急いで介抱に当たると、しばらくして二人が頭部を抱えながらようやく意識を取り戻した。
そして、今置かれている状況を理解し―――プーカ達から命を救ってくれた相手に恐る恐る素姓を問う。
「あなたは・・・何者なんですか?」
「僕の名は―――翡翠の魔導死神」
「えっ! 翡翠の魔導死神って、まさか・・・あの!?」
この場にいる管理局員全員が『翡翠の魔導死神』の名をどこかで伝え聞き、知識としては知っている。
神出鬼没、かつ鬼の如き強さで各世界で暴れ回る
そんな中、居合わせた者の中で唯一
阿散井恋次は身に覚えのある霊圧を感じると、眉間に皺の寄った鋭い眼光で問う。
「おいお前・・・どういうつもりか知らねえが、あいつらを一人でやるつもりか?」
「ええ。プーカ達は少し特殊な
仮面越しに呟くと、翡翠の魔導死神はプーカ達の元へ向かおうとする。
「ま、待ってください!」
そのとき、咄嗟に制止を掛けたのはなのはの声だった。
なぜ引き留める必要があったのか。自分でも不思議に思う中、当惑するなのはへと振り返った翡翠の魔導死神は若干優しい声色で語りかける。
「・・・君は休んでいるといい。心配しなくても5分でカタがつく。」
明確な勝利宣言をするとともに、翡翠の魔導師は『瞬歩』で群れを成して集まるプーカ達の元へと移動し、手持ちの直刀を用いた白兵戦で数に物を言わせる彼らを殲滅。
まるで風を切って見せるが如く―――目にも止まらぬ
彼こそは孤高にして最強の『狩人』だった。
「すごい・・・あれが噂に聞く翡翠の魔導死神の実力ッ!」
「まさに規格外の強さってヤツやな。私たちの出る幕がまるであらへんわ」
出る幕が無い―――確かにそうは言うが、正確に言えばこの表現には語弊があるように思えた。
翡翠の魔導死神は
(翡翠の魔導死神さん・・・・・・・・・どうか、無事でいてください)
力を持ちながら何もできないもどかしさ。寂寥感にも似た思いに駆られながら、なのははプーカ達と激闘を繰り広げる翡翠の魔導死神の安否を心中気遣った。
「キャハハ、この人強いね!」「おもしろよねー」
「さっきのお姉ちゃん達よりも遊び甲斐がありそうだよ!!」「だけど痛いのはヤダ!」
「お も し ろい」「Wrrrrrrrrrrrrr・・・・・・」「じゃあ、この人も殺しちゃう?」「殺しても死なないなら殺そうか」
無邪気だが本質は残酷極まりない会話を紡ぎながら、霊圧の濃い宙域を外側から取り囲むプーカ達。
翡翠の魔導死神の刃も届かぬ位置から、直径5キロに渡るクレーターの中心に立つ翡翠の魔導死神を包囲し、数十体のプーカ達は背中の翅を高速で振動させた。
彼ら以外には聞こえぬ『音』を互いに交わし合い、中心に霊圧のこもった声を通過させる。音は中心部で重なり合い、打ち消し合い―――その場に高密度の『粒子』の波を作り上げようとしている。
しかし、それが形を成そうとする瞬間、翡翠の魔導死神はこの戦いの仕上げとばかりに一際強い霊圧のこもった刃を、垂直に突き立てた。
「―――
そして、彼らに囲まれた翡翠の魔導死神の持つ刀から、黒ずんだ異形の物質が一気に噴き出される。
光を反射しない漆黒の『それ』は、凄まじい勢いで空中へと伸び―――己の中に、ありとあらゆる霊子を吸いこみ始めた。何も知らずに浮遊していたプーカ達は、根こそぎ霊圧の全てを『それ』の中に吸いこまれたちどころに消滅していった。
翡翠の魔導死神を境目として、空間を隔絶して黒い物質は非情なまでにありとあらゆる霊子を食い尽くす。
おどろおどろしい光景になのは達は揃って声を失った。いつの間にか耳障りだった羽音はすっかり消え去り、静寂の中―――クレーターの中心には翡翠の魔導死神ただ一人が佇んでいた。
戦いが終わり、なのは達は窮地を救ってくれた翡翠の魔導死神に面と向かって感謝の意を唱える。
「本当に危ないところを助けて頂き、ありがとうございました」
「礼なら要らないよ。君達が無事である事が何よりの救いだ」
「あの・・・あなたは『あれ』が平気だったんですか? そもそも『あれ』は一体何の魔法だったんですか?」
フェイトは先ほどなのはとともに受けた奇怪な現象―――魔法発動の阻害および自律神経の著しい乱れなどを引き起こした原因について、同じ技を食らっていながら平然としていた翡翠の魔導死神に話を伺う。
「さっきの『あれ』は振動系の基礎単一系魔法の一種で、プーカ達は翅を高速で羽ばたかさせる事で、『
「マギオン?」
聞き慣れない言葉に疑問を呈するマリエル。なのは達も『マギオン』という言葉を聞くのがこれが初めてだったらしく、まるで意味が解っていない様子だった。
「超心理現象の次元に属する認識及び思考結果を記録する情報素子―――それが『マギオン』と呼ばれる非物質粒子だ。魔導師は大気中の魔力素を吸収、体内に取り込んだ後、リンカーコア内部で元来保有しているマギオンで魔力エネルギーへ変換させ、それを消費する事で初めて魔法を行使出来るんだ」
「それはええんですけど・・・なんであのとき、なのはちゃんやフェイトちゃんが落ちなあかんかったんですか?」
「―――
「酔った? 一体何に?」
「魔導師はマギオンを可視光線や可聴音波と同じように知覚するんだ。それは魔法を行使する上で必須の技術だ。だがその副作用で、予期せぬマギオンに晒された魔導師は、実際に自分の身体が揺さぶられたように錯覚するんだ。その錯覚が肉体に影響を及ぼし、飛行魔法の発動も困難になる状態に陥った。催眠術で『火傷をした』、という暗示を与えられることにより、実際に火ぶくれが生じるのと同じメカニズムだよ。先ほどの場合は『揺さぶられた』という錯覚によって、激しい船酔いのようなものになったという訳だ」
淡々とした口調で語られる種明かし。しかし、なのは達は翡翠の魔導死神の説明では納得できない部分があった。
「で、でも・・・その話が本当だったとして、魔導師は普段からマギオンに触れているという事ですよね。魔法の発動時には取り込んだ魔力素をリンカーコアでマギオンに変換して使用する以上、体だってある程度マギオンに慣れている筈です。魔導師が立っていられないほどの強い波動なんて、一体どうやって?」
フェイトの推察は正しかった。魔法師は普段からマギオンに触れ、マギオンに脅かされている。だらこそ、マギオンの暴風にも体が慣れている筈と考えるのは至極当然である。
驚愕を露わにしているなのは達だったが、マリエルが逸早くひとつの答えを導き出した。
「波の合成、でしょ?」
「流石は本局の精密技術官でいらっしゃる。お見事です」
「マリーさん、どういう事ですか?」
「振動数の異なるマギオン波を連続で作りだし、複数の波がちょうどなのはちゃん達と重なる位置で合成されるように調整して、三角波のような強い波導を作り出したのよ」
「あの
驚嘆する事実に恋次が呆気にとられた声を漏らし、翡翠の魔導死神へと問いかける。
「プーカ達は、他の個体とは異なり集団にしてひとつの『個』を形成している特殊な
「そういう事か・・・だからあのとき、全体でもあり一体でもある連中を攻略する為に、命の共有が出来ないようにまとめてブッ倒す必要があったって事か・・・・・・はっ。まったく、つくづく恐れ入ったぜ」
唯一『翡翠の魔導死神』の正体を知る恋次は、目の前の男の底知れぬ用意周到さ、知識量、状況に合わせたかの如く用意された無数とも呼べる手数にただただ驚嘆するばかりだった。
「・・・少し長居し過ぎたかな。僕はこの辺で失礼するよ」
踵を返し、翡翠の魔導死神はなのは達の前から立ち去ろうとする。
「あ、待ってください! できればもう少しお話を・・・」
「折角だが断らせてもらう。こちらにも事情と言うものがある。ただ・・・ひとつだけ君らに言わせてもらいたい事がある」
そう言うと、今一度なのは達の方へ振り返り、翡翠の魔導死神は彼女達を見据えおもむろに語りかける。
「管理局の魔導師諸君。魔法とは手段であって、それ自体が目的じゃない」
聞いた瞬間、なのはは目を見開き驚愕を抱く。
彼女は以前にも、別の人物から同じ言葉を聞いた事があったのである。
「プーカ達が用いた魔法は規模こそ大きいものの、個体で使えば強度は極めて低い。だが、君達はその弱い魔法に足をすくわれた。魔法の精度を向上させる為の努力は決して怠ってはいけない。しかし、それだけでは不十分である事を肝に銘じてほしい。使い方を誤った大魔法は、使い方を工夫した小魔法に劣るんだ」
今回の教訓を確りと活かせ―――そう言わんばかりに
やがて、翡翠の魔導死神は、袖下に潜ませていた白布を自分の周りで高速で旋回させ、瞬時に遠くへ移動する「
*
第1管理世界「ミッドチルダ」
ミッド住宅街 高町家
午後9時33分―――。
任務を終え、自宅へと戻ったなのはは居間で一人、自家製のキャラメルミルクを飲みながら、翡翠の魔導死神が言っていた話を振り返っていた。
(あのとき、翡翠の魔導死神さんが言っていた言葉って・・・・・・―――)
入局1年目の秋頃―――。
武装隊士官候補生としての道を歩み始めたなのはは、無限書庫司書に正式になったばかりのユーノと最初で最後の模擬戦を行い、黒星と言う結果に終わった。
当初、なのはは慢心から来る自身の力を過信し、非戦闘要員であるユーノの力を見誤っていた。その結果、ユーノが繰り出す工夫を凝らした魔法の数々に翻弄され、間隙を突かれたところをアレスターチェーンの餌食となって撃墜された。
「ふぇーん! や~ら~れ~たぁ~!」
「だいじょうぶ、なのは?」
悔し涙を浮かべるなのはへやや息の上がった様子のユーノがおもむろに手を差し出した。なのはは苦笑しながらユーノの手を取り立ち上がる。
「にゃははは・・・完全に油断しっちゃった。ユーノくんがまさかあんな魔法を使うなんて思ってもいなかったよ」
「僕はなのはみたいに強力な魔法攻撃が出来るわけでも、大きな魔力を持つわけじゃない。だから知恵を絞って工夫するしかないんだよ」
「工夫?」
「なのはが毎日の訓練で魔法の精度を向上させている事は火を見るより明らかだし、僕やみんなもよく知ってる。その努力は決して怠ってはいけない。でもね、それだけじゃ不十分だって事も肝に銘じてほしい。使い方を誤った大魔法は使い方を工夫した小魔法に劣るんだ。現に僕がさっきなのはに使った魔法は規模こそ大きいものの強度は極めて低い。でも、なのははその弱い魔法に惑わされて僕に後れを取ってしまった」
「う、うん・・・」
魔法スタイルもあり、やや攻撃に偏りがちな自分を教え諭す師の言葉。
ユーノは朗らかな笑みを浮かべると、なのはに願いを込めて諌める。
「魔法は手段であって、それ自体が目的じゃない。それを忘れないでほしいな―――」
(あの言葉は・・・・・・ユーノ君と同じだった・・・・・・もしかして翡翠の魔導死神さんとユーノ君には何らかの繋がりがあるんじゃ・・・・・・)
このとき、なのははまだ気づいていなかった。
翡翠の魔導死神とユーノ・スクライアが全くの同一人物であり、四年に渡って追い求めていた面影がすぐ目の前にあった事を―――。
*
第97管理外世界「地球」
東京都 松前町 スクライア商店
同時刻―――。
ユーノは、広大な地下空間の一角に造られた研究室で演算機器のコンソールを叩き、一つのデータを画面上に呼び出し凝視していた。
「失礼します店長―――。」
一服入れようと、金太郎が気を利かせてお茶を運んできてくれた。
部屋中に得体の知れない機械がところ狭しと並べられ、無数のコードが乱雑に床を這っている。
足元のコードにつまづかぬ様に細心の注意を払いながら進み、無事にユーノの下へ辿り着いた金太郎は、巨大なモニターに映し出された内容を見て関心の声を漏らす。
「ほぉ・・・これが仰っていたものですな」
「あぁ。今カレドと共同開発している物なんだけど・・・何しろ性質が性質だからね。管理局法に抵触する恐れがある」
「ですが、現状の【
「《AEC武装端末》と《第五世代デバイス》―――その両方はなのは達がこれからの戦いで必要な力となる筈だ。」
モニター画面に映し出された二つの精密機械の設計図面。
一つは、AMFなどの魔法無効化兵器に対抗する為に造られた魔力駆動の兵器である巨大な砲撃型武装機械。
もう一つは、カレドブルフ社系とは異なるユーノ独自の変換技術を用いた「魔力無効状況でも魔力を魔法として使用できる」「魔力有効状況下でのさらなる強化」をコンセプトに設計された新型の魔導端末。
それら二つの兵器が、そう遠くない未来において魔導師達の間で広く使われる事となる汎用兵器となるのである。
「必ず完成させてみせるよ。アニュラス・ジェイドの名に懸けてね―――」
参照・参考文献
原作:都築真紀 作画:長谷川光司『魔法少女リリカルなのはA's THE COMICS』(集英社・2006)
原作:久保帯人 著者:成田良悟『BLEACH Spirits Are Forever With You I・Ⅱ』(集英社・2012)
教えて、ユーノ先生!
ユ「今日はロストロギアについての話だよ♪」
「次元世界には時折、進化しすぎた技術や魔法などが流出することがある。既に滅んだ世界からの発見、古代遺跡から発掘されたりと。正しく扱う技術が確立されていない莫大な力や、それを発生させる手がかりとなる技術や知識、物品。そういった危険な遺産を『ロストロギア』と総称している」
「ロストロギアは管理局によって管理・保管されており、管理局の中でも特に重要な仕事なんだ。ちなみに、僕も9歳の頃に『ジュエルシード』と言うロストロギアを発見しているんだ♪」
浦「いやぁ~、スクライアサンもなかなか隅に置けませんねー♪」
ユ「あれ浦原さん、急にどうしたんですか?」
突然飄々とした笑みを浮かべ現れた浦原商店店長・浦原喜助。扇子で顔を隠しながらにやにやと笑う理由は・・・
浦「実はつい先ほど、スクライアサンが活躍しているというDVDを見ていたんですが・・・まさかスクライサンにロリコンの趣味がおアリとは思いませんでしたねー」
ユ「ロリコン!? あの・・・何を勘違いされているんですか? て言うか何を見てそう言う結論に至ったんですか?」
浦「だってスクライサン、小学生の女の子と一緒に寝たりお風呂に入った事があるんすよ♪ バッチリ映ってましたよ」
そう言って浦原が見せたのは、『魔法少女リリカルなのは』の記録ディスク。このディスクには、問題の入浴シーンなどが描かれている。
ユ「だぁぁぁ!!! 違うんですよ!!! それは飽く迄も子供の頃の話であって、僕にもですねいろいろと事情があったんですよ!!!」
魔導師図鑑ハイパー!
白「私の名は白鳥礼二。護廷十三隊一番隊第三席のエリート死神・・・・・・なのだが」
独白をしながら、白鳥は率直な悩みを口にする。
白「私の華麗なる活躍が全く取り上げられないのは何故なのだ!?」
一「俺が知るかよッ!! つーかなんでお前が俺ん家に来てメシ食ってんだよ!?」
何故か黒崎家で食事を頂戴している白鳥に一護が当然の如く怒声を浴びせるも、特に気にせず白鳥は食事を続ける。
織「はいはぁーい! 白鳥さん、まだまだたくさんありますからねー。あ、コーヒーはどうしますか?」
白「無論頂こう。ミルクと砂糖は無しで頼むぞ」
一「って人の話を聞けよ!! 織姫もコイツに変に気を遣わなくていいから!」
織「でもあなた、白鳥さんなんだか最近元気がないみたいでね・・・・・・ほら、どうも私たちの近くにいるとどうしても
織姫の的を射た言葉を聞いた瞬間、白鳥は止めどなく涙を流し始め、赤裸々な気持ちを口にする。
白「なにゆえ私ばかりがこんな不憫な目に遭わねばならぬのだ~~~/// どうかお願いだから私のもっと出番を増やしてほしい~~~///」
一「おまえな・・・・・・」
果たして白鳥の活躍の機会が増える日はくるのだろうか・・・・・・。
次回予告
鬼「
シ「このままでは銭湯はおろか入浴すら叶わぬ。桃谷、風呂の邪魔をするあの
鬼「おっちゃー! ついに俺の力を見せる時が来たぜ!」
ユ「次回、ユーノ・スクライア外伝・・・『
登場魔導虚
プーカ
声:田村ゆかり、水樹奈々、植田佳奈、真田アサミ、清水香里、柚木涼香、一条和矢、斎藤千和、中原麻衣、井上麻里奈、高橋美佳子、他
百体以上から成る、類を見ない「群にして個」の魔導虚。名前の意味は「小悪魔」。
全個体共に姿はさほど変わらないが、背中から翅の生えた姿をしており、翅の形状は個体によって異なる。個体ごとに個別の意識を持ち意識の共有もしているが、全体の頭の中身は子供程度。時折遊び相手を見つけては壊れて動かなくなるまで遊び倒しており、作中では「目を付けられた力の無い者達にとって、彼らは日常の終わりを告げる悪夢の集団」と称されている。
全体で特殊な音波による「命の共有」という特性を持っており、1体1体が傷ついても他の個体が音波に乗せて霊圧を少しずつ分け与えることにより回復させることができる。
大虚(メノスグランデ)特有の霊圧の集中された破壊の閃光「虚閃(セロ)」を撃つことも可能であり、一発一発は通常の虚閃と変わらないものの、集団で一斉に放ってくるためすさまじい破壊力となる。また、翅を羽ばたかせる事で振動系単一系魔法の一種であるマギオンの波を作り出す。マギオンの波同士を合成する事で魔導師の魔法発動が困難になる程の威力となる。
プラスターで起こった巨大爆発を調査する為にやってきたなのは達を「遊び相手」と称して襲撃。一時はなのは達を追い詰めるが、突如現れた翡翠の魔導死神の手にかかり一匹残らず駆除された。
名前の由来は、ケルトの神話・伝説に伝わる妖精(フェアリー)あるいは妖魔の一種。