新暦079年 4月13日
第1管理世界「ミッドチルダ」
ミッドチルダ中央南駐屯地内A73区画
機動六課隊舎 隊員寮 男性バスルーム
「風呂だぁぁ―――!!」
ザポーン!! 血気盛んに湯船へと飛び込む桃谷鬼太郎。
彼は大の風呂好きで、おやつのプリンを至上の喜びと表すのならば、風呂とは鬼太郎にとって日々の憂さとともに疲労一切を洗い流してくれるリフレッシュタイムだった。
「ぶっぱー!! やっぱ日本人は風呂に限るなー!!」
「オマエな・・・」
「あ?」
隣から怒気を孕んだ者の声がしたと気付いたとき、全身ずぶ濡れと化し髪がくたっとなっている恋次が怒髪天を突く。
「人がゆっくり湯に浸かってると思ったら何してくれるんだよッ!!」
「げっ! まさか恋次が俺よりも先に風呂に入ってるなんて・・・・・・バカヤロウ!! 一番風呂はこの俺だろうが!!」
「馬鹿言ってんじゃねえ!! どう見ても一番風呂に入ってたのは俺だろうが!!」
「いいや誰が何と言っても一番風呂は俺だ!!」
一番風呂に何かとこだわる二人。奇しくも恋次もまた鬼太郎と同じく風呂好きであり、似た者同士激しく火花を散らし合う。
熱気に包まれる大浴場。しかしてそれは湯の熱だけでなく、この二人から醸し出される熱も相まっている。
後から利用しようとやってきた局員の多くは忽ち困惑し、利用しあぐねていた事など二人は露知らず。
「どうしても譲る気はないみたいだな!?」
「仕方が
「望むところだコンチクショウ!!」
ヒートアップした二人は一旦湯船を出ると、何故か滑りやすい足場で取っ組み合いの喧嘩を勃発させた。
実に短絡的で子供染みた二人の行動に吉良と浦太郎は辟易し、エリオは終始苦笑をしながら体を洗っていた。
「やれやれ・・・たかが風呂の順番でどうしてあそこまでムキになるんでしょうか」
「結局はあの二人も似た者同士だからね」
「でも何だかんだ言って仲イイですもんねあの二人」
「「誰が仲がいいって!!」」
聞き捨てならないと言わんばかり、取っ組み合いをしていた二人が声を揃えてエリオの言葉に噛みついた。
「うわあああああああ!!!」
思わぬところで息の合った二人が間近へと寄って来るや、エリオはあまりの迫力に臆して台座から引っくり返りそうになった。
「おいエリオ、あんましふざけた事ぬかしてると火傷じゃすまさねえからな!」
「す、すみません・・・ただ客観的に見てそう思っただけでして」
「客観的に見たらわかんだろう!! どう見ても喧嘩してんじゃねえか俺ら!?」
「でも地球には『喧嘩するほど仲がいい』という
「「俺たちにその諺は該当しねえんだよ! よく覚えてとけッ!!」」
「とか言いながらも息ピッタリだし」
「少なくとも似た物同士である事は自覚した方がいい気がする」
「キャアアアアアアアアアアアアア」
突如として、浴場の外から絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえてきた。
「な、なんだ!?」
ただ事ではないと直感した恋次達は慌てて浴場を飛び出した。
悲鳴が聞こえてきたのはロビーからだった。恋次達が駆け付けた時、スバルやキャロなどが何かに怯えた様子で身を寄せ合っていた。
「どうした!? 何があった・・・!」
と、恋次が声をかけた瞬間―――
「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」」」
再び空気を震わせるような悲鳴を上げる女性陣。
そして、直後にはやてが恋次を指さして言い放った一言に戦慄が走る。
「しししし、死体が歩いとるッ!!!」
「誰が
「で、でもそこの
「棺桶だぁ?」
「それに僕の死体もだって!?」
恋次だけならいざ知らず、吉良までもが死体扱いされるのはおかしい。
気になった二人は女性陣が恐怖する対象―――何故かこの場にあるのはあまりに不自然過ぎる二つの棺の中を確かめる事に。
小窓を覗くと、血色の無い死に顔の恋次と吉良の肉体が納まっている。しかしよく見ると、その死体は死神にとってごく見慣れた物であると判明した。
嘆息を吐き、恋次は自分達を死体扱いしたスバル達に軽く手刀を叩き込み、誤解を抱く彼女達へ弁明した。
「バカヤロウ! これは死体じゃなくて
「ギガイ・・・?」
「って、なんでしたっけ?」
「この前説明したばっかだろう! 俺ら死神が現世で活動する為の仮の肉体だよ!」
死体の正体は義骸だった。義骸には恋次が説明した用途以外に、極度に弱体化した死神が力の回復を図る為の機能が備わっている。弱体化した死神は
閑話休題。義骸の送り主はどんな趣向でこのような事をしたのかは分からない。少なくとも本物の死体でないと分かった途端、女性陣は忽ち安堵の息を漏らす。
「な、なんだ・・・・・・びっくりした~」
「最初見たときは本当にお二人が死んじゃったものかと思いました」
「だから勝手に殺すんじゃ
「それにしても誰がこんな悪戯を? なぜ僕たちの義骸が棺なんかに・・・」
不思議に思っていた折、ふと恋次が棺の中に納められた自分の義骸を凝視し、枕元に置かれていた手紙らしき物を発見した。
「なんだこりゃ?」
手に取ってみると差出人が書かれていない便箋だった。
恐る恐る中を改めると、あまりに意外な人物から寄せられたメッセージが書かれていた。
『阿散井恋次さんと吉良イヅルさんへ あなた方二人にささやかながら僕からのプレゼントを送ります。大事に使ってください。 翡翠の魔導死神』
「これって・・・翡翠の魔導死神さんからのプレゼント!?」
「恋次さん達と翡翠の魔導死神さんって、お知り合いだったんですか?」
「え、えっとその・・・知り合いと言えば知り合いになるんだろうけど・・・」
「あの野郎ッ・・・・・・」
回答に苦慮する吉良の隣で、恋次は何の前置きも無く唐突なサプライズを企画した翡翠の魔導死神、もといユーノの突飛な行動に怒り心頭。
彼直筆の手紙を片手の握力だけでくしゃくしゃに丸めこんだ。
風呂上り、部屋に戻った恋次は直ちにユーノへ抗議の電話を入れた。
『いやー、気に入ってくれました? 僕からのプレゼントは♪」
「あれのどこがプレゼントだって!? 人の体で弄ぶような真似しやがって! お前もスカリエッティって呼ばれたいか!!?」
『ありゃりゃ・・・・・・驚かせようと思った取って置きのサプライズのつもりだったんですが、逆効果でしたか』
「驚きっつーか
『おかっしいな~。僕の中ではかなりハイセンスなアイディアだと思ったんですが・・・・・・わかりました。じゃあ次回からはもっと普通の趣向でいきたいと思います♪』
「おまえの言う普通ってのがイマイチ信用ならねえんだが・・・つーか次回は送ってこなくていい!! 大体だな、義骸ならもう用意してあるのになんでわざわざ別のを送ってくる必要があるんだよ?!」
ミッドチルダへと渡る際、恋次も吉良も事前に
ゆえに今回のユーノのはた迷惑な趣向の元に送られてきた義骸の用途が、全く分からなかった。
『フフフ・・・。僕が何の意図もなくあのような真似をしたとお思いですか? 実は今回お送りした義骸は特注品でしてね、アレを着るだけで魔力を持たない死神でも魔導師との
「思念通話って・・・頭の中で会話のやり取りするアレか?」
『
「そりゃ着てるときはいいけどよ・・・着てねえときはどうするつもりだよ?」
『あ・・・・・・盲点でしたね♪』
「そこ一番大事だろうが!! アホかおまえ!!」
思わず怒鳴りつける恋次。電話越しのユーノはこうした彼のリアクションも考慮しながらワザとに言って一人楽しんでいた。
『なーんて冗談ですよ♪ 一回着れば死神化した際にも効果は持続します。この僕にぬかりはありませんよ!』
「なんかウソ
『まぁここは騙されたと思って着てくださいよ♪ ユーノ・スクライアからの、お・ね・が・い・・・です♡』
「っておい、ただでさえ女みたいな顔つきなのに声色まで女みたいにすんなよ気持ち悪い!! わかった、わかったよ! しょうがねえから着てやる! その代り二度とあんな悪趣味なことすんなよ」
『
え・・・? 一瞬思考が停止しかけた恋次。
聞き違いなどでなければ、ユーノは間違いなく自分の給料から天引き―――すなわち、商売として義骸を売りつけたと宣言したのだ。
「ちょ、ちょっと待て!! あれってプレゼントじゃねえのかよ!? おいユーノ!!」
ブツッ・・・。ツー・・・。ツー・・・。
慌てて問い詰めようとした直後に先方から切電された。ちょうど伝令神機の電池も切れた為、リダイヤルは不可だった。
呆然自失と化す恋次。だがその直後から急速にユーノへの怒りが込み上げ、しばらくの間を置くと大声で唸り散らす。
「ざけんじゃねえぞあの優男ッ!!! 今度会ったらマジでぶっ殺してやるぅぅ!!! ユーノ・スクライアァァ!!!」
夜更けに響き渡る恋次の怒声は、さながら満月に向かって吠える野良犬の咆哮を彷彿とさせるものだった。
*
ジェイル・スカリエッティ 地下アジト
ラボの巨大モニターへと映し出される、とある映像を凝視するスカリエッティと四人の戦闘機人達。
先日のプラスターにおけるプーカと翡翠の魔導死神との戦いの様子もまた克明に記録され、得られたデータを元に反省点を模索していた。
「ふむ・・・。プラスターで発見されたアンゴルモアを回収する為にプーカ達を派遣したはいいが、やはり統制の利かない出来損ないでしかなかったか」
「奴らは人造魔導師実験のモルモットにされて死んだ子供の魂魄を“
「確かにトーレの言う事も一理ある。だが、戦力としては実に申し分ない成果を残してくれた。出来損ないとは言え実にいいデータが取れたよ。クアットロもアンゴルモアの確保に努めてくれてありがとう」
「ドクターの為ですもの~。このくらいへっちゃらですわー」
クアットロは先のプラスターでの大爆発を引き起こした元凶―――
「クライアントもアンゴルモアに関しては特に力を入れよと口を酸っぱくしているからね。機動六課の手に渡る前に出来るだけ多くを回収しないと。無論、私個人の研究の為にもね―――」
「しかし、だからと言ってアレを野放しにしていてもいいのものでしょうか」
ここにスカリエッティの方針や意向に苦言を呈する者が一人いた。
機人四天王の一人にして、唯一の男性型個体―――ナンバーズの刻印を持たない《空白》を意味するコードネーム《ファイ》が、おもむろに指摘した。
「翡翠の魔導死神・・・―――これまで幾度にも渡り我々の邪魔をしてきた有害異分子。あのプーカ達ですら造作も無く倒してしまう程の脅威を、ドクターは眼を瞑って見逃すおつもりか?」
「うむ・・・君の言う通り、彼の力は我々にとって脅威だ。しかしそれ以上に利用する価値もまた十二分にある。上手くいけば我々の野望遂行の潤滑油となってもらえるかと思うんだが・・・どうだろう?」
聞いた途端、ファイは乾いた表情を一切変えず後ろへ振り返り、スカリエッティへと背中を向けた。
「ドクターの意見には賛同しかねます。奴は明確に我々にとっての敵。邪魔者は早急に排除せねばなりません」
そう言い残して、ファイは一人ラボから出て行った。
「こらファイ!! まだ会議の途中だぞ!! 戻って来いファイ!!」
会議を飛び出し独断行動を取るファイへ制止を求めるトーレだったが、彼女の言葉など聞く耳持たず。早々に姿を眩ませた。
「全く・・・あいつには協調性というものが無い。おまけに生みの親であるドクターに対しても敬意などまるで皆無に思えてならない」
「仕方ありませんわお姉様~。あの子、生まれたときからずっとあんなですもの~。」
「ドクター、いかがなさいますか? あの子を放っていて大丈夫でしょうか?」
「構わんさ。皆自分の好きな様に行動するべきだよ。私も自分の子供とも言うべき君らにとやかくと命令を出すのは好きではないからね。ナンバーズの刻印を持たない彼がこの先どんな行動を取るのか、ゆっくりと観察させてもらおうじゃないか。フフフ・・・フフハハハハハハハハ!!!」
響き渡るスカリエッティの高笑い。
彼にとって重要なのは、常に体の
*
ミッドチルダ都内 某スーパー銭湯
夜9時を回った時分。
警邏隊のパトカーと救急車輛が複数台停車しており、辺りは騒然と化していた。
何があったのかと野次馬の誰かが尋ねれれば、この銭湯の中で極めて有毒な異臭が発生し、利用していた者が数名意識不明に陥ったとの事だった。
現在、地元警邏隊が経営者から詳しい事情を聴取していた。
「お客さんからサウナからもの凄い臭いがすると言われ、実際に男性浴場を確かめてみたら、そりゃヒドイのなんのって・・・! 鼻が曲がるなんてもんじゃなかったですよ!」
「そんなに臭かったんですか?」
「ありゃこの惑星の臭いじゃ無かったです!」
「確かに離れた場所からでも臭って来るな・・・この臭いはそうだな・・・・・・腐ったタマゴを更に腐らせたような臭いだ!」
「一体誰が劇物をサウナの中に入れたんだ!?」
スメルハラスメントや悪臭被害と訴える者もいれば、大規模なテロ事件だと根拠も無く吹聴する者さえ出始める騒ぎとなった。
臭いの原因は生物兵器か。それとも強烈な悪臭を放つ動物の死骸か。
だがしかし、我々は見落としていた。臭いの原因はもっと根本的なところにあった事を。
「や・・・ヤバいな~・・・・・・」
ここに一人の中年男性が居た。
名をスラング・アラバスター(35)―――管理局地上本部出入りの嘱託魔導師。彼は部類の風呂好きであり、銭湯の一番風呂に入るのが日課だった。
だが彼には人に打ち明けられない深刻な悩みがあった。それは人並み以上に体臭がキツイという事だった。
もう察してくれた事だろう。此度の異臭騒ぎはこの男が出した体臭によるものだった。彼の体臭は言うならばクサヤの臭いに届くか否かという領域にさえあった。
既に何度もこの銭湯を利用しているアラバスターだが、不幸にもその日銭湯側は換気システムの総点検を行っていた。これが災いしてサウナに入った瞬間、同じ環境に居た利用者が悪臭被害を訴えた―――これが事の顛末だった。
思いのほか騒ぎが大きくなったのを物影で秘かに窺っていたアラバスターは、逃げるように着の身着のまま銭湯から退散した。
帰路に就く途中、アラバスターは腹の虫が収まらず苛々を募らせる。
「チクショウめ! 何が異臭騒ぎだよ。確かに俺の体臭はクセーよ、自分でもイヤになるくらいな。でもな、何もそこまで言うことは
体質的な問題を指摘されてはどうにもならない。このまま騒ぎが広がり自分の体臭のキツさが世間に露呈すれば、彼にとっての安息の場は失われかねない。
「あ~あ。どこかに誰の目も気にせずにゆっくり浸かれる風呂は
「その願い、叶えてやろうか?」
唐突に聞こえてきた声に反応するアラバスター。
電灯が突然暗くなったと思った直後、暗闇から不気味な人影が姿を現した。
思わず息を飲むアラバスター。おもむろに歩み寄って来たのは、若干口元が緩んだ機人四天王―――ファイだった。
「だ、誰だおめえ!?」
「驚かせてしまったかな。そんなに風呂が好きなら好きなだけ浸かるがいい」
「なに?」
「これを受け取るがよい」
言うと、ファイが
「うっ・・・うわああああああああああああああああ!!!!!!」
嘗て経験した事の無い恐怖に駆られ、アラバスターは柄にも無い悲鳴を上げた。
◇
4月17日―――
次元空間 時空管理局本局 本局運用部
本局と機動六課との往復を行う時空管理局提督クロノ・ハラオウン。
今日は上司であり統括管理官を務める実母・リンディにこれまでの経緯をまとめて報告する為、本局へと足を運んだ。
「死後の世界からの来訪者に
机の上で両手を組んだまま物思いにふけるリンディの顔が、どこか険しく見えた。
クロノは目の前の母親の気苦労を理解しつつ、ありのまま
「死神と名乗った黒衣の二人組・・・・・・阿散井恋次氏と吉良イヅル氏の話によれば、
「・・・
「それと―――」
「何かしら?」怪訝な眼差しでリンディは難しい顔を浮かべるクロノへ問いかける。
「聞くところによると、どうやらミッドチルダに
「翡翠の魔導死神が・・・!?」
その名を聞くや、目を見開き若干声色も高くなるリンディ。
当然である。今や《翡翠の魔導死神》の名は全次元世界へと知れ渡り、管理局にとってもその存在を無視出来ぬものになりつつあった。
クロノは吃驚するリンディに自らの主観を交えた報告を続けた。
「彼らがどのような経緯で翡翠の魔導死神と出会ったのかまでは聞き出せませんでしたが、先の観測指定世界『プラスター』で
この数日の間でわかり始めた翡翠の魔導死神に関する新情報。
何カ月ものあいだ管理局の捜査部が必死になっても掴みあぐねていた一件が、死神との邂逅以来急速に分かり始めて来ているという皮肉な展開にリンディはより一層眉間の皺を深く寄せた。
「死後の世界からやってきた死神・・・悪霊の変異体・・・スカリエッティとアンゴルモア・・・そして翡翠の魔導死神・・・・・・私たちの世界は一体どこへ向かおうとしているのかしらね」
重い溜息を吐き、一重に世界の行く末を憂うリンディ。
机に置かれたまますっかり冷めてしまった砂糖とミルクたっぷりのお茶、通称【リンディ茶】を手に取ると、心を落ち着かせる為にゆっくりと啜るのだった。
*
第1管理世界「ミッドチルダ」
機動六課 ミッドチルダ地上本部
「あ~・・・喉が渇いた」
渇いた喉に潤いを与える為に蛇口を捻る鬼太郎。
しかし、いくら捻っても水は一滴たりとも出てこない。
「あれ? おかしいな・・・断水か?」
恐る恐る蛇口の先を覗き込んだ、次の瞬間―――
詰まっていた水が噴き出し、鬼太郎の顔面目掛けて強い水圧の水がドッとかかった。
「どああああ! ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい!! うぉぉーい!! 誰かどうにかしてくれ!!」
止めるに止めらなくなった。水はより勢いを増して噴き出し続ける。全身びしょ濡れの鬼太郎はこの不測の事態を一人では解決できず、必死に助けを乞う。
その願いが通じたのか、たまたま通りかかったスバル達が事態に気づき、慌てて駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか鬼太郎さん!」
「どうしたんですか!?」
「見りゃわかんだろう! 水が止まらなくなっちまったんだよ!!」
嘗てない程に周章狼狽する鬼太郎。
ふと。キャロが水飲み場近くに立てかけられていた立札を見ると、ミッド文字で『修理中のため使用厳禁』と書かれていたのに気付く。
「あの、そこの『修理中』って書かれた札見なかったんですか?」
「修理中だぁ!? チキショウーだったら日本語で書けよ!! こっちの文字は複雑でまだ覚えられてねえんだ!!」
ミッドチルダに滞在してちょうど一週間になるが、未だミッドチルダで使われている文字の習得に難儀していた鬼太郎にとって手酷い仕打ちだった。
「どうしたんですかー」
そこへ騒ぎを聞きつけたリインフォース
「リイン曹長、ちょうど良かったです。この水を止められますか?」
「お安い御用ですよ!」
自信満々に胸を軽く叩くと、リインは魔道書型ストレージデバイス『
「“
刹那、設置型凍結魔法が発動。その効果により蛇口を対象として周辺の水分が瞬間凍結。水の勢いは立ち所に弱まった。
「お見事ですリイン曹長!」
「これくらいわけないのですよー」
称賛の言葉をかけられ誇らしげなリインとは裏腹に、全身水浸しの状態から氷漬けにされた鬼太郎は、急激な体温の変化についていけず風邪を引いた。
「へ、へ、へっくしょん!! チキショウ~、なんで俺がこんな・・・」
「自業自得ってヤツだよ」
「修理中の状況をさらに悪化させるなんて先輩にしかできないよね」
「さっさと風呂に入ってこい」
「言われなくても・・・そうさせてもらうぜ・・・ハ、ハ、ハックション!!」
冷たく足蹴にする恋次達の言葉が酷く胸に突き刺さるも、鬼太郎は冷えた体を温めるために重い足取りで浴場へと向かった。
その後、ロビーで休憩を挟んでいた折、恋次が何の気なく思った事について吉良と浦太郎に投げかけた。
「つくづく思うんだが・・・鬼太郎ってここへ連れて来た意味あったのか?」
「僕に言われても困るよ」
「浦太郎はアイツとは付き合い長いんだろう?」
「長いと言っても3年ちょっとくらいでしてね。ま、先輩がクルクルパーなのは見ての通りですし、今さらあの出来の悪い頭をどうにかしろと言われても無理ですから♪」
本人の居ない前だと余計に
やがて、吉良が以前から気になっていた鬼太郎の素性における疑問点―――死神の力を行使できる点について言及した。
「まぁ、普段の鬼太郎くんは兎も角として・・・あれでも一応死神の力を持っているわけだろう。という事は、やはり彼の両親も死神だったのかい?」
「あぁその辺に関しちゃ僕もよく分からないんですよ。店長から聞いた話だと、先輩の両親は幼い先輩を残して早くに他界していて、以来京都でお茶屋を営んでるおばあちゃんに育てられたそうですから」
「へぇ~。あいつって京都育ちなのか・・・の割には品性の欠片も
「君が言うんだ」
「うわあああああああああああ!!!」
突如として隊舎へと悲鳴が響き渡った。
聞こえてきた鬼太郎の悲鳴に三人が耳を傾けた時、バスタオル一丁で着の身着のままの鬼太郎がやって来た。
「臭っ!! なんだよこの臭い!? チョー臭っ!!」
ひどく動揺し、しきりに体の臭いを嗅ぐ鬼太郎が恋次達へと駆け寄った。
その瞬間、三人はこれまでに体験した事の無い悪臭に思わず鼻が曲がりそうになった。
「だああああああ!!! クサい!!」
「こっち来んなよてめえ!!」
「突然シャワーのお湯がクサくなったんだよ!! ほらほら!!」
「や、やめるんだああああ!!!」
「「うえええええええええええええええ!!!」」」
傍にいるだけで不快感を誘う悪臭。恋次達は神経をおかしくする強烈な臭いに発狂寸前だった。
*
ミッドチルダ南部 とある老舗銭湯
夜天の書の守護騎士・ヴォルケンリッターの将にして、機動六課ライトニング分隊所属、副隊長シグナムは、本日オフシフトだった。
久しぶりのオフを満喫しようと、彼女が向かったのは自宅近くにある行きつけの銭湯だった。彼女もまた風呂を愛する者の一人だった。
ところが、そんな彼女は信じられない光景を目の当たりにして愕然とした。
いつもなら開いている筈の銭湯の扉にミッド文字で、『誠に勝手ながら
「・・・何・・・・・・・・・・・・だと・・・!?」
青天の霹靂。あまりのショックに絶句し風呂桶を落とす始末。
「はぁっ!? ここもかよ!」
すると、後ろから聞き覚えのある声がした。
我に返った彼女が振り返ると、赤いジャージ姿の鬼太郎が風呂桶を持ちながらシグナム同様驚愕の顔を浮かべていた。
「桃谷・・・これはどういうことだ!?」
「こっちが聞きてーよ!」
奇しくも風呂好きの二人へと襲い掛かった災難。
困惑していた折、ちょうど店の中からバケツとモップを持った銭湯の主人が出てき、店の前で立っていた二人を見るや、罰が悪そうに声をかける。
「いやぁーすまねーなー・・・ご覧のとおりよ、臨時休業なんだよ」
聞いた直後、二人は店主へと詰め寄り、形相を浮かべながら鬼気迫る勢いで問い質す。
「どういうことだよオヤジ!? 説明しろってんだ!!」
「私も納得がゆかぬ! なぜ臨時休業なのだ!? ここの一番風呂を楽しみにしていたのだぞッ!」
「お、落ち着いてくれ! ワケはこれだよ! 水が急に臭くなっちまったんだよほら!」
店主が差し出したバケツ。その中に入った水の臭いをかいだ瞬間、二人はあまりの激臭に鼻を抓んだ。
「なんだ・・・このニオイは?!」
「俺と同じ洗ってねえ雑巾みたいな臭いがする! くそー・・・臭いが取れないから来たのに臨時休業にされちゃたまったもんじゃねぜ!」
「なんだ、兄ちゃん家の水も臭うのか!? こんな感じか?」
「だぁぁぁぁ!! そのバケツを近づけんじゃねえよ!!」
「いったいどうなってしまったのだ?」
*
ミッドチルダ全域で突如として発生した異臭騒ぎ。
その原因となっているのは、すべて日常生活で使われている水であり、各地にあるプールや銭湯と言った商業施設を始め、飲食店、サービス施設、あらゆる所で甚大な被害が及び始めていた。
『えー・・・事態を重く見たクラナガン水道局は、原因究明の為、一時的に全ての水道の本管を封鎖。人民への水の供給が断たれました』
僅か数時間―――各地で同時多発的に発生した奇怪現象は、テレビの報道を通じて、全世界へと配信される大事件へと発展するに至った。
≡
機動六課隊舎 ミッドチルダ地上本部 総合司令室
今回の奇怪な出来事について、機動六課ではアンゴルモアまたは
「街中至るところで水が臭くなるなんて・・・」
「これってどう言う事なんでしょう?」
「水道局に問い合わせてみたところ、二、三日前から各地で同じ現象が報告されていて苦情が殺到してるみたいなんですが、臭いが発生する原因究明には至っていません」
「各水道局の上下水システムも全く異常は無いそうです」
「こんなんじゃ、しばらくトイレも使えねーな。臭いもん出したそばから余計に臭くなるんだからよ!」
「阿散井くん・・・そういう事は別に言わなくてもいいと思うけど」
恋次の言ったジョークに周りからの非難の籠った冷たい視線が向けられる。
思わず苦笑する恋次。すると司令室の扉が開き、脱臭スプレーをやたら無暗に体へと吹きかける鬼太郎が入ってきた。
「ダメだ・・・ぜんぜん臭いがとれねえよ!」
鬼太郎が入った途端、司令室全体へと蔓延する悪臭。臭いを嗅いだメンバーは臭いを放つ鬼太郎から極端に遠ざかった。
「うぅ~~~臭っ!!」
「鬼太郎さん・・・いったい何日お風呂入ってないんですか///」
「バカヤロウ! 俺は毎日1時間かけて風呂に入ってんだよ!!」
「でもこの臭いは確実に『悪臭防止法』に抵触します・・・!」
「いいや、最早公害レベルだ!!」
早急に鬼太郎の臭いをどうにかしなければ仕事も手に付かない。
そこで急遽、六課メンバーは「歩く悪臭発生装置」と化した鬼太郎の為に、あらゆる手を講じる事にした。
「はい先輩、これ持って!」
鼻栓で鬼太郎から漂う臭いを防ぎ、浦太郎がある物を持たせる。
全員が露骨に嫌そうな顔を浮かべる鬼太郎を見守る中、当人は体の至るところに生姜を吊るされ、「脱臭」と書かれた鉢巻を巻かれ、剣と盾に見立てた謎の生姜グッズを持たされている自分の醜態振りに辟易する。
「おい・・・これで俺何倒しに行くんだよ・・・!」
「臭みを取るには生姜が一番です!」
「おっほん! ちなみにこれは豆知識やけど、生姜にはジンギベロール、セスキテルペンいう臭いを消す成分が含まれておってですね・・・」
「だぁぁもう!! んなの根本的な解決にならねぇよ!! つーかお前ら揃いも揃って俺から離れ過ぎだろ!!!」
「でも臭いもんは臭いんだよ」
「現状では水質異常は全く見受けられませんし、地上部隊の特捜班も正攻法じゃ原因がまるで掴めていませんし・・・そうなるとやっぱり今回の突然水が臭くなった怪奇現象の原因は、
ピピピピッ・・・。まるでタイミングを見計らったように、恋次が持つ伝令神機が
「間違いなさそうだな」
確信を持った恋次がシャリオに端末を預ける。
キーボードを素早く叩き、シャリオが出現場所をモニター画面に映し出すと、そこは市街地から数十キロ離れた山奥にある湖を示していた。
「オパラ湖ですね。あれそういえば・・・たしか異変のあった別の地域の近隣にも湖があったと思います!」
「え!? シャーリー、それ本当なの?」
吃驚するなのは。詳しく状況を説明する為、シャリオは手元のコンソールを叩きながら異変地域の場所と周辺の湖の位置をモニタリング。
すると彼女の言った通り、異変のあったポイント近郊には必ずある特定の条件を満たした湖が存在している事が判明した。
「これまで異変のあった地域の湖を結ぶと、ある一定の大きさ・深さのある湖を移動している事が解るんです!」
「それって温泉巡りみたいなもんか?」
「温泉?」
確かにあながち間違いではなさそうだ。
「ざけんじゃねえぞ!」
これを知った瞬間、鬼太郎とシグナムの二人の怒りの炎は一気に燃え上がった。
「
「人の心の安らぎを妨げるような無粋な輩をこれ以上好き勝手にはさせぬ!! 桃谷、共に風呂を汚す無粋な
「おうよ!! 俺だって三度の飯とプリンの次に風呂は大好きなんだ。例えお天道様が許してもこの俺様が許さねえ!!」
煌々と目に見える程の怒りの炎。両者の霊力と魔力が共鳴し合い、凄まじい熱気が司令室一帯へと広がった。
「な、なんかシグナム副隊長と鬼太郎さん・・・妙に息が合ってますね」
「いやー・・・風呂好きの恨みはこわいわー」
あまりにも温度差を感じるメンバーは何と声を掛けたらよいか分からず、臆した様子で呆然とするばかりだった。
*
ミッドチルダ北部 オパラ湖
水の変質した原因が
今回調査及び発見時の殲滅を担うのは、シグナムを筆頭にエリオとキャロ、恋次、吉良、浦太郎、そして鬼太郎の七人編成。
霊圧の中心部である湖畔を目指して移動を進める一行。
すると、恋次は鬼太郎が身に付けている
「つーか鬼太郎・・・なんだそのダセー格好は?」
「ダサいって言うなよ! シャーリーが俺の臭いを取る為に特注で作ってくれたプロテクターなんだぞ!! しかもこのデザイン・・・チョー格好いいだろう!!」と、本人は非常に気に入っている様子だが、周りの反応は微妙だった。
「た、確かにさっきに比べれば大分臭いは取れてるみたいですが・・・果たしてカッコいいでしょうか?」控えめな言葉でエリオが怪訝する。
「先輩の美的センスはナンセンスとしか言いようがないよね」バッサリと浦太郎が心無い言葉で否定する。
「もう直ぐ湖の畔だぞ」
問題の湖まで残り1キロと言う所まで迫った次の瞬間―――それまでの道中ほとんど臭いらしい臭いを感じていなかった七人へと襲い掛かる強烈な異臭。嗅いだ途端、全員涙を流し、一斉に鼻を抓んだ。
「くぅ~、しかしヒデー臭いだなこれは!!」
「昔ばあちゃん家の裏庭にいたシマヘビとかアオダイショウのニオイがする!」
「違います。洗ってないザリガニの水槽のニオイですよ!」
「これは多分、有機溶媒のピリジンをより強烈にしたニオイですよ! 私もよく分かりませんけど・・・」
「いや。これはね・・・洗わないで放置した柔道着を詰め込んだカバンを開けた時のニオイだよ!!」
聞いているだけでどれだけの臭いかがよくわかる。
森を抜けると、一行が目撃したのは―――タツノオトシゴの様な仮面と背と頭頂部に
「間違いない。アレが臭いの原因だよ」
「でもこれだけの臭いを放つ生物もなかなかいませんよね」
「キャロ・・・関心してる場合じゃないって」
「ヤロウふざけたマネしやがって!!」
堪えていた感情が一気に溢れ出す。鬼太郎は、ステンチイピリアへと近づくなり、鬼のような形相で
「おいお前っ! ちゃんとかけ湯してから入りやがれ!! マナー違反もいいところだぞ!!」
「いやアイツに風呂のマナー守れって言ってもしょうがねえだろう・・・」
「しょうがねえだと!? 相手が人間だろうが
「いやお前京都で育ったんじゃねえのかよ・・・」
と、恋次が真顔で指摘を入れた直後。
鬼太郎から注意を受けた事で気分を害したステンチイピリアが湖から立ち上がる。このとき、淀み切った湖の水が勢いよく舞い上がる。
次の瞬間、鬼太郎目掛け鼻先から黄色い高圧水流・ポリューションショットを勢いよく放った。
「だああああああ!!」
間一髪のところで直撃を避けたものの、鬼太郎は放たれた技の威力と頭痛を引き起こす程の強烈な異臭に手を焼いた。
「クッセ~~~!!! コノヤロウどこまでも人を馬鹿にしやがって!!」
すると、ステンチイピリアがおもむろに湖から移動を開始した。
ゆったりとした足取りで移動するステンチイピリアの進路を目で追いながら、シグナムは総合令室へと連絡を繋ぐ。
「シャーリー、あの
『今までの進行ルートや湖の大きさなどを鑑みて、次点確率を設定した結果・・・次は湖じゃありませんね』
「どういう事だよ?」恋次も気になって問い質す。
『恐らく、ナイトロダムに向かう確率が一番高いですね』
「ナイトロダムと言ったら、確かクラナガンの水源の多くを担っている場所ですよ!」
「ミッドだけじゃない。あの
「おのれ
「シグナム!! 銭湯の平和を取り戻して、きれいさっぱり洗い流してやろうぜ!!」
「よくぞ言った桃谷! いざ、共にいかん!!」
風呂好き二人の正義が一致した。
二人は愛刀を手に、移動を始めたステンチイピリアを追って全力疾走。恋次達も彼らの後を追いかける。
ステンチイピリアは自らの欲に対して忠実に従い行動する。追跡をしていた恋次達は進行速度を更に上げ続ける敵の動きを何としても封じたかった。
「亀っ! 少しでいい、アイツの動きを封じられるか!?」
「やってみるよ。吉良さんも手伝ってくれますか?」
「わかった」
前に出た浦太郎と吉良は、ステンチイピリアの動きを封じるべく術式を発動する。
「ブリザードスピアヘッド!」
「白銀の
フィッシャーマンの槍先、そして吉良の手から同時に放たれたのは猛烈な冷気の塊だった。二つの冷気はステンチイピリアの頭上で拡散し、それに驚愕した敵の動きが確実に止まった。
「効果抜群ですよ!」
「よーし、もう一発浴びせてやれ!」
と、恋次が景気付けにと更なる一撃を促した直後。
業を煮やしたステンチイピリアのポリューションショットが目の前に飛んで来た。
「「「「「うわあああああ!!!」」」」」
「「お前達(てめえら)!!」」
高圧水流の被害を受けた恋次、吉良、浦太郎、エリオ、キャロの五人が昏倒し、戦力は実質鬼太郎とシグナムだけとなった。
「おのれ
「おっしゃー!! 久しぶりに行くぜ行くぜ行くぜぇ!!」
仲間の為に、風呂の未来の為に、二人は確固たる覚悟を胸にステンチイピリアへと戦いを挑んだ。
「燃えろ―――レヴァンティン!!」
「
炎の魔剣《レヴァンティン》と、身の丈程の大刀にして炎熱系の斬魄刀『烈火』。
奇しくも能力までもが似通った両者の武器。その炎熱系の斬撃技がステンチイピリアへと繰り出される。
「
「俺の必殺技、パート2!!」
爆発を伴う斬撃がステンチイピリアの外皮へと叩き込まれた。
「どうだ!!」
手応えを感じた鬼太郎がシグナムの隣で黒煙の中の様子を確かめた時だった。
二人が目撃したのは―――全身の黄色い鱗に僅かばかり焦げ目が着いただけで目立った外傷を殆ど負っていないステンチイピリアの姿だった。
「効いていないだと!?」
思わず面を食らうシグナムと鬼太郎。
驚愕の表情を浮かべる二人を見つめるステンチイピリアは、反撃とばかり口から黄色を帯びた強烈な臭気ガス・ポリューションブレスを放つ。
目の前から押し寄せる常軌を逸した異臭。それを受けた瞬間、二人は激しく咳込み、涙腺が崩壊する。
「げっほげっほ!! チキショウ・・・何の罰ゲームだよこれ!!」
「くっ・・・この臭い、凄まじいぞ・・・・・・!」
命の危険を感じ一旦臭いから離れようとステンチイピリアとの距離を測る二人。
しかし、ステンチイピリアは両手の吸盤部分から放つガスで敵を包み込んでそれを再び両手で吸引し、敵の身動きを取れなくするヘルアブゾーバーを発動。
「「うわあああああ」」
鬼太郎とシグナムの体がたちまち吸い寄せられていく。そうして吸い寄せた二人をステンチイピリアは長い尻尾を振り回して豪快に叩きつける。
「「ぐああああああああ」」
劣勢に立たされる二人を更に追い詰める為、ステンチイピリアはオプティックハイドを用いた幻術魔法で姿を透明化させ、周囲の景色に同化する。
「消えやがった!?」
「どこだ?」
周囲を見渡すも敵の姿はまるで見えない。
見えない敵への恐怖に怯える心。二人の額に一筋の汗が浮かぶ。
刹那、二人の背後へと回ったステンチイピリアが透明化を解除し、尻尾による奇襲攻撃を仕掛け地面へと叩きつけた。
ドカーン!! 強烈な勢いで撃墜された鬼太郎とシグナムは互いの安否を気遣った。
「シグナム・・・だいじょうぶか?」
「ああ・・・・・・」
満身創痍でいつ倒されてもおかしくない程の窮地に立たされた二人と、それを嘲笑うステンチイピリア。
このまま力及ばず万事休す―――かと思われた、まさにその時であった。
「おーい!! シグナムーッ!!」
シグナムへと呼びかける女性の声。
声のする方へ視線を向けた時、森の中から飛んで来たのは体長30センチ程の大きさで赤い髪に背中から悪魔の如き翼を生やした少女。
彼女こそ、炎系の古代ベルカ魔法を操る【烈火の
「アギトか!!」
「待たせちまったな!! あたしが来たからにはもう心配いらねえ!!」
「良し―――来い、アギト!」
「ユニゾン! インッ!」
シグナムの体の中へとアギトが飛び込んだ瞬間、猛烈な勢いで魔力の炎が柱状に出現―――雲をも突き抜ける。
JS事件を経て、シグナムをロードとして仰ぐ様になったアギト。その彼女と融合を果たしたシグナムの騎士甲冑はアギトの特徴と性質を捕えた姿へと変貌を遂げる。
「アギト、いくぞ!」
〈おうよ! 紅に燃えるぜ!〉
アギトとのユニゾンを果たしたシグナムは先程までとは打って変わって、圧倒的な火力とパワーを手に入れた。ステンチイピリアを終始剣撃と炎で圧倒し、それまで受けたダメージを忘れさせる勢いだった。
これを見て刺激を受けた鬼太郎もまたシグナムに負けていられまいと、愛刀・烈火の柄を今までよりも強く握りしめる。
「へっ。今回の話の主役は―――この俺だぁぁ!!」
霊子を足場に宙を蹴る様に滑空し、ステンチイピリアの目前まで迫った瞬間、鬼太郎は大きく振りかぶった烈火の刀身に炎を灯す。
「つらあああああああああああ」
力いっぱい刀を振り回して、爆炎と斬撃の両方を浴びせるという豪快な力技。
ステンチイピリアは、勢いを取り戻した二人の炎の剣士に圧倒され始めていた。
「俺らに触ると火傷するぜ!!」
「これで止めだ」
泥臭い戦いに終止符を打つべく、鬼太郎とシグナムはそれぞれが磨きに磨いた最強の必殺技で止めを刺そうと行動に出る。
「〈
レヴァンティンを構えたシグナムはアギトと動きをシンクロさせ、嘗てガジェット・ドローンII型約50機を一撃で撃破した力を今再び発揮。
そして、攻撃を受けたステンチイピリアの動きが怯んだ一瞬の間隙を突き、烈火を構えた鬼太郎は炎を鳳凰を彷彿とさせる物へと形成し、敵に大ダメージを与える捨て身の攻撃―――『
「俺の必殺技、パート3!!!」
刹那、付近の森一帯を巻き込む大爆発とともにステンチイピリアの体は爆散した。
爆発の余波が完全に無くなった時、ちょうど昏倒していた恋次達が目を覚ました。そのとき彼らが目の当たりにしたのは、全身に火傷を負いながらも清々しい顔で佇む鬼太郎とシグナムの姿だった。
やがて、改めて今回
「こないだの馬面と同じ、人間を取り込んだ
「でも、どうして人間が
疑問を募らせていた砌、ふと恋次は近くで妙な視線を感じた。
振り返ると、森の中からこちらの様子をじっと伺う機人四天王・ファイの存在に気が付いた。
「アイツは・・・」
「どうしたんだい?」
吉良が呼びかけた時、恋次の瞳に映っていたファイの姿は、まるで景色に溶け込むかの様に跡形も無く一瞬で姿を消してしまった。
(今のは一体・・・・・・まさかアイツが
*
ミッドチルダ南部 とある老舗銭湯 男湯
敵を倒して水質異常も無くなった銭湯はいつもの平穏を取り戻していた。
ステンチイピリアとの戦いに勝利した鬼太郎は、シグナム行きつけの銭湯で今回の疲労と体の臭いを文字通り洗い流してご満悦の様子だった。
「ふぅ~。一番風呂は世界共通最高の贅沢だぜ!」
「世界共通って・・・それはオーバーじゃないの?」
「けどまぁ、あったかくて気持ちのいい風呂にいつでも入れるとかよ。いつでも水道管からきれいな水が出てきて飲めるとかよ、こんな俺でも感謝しなきゃって気持にはなるわな」
恋次も当たり前の日常で当たり前の様に水を使う事の出来る事がどれだけ幸せなのか、今回の件で改めて実感した。
「わーい! 大きいお風呂だー」
「コラコラ走っちゃダメだぞ」
ちょうど、銭湯を利用しに来た親子連れが入って来た。
小さな子供は父親の制止を無視して湯船に向かって勢いよく飛び込んだ。
子供が飛び込んだ勢いで、湯船に使っていた鬼太郎の顔にお湯がかけられた。この瞬間、風呂のマナーに厳しい鬼太郎の怒りが爆発した。
「湯船に・・・―――飛び込むなぁぁぁ!!!」
「それお前が言うかのかよ」
「「「うんうん」」」
恋次の至極真っ当な指摘に浦太郎と吉良、エリオは激しく同意した。
参照・参考文献
原作:都築真紀 作画:緋賀ゆかり『魔法戦記リリカルなのはForce 2巻』 (角川書店・2010)
教えて、ユーノ先生!
ユ「今日はスクライア商店の従業員について教えちゃおう♪ 第一回目は熊谷金太郎だ」
「熊谷金太郎は、スクライア商店の最初の従業員で副店長。簡単に言うと僕の右腕ってところだ。その強面な外観とは裏腹に結構繊細なところがあったり、涙もろかったりする」
「実はこう見えても凄腕の魔導師で、その詳しい経歴は後日語るとしよう。得意魔法は『硬化魔法』。見た目に違わぬパワーファイトと持久戦で奴に勝てる魔導師はそうはいない。ザフィーラさんあたりはいい線行くと思うけど」
金「店長、実は折り入ってお願いがあるのですが宜しいでしょうか?」
ドアップの金太郎がユーノへと懇願。
ユ「あ~・・・えっと・・・・・・言うだけ言ってごらん」
若干引き気味なユーノが恐る恐る尋ねると・・・・・・。
金「浦太郎や鬼太郎がミッドで大活躍しているのに、なぜ私にはお声がかからないのでしょうか?!」
滝の様な涙を流し自分の出番がないことを悲嘆する金太郎。
さすがのユーノもこれには面を食らう。
金「私も人並みに活躍しとうございます!! 何卒ご留意願えませんか!!」
ユ「き、金太郎・・・・・・そんなに出番が欲しかったのかい?」
強く懇願されると、ユーノもユーノで参ってしまう。
彼の出演回数の増加については、後日白鳥の件も含め検討させてもらうとしよう。
魔導師図鑑ハイパー!
キャ「はぁ・・・いいお湯でしたねー」
シ「うむ。やはり戦闘のあとの銭湯は格別だな」
風呂上りにシグナムは購入した牛乳瓶をゴクゴクと飲み干す。
次の瞬間、シグナムのたわわに実った乳房がドンと、大きく弾むように動いたのをフォワード陣とリインは見逃さなかった。
ス・ティ・キャ・リ・ア「え!?」
見間違いかと思ったが、そうではない。シグナムが牛乳を飲むたびに胸は大きく揺れ、ついには巻いていたタオルが勢いで外れてしまう。
シ「うわあ!!」
これに刺激されたスバル達。意を決した様子で大量の牛乳瓶を買いあさる。
キャ「これが秘密なんですね!」
ティ「覚悟はいいわね、みんな?」
ス「うん!」
リ「シグナムはこれ以上の量を毎日飲んでいますから!」
ア「いくぜ。やっぱり牛乳は!!」
ス・ティ・キャ・リ「ムサシノ牛乳ッ!!」
触発された五人はゴクゴクと牛乳を飲み干していく。
特にキャロとリイン、アギトは育っているスバルとティアナ以上に真剣な様子で牛乳を何本も飲み干していく。
シ「お、お前たち・・・・・・そんなに飲んだら腹を下すからやめた方がいいぞ」
彼女らの気持ちを知ってか知らずか、シグナムの言葉がどこか五人には嫌味に聞こえてならなかった。
次回予告
ユ「相手の力を吸収し、強さを増していく
「覇王の無念の想いを抱えて一人苦しむアインハルト。吉良さん、あの子の悲しみを救えるのはあなただけなんです!」
「次回、ユーノ・スクライア外伝・・・『狂乱の覇王』。急いでVividの単行本第一巻読みなさいとな」
登場魔導虚
ステンチイピリア
体臭が臭い中年男性スラング・アラバスターが機人四天王ファイの手で魔導虚化したもの。細い鼻を持ち、頭頂部と背部には鰭(ひれ)が生えている。水に浸かることを好み、まるで温泉巡りをするかのように各地の湖を転々としていた。
全身から凄まじい悪臭を放ち続けており、それが川や水道などのあらゆる水域に水質異常を起こすことなく混ざることで人々を苦しめる性質を持つ。そのため、山奥の湖に姿を現しただけでもプールや銭湯は営業休止に追い込まれた。
鼻先から高圧で水流を放つ「ポリューションショット」のほか、口から黄色い臭気ガスを放つ「ポリューションブレス」や、両腕にある吸盤から放つガスを利用して敵を引き寄せる「ヘルアブゾーバー」、オプティックハイドで透明になって姿を隠すといったさまざまな能力を持つ。また、全身の鱗は鬼太郎とシグナムの剣閃を弾くほどの強度を持つ。二人もその悪臭にはかなり手を焼いたものの、アギトの加勢によって、形勢は逆転する。最後は、火龍一閃と鬼太郎の鳳翼炎陣で撃破される。
名前の由来は、英語で「悪臭」を意味する「Stench」と、オーストラリアの先住民アボリジニが崇拝していた精霊から。