親友なんていなくたっていい。
私はただ、仲良しであるという、平和な状況が好きなだけだ。
本当に心から仲良くなりたい人間なんて、私にはまだ見つかっていない。
*
河原に現れた夜獣。
その最後の一体を倒し、上がった息を整えると額に流れる汗を手の甲で拭った。
そして後ろで私の戦いを見守っていてくれたキャプテンへと駆け寄る。
「キャプテーン!今日の私、どうでした?」
「良かったと思うよ。いい調子なんじゃない?」
私がキャプテンにグイッと迫ると、彼ははにかみながら一歩後ろに引き、困った様子でそう答える。
また……この反応だ。
表面上、こちらに好意を向けつつも、あと一歩足りず、ぎこちないこの反応。
最近私はキャプテンのこの態度に悩まされている。
私は人と仲良くなるのが得意だ。
しかし、どうしても仲良くなれない人もいる。
その基準は分からないけど、キャプテンは間違いなく私と仲良しにはなってくれていなかった。
「夜獣も退治し終えたことだし、学校に一度戻ろうか」
「そう……ですね。はぁ……今日も夜獣たちと仲良しさんになれませんでした」
「そうめげるなって。乃々の夢、俺も応援するよ」
そう言ってキャプテンは私の一歩前を歩く。
学校に戻り、報告を終えると今日という1日が終った。
はぁ…………。
今日もキャプテンと仲良しさんになれなかった。
*
学校が終わり、放課後になる。
私は今週体育館裏の掃除当番で、結衣と一緒だった。
私と結衣は清掃場所に着くと、竹箒を持って黙々と落ち葉を掃き始めた。
お互いに言葉を発さないが別に仲が悪いというわけではない。
結衣とはちゃんと仲良しさんだ。
一緒にいるけど無理に干渉しない、この微妙な距離感を彼女は好んでいるようなのだ。
相手の気持ちを考えることは仲良しさんでいるための大切なファクターだ。
掃除を終え、箒を片付けると最近の悩みを相談しようと結衣に話しかける。
「相談なんだけど、夜獣とどうやったら仲良しさんになれると思う?」
「…………?」
私の問いかけに結衣はとぼけた顔をして、頭上にクエスチョンマークを浮かべた。
これはどういうことだろう。
質問の意味がわからない?
それとも分かってて、答えがまだ出ないってこと?
どちらかは分からないけど、結衣は話すことをじっくり考えてからするタイプだ。
無理にせかすのは良くない。
しばらく固まったと思うと、結衣は問いかけに応じる。
「…………分からない。それができるのかも……」
「そもそも、夜獣とは仲良くできないかもしれないってことだよね。うう…………やっぱり難しいかなー」
私は頭を抱え、体育館前の階段に腰かけた。
それに合わせて結衣も階段に座る。
どうやら今は私とお話しする気分みたいだ。
「ねえ、結衣だったらどうやって夜獣と仲良くなる?」
「……難しいと思うけど…………私なら一緒に本を読む」
「夜獣さんたち文字は読めるのかな……それじゃあ私も夜獣と一緒にティーパーティー……」
「乃々……それはない……」
「ええ!? 結衣と同じ様な案じゃなかった!?」
私がわざとらしく反応すると、結衣はクスクスと小さく笑う。
笑ったと思ったら自信たっぷりに胸を張り口を開く。
「本は崇高なもの……。きっと夜獣も分かってくれる」
「そんなこと言ったらティーパーティーだって、崇高なものだよ! たぶん……」
ティーパーティーは崇高なものなのかな?
海外発祥だけど、そっちの国ではその様な扱いだったりして。
私の中ではコミュニケーションの一環という意味合いが強いんだけどね。
「はぁ……せめて夜獣さんの考えてることが分かったらいいんだけど。人間の様にはいかないよね」
「…………?」
私の何気無い呟きに、再び結衣が首を傾げる。
今度は反応からノータイムで結衣から言葉が紡がれた。
「乃々は……人の気持ちが分かるの?」
「…………えっ?」
結衣の意外な言葉に私の頭は一度動きを止める。
彼女の問いかけは単純にして、私の仲良し哲学の核心に迫るものだ。
「私には……分からない。……乃々はすごい」
結衣の言葉が私に突き刺さる。
平坦なイントネーションで発されたそれは確かに私の心を揺さぶった。
そうか、そうか、そうか!
私は何故、相手の気持ちが自分の手の平の上にあるように考えていたんだろう?
仲良くなるためには相手の気持ちが分からないといけない。
人心掌握は仲良しさんになるための基本だ。
事実、その力でこれまでたくさんの人と仲良くなってきた。
でも、違う。違かった。
私は相手と仲良くなったと自分で納得していただけだったんだ。
だとしたら夜獣と仲良くなれないのは……明白だ。
まず「何故仲良しさんになれないのだろう」という前提がおかしかったんだ。
勝手に壁を作って相手を決めつけて。
私は最初の一歩から間違っていて、間違っていたことに気付いていなかった。
これは大発見だと思う。
夜獣と和解する大きな一歩を踏み出せるかもしれない!
「ありがとう、結衣! 私、夜獣と仲良しさんになれるかもしれない!」
私は結衣にお礼を言うと、このことをキャプテンに伝えるために走り出す。
嬉しい!
もし私の考えが正しければもう戦わなくて良くなる。
毎日ティーパーティもし放題だし、きっとキャプテンとどこか旅行にでもいけるかもしれない。
幸せな毎日が私を待っているんだ!
走り出すこと約十数秒。
ふと違和感を感じ、足を止める。
私はどうしてこのことを真っ先にキャプテンに伝えようと思ったの?
夜獣のことだから?
いや、だったらもっと適任なあの獣……メロにすればいい。
私は新しい衣装をくれないクソ獣のことが大嫌いだが、ということを加味しても、この話はあの獣にするべきだ。
私はきっとこの幸せを、キャプテンと分かち合いたいんだ。この気持ちはまるで……
不意に湧いてきたこの感情に私の頬は真っ赤に染まる。
触れると火傷しそうなほどに熱かった。
たぶん、私はキャプテンに恋をしている。
恋愛とは究極的な仲良しの形だと私は思う。
本当に仲良しになりたい人なんて、私にはまだいない。
いないはずだった。
でも、それは嘘。
私は自分の恋心に蓋をして「キャプテンがこっちを見てくれる」ことを、勝手に拒んでいただけだった。
それが分かってひとつ成長した私なら、キャプテンの行動を違った視点で捉えられるはず。
胸の奥からこそばゆい感覚が広がり、思わず頬が緩む。
想いが溢れて走り出さずにはいられない。
まるで魔法にかかったような高揚感が私の足をさらに加速させた。
*
体育館裏を抜け、ひたすら走る。
日は既に落ちかけていた。
横からさす茜色の光をめいいっぱいに受けるグランドに彼はいた。
大きな広葉樹の下で佇む彼に手を振り、私は乱れる呼吸を整えながら近付く。
「キャプテン!大発見です!」
私がズイッとキャプテンに迫り手を握ると、
私はその反応に私は思うところがあり、とびきりの笑顔を向ける。
私が見つけた2つ、いや3つの発見。
2つはまだ、私の胸に秘めておくことにしよう。
読んでくださりありがとうございます!
これにて乃々ちゃんのこのシリーズでの創作はお終いになります(また違う世界線で乃々ちゃん書くかも)
前回の最後に打ち明けた乃々の仲良しさんへの歪んだ考え方をどうにかして書き換えてキャプテンへの恋に発展させるのか、構成段階で非常に悩みました笑
結衣を登場させたのは、話の流れとして彼女を登場させるのが一番良いと思ったということと、単純に可愛いからです。三点リーダー女子は正義ですよね?
乃々ちゃんの見つけた大発見。
どうして2つではなく3つなのか、答えはきっとあなたの中にありますよ。
ね?キャプテン?