好きなキャラに好きな世界の好きなシーンでやりたいことやってもらった話集 作:円方形
キャラの死、想像設定などがありますので苦手な方はバックしてください。
しとしとと雨が降っている。
路地裏に男女が存在している。
女は30代もそこそこという顔立ちをしている。跪き、項垂れていることで長い髪が垂れほとんど見えることはないが。
男はまだ10代前半、かなり幼い顔立ちをしている。フード付きのパーカーを着ていて、顔はやはり外からはほとんど見えない。
そして、たった今この場においてこれは最も重要な状況説明なのだが
男は跪いた女性の後頭部に銃を突きつけている。
普通ならばありえないだろう。しかし頭を垂れ、まるで命乞いでもするかのように跪いている女性の顔には微笑みすら浮かべ、あまつさえ ありがとう、 と小さく礼すら言ってみせる。
そしてそれに相対するのは今まさに人を殺そうとしているというのに完全に無表情の男。まだ少年と言ったほうが適切と言えるであろう人物。しかし年齢を誰に言っても信じられないと断言できるほどにその目は暗く濁り、虚ろなものだった。
「
「さよなら………………………………かあさん」
タン
と、叩きつけるような、嘆くような、振り払うような、泣き叫ぶかのような単音が、路地裏で響いた。
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これは、まだオールマイトが緑谷出久に出会う前の物語。
これは、まだオールマイトが致命的な傷を負う前の物語。
始まりは関係の無いところ、ヒーローがヴィランが、無差別に狙われ、特にヒーローが執拗に狙われ殺される事件が発生した所から。
「それじゃあ話そう。当時裏で有名だった敵を大々的に捉えることになってね。ああ、大々的にといっても一般には出回らないようにだよ。人払いも済ませた上で他から邪魔も入らないようにして1体1で私が捕縛するという話になったんだ……──────
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「君が……ヴィラン、ヒーローを問わない連続殺人鬼、通称
声をかけると身長は160cmを少し超えるくらいの小柄なフードの男がゆっくりと振り向く。
「ヒーロー。それもオールマイト、か……随分大物がかかったな……」
聞こえてきた声は存外に幼く、年齢を想像させてしまう。きっとまだ16には達していないほどだった。
「どうやら間違いなさそうだね……残念だけどここで捕縛させてもらうよ。大人しくしていれば怪我はさせない。安心してくれ。」
「なあ、オールマイト……。僕は…………かあさんをここで殺した。雨の降る、嫌な日だった。」
「!?」
「かあさんは僕を養う為に昔からかなりギリギリの商売をしていた。本当にギリギリのグレーゾーンの仕事だ。正直いつ捕まるかもわからない。そんな仕事だ。それでもかあさんは僕を育てるためならなんだってやった。でも、受ける仕事がグレーゾーンで済んだのも僕が小さいうちだけだ。僕がある程度大きくなってくると当然、かかる金も増える。そして、かあさんはある日ついに、明確に法律を破った。」
「…………?」
最初、衝撃的な事を言われて一瞬固まったが、だんだんと伝えたい内容が分からなくなってくる。どういう意図があってこの男は何を伝えたいのだろう。
「やってはならないことをした。分かっていながら、理解していながらかあさんは、麻薬を売ろうとした。僕はそれを止めて、そして、いつかかあさんを守る為に取っておいた拳銃で、かあさんを殺した。」
「………………」
「ここまでが、いつも僕が殺す相手にする話だ。さあ、オールマイト、あんたはどう思った?感想でも聞かせてくれ。」
「……気の毒なことだ。しかし少なくとも、今の話を聞いた上で、いや聞いたからこそ君は救われるべきだと、私は思う。お願いだ。投降してくれないか……?」
本心だった。本当に彼の事を気の毒だと思った。罪の償いはしてもらうが、その後何年かかるか分からないが幸せになるべきだと。
しかし。
「……違うさ……。オールマイト。あんたのそれは間違いだ。その答えは、零点だ。」
「間違い……?」
「ああ。間違いだ。救われるべきは僕じゃない。僕なんていう唾棄されるべき殺人鬼ではなく、本当に救われてしかるべきは、救われなければならなかったのは、かあさんであるべきだったんだ。」
「……しかし、君の母親は、その、既に……」
「ああ。そう、その通りだ。もういない。他ならぬ僕が殺した。救われるべき、より多くの人を守る為に。救われるべきかけがえのない人を、殺した。」
「さて、ここでアンタだけの質問だ。『ヒーロー』。どうして、かあさんは救われなかったのに。救えない人がいるのに。どうしてアンタはヒーローなんて、名乗っていられるんだ……?」
そう言いながら彼はぱさり、とフードを外す。
まだ15歳程の黒髪の少年だった。しかし、それほどに若いとは思えないほどにその目は濁り、絶望に染まりきっている。
痛ましさのあまり顔が歪む。こんなに、こんなになるまで彼は一体どれほど自分を、自分の大切なものを、人を、犠牲にしてきたのだろう。
「………………私が来た、といつも言う。」
「……なに?」
「そして笑う。誰も泣かせないために、誰の笑顔も消さないために。」
「………なんの話だ……」
「私は全てを救えない。たしかにその通りだ。全ての人を救う、なんて事はきっと人間には出来ない。そんなことは分かってはいるんだ。
けれどね、いつも体が勝手に動き出す。一つでも悲しみの涙を消す為に、一つでも笑顔を増やす為に。だからいつも言う。その場において、耀かしいほどに眩しい笑顔で私は言う。
『私が来た』といつも言う!!
確かに私はヒーローとはいえないかもしれない。全ての人を救えず、あらゆる事を収めきれない。それでも私は私が救えるだけのあらゆる人を零さぬようにすくい上げたい。……それは、敵だって例外じゃない。君のような、まだ未来のある若者を私は見捨てたくはない。世間はきっと君を悪し様に言うかもしれない。それでも君は────「もう御託はたくさんだ……!!」─────」
いつの間にか近寄られていた。気をつけてはいたつもりだったがやはりどこかで油断、同情、そんな気持ちがあったのだろう。気がついた時にはかなり距離を詰められており、それは、明確に彼の間合いだった。
「ありがとうヒーロー。ここまで近づければもう十分だ……。長々と持論を騙ってくれて、虫酸が走ったよ……。『
「……!しまっ……!!!」
彼が呪文のようなものを唱えるのと同時、不自然な程に彼の動きが早くなる。トリプルアクセル、と聞こえたことから発動型、それも自分の声を起点とした強化系個性ということ、更にいうならまだ段階の上がありそう、シンプルだが強そうだ、なんて所まで思考が飛ぶ。
「早々に終わらせてやる……!」
「ぐうっ!これはっ……!速い……!!」
足元の死角、蹴りにも威力が乗らず拳も振るいづらい位置からの確実なナイフによる斬撃。ふくらはぎに切れ込みが入り痛みに顔が歪む。完全に不意を突かれた形になり一瞬体が硬直する。その隙を逃さず後ろに回り込み膝裏を狙ってくるのが見えた。
私と彼には確実に数十cmではきかない身長差がある。足から狙うのは非常に合理的であり非常に戦闘慣れした思考回路の元なされた行動であるとわかる。
(こいつは…割とマジで強い!油断してる場合じゃないな…!)
ようやく体が動き出す。無骨なナイフの刃から足を逃し片足で無理矢理に体を捻りそのままの勢いで足下からすくい上げるような強い裏拳を牽制のつもりで放つ。
しかし目論見は外れてしまった。突然彼の動きが先程までの素早さが嘘のように鈍くなり、そればかりか一瞬固まってしまったのだ。
身体強化系でたまにいる出力は高いがブーストが短時間しか出来ないタイプの個性だと気付いたがあまりにも遅すぎた。
元々が牽制のつもりで放った裏拳はかなりの強さでクリーンヒットし彼を向かいのビルの壁面に叩きつけた。
「しまった……!強すぎたか…………!?君!動いてはいけない!」
ドサリ、と地面に倒れ込んだ彼の体から血が流れているのが遠目にでも理解出来た。力加減を間違えてしまったことを察しすぐに助けようとした。
だが、信じられない事に、ボタボタと血を垂らしながら、骨も何本と折れているだろうにそれでも彼は立ち上がったのだ。
そして真っ赤に染まった服からなお血を滴らせながらふらふらとこちらに歩き出した。
「すぐに救急車を呼ぶ!君の気持ちはわかった!だが今は助かることを考えるんだ!」
「……。わかった……だと……?僕の気持ちが、わかったと、今、そういったのか……?」
「ああ!君の恨みに思う気持ちはわかった!だからこそ今は生き延びるんだ!死んでしまっては元も子もない!」
「……………………けるな。」
「なに?」
彼は一瞬ポツリとつぶやくように小声で何かを言い、そして爆発した。
「ふざけるなァ!!!!」
「!!??」
「ふざけるな!ふざけるな!!!知ったふうな口を聞くなバカヤロー!!!お前達じゃないか世界を変えたのは!!!暴力を是とした人間が平和を騙るな!暴力を生業にしておきながら暴力はいけないことだなどと嘯くな!!いいか!お前達が気持ちのいい事を囀るから血が流れ続ける!今や誰もが個性を尊いものだと言い人を傷つけると知りながら伸ばし続ける!!やったのはお前らだ!!
お前が、お前のような、お前達のような
こんなことが良い訳があるか!お前達が人々を能力を持った原始人に戻した!争いに近づけ、お前達が造った血の海で溺れ死ぬ人々を見て仕方がない、救えなかったと欺瞞だらけの涙を流す!
救われるべき人々が死に、ただ強いだけの愚か者が我が物顔で屍の上を歩いてる!
許されていいわけがあるか!?こんな馬鹿みたいな、必要のない犠牲だけで出来てる世界が、許されていいわけがあるか!?」
「君、は……」
涙だった。彼は泣きじゃくりながら、この世の全てを呪っていた。
彼はきっと善人だ。悪を憎み、平和を愛し、また平和に愛され、大切な人と笑いながら過ごす、そんな人生を歩むべきだった人間だ。
だが彼は、私達が照らせなかった深い深い闇の底で生まれ、誰にも出会えず、誰も救えず、誰にも救われず、何も叶わず、平和を愛しながら平和に殺され続けたのだろう。
だからこそ彼はもう止まらない。いや、止まれないのだ。
私も腹を決めた。遅すぎるかもしれないが、相手をただの少年ではなく同じく平和を愛しながら衝突する敵だと認め、そして止めるために一歩を踏み出そうとした。
しかし、世界は容赦なく、奪っていく。
「だから────ガッ!?」
刹那の事だ。些細な偶然だ。
私の放った一撃は私が思うよりも強く、彼を受け止めたビルは私が思うよりもはるかに古く、脆かった。それだけだ。
いったいどれだけの偶然と不運なのだろう。
刺さっていた。
かつては屋上の手すりを構成していたであろう錆び付いた鉄パイプが、彼の胸部を貫通していた。
「がっ……ぁ?ガボッ……、ぐ、うぅぅぅぅぅ……!」
致命傷だった。誰がどうみてもその一撃は彼の命をゼロに出来るものだった。
しかしそれでも、彼が止まる気配はどこにもなかった。
口から、鼻から、目から、血を吹き出し、命を零しながらこちらにふらふらと歩いてくる。
「おール、マイトォ……!僕は…、かあ、さん…!あ、あぁぁ………!おぉぉぉぁぁぁぁ!!!!!」
もうほとんど意識はないのだろう。うわ言をブツブツと呟いていたが、少し苦痛に顔を歪ませた後体に変化が表れる。
黒い髪は真っ白に変わり、日に当たらず青白いほどだった肌は反対に浅黒く染まっていく。
「いったい何が……!」
「はぁ……はぁ……
全身が反転したかのごとく色が変わった瞬間。
既に攻撃されていた。視認もできず、勘も働かない。それほどに速く、完成された一撃だった。
オールマイトというヒーローはパワーとスピード、その両方を兼ね備えたヒーローだ。スピードが優れているということはそれだけ目も良く、感覚も鋭いということだ。
しかしそれでも、何も感じなかった。背後に回り込んでのナイフでの刺突。
それが背中に根元まで埋まる感覚で漸く攻撃されたのだと自覚出来たという程に。
だが、代償は必要だ。彼の個性は、恐らくという括りになってしまうが、自分に関する時間の動きを早めたり遅くしたりするような、そんなものだったのではないだろうか。
そんな個性で、かつ致命傷をおっている状態で、私にすら視認できないほどのスピードでこの距離を移動し全霊を振り絞ってナイフによる一撃を繰り出した彼は。
その一瞬で出来たとは思えないほどの凄まじい血溜りを作ってナイフを突き刺した体勢のまま死んでいた。
周りからほかのヒーローが駆けつけてくる音が聞こえていたが、そんなことが気にならないほどに、私の心の中に彼という存在が、私達のあるべき姿、望まれる姿が焼き付いていた。
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この後にオールマイトは巨悪と戦いヒーローとして致命的な一撃を受け、後継を探して緑谷出久と出会う。
そして彼にこう言うのだ。
「ヒーローとして、救えなかった人がいるのを忘れてはいけない。
私達が造った血の海を無かったことにしてはいけないんだ。
だからこそ、私達はあらゆる苦難を超えてその先へ、Plus ultraと叫ぶのさ!
決して立ち止まらぬよう、一人でも多くを救う為に!」
彼は死んだ。けれど、その一端は、一片は次のヒーロー達の背中に刻まれていく。
中でも言ってますがこの切嗣は誰も救えず、誰にも救われず、誰にも出会えず、救いを見つけることが出来ず、その正義感と暴力を是とする人間への嫌悪がカンストしたものと考えてください。