Vampire and a magic girls / RE. 作:眼鏡花
この話は、基本的に本筋に殆ど絡みません。故に、飛ばして貰っても大丈夫です。
また、ライネスに関する結構デカいヒントも在ります。とは言っても、ネタバレしても問題ない範疇ですが。
アリサも、独自設定です。原作と違います。
……友達に進められて読んでいる『デート・ア・ライブ』を見て、ふと会議したこと。
眼花「なあ、この設定うまく利用すればさ。『ブレイブルー』のハクメンさん出せんじゃね?」
友「……若しくは、デート・ア・ライブの世界に居た『パラレルのジン・キサラギの精霊化した姿』って設定でも行けそうだな」
『……』
『しかし ぎりょう が たりない!』
ではどぞっ。
「……すずか。アンタは、あの人の事をどう思った?」
「あの人って……ライネスさんの事?」
あたし―――アリサ・バニングスは、若干他の同年代の子達に比べて大人びていると評価を受ける時が多々ある。嬉しい。けどその分、子供らしい部分はそれ以上に子供らしいと言われる。ちょっとショック。すずかとなのはに言われた事が。
でも、それは強ち外れていない。そもそも当然なのかもしれない。
「わたしは……恩人、かなあ。アリサちゃんは?」
「私は……」
あたしには他の人には、絶対に言えない秘密が一つだけある。すずかにあの時、何かの拍子に暴露できればどれだけ楽なのかなんて、この何度考えたか覚えていないわ。
でも、もう決めた事なんだ。この事は、誰かが感付くまで話さないって。あの人―――一度幽霊になったから
あの人に抱えられてた時、車の中での時に怯えた理由は二つあって、一つはすぐ傍に居てあの呪いを目にするのが嫌だったから。よく考えると、普通に魂を見ない事も出来るのにそれをしなかったのは、好奇心だったのかも。……自業自得ね。
もう一つは……後で話しましょう。大分話が脱線しちゃったわ。
「そうねえ……」
アリサ・ローウェルとしてのあたしは、あの時、なのはがお花を添えてくれたあの時、確かにあたしには心残りはもう無かった。
でも、なのはを泣かせちゃったのは駄目だったなあ。久遠や家族、いっぱい友達が居る筈だから、きっと大丈夫だと思うけど。
それで、あたしは成仏できた。そう、出来た
『―――おぎゃあ! おぎゃあ!』
―――え?
『アリカさん! 元気な女の子ですよ!』
『……可愛い子。あの人と私の、子』
『おぎゃあ! おぎゃあ!』
―――え? ええ? えーー!?
―――気が付いたら、もう一度生まれていたのよ。
それからの事は、少しすっ飛ばさせてもらうわ。考えてみて。自分が子供になってて、下もお世話をしてもらわなきゃ何も出来ない状態にされるのを。
……忘れたい。
あたしが生まれてすぐ、此処が海鳴市だって気が付いたのもその時ね。
それで、あたしは出来る限り調べてみた。同じ海鳴市でも、何か違う事が在るんじゃないかって。
だから、五歳の頃にお母さんにお願いして、ある場所に連れて行ってもらったの。怪しまれたかもしれないけど、あの時のあたしには気にする余裕なんてなかった。
連れて行ってもらったのは―――町のはずれにある、ゴーストタウンのような場所。それと、御寺。
そこに行ってみたわ。もしかしたら、
あたしは居なかった。……当たり前よね。
でも、久遠は居た。最初の内は逃げられちゃったけど、すぐに懐いてくれて、後日顔を出したらあたしと初めて会った時の姿にもなってくれた。『くぅー……アリサ、あったことない。はじめて。でも、……懐かしい?』と頭を悩ませている所を見て、思わずドキリとしちゃったわ。その時に、夢写しは基本的に絶対ダメとも
もしかしたら、
『アリサ?』
『……ううん、だいじょうぶ。いこう? おかあさん』
『ふふっ。ええ、いきましょう』
体に引っ張られて舌足らずな話し方がもどかしくてしょうがない。
仕方ないといえば、仕方ないんだけど……。
さて、あたしことアリサ・バニングスはこの頃から大きな悩みを抱えています。
……幽霊だった頃は割り切っていたけど、改めて
この頃から家族か執事の鮫島(あたしは家族だと思ってるわ。『そんな。アリサお嬢様の御家族の任は私にはとても重い』とは鮫島の弁だ)以外に、所謂『男性恐怖症』を抱いていたわ。話すくらいなら出来たけど、触れられたらまずパニックになる。
あの人に抱えられていた時、暴れたのはこれが原因だ。
まあ、あの時の犯人達は全員祟り殺してやったけど。
幼稚園なんかとても大変で、この頃の年頃の子って性別の意識とかないじゃない?
だからあたしは、仮面を被った。一人称を『あたし』じゃ無くて『私』に変えた。
異性に対する恐怖心を隠す為に、猫を被った。本当のあたしは、強気な女の子何かじゃない。もっと弱くて、昔の事を今でも引き摺っている。
でも、最近じゃあ今の私が本当のあたしなのか、本当の私なのか分からなくなってきちゃってる。
すごく、気持ち悪い。
まあ、そんな性格を演じてたせいか自然と私の周りには人が集まって、気が付いたら同い年くらいの子達の間ではリーダみたいな存在になっちゃってて、余計に大変だったわ。
それでも、友達は出来なかったけど。
何年か経って、過去と小学校に上がって一年。小学校二年生の時、私はなのはに在った。偶然か必然か、それとも神様の悪戯なのか。通う事に為った小学校は、私がかつて通っていた小学校と全く同じだった。
思い返して今思うと、ファーストコンタクトが大失敗だったんだろうなあ……。すっかり仲良しだけど。
何が大失敗って、私はなのはを知っていても、此処のなのはは私と初対面なのよ? おまけに、クラスも違うし。
だから、変な勘違いさせちゃったのよ。
『なのは……?』
『え?』
『なの、は。なのはぁ……!』
『え? えぇ? ふえええぇ!?』
本人を目の前にして、私は色んな感情を抑えきれなかった。感謝とか、嬉しさとか。本当にいろいろ。
その後、咄嗟の言い訳で『昔会った事が在る感謝してもしきれない友達にそっくりだったから』って先生に言っちゃって……。嘘は言ってないわよ。嘘は。
それで、距離を置かれちゃうだろうな。なのはだけじゃなくてクラスの皆からも。なんて思いつめていたら、そんな事は全く無かったの。
それどころか担任だった初老の女の先生に『アリサちゃんも子供らしい所があってよかったわ……先生心配してたんですよ?』と言われちゃった時には、とてもショックだったわ。
それで、なのはとちゃんとお話をしようと思ったんだけど……。
『……』
『……」
『えっと、なのは』
『あ、アリサちゃん』
『……』
これだ。
あんな事に為っちゃったもんだから、空気が重くて。
更には在り来たりな『話そうと思ったら相手も話しだそうとしてた』っていうのが運悪く起きちゃって、もうあの場から逃げ出したかったわ。
『……ごめんね』
『ふぇ?』
『いや、そのさ。勘違いで変な事になっちゃってさ。本当にごめん』
『き、気にしなくて良いよ! わたしは気にしてないもん!』
『でも……』
『それに―――』
この、この世界のなのはの言った言葉のお蔭で、今の私は居るんだろうなって思える。
だから、気持ち悪いって思えても、
『わたしたちはもう、友達でしょ!』
『とも……だち……?』
『うん! 名前で呼び合えたら、もう友達なの!』
きっと、この日から私は自信を持って『
『……ぁ―――う』
『え?』
『ありがとう……なのは』
『ふぇ!? ア、アリサちゃん!?』
気が付いたら、とめどなく涙が溢れだしてた。
ただ、少し前の涙と違ったのは、あの時は色んな感情の入り混じった涙だったけど、今の涙はとても嬉しくて流れた涙だったという事だけ。
そこだけは、絶対にあの時と違った。
なのはと友達に為れてから半年。物凄ーく気に食わない状況に陥った。
いや、断じてなのはと不仲になった訳でも、ましてや絶好なんてする筈が無い。
私が気に食わないのは、あり大抵に言えば『いじめ』だ。
でも、目の前でそんな事をやられてると、
だから、止めに入った。苦手な男子が相手だから凄く怖かったけど、それ以上に気に入らない事が在ったから気に為らない。女の子が叩かれたり、けられたり、髪を引っ張られたりしてる中で、何一つ行動を起こそうとしないクラスメイトが。でも、それ以上に―――
『こら、アンタら! そこの子を苛めて何が楽しいのよ!』
『うわっ、リーダーだ。めんどくさ……』
『うっさいなあ。放っておいてよ。次の運動会のアンカーを譲ってくれって
『痛ッ!』
本当に頭にきた。
だって、こいつ等が俊足なのは知ってるけど、そこの女の子の方が二人より足が速いのは周知の事実だったから。それを、気に入らないからと押しのけようとしている男子二人に。
でも、顔や腕に痣を作りながらも周りに助けを求めようとしない女の子にも、頭が来たのも事実だった。
『馬ッ鹿じゃないの! そんなの、アンタらがそこの子よりも足が遅いからでしょ! それに―――アンタらも何で止めようとしないのよ!』
『……』
クラスの空気が静まり返る。驚いたような視線の中に混じる、妙な幾つもの視線。
そりゃ、今まで気が付いて無かった私が言えた義理じゃないでしょうけど、止める事くらい出来たでしょうに!
うざったく感じながら、私は男子二人を睨んだ。
『んなっ!?』
『そんな訳ないだろ! あの時は体調が悪かっただけだ!』
『……へえ。だったら、今日先生に言ってもう一回三人で測ってみれば良いじゃない。丁度これから体育なんだし。……アンタもそれでいい? えっと……』
『……つ、月村。月村すずか、です』
実を言うと、すずかの秘密には何となく感付いていたの。吸血鬼っていう事までは分からなかったけど。
どうしてって、昔初見で久遠の正体を見破れたのよ? その時の名残……かしら?
『それじゃあ、すずか。思いっ切り良いとこ見せてやって、見返してやりなさい!』
『う、うん』
『まけねえからな!』
『絶対勝ってやる!』
それで、その後の話なんだけど……結局、去年の夏休み明けに行われた運動会、その内の競技の一つである学年対抗クラスリレーでアンカーを飾ったのは、すずかだった。
それ以降、すずかに対するいじめは無くなって、それどころかファンクラブ染みたものが出来上がったらしいわ。
すずかとも、友達に為る事が出来た。なのはが言ってた『名前で呼び合えれば友達』……その言葉を思い出して、すずかに友達になりたいと言ってみたら喜んで快諾して貰えた。その際に、なのはの事を話したら「とってもロマンチックだね。まるで御姫様を死んでも守ると言った
それに倣って、冗談で「だったら、すずかはメロスね」なんて言ったら「ううん、キルータだよ。それに、わたしはメロスの半分が限界だよ」なんて返事が返ってきた。
キルータって、フィアナ騎士団の一人よね。またマニアックなチョイスを。
でも、ちょっと待ちなさい……?
すずかは、『メロスの半分が限界』と言ったわよね?
メロスが走ったのは大体十里で、一里は四キロメートルで、それを往復だから……冗談よね? すずかもこの時は冗談の心算だったのかもしれないけど、今では本当に実行できてしまいそうで怖いなあ……。
私は……何だか頼れる人みたいな感じに見られる機会が増えたけど、同時に男子とも関わる機会が増えちゃって、色々と大変だったのよ。
例えば、告白とか。そういうのが一気に増えてもう大変だった。主に私の精神的なものが、ね。
それからまた半年位して、私となのはとすずか、三人で同じクラスになることが出来た。あの時のなのはの喜びようと言ったら、筆答にし難い。放っておいたら小躍りでもし始めるんじゃないかと思う位にはしゃいでいた。
すずかも、前々から私が話していたけど中々会う機会が無かったなのはとちゃんと話せて、友達に為れたのがとても嬉しいようだった。
『ねえアリサちゃん、すずかちゃん。今日わたしの家に来ない?』
『なのはの家……喫茶店『翠屋』だっけ? 雑誌にも載ってたわよ。私は大丈夫よ。すずかは?』
『わたしも、行こうかな?』
『そういうのは率直に『行く』って言えば良いじゃないの……』
『あはは、ごめんね』
その日は翠屋に行く事になった。……昔『なのは』が持ってきてくれたあれも、翠屋の物だったのかな? 同じ物が置いてあるとは限らないけど。
じゃあ、丁度良い機会かも。そう考えながら私はその日翠屋に遊びに行かせてもらう事に為った。此処までは良かったの。
問題は……。
『ただいまー!』
『んっ、なのは。お帰り……お、友達を連れて来たのか』
『うん! アリサちゃんとすずかちゃんだよ』
『ああ、なのはがよく話してる友達か。始めまして、そしていらっしゃいませ。僕は高町士郎。なのはのお父さんで、この喫茶店『翠屋』のマスターをしている。よろしくね』
―――
でも、『なのは』は言ってた。お父さんはもう亡くなって―――あ。
私、馬鹿だ。
私が居た世界とは、この世界は同じようで違うんだ。だったら、違う事が幾つでも在る筈なのに、それに気が付かないようにしてた。
『……? アリサちゃん、どうかしたのかい?』
『ッ! い、いえ! 大丈夫れしゅ! ……あ』
『アリサちゃん……』
やらかした! 幾ら自己嫌悪してた状態で男の人が苦手だからって、初対面でこれは無いでしょう私!この後、数分に亘って私は頭を抱えて突っ伏してた。
なのはとすずかはオロオロしながら慰めてくれたけど、あの時はその優しさが痛かった。気にしないでよ。自業自得なんだから……。
立ち直った私を見て、『気にしないでいいよ』と士郎さんが言ってくれてもやもやが幾らか晴れた。
それにしても、『今日はなのはが初めて翠屋に友達を連れてきたんだ。だから、今日はサービスするよ』と言ってくれた。
最初は二人揃って遠慮したんだけど、どうやら私のお父さんとすずかのお姉さんがよく買いに来ているから大丈夫だそうだ。
悪いなあ……。
『わたしはショートケーキ!』
『じゃあ、わたしはチョコレートケーキを』
『私は……』
なのはとすずかはさっさとメニューを決めてしまったが、私だけ物凄く場違いな気がするメニューを選びそうになってしまう。
でも、気にしない。
『じゃあ、ポテトサンドを』
『おや。ケーキも有るけど……いいのかい?』
『士郎さん、問題です。お客様は?』
『―――参ったね。そう言われると何も出来ない。ちょっと待っててね』
冗談めかした発言に両手を上げて降参のポーズを取った士郎さんは、厨房へと入った。
なのはとすずかは意外そうな顔で私を見てくる。
『……何よ』
『ふぇ!? う、ううん! 何でも無いよ?』
『う、うん。大丈夫。……でもアリサちゃん。どうしてポテトサンド?』
すずかは心底意外だったみたいで、私に問い掛けた。
まあ、すずかの言い分も尤もなのよね。翠屋は雑誌で取り上げられる程どの商品も売れるけど、とりわけスイーツは格別だって書いてあった。
その雑誌の事をすずかに教えたの、私なのだから、すずかからしたら意外も良い所か。
でも、個人的に譲れない物があったのよ。
『んー……そうねえ……』
『……』
『ちょっと、思い入れが有るのよ。実際、思い入れって言う程でも無いけどね。そんな理由よ』
『思い入れ……』
『……ねえ、アリサちゃん』
『うん? 如何したのなのは?』
如何したんだろう。今の話で怪しまれる部分は嫌にでも出て来るのは予想してるけど、なのはの顔はそんな事を言いたい訳では無さそうだ。
『―――辛い事が在ったら、ちゃんと相談してね? わたしたち、友達でしょ』
『……ふふっ』
『アリサちゃん?』
『ううん、何でも無い。ありがとね、なのは』
『うん! どういたしましてなの!』
この子、やっぱり人の感情について鋭い部分があるというか、まるで心を読んでいるんじゃないかと思わされる時がある。
まあ、その位親身になってくれているっていうのが正しいんでしょうけど。
でも、ね。
『でも、そう言ったからにはなのはも私達に相談しなさいよ?』
『そうだよなのはちゃん。置いて行かないでよ?』
『う、うん!』
『ならよろしい』
そんな会話を繰り広げる内に、士郎さんが
『皆、お待たせ。これはなのはの分。これはすずかちゃんの分。これはアリサちゃんの分だ。アリサちゃんの分はチーズケーキをおまけしておくよ?』
『え、でで、でも、悪いですし……』
『気にしない気にしない。デイビットさんなんて、ホールで幾つも買っていく事なんてざらだから。まあ、以後贔屓にしてもらいたいから、ね?』
『……それじゃあ、頂きます』
上手く丸められた。やっぱりお父さんの知り合いの人は舌戦が強いのかな?
お父さんも日本語だと何処か天然みたいになるけど、英語になると、本当に怖いのよね。目つきも変わるし。印象がガラリと変わるのよ。こういう表現はしたくは無いけど、暴力団みたいに。
私も、実際跡継ぎだからあんな風に為ったりする日もくるのかな? とだけ考えて私はフォークを手に取った。
まず、チーズケーキにフォークを刺す。柔らかく、それでいて確かな手応えでフォークがケーキに沈んで、丁度一口で食べられそうな大きさに押し切る。
それをそのまま口に運んで、咀嚼した。
『如何かな? 近い内にここで出す予定なんだけど』
『……凄く、美味しいです』
チーズの酸味と確かな甘さが混ざって、何とも言えない味だった。
何だか、食べるのが勿体無くなってしまいそう。
でも、結局食べてしまったわ。……出す予定って事は、試作品って事よね? それでこんなに美味しいって……反則よ。
『あらあら、そんなに美味しそうに食べてもらえると、こっちも嬉しいわ』
と、士郎さんでは無い若い女性の声が聞こえた。
なのはのお姉さんかな? なんて初対面の時は思ったわ。
『は、はい。えーっと、なのはのお姉さん……ですか?』
『残念。答えは、なのはのお母さんでしたー!』
『……は?』
すずかと被って失礼な言葉が出てしまったけど、え? お母さん? Mother?
……え? はい?
『なのはちゃん本当?』
『うん』
『ええ、若!?』
『ふふっ、そう言って貰えると嬉しいわ』
『ああ、桃子は何時だって綺麗さ』
『もう、貴方ったら』
『…………』
……うん。なのは、すずか。その引き攣った苦笑いは納得できるわ。目の前で口の中まで甘ったるくなるような空間を作られちゃ、嫌でもそんな顔になるわよ。
私は、毎日こんな光景見せつけられたらブラックコーヒーが好きになっちゃいそうよ。私自身には一生縁が無い空気でしょうけど。
あ、でもお父さんもお母さんの事を考えると……人の事言える立場じゃないなあ。
『……』
その空気に耐えながらケーキを食べ終えた私は、隣に置いてあったポテトサンドに手を伸ばして、そのまま口にした。
……美味しい。
士郎さんとなのはのお母さん、桃子さんはイチャイチャするのを止めて私を見る。
『はー……美味しかった。ごちそうさまでした』
『うん。満足そうで何よりだよ』
『作った甲斐があったわ』
この後、なのはとすずか、私の三人で学校での事や最近の事を談笑して、その日は解散になった。
お父さんに頼んで、翠屋に行く機会があればポテトサンドも買って来てもらえるようにして、お母さんにはお父さんが一人で何ホールもケーキを独り占めしてる事を伝えたわ。そうしたら、何でも会社の会議に翠屋のケーキを一度持っていったら社員の人の受けが良かったから今後持っていく事にしたらしい。
……反省。
それで、その一ヶ月後になのはが風邪を引いて学校を休んだ。お見舞いに行こうとして、止めておいた。なのはは優し過ぎるし、これでもし私達のどっちかがうつったりしたら絶対に気にすると思ったから。
だから、一人欠けたまま塾に行って、その帰り道。
一人居ないだけで、こんなに違うんだなあって、しみじみ思わされる。
『それにしたって、なのはは大丈夫かしら。風邪引くなんて』
『大丈夫……だと良いね』
そんな事を考えていると、背の高いこの辺りでは見ない男の人が通り過ぎて行った。
顔を見て無いから、髪の色からしてお爺ちゃんみたいな人なのかなって勝手に想像して、でもその割には背筋が伸びてたような……って、後ろを振り向く事無くすずかと話しながら帰っていた。
そんな時だった。
キイィィィッ! とタイヤの滑る音。私達のすぐ横から聞こえてきた。見れば、黒塗りのワゴン車が停車している。
そこから出て来たのは、覆面で顔を隠した男達。すずかは口にハンカチを押さえつけられてそのまま意識を失ってしまう。過去に経験したことのあった光景だ。薬を嗅がされて、意識を失い、そして―――。
私は必死に抵抗した。いや、抵抗と言うかパニックを起こしていた。
でも、私達より体の大きい大人に力で勝てる訳も無くて、結局車に乗せられてから薬を嗅がされた。
『お、起きた起きた」
『丁度いい。目的はそっちの紫の子だから、その子は好きに
『おお、さっすが! 話がわっかるー!』
『ア、リサちゃん!!』
目を覚ますと、何人かの男が私に向かってきた。
すずかは、私の後ろで同じように縛られてる。
『じゃあ、あぁ。まずは服をはぎとろーぜー?』
『お、賛成サンセー』
『―――ん!!? んんー!!!』
―――嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。嫌だ。嫌、嫌、嫌、嫌嫌嫌嫌!!!
全力で抵抗しようとするけど、それを嘲るように全身に巻かれたロープがギシギシと音を立てるだけだった。口には穴の開いた半球のような物が着けられ、声を出すことが出来ない。
男の一人が折り畳んだナイフを私に向けながら『ま・ず・はぁ~』なんて気の抜けた声を出しながら服を探る。
『んんんーー!! んーー!』
『お、いきが良いねえ。安心して。後でキレーに
『―――!?』
今までに感じた事の無い嫌悪感。過去の私でも感じた事の無い程、群を抜いたそれ。私を『私』と見ないで、まるで何かの材料のように見るその眼に、底知れない恐怖を抱いて、震えた。
パニックな割に、何処か冷静な思考が在った。
最後の言葉の意味が、言葉通りなら私は―――。
そんな私の思考を嘲るように、男は私の制服の袖に手を付けた。
『んっんー。端っこからやって行くのがやっぱり一番萌えるよねえぇ……よいしょ』
『んー!?』
『アリサちゃん!』
びり、びりびり。ナイフで入れられた切り口から、男が毟り取るように制服の袖を裂いた。長袖から肘の辺りまで腕が見える格好になっちゃった。
……嫌、嫌だよ。誰か、誰でもいいから、助けてよ。
でも、助けが来ることは無い。当たり前だ。そんなの過去に経験してる。都合よく助けてくれる
『おおおおおおぉぉ! こんな場面に居合わせられないって、アイツも不幸だよなぁ!』
『イイネいいねぇ! もっとやっちまえ!!』
『次は何処を切るんだ!』
『んー、そうだねー……―――ああ、そっちはそっちで任せたよー』
『あいよ!』
誰か、助けてよ。
―――しかし意味が無い声となるだけで、誰も来る筈がない。すずかの声が運が良ければ聞こえているかもしれない位だ。
誰でもいい。誰でもいいから!
―――来る筈がない。そもそも海鳴市でこんな廃ビルの中みたいな場所と言ったら、あまり人の来ない町のはずれ辺り。昔の私が死んだ場所と同じ。
……まだ、また死にたくない。もうあんな目にもう遭いたくない。
―――諦めるしか、もう選択肢は残って無いんでしょ?
一度考え始めてしまうと止まらないマイナス方向への思考のループ。考えている内に、制服はどんどん切り裂かれて素肌が露わになる。
そんな時だ。別の男が一人『もう我慢できねえ!』と声を張り上げた。
『なあもうそっちのお嬢ちゃん
『……しょーがないなー。いいよー。でも生かしておいてね。加工する時は鮮度が一番だから』
『分かってるよこの糞
『なら良いよ
茶番みたいな会話を終えた男は、ズボンのチャックを下げると出て来たそれを私の目前に出した。
―――嫌、嫌。嫌、嫌、嫌。嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌ッ!!!!
蘇るあの時の光景。それを再現されそうだという状況によるパニック。
『んー!! んーんー!!!』
『あ、アリサ、ちゃん……』
『お、良いねえオ・ジョ・オ・サ・マアァ? 俺の見てそんなに暴れちゃってさ。そそるねえ』
『オイオイ、俺達も混ぜろよー?』
ああ、私もう駄目だ。
心の中で、諦めかけていた。いや、諦めていた。
もう、おしまいだ。またあの時のような目にあって死んでしまうのだ。
―――神様。居るなら、せめてすずかだけでも……助けてあげてよ。
そんな事を祈り始めた。現実逃避をしていたんだろうと思う。
でも、その場に現れた
『あぎゃっ!?』
『ん!?』
『きゃ!?』
間抜けな、
何が、何が起こってるの!?
先程とは別の意味でパニックになりそうになる。
割れたコンクリートの上に降ろされると、あの人は私の口に付けられていた道具を外して、私達を縛っていたロープを爪で切り解いてしまった。
それを行ったあの人を私達は見た。
『怖かっただろう。もう大丈夫、私は君達の敵では無い』
割れかけた窓ガラスから入る月光を背負って、地を這う
ライネス・ヴェルバータというらしい
あの時も、昨日の夜も、ちゃんと、お礼を言えずじまいだったけど。
「ちゃんと、お礼の一つでも言いたい人、かしらね?」
この位は、言わなきゃ気がすまないわ。
補足コーナー
・アリサ……この世界のアリサ・バニングスはアリサ・ローウェルが転生した存在。だが、過去のトラウマから自己を強化する意味も兼ねて『私』になった。
・影……いつかの補足コーナーのそのまた補足。ライネスには影は確かにあるが、それはライネス自身の影では無く、『ライネスの身に着けている物の影』である。後付け設定に思われるかもしれないが、実は一番最初に決めた設定で、公開するタイミングを見失っただけ。……バカス。
・デイビット……名前の間違いは、もう通す気でいます。なので、この作品の中においてはアリサの父親の名前は『デイビット』にしておいてください。
・アリカ……オリキャラ。アリサの母。これからも出てくる予定。
さって、無茶ぶりも消化したし、次からもとに戻りますか。
でも、やりごたえあったなあ……。
あ、おかしい点。矛盾点何かあったら報告よろしくお願いします。一気に書き上げてしまったので、おかしい点がいくつも出てきそうなので。