Vampire and a magic girls / RE.   作:眼鏡花

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 もうあんなミスはしない。ちゃんとレビューで確認してから! 猛省。


Ten

 目蓋を開ければ上下左右前後全てが白一色で、それ以外には何もない場所に居た。浮遊感に包まれながらも足でしっかりと地を踏む感触があるという矛盾。こんな頓珍漢で馬鹿馬鹿しい場所は私の住む世界にある訳が無い。在って良い筈が無い。

 夢である事に気が付くまで、然程時間は掛からなかった。

 

『―――』

 

 声が聞こえる。聞きたかった優しい声。後ろを向けば、しかし彼女の姿は無い。気のせいでは無いのは分かった。私の視界の端に見慣れた長い赤い髪が映ったから。

 すぐ、背中から軽い衝撃が伝わる。軽い重さも肩に感じた。

 

『だーれだ?』

 

 今度ははっきりと耳に聞こえた。残念ながら背にぶら下がる形になっている為、顔を見る事は出来ない。当たり前か。彼女と私とでは五分の一程度背の大きさに差がある。

 ……全く。君は本当に子供らしいというか、実は子供が大人に化けていると言われても私は疑う気は無い。寧ろしっくりくる。

 だが、それ故だろうか。君が、私を救ったのも。私が、君を愛したのも。君を、連れ戻そうとしたのも。

 君に、惹かれたからだろうか。

 彼女の問い掛けの答えは、残念ながら私の口から出る事は無かった。漏れ出す前に、視界が遠くなるような嫌な感覚を受けたから。

 

 

「……づぐっ」

 

 苦痛と、温かさ(・・・)。起きた直後に私に迫る二種類の感覚。目蓋をこじ開け、視界に真っ先に映ったのは灰色の私の髪だった。

 心地良さと気持ち悪さが混じり混沌とする思考の中で私が何故意識を失ったかを把握するのは早い。―――が、手に握っていたジュエルシードが無くなっている事に気が付いた後は、すぐに止まる。止まってしまう。

 仰向けに倒れた私に寄り掛かるような重さと温かさがあったから。まさかと思いつつ、左腕だけで体を起こす。

 背中から滑るように落ちていく重心を、慌てて片腕で捉え―――泣いた。

 

「―――シェリアッ……」

 

 悲しい、のではない。嬉しい、からこその涙。感涙。そういったものだ。涙を流す事自体、本当に何時以来だろうか。泣きそうになった事は在っても、ここ百年は確実に泣いていない。

 私が間違える筈が無い。涙でぼやけても、斜視によって二重に見えてもその事実は変わらない。覆らない。紛れも無く、彼女(シェリア)だ。

 返事は無くとも、「すぅ……すぅ……」と、寝息が聞こえた。息はある。確かな命を持って彼女は生きている。その事実を実感できただけで、今はそれだけで良かった。

 抱きしめる。思いきり抱きしめる事が出来ないのを悔んだ事は幾度も在ったが、今はそれまでとは違った。そういう事が出来なくても良い。大切な人と会えたからか、そんな事は細事だった。

 

「シェリア、シェリア……―――っ!」

 

 だが、それを邪魔するものがあった。痛みだ。

 発生源―――右腕を見てやれば、傷自体は既に塞がっていたがこの痛みだ。癒えたのは表面上なのだろう。腕の感覚は無く、熱を持ち、肘から先が作り物だと言われても納得できそうだった。考えてみれば、そもそも今こうして形を保ち、天津さえ表面上とは言え傷は塞がっているのだ。自らの事ながら恐ろしく思う。何時ぞや頭を撃ち抜かれた時と同じような事を考えた。

 抱いたシェリアをおろし、寄り掛からせるようにして考える。

 いっそ、切り落としてしまおうか。いや、だがそれでは―――等と思案する内に時間が経過する。

 

「むう……だが切り落としてしまえばこの先問題も生じるだろう。何より守る事が出来なくなる」

「すぅ……くぅ?」

「それに、私は決めたのだ。彼女が望むなら、望む通りにすると。なら四肢の何れかを失うというのは、些かデメリットが強すぎるか。遠目に守るにしても、利き腕が無いというのはそれだけで駄目だ」

「―――……ん」

「いや、それ以前に、だ。彼女が私を受け入れてくれたとして、彼女は私を許してくれるだろうか」

「―――……さん」

「ええい、これ以上考えるな。話がややこしくなる。それに、彼女が起きてからでないと話が進まな――――」

「―――ライネス、さん!」

「む!?」

 

 驚いた。いや吃驚した、の方が正しいか。

 彼女はいつの間にか、目を覚ましていたようだ。不覚、何故気が付かなかった。この程度の思案など彼女の様子を見ながらでも十分容易だっただろう! 何を考え込んでいた!

 溢れ出る後悔と自責の念、滲み出す謝罪を胸にしまい込みシェリアに言葉を掛けようとした所で、言葉が詰まった。詰まってしまった。シェリアからの質問、確認によって。

 

「……ライネスさん、だよね。どうして……あの時私は」

「―――先に、謝らせてくれ。すまない。この一言で君が許すとは思えないが、せめて形として受け取ってくれ」

「……」

 

 シェリアが首を縦に振り、私は口にする。事の発端を。私が何を仕出かしたかを。どうやってシェリアを蘇らせたかを。

 私はこれで終わりだろう。幾ら思っているとは言えこれは度が過ぎた。それに、彼女が頼んだ訳でも無いのに再び彼女に生を与えた。口に出し改めて私が起こした事の重さが露見する。ああ、何て、愚かな。本当に愚かだ。もしかすれば彼女は、二度目の生なぞ全く望んでなどいなかったのだろう。賢者は死を選び、再び生まれぬ事を望むという。彼女もそれに倣っているのか?

 だとすれば……ハハッ、何と無様な。化け物以前、外道もいい所だ。

 

「シェリア。君からの叫弾、拒絶、憤怒、私に向ける一切の恨み言を拒む気は無い。君が私以外の者と生き、そして逝きたいというならば私はそれを支えよう。君が一人で生き、逝きたいというなら、その手助けをしよう。今この場で死にたいと言うならば、痛みを与えぬようにそう(・・)しよう。シェリア、君はどうしたいかね?」

 

 精一杯仮面を付けて、盛大に歪んでしまったと思う顔を彼女に向ける。さあ、私に出せる選択肢は出し終えた。後は彼女が決めるだけ。永きに亘る私の奇劇は、彼女にとって(・・・・・・)最高の喜劇で幕を降ろすらしい。確かに、こんな私にはそれがお似合いだ。

 

「……ライネス、さん。一つ、良い?」

「何かね?」

「どうして、どうして―――『ライネスさんと一緒に居る』っていう選択肢が無いの?」

 

 ……今、何と言った彼女は。

 何故、私を叫弾しない。如何して、拒絶しない。何で、私を怒らない。

 何故、如何して、何で。

 

「……私は君の是非を問わずにこの世に蘇らせた。神の下から引き摺り下ろした。君が再度の生を望んでいなかったとしよう。なら、私は君の傍に居続ける事は―――」

 

 ぱちんっ。軽い音が周囲に響く。気が付けば顔の向きが逸れていた。じりじりと熱を持つような痛み。

 彼女に、顔を(はた)かれた事を理解しきるまで、若干の時間が必要だった。

 

「私は、そんな言葉が聞きたいんじゃない。何でその中にライネスさんが居ないの? ライネスさんだって、一緒に居たいでしょう?」

「……如何して」

 

 彼女は、今までに見た事が無い程真剣な眼差しで私を見た。

 どういう事だ。何故だ、何故だ、何故だ。何故だ。何故、何故何故何故何故?

 如何して、私を拒もうとしない。天津さえ、私を受け入れようと、する。

 分からなくなってしまった。私が考えていた事が。望んでいた事が、脳髄に直接手を突っ込まれ掻き乱されたような、訳の分からないシェリアの疑問。理解できない。したくない。してしまえば、私の中の何かが瓦解するように感じたから。

 だから、頭が暴走したように、口から(せき)を切ったように言葉が溢れだす。

 

「如何して、だって? ああそうだ。私だってそうしたい。そうしたいに決まっているだろう! だがね。シェリア、私は私の利己(エゴ)の為に君を蘇らせた。身勝手な願い事の為に、私の為に君を利用するかのように君を此処(この世)に連れ戻した! 君と共に過ごしたい、そんな身勝手な願いの為にね! もう駄目だ! 全てが手遅れだった! 君を蘇らせると、誰にでも無い私自身に誓った五百年前のあの日から! 私が―――」

「違います!」

「何が、何が―――違うと言うのだ。君は……」

 

 堰を切ったのは、口だけに留まらない。目からは止めどなく涙が流れ出し、顔は仮面を被り隠す事が出来ない位ぐしゃぐしゃに歪んでしまっている。如何してなのだ。如何して、私を拒絶してくれない(・・・・・・・・)。私はそれだけの事を君にしてしまった。なら、如何して。

 いっそ、自殺でもと纏まらない頭で考えだして、先程と同じように止まる事となった。

 彼女によって顔を抱かれたから。柔い感触が顔に当たる中、石のような物が顔に当たる感触が在った。

 

「だって、ライネスさん。私は、ライネスさん以外の人と一緒に過ごすのは()だし、ライネスさんが苦しいのは私だって苦しい。独りぼっちなんて考えたくも無いし、ライネスさんがくれた()を手放すなんてそれこそ()だよ」

「シェ……リア」

「ねぇ、ライネスさん。ライネスさんは自分が許せないんでしょ? だから私と一緒に居るのを怖がってる。私に嫌われるんじゃないかーって。でも、それはおかしいです。だって、私はまたライネスさんに逢えて嬉しい。嫌うなんて在り得ません」

「……」

 

 覚悟していた。彼女を蘇らせた際の恨みを、一身に背負う事を。そうすれば。シェリアは私を拒む所か、肯定するのだ。そうでなければ、私は、私は―――

 だが、一方で肯定されたいと思っているのもまた、覆しようが無く事実だ。

 

「だから、はっきり言います。私シェリア、シェリア・レドはライネスさん、ライネス・ヴェルバータさんと一緒に居たい。でもライネスさんは自分の我が儘でこれ以上私を付き合せる訳にもいかないと言ってる。だから、考えました」

「……なに、を、だね?」

 

 震える声で、彼女に聞き返す。

 くしゃくしゃに歪んだ顔からは涙が溢れ、シェリアの着た渇いた私の血が付いた質素な服を濡らす。過去に逆の配置で同じような事が起きた事は在ったが、私が涙を彼女に見せたのは初めてでは無いにしろ、殆ど無かった。

 だが、今はそんな事は無くなっている。私が幼子で、それをあやすシェリア。そういう構図が出来上がっている。こうやって体裁を気にせず泣くなんて、生まれてから初めての経験だった。

 

「簡単です。私は、ライネスさんを許しません。だから、一回だけ(・・・・)私の願い(・・)を聞いてほしい。だからライネスさん。改めて、これから私と過ごして下さい」

 

 シェリアは、私を拒まなかった。逆に、シェリアを拒んでいたのは私だった。結局の所、私は道化以下だった。道化になる事も出来ず、為ろうともせず、唯々怯え膝を抱え震えているだけの矮小な子供だった。

 ―――やはり君にはこういう部分では(・・・・・・・・)敵わない(・・・・)

 

「……シェリア、君が望むなら私は君の傍に居続けよう。後悔しても責任は取れないが……」

「もう。しませんよ、絶対(ぜーったい)。そんな事言わないで」

「ありがとう。……シェリア、君に一つ言わなければ為らない事が在る」

「如何したんです?」

 

 シェリアの胸元から顔を上げ、片腕で涙を拭って目を合せる。私としては触れ合う事には抵抗は無いのにも関わらず、目を合せるという行為自体に気恥ずかしさを感じてしまうのだがシェリアは全く問題無いらしい。だが今ばかりはそんな事を言う余裕も無い。戯言に興じる余裕があるなら、今すぐ辛い事は飲み干すべきだ。

 顔が熱くなるのがよく分かる。(はた)かれた所よりも余程熱くなっているのだろうが、痛みは伴わない。唯、私自身から本当にこんな熱が本当に出ているのかと思うと甚だ疑問だ。

 拒否される覚悟を決め、その言葉を―――五百年前、一度も告げる事が無かった言葉を万感の思いで告げた。遠回しに言う必要は無い。素直に、愚直に、思いが伝わればそれでいい。

 

「シェリア、私は君を―――」

 

 ―――愛している。

 

「……はい。私もです」

 

 私は、この日の事を生涯忘れる事は無いだろう。

 




需要が有るか分からない補足コーナー
・許されるも何も、ライネスはシェリアに対して今回の事しか悪い事はしてない。まあ、小心者と言うのはこういう事。『頼まれても無い事をやってしまった』そんな訳のわからない罪悪感から拒まれるのを何時の間にか望んでいたという。

・これから無印に結構大きくかかわっていく予定。

・硬い感触……何時ぞやの補足コーナー参照でよろしくお願いします。そうすれば今後、どんな感じに関わるか分かる筈。

 なんか、タグのヤンデレの『?』を取らないといけないような気がしてきたので外します。あと、とらは3も入れなきゃ……。

 今回は誤字が無い事を切に願います。

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