Vampire and a magic girls / RE. 作:眼鏡花
「――」
行き成り、楽になった。理由はわかんない。
あの途轍もない苦しさが抜けて、ほっと一息。
「……ライネスさん、何処に行っちゃったの?」
もう、動く事もままならないほどつらいわけじゃない。
ベッドから体を起こして、窓が開いてることに気が付いた私は閉めようと思って、窓に近づいたの。
そして、下を見た。
「――――え」
表現なんて、幾つでもできる。ライネスさん風には、絶句? かな。
でも、私は目に映った光景を疑った。――受け入れられそうも、無い。
「……え、あ――――」
視界に映るのは、私が大好きな、大好きな怖がり吸血鬼。ライネスさん。
最愛の人が、血まみれで、地面の上に、ぐったりと落ちている。
何処を怪我しているのかもあやふやなくらい、――何処を怪我しているのか分からないくらい真っ赤になって。
顔は私のほうを向いていたけど、あかい右目が中途半端に開いているだけで――
「――いやああああああ!!!」
――私を、映してはいなかった。
悲鳴が聞こえたのは、名前がわからない黒い子がジュエルシードを持ち去ってしまい、すずかちゃんの家に戻る途中のことでした。
慌てて戻ってみると、アリサちゃんもすずかちゃんもいました。二人とも、顔を顰めあっています。
そこで二人はわたしをみつけたようです。
「なのは! どこ行ってたのよ!?」
「ユ、ユーノ君追いかけてたら迷っちゃって……」
「しょうがないよ。ここ、広いし」
そうやって他愛もないことをぽつり、ぽつりと話しあって、さっきの悲鳴について聞きました。
「そう言えば二人とも。さっき、悲鳴が聞こえたの。なにか心当たり、ない?」
「んー……よく分かんないのよねえ。シェリアさんが叫んで、恭也さんたちが行っちゃって『君たちは此処にいるように』って、言われちゃったし」
「≪ユーノ君……これって≫」
「≪さっきのは、ライネスさんだった……てことなのかな?≫」
「≪……分からない。情報が足りな過ぎる≫」
……大丈夫、だよね。
だるい。
体がだるい、目蓋がだるい、意識を保つのがだるい。――私はこんなにも、動きたがらない存在では無かった筈だ。
思い出せ。要因を探れ。記憶を修復しろ。――目を逸らすな。
……ジュエルシードが発動し、シェリアが苦しんだ。だから、ジュエルシードを壊そうとした。その過程においてどんな犠牲を払ってでも。――彼女が喜ばないと分かっているくせして。
結果的に、感情に身を任せた私は後先考えずに暴走。私の最高の魔術でジュエルシードを破壊しようとして、結局叶わなかった。――愚かにも、自分に酔って自己嫌悪を和らげようとした。
それで今、眠っているのか。――眠っているのだろう。それでも、意識がある程度はっきりしている辺り、体がまだ如何にもなっていないのか。
シェリアは今も、苦しんでいるのか。結局の所、黒色の少女――フェイト君と白色の少女――恐らく、恭也君の妹、なのは君――を傷付けるどころか、殺すところだった。
行いには、思う所があるだけだ。しかし、対象がおかしい。知人の妹に、手をかけた。
なんて短絡。なんて自分本位。――無様にも、程がある。
思えば、
同じではないか。成長できないままに育った大人、そのままだ。
こんな私が、彼女の傍に居る? 考えるだけで身の毛もよだつ。こんな私が、居ていい筈がない。
しかし、居たいと思う。それが人間では無い私から、人間である彼女にしてやれる唯一の
彼女は、私を拒まなかった。
ならば、私が居なくなれば、彼女は幸せか?
分からない。判らない。解らない。わからない。
もしもそうだとして――何が残る?
この言い知れぬ感情の出所を塞ぎ、叫びたい気分だ。
そんなのは、考えても無駄なこと。彼女の口から答えは出ている。しかし、それでも自問自答を私は繰り返した。何回も何回も。何度も何度も。
――『怖い』から、私はこうして悩み続けているのだ。そうでなければ今頃私は私の感情を全て廃棄する。廃棄、している。
――可能なら、とっくにしている。出来ないから、悩んで、自暴自棄になって――
――私とてシェリアを助けたい。救いたい。彼女を救い、苦しめるジュエルシードを、どうにかしたい。
身勝手な願いだと分かっている。それでも、時が私たちを分かつまでなら、その位『ご都合主義のように』見過ごしてくれたっていいだろう。なあ、大嫌いな神様――
そんなことを考えていると、体が軽くなった気がした――
「――……ここ、は」
思いの外、しゃがれた声が出た。
数日碌に口を開かなかった時に、似ていた。
「すぅ……すぅ……」
「……シェ、リア?」
目を覚ました頃、雲の隙間から煌々と光を放つ月が部屋を照らしていた。
見慣れない天井だ。初めて見る。白いカーテンにしきられ、ベッドの上に横たわっているようだ。薬品の匂いが鼻を突く。
だるく感じる体。その中で右腕――感覚がある辺り、もう再生は殆ど済んでいる筈だ――にかかる重みに疑問を抱いて、見れば少し痩せこけたように見えるシェリアが椅子に座って、私の腕に突っ伏して眠っていた。
――その事実を受け入れるのに、目の前の彼女が嘘偽り無く、彼女自身であると認識するのに、どれだけの秒数を無駄にしただろう。
恥などかなぐり捨て、声を上げることもなく、涙を流した。
ああ。彼女がいる! 生きて、傍に居る! それだけで、私はこんなにも幸せで居られるのかと、改めて認識した。
同時に、先程まで考えていたことが脳裏をよぎる。私が居なければ――彼女は。
そう思うだけで、私は自分が嫌になりそうだ。
しかし、喜びは収まってくれそうもない。こういう時こそ、喜びを噛み締めずして、何時噛み締めるのだ。
――だが、参った。――よりにもよって、今。
「う……ぐ……」
――血が欲しい。血が欲しい! 血が欲しい!!
――人間だ! 人間が居るぞ! 美味そうな人間だ!
――噛み付け。啜れ! 飲み乾せ!!
――血、血、血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血っ!!!
飲血衝動が、あまりにうるさく私を駆り立てる。今すぐ彼女に牙を突き立てろと。うるさく、うるさく。めまいにも似た何かが視界を襲う。
煩わしいくらい月光を反射しない銀髪を掻きむしって、うち頬を噛む。
耐えろ。今耐え切れずに居れば、その時こそ彼女は――。
ぶつんと、口の中でそんな生々しい音が聞こえた。同時に広がる、鉄臭い臭い。
口の中に残る生暖かくて、柔らかい食感である千切れた『何か』。
自分の血で代用できれば、どれだけいいことか。
そのままそれを呑込んで、――魔術を使おうにも、碌に集中できそうもない。
耐えるしか、なかった。
「ふみゅ……んに?」
がたがたと伝わってくる震えに、私は目を覚ました。
――ライネスさんが極めて重傷で倒れているのが見つかって、今日で大体一か月。
よく分からないけど、とても酷い状態だった。しのぶちゃんと『よるのいちぞく』? の専属のお医者さんが言うには「どうして生きているのか、不思議でならない」って。
ライネスさんがそれくらい大きな怪我を負っていたのに、私は何も出来なかった。
だってライネスさんは私の、私の最愛の人なんだから。
この数日で何回も苦しい思いをしたけど、ライネスさんを待つって考えれば耐えられた。
少し怖がりなところもあるし、目も私をちゃんと見てくれているのか不安になるくらい違う所を見ているけど。
最愛の人――それ以外の言い方が、頭に出て来ない。その位、『好き』の前に何個でも『大』を付けられるくらい、私はライネスさんが大好き。
――だから、お願いだから――目を開けてよ。
何でもする。私が我が儘を言ったんだから、今度はライネスさんが言う番なんだよ?
私も、とっても寂しがり屋なんだよ? しのぶちゃんが言ってたうさぎさんと同じで、死んじゃいそうな位、独りぼっちはいやなんだよ?
迷惑かな。私が居るから、治るのが遅いのかな。そんなことを考えて、今。星が綺麗で、月がきらきらとしていた夜に、私は目を覚ましました。
「シェ――――リア」
「ライ、ネス……さん」
初めは、夢かと思いました。でも、そう思うにはあったかくて、体も大きかった。
匂いも、ライネスさんの匂いがした。
「ライネス、さん! ライネスさん!! ライネスさん!!!」
病院では大きい声を出しちゃいけない。言われてたことだったけど、そんなことを気にする余裕もないくらい大泣きして、抱き着いた。
でも、ライネスさんは私を離しました。……なんで?
「シェ……リア、すまない。……血を、くれないかね?」
「――うん!」
好きな人に必要とされるのが、こんなに嬉しいと思うのは、間違いではないと思います。私は今、どう間違った方向に解釈しても、『必要とされた』のだから、満足。
そう思い終わるのと、手首を浅く爪で切られたのは、殆ど同じくらいでした。
・なぜ遅かったのか。
→鏡が自信を失いスランプ+もう書けないと言い出し、眼花も眼花でモチベダウンしていた。
・次の投稿いつよ?
→未定。ただ、次話は既に完成済み。
……マジですみませんでした。気が付いたら半年以上更新していなかったとか……。俺ェ……。