Vampire and a magic girls / RE.   作:眼鏡花

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 時間が空いたので、投稿させて頂きます。


One

「……シェリア」

 

 返事は無い。当たり前だ。彼女は死んでしまっているのだから。

 鬱蒼とした森の中に孤立して佇んでいた家。その中でシェリアの遺体を安置・保存するための部屋にて、彼女を呼んだ。遺体の収まった棺の下にはおどろおどろしくもまとめ上げられ、その上から余計な物を付け足したような違和感がある六芒星が敷かれている。

 小さな屋敷のようである此処に移り住んではや五百年。最低限の衣食住の為の場所と時間を確保し、残りを全てシェリアの体の保存と蘇生の魔術の研究に割いた。住んでいた人間の女は吸い殺し、適当に埋めたが、東西南北のどこに埋めたまでは覚えていない。

 気に留める必要すら無い訳だが。

 研究のために使っている部屋に移動し、壁に貼り付けられた、魔術を使ってこれ以上痛まないように処理をした古びた紙を見る。

 紙には、彼女の蘇生の為の魔術に必要な物が全て書いてあり、その内の一つ以外は斜線が引かれていた。

 五百年の歳月を掛け、研究を繰り返し、その果てに死者の蘇生に辿り着いたが、私にとって魔術とは目的では無く手段でしかない。この魔術を使うことが出来れば、確かに彼女を蘇らせる事が可能だ。だが、その為以外には私はこの魔術を使う気は一切無い。

 他人が死んだから、何だというのだ。シェリアは悲しむだろう。だが、今の私にはそんな余裕は無い。死にそうならば、勝手に野垂れ死んでいろ。それが私の言い分だ。

そういえば、目的達成の片手間に自ら(吸血鬼)という存在が抱える命題であり、最も問題を孕む『日光を浴びると灰になる』というのは、予想外の形で解決した。

 当時から百年ほどたった、曇り空のある日の事だ。私は偶には換気をしようと窓を開けた、すると偶然雲の割れ目から顔を覗かせた太陽の光を直接浴びてしまう。だが、体は灰にならず、僅かに肉の焦げる臭いと、火達磨になったかのような痛みが襲って来たのだ。

 堪らず、窓辺から転げるように家の奥に逃げ込めば、臭いは消え痛みも失せた。

 数ヶ月ほど日を置いて検証して見た所、あの時のような臭いは起こらず、痛みも火達磨よりは良い程度ではあるが、軽くなっている事に気が付く。

 憶測推測の域を出ないのだが、吸血鬼というのは長い年月を生きれば生きる程にその肉体を盤石な存在へと昇華していくのだろう。例は私しか居ないが、そこまで深く知る必要は無い。或いは、私が吸血鬼のような全くの別種であるからなのか(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。いや、この言い方だと誤解を招く。正確には、正規の吸血鬼では無いからなのか(・・・・・・・・・・・・・・・)と言った方が正しい。

 何せ私の知る吸血鬼、夜月の民は日光を弱点としない。銀や聖なる加護を受けた武器等に対する弱点などを持たない。そして、個人差もあるが人間の範疇として身体能力は総じて高く、自ら血を作れないが、異性の血を飲んで生活する者は大体二百歳以上生きる。が不死では無い。記憶操作の魔術では無い何かを習得していた。今思うと、超能力のような物だったのだろうと受け入れることが出来る。

 この位しか私は知らないが、最長の者でも百年程前に私が出会った者は三百と九つと自称していた老父だ。正直、人間としか思えなかったのは今でもよく覚えている。

 私は何だ? 元人間で、ある魔術師によって人間を止めさせられて既に六百五十は生きている。

死にかける事があっても、肉体的な老いにより死ぬ事は無い。身体能力は人間の範疇を越え、銀などで負った傷で無い限り負傷は任意であっという間に塞ぐ事が出来る。私のその時の体力にもよるがね。

何時だか乗り込んできた兵士に頭を打ち抜かれた事もあった。流石に死んだと思ったが、少しばかり息切れする程度に体力を消耗しながらもすぐに治り、怯えた兵士を仕返しも兼ねて時間を掛けて啜り殺した。

 血は今の私にとって美味なる物の一つであり、魔力を作る為の原料でもある。だが、必ずしも必要という訳では無い。寧ろ、何も飲み食いせずとも生きていられる。

 更には、血を啜った相手を亡者に変えてしまう。

 何より、鏡に映らない。写真は確かめた事は無いが、そうだとすればそれは悲しい事だろう。

 奴は私を物語に登場するような、不老不死にして絶対的強者、見目麗しい吸血鬼を作りたかったのだろうか。ある程度容姿には自信が在るが、それだったならば父上の方が向いていた筈だ。私は斜視であるから、台無しになってしまう。

 ただ、極度の女好きで後宮を作ろうとして母上に夜な夜な大変な目に合され、次の日の朝には、やつれた姿で起き上がってくる姿はそう珍しくなかった、少しばかり残念な父であったが。

 関係の無い方向へ走り出した思考を頭から追い払う。私は今を生きているのだ。ならば、今の私にとって支障に為らない事は考えるだけ無駄なのだから。

 紙に書かれた材料で揃っていないのはあと一つ。膨大な魔力だ。

 尤も、これは時間を掛ければ解決する問題だが……些か時間を掛け過ぎる。少なく見積もっても、人間であれば百年足らずの命の全てを使って魔力を精製した所で百分の一が集まれば良い方だろう。

 魔力というのは、材料に命を用いてそこから精製した物だ。命を支払うという事は、寿命を削るという事。よって、私の知っている魔術師は皆短命であった覚えがある。最短で二十、いや十五になる前に死んだ者も居たか。無論、その手の話に付き物な例外はいたがね。

 私は吸血鬼であるから、寿命の心配は要らない。更に言えば、摂取した血を魔力に変換する事も出来る。だがこの方法は現実的では無い。血から作り出した魔力というのは、人間が一生分の命を支払って練り上げた魔力よりも比較するまでも無く少ない。先程は百分の一が集まれば良い方だと言ったが、この方法では二千年は覚悟しておかねばならない。

 そう考えると、高々二千の人間を啜り殺すだけの簡単な作業だ。火薬兵器に後れを取る程私は生易しくも、ましてや容易い存在では無いとも考えられる。

 流石に銀の弾丸を四方八方から浴びせられれば或いは違うかもしれない。しかし、私が吸血鬼であるという事実にいつ人間が気付けるか、という事にもなる。それではつまらない。唯々一方的な虐殺だ。

 はて、最近は妙な事を考える日が増えてしまったが、まあ問題あるまい。

 

「魔力を、固めるか」

 

 言い聞かせるように呟いて、私は私の命を削り魔力を精製する。私が一度に作り上げる事が出来る魔力の量は精々必要量の五千分の一程度。本当に微々たるものだ。更に言えば、紙に書いた物を集め終わるまでこの作業は一度も行って無かった事が祟り、漸く千分の一程度が溜まったのだ。

 精製した魔力を右手に集中させ、確固としたイメージでその形に固める。

 魔術は、計算式と言える。

魔力を使った机上の空論式のイメージ()の具現化だ。無論、その式に矛盾・不可能な部分は必ず存在する。魔術は『魔力を使った矛盾・不可能の上書き』と言っても過言では無い。世界の理を塗り替える為の(すべ)

 

 成程、考え直せば確かに魔の術だ。そんな人外の技術、魔が行ったモノにしか見えなかっただろう。

 まあ、相応に頭を働かせる技術故に、私も同時に使うのは三つが限界だがね。それ以上は頭がもたない。魔術師の中には五つ以上を扱いこなして見せた猛者も居たらしい。

呪文を唱えるというのはあくまでもイメージを固める為の説明のような物に過ぎない。

 閉じた目蓋を上げれば、右手には淡い赤色をした魔力の結晶があった。固めるというのも、私は先程の通り五千分の一程度しか精製できない。それ以上も出来るが、緊急事態の時に余裕を残しておきたいからだ。それでも必要量には達しないものだから、少しずつ精製しては固めて、結晶化させた魔力を集めている。

 

「今回も成功、あと三千九百九十九個……十三年弱、か。もうすぐだ」

 ああ、五百年もの彼女が共に居なかった世界はとても遅く進んでいるようだった。だが、それも後少し。五百年に比べれば一瞬だ。

 顔に暗い笑顔が張り付いている事は容易に想像が付いた。

 

「あ、ははは――――アッハハハハハハハハハハ!!!」

 

 いや、それだけでは無い。笑いもこみあげてくる。自嘲、歓喜、不安、安心。とにかく、多量の感情がせめぎあい、混ざり合って、気味の悪い自分の物とは思えぬ声が出た。

 私は、もう止まる事は出来ない。もう此処まで来てしまったのだ。シェリアに罵倒されるのはとっくの昔に覚悟している。

 ふむ、成程。

 考え方を変えれば、それだけ死した今でも尚彼女を愛している愛妻家とも取れる。

 また別の考え方をすれば、過去に縋りつき現実を見ようとしない愚者とも取れる。

 どちらでも構わないがね。

 そんな事を考えていた時だ。

 

「―――!?」

 

 何だ、今の魔力は!?

 ほんの一瞬。(まばた)き一つ行うよりも早く、―――大規模な、それこそ必要な魔力が揃う、いや余る程の量の魔力が感じられた。

 

「場所は!」

 

 部屋の一角にある酷く浮いて見えるテーブルの上に備え付けられた地球儀を回す。

 唯の地球儀では無い。魔力の反応が有った場所を自動的に補足する、現代的な言い方をすればレーダーという物に近い物である。

 そして、ある一国のある地域にぽつんと、薄く青白い光の柱が立っていた。

 

「日本か。……行くしかあるまいよ」

 

 既に私の中には確実性を求める考えは残っていなかった。在ったのは、早くシェリアに逢いたい。その願い一つのみ。

 最低限の手荷物を揃え、影に収納する。影の中は小さな倉庫と同程度の空間しかないが、私にはそれで十分すぎる。他の魔術師も似た様な物だ。但し、杖や魔力を流したインクや羽ペン以外はだが。

 それが本来の魔術師の最低限の常備する道具であり、武器なのだ。

 例えば、杖は魔術の威力を上げるための補助具として活躍する。インクと羽ペンは、最も分かりやすいのはルーン文字だろう。文字自体が魔術として成立するあれは、熟練した魔術師にとっては標準的な魔術であった。

 今はどうだか知らんが。最近は私以外に魔術師を見た事は無い。材料集めの際にも一度も無かった。一目見ればわかるのだ。感覚的な言い方になるが、同族嫌悪と言った所か。

 もう、時代の流れという物に淘汰された可能性も否定できんな。

 服装も整い、必要な物も全て揃えた。最後にシェリアに顔をあわせ、数度頭を撫でてそのまま外へ移動する。

 ……本来ならこの移動方はしたくないのだが、致し方あるまい。

 

「では、参ろう。―――全ては、悲願の為に」

 

 私の体が千切れるように何かが羽ばたいて行く。

 姿を変えた私の体の一部である蝙蝠だ。数百匹の私の群れは一つの巨大な怪物のように日本に向けて飛び去った。

 




Q1.主人公は荷物に何を持って行ったの?
A.改定前を見れば何となく分かる筈。ついでに魔術師らしくなさ。


Q2.主人公が普通に作れる魔力の限界量ってどのくらい?
A.んー……大体三期のはやてよりもやや劣る程度とでも。問題は、それだけの量を毎日精製出来る事。リンカーコアに頼っていない分、そういう面では魔力切れで次の日は戦えないという事が起きない。そもそも肉体的に戦える。

修正しました…誤字、日本語になってない日本語が多いなあ
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