Vampire and a magic girls / RE. 作:眼鏡花
十分もかからなかった。空を覆う濁った色の雲。私にとって日光以上危険に感じさせる、自然の中にある物で不自然で異常なまでの猛威が、目に映った。
『脅威』。それだけでしか指し示せないような災厄。その中にある、六つの小さな光源。
数が集まればこれ程のことが出来る代物。そんな物を私は一人で使ったのかと思うと背筋が冷える。
体を纏め、私を形作る。魔術を使い空に立った。
袖の中に出来た影より、片手半剣を取り出す。見る者が見れば、マジックだ、とでも言っただろう。それに反応するように竜巻が、雷光が私に向かう。それ――ジュエルシードが持っている意思のような物なのか、或いは偶然なのかは知る由もない。
剣を上段に構え、魔力を這わせ――迷いなく振り下す。体が軋む音がした。背中に言いようの無い気持ち悪い痛みが生じる。眠り過ぎた代償だ。安いものだと思った。
剣の表面を覆っていた魔力が斬撃となり、風を、雷を切り裂く。しかし、現象の原因が自然そのものだからだろう。竜巻は斬っても復元し、雷光はそもそも落ち続ける。
水に関わること全般なら、魔術でどうにか出来なくもない。しかし、これはジュエルシードが発動した結果。
誰も手綱を握っていない暴れ馬。一個ですら手を焼いたあんな代物に、間接的とはいえ同時に干渉する? ――自殺行為だ。
迫る雷光の群れを避け、魔力を纏わせた剣で切り払い、斬撃で吹き飛ばしながら、考える。
仮に正常な『発動状態』だとして、『願望者』は誰だ。
人間に恨みを持ちそうな生物は、海の生き物と考えればごまんといる。しかし、そうであるならばこうも天候に干渉するのが不可解極まりない。あまりに関わりが無い。
飛行魔術を発動。私を巻き込もうと接近する竜巻から垂直に足場を蹴って逃げ、斬撃を叩き付けた。
……まさか、『暴走』か? それならば在りえなくはない。しかし誰――ジュエルシードの前に感じた魔力?
成程。私と同じことを、規模を拡大して行った馬鹿者がいるのか。
そう見当をつけつつ、上空から迫る雷を斬り払い、首に鈍痛が走り目を細めたことで、気が付いた。
「……、今回も君たちが関わっているのか?」
最早運命を感じられそうなくらい、短期間の間に接触している少女を見つけ苦笑いを我慢しきることは出来なかった。フードを被り、アルフ君に絡みついていた雷を切り伏せ、そのまま少女――フェイト君の頭に落下してきそうだった光を、魔術の構成が崩れるほど、強く踏み締め、膝から鋭い痛みを感じた直後には彼我の距離をゼロにし、寄って斬り払った。
「手を貸そう」
「誰……ッ、貴方は」
腕を僅かに持って行かれそうになる奇妙な手応えを残して、私に迫った竜巻は霧散した。
「ふむ。――少し、休んでいたまえよ。YR、EOLH」
フェイト君の腕に巻かれていた包帯を一瞥し、ルーン文字を唱える。直接書き込んだ方が効果もあるのだが、今回のようにそんな余裕もない場合では仕方が無い。
フェイト君とアルフ君周囲を覆うように、薄い緑色の障壁が張られ、同時に傷も癒していく。
イチイの木を示すルーンには防御の意味合いも含まれる故に、そう簡単には崩れることは無いだろう。
尤も、魔力の回復は出来ない。いや、表現がおかしいか。魔術師は命より魔力を精錬する作り出す。感じ取ることは出来ても、回復させるというのは、そもそも意味合いが狂うのだ。
フェイト君は、どうやら魔力を殆ど使い切っていたようだ。――ああ。
繋がった。彼女なのだろう。意図的にあれを暴走させた犯人は。
「……これは?」
「あんた! あたしたちに何をした!?」
「ただの治療と盾を用意しただけだがね、アルフ君」
「……何であたしの名前しってんのさ」
彼女のことだから臭いでばれるとばかり、……ああ、この豪雨では分かるまい。匂いも流れて、声も数度会ったことしかない相手だ。
フェイト君には後で頭を下げなければいけない。
「そんな些細なことはどうでもいい。今はアレらを止めるか、破壊するかのどちらかだ。君達はそれを行えるはずだろう?」
「そりゃできる。でも、今出来たら……出来たら、今こうなっていると思うかい?」
「……頭が痛い話だ」
頭の中で沸点が一気に上がった気がしたが、今は理性で抑え込む。無駄なことをしてシェリアに負担をこれ以上かける訳にもいかない。
……苦手、なのだがね。
――魔力を精製。術式を組み立てる為に脳の機能の半数以上を使用。使用する術式において目的を達成するために必要、不必要な記述を確認。――記述より、第二節を改変。射程距離の延長、拡散領域の増加。術者への負荷の増幅。
術の媒介として術者の体液を使用する。
雲は竜巻に引き寄せられ作る必要もない。風も操ってしまえば良い。反動なんて、二の次である。私は吸血鬼、不死の怪物である。
だから、死を臆するな。
「さあ。ジュエルシード」
術式を組み上げ終わった傍から、私は迫りくる竜巻と雷光を、全く同一の物で防いだ。血に染まった指揮棒剣片手に天候を操作するのは、気分はさながら楽団の指揮者といったところか。こんな品の無い演奏なんて、二度も行うことが無い事を願おう。
頭痛が酷い。無理矢理に暴れ出そうとする雲と風を操っているからだろう。これは、再び寝込む恐れがある。
本来ならば、時間稼ぎなどしたくもない。無理矢理にでもフェイト君にその術を使わせている所だ。魔力の譲渡も出来ない故に諦めるほかないが、一刻も早く彼女の回復を待つしかない。
<アルフ……>
<うん、言いたいことは分かるよ。フェイト。あたしも、わかんない>
<とりあえず、最低限警戒はしておこう>
<了解>
フェイトと念話をしながら、目の前の男に警戒心を強めた。
三度目だ。目の前の、血が染みついたフードを被った長髪の男が、あたしたちに――もっと広く言えばジュエルシードに関わってきたのは、三度目。
一度目はジュエルシードを手に入れたまま撃退された。
二度目は――あの時だ。あの時のがきんちょとその使い魔らしいネズミと関わった時。この男の言い分から察するに、あの血の化け物もこいつだ。あたしは頭脳派でも無いけど、頭の回転は速い。だからそう考えるのに時間は要らなかった。
そして三度目いま。ジュエルシードの暴走で発生した異常気象を、自分から操って、ぶつけ合わせて相殺させている。
男の何処から湧いてくるのか分からない、得体の知れない魔力の量。まるで、すぐにリセットされてるみたいに男から感じる魔力は一律だ。
原理はわからない。本当に魔法なのかもわからないから、今は仮称だ。
でも、何となくこれが今の男の全力なんだと思った。――フェイトとあたしを治療し、足場代わりに結界のような物を張るなんていう、燃費の悪さで並の魔導師なら十数秒で昏倒しそうなことをやりながらの、手一杯の状況。
怖い。相手を倒せるような力があるって意味じゃ無い。相手に回したくない狡猾なやつを思わせる、得体の知れない恐怖心。
そんな感情が掻き立てられた。
「……あんた、名前は?」
「ライ、ネスだ! 今聞く事でもないだろう!?」
ごうごうと降り注ぐ豪雨と風にかき消されかけながらも、その荒れた口調は初対面の、礼儀正しそうというか、飄々としたよく分からない雰囲気はない。
それだけ、目の前の怖い存在――ライネスが焦っているのだ。あたしたちをあしらい、殺そうとした化け物がまるで、途方もなく焦った表情を浮かべている事に――今にも泣きそうな子供みたいな顔をしていたことに、驚きを隠せない。
目的は何? 理由は何? 関わる原因は何?
分からない。だけど、二度目と違っておぞましい感じっていうか、殺気はなりを潜めている。フェイトのことも攻撃せずに、守って挙句回復も同時に行う。
分からない。目的も何も、掴めたもんじゃない。でも、分かりきってるのは『今は敵じゃない』ということだけ。
それにしても、強い。一度目の時はあしらわれていただけだったんだと実感するね。
「くっ――む?」
一際大きな竜巻を、ライネスが幾つもの竜巻で迎撃して、霧散させたときだった。
雲が、光った。雷では無い。印象的にはもっと温かくて、力強さを感じさせる――もっと言えば覚えのある魔力。
雲の上から降りてきたのは、白いバリアジャケットに身を包んだあのがきんちょだった。
「……運が良かった」
そして、突かれたようにライネスが言うのと同時にあたしたちを包んでいた魔法が解けるのと、がきんちょがフェイトの目の前に降り立つのは。殆ど同じくらいだった。
・ライネスの本気って、実際リリカルなのはの世界観的にどんな感じなの?
=肉体だけならトップクラス。技術面もそこそこなので器用な真似が出来る。
魔力面は実際の所あまり強くない。命から魔力を精製する工程が入る為、突発的な事態に大分弱い。
・同じ様な展開多くね?
完全に技量不足です……。
・解説
YR
13。象徴はイチイの木。
死と再生を示すルーン文字。防御のルーンと呼ばれる。ライネスはこのルーン文字から再生と防御の側面を用い、二人を癒しながら守った。
EOLH
15。象徴は大鹿。
守護と信頼のルーン。守護、友情、防衛などの意味があり、ライネスはこのルーンで更に守りを固めていた。
誤字脱字等あればよろしくお願いします。