カインは、こと切れる前に後悔した。
自分の馬鹿さ加減に呆れ果てた。
死者を生き返らせる杖。
その先端に輝く宝玉。
それを『エリスを手に入れた証』として、あの日手に入れて。
今の今までただ持っていた。
エリスを手に入れたかった。
しかしそのためにエリスの死を願わねばならず。
願うまもなくエリスは死んでしまった。
「・・・・・・やはりオレは、あの人に生きていて欲しい」
やっとそう決意して。
ライブの宝玉が嵌ったままのオームの杖を盗み出し。
エリスの復活を頼みに行った。
オームの杖は、高貴なる血の女司祭でしか使えぬという制約がある。
ユミナはまだ幼すぎる。レナやマリアは死んでいる。エリスもそうだ。そもそもエリスを生き返らせたいのだ。
頼む相手は一人しかいない。
だが。
ゴォウッ!!!
心臓が吹き飛んだ。
ガーネフと同じように。
「ふ。ふふ。うふはははははははははははは。あははははははははははははははははは。
あははははははははははははは!!!!!」
体中を穴だらけにされて、やっと思い出した。
この人の大事な人も、死んでいる、と。
その人しか儀式が行えないなら、この人の大事な人以外生き返らせてもらえるわけがない。
たった一人と決まっているなら、選択肢さえない。
そして、手に入れるために、殺される。
どうして、気づかなかったのか。
「あははははははははははははははははは。
あははははははははははははは!!!!!」
カインは。
塵も残さず消え去った。
これがカイン行方不明の顛末である。
・
「グルニア、グラが併合されただとっ!!?」
ハーディンは信じられぬ思いでその報告を聞いた。
アカネイアはマルスの政策の下、独立を望むなら協力をしてまで、和平を、ともに歩む道を模索してきた。
何年後、何十年後になるかわからない。
それでも、争うのはやめようと。
この大陸に生を受けた者同士として、共に歩もうとしていたのに。
ニーナもそれに賛同していたと聞いていたのに。
その優しさにこそ、変わらぬ愛を密かに誓っていたのに。
報告の中にある女帝ニーナは、まるっきりただの毒婦であった。
人の命を弄ぶ事こそないものの、逆らう者に一片の容赦もない。
プロキオンと呼ばれる謎の騎士を遣わして、次々に周辺諸国を強制支配下に置いているという。
「一体どうされてしまったのだ。ニーナ王女・・・・・・!!」
呻くハーディンに、答えを与えてくれる者はいない。
・
その頃、氷竜神殿と呼ばれる、神竜封印の地。
チキが眠っていたラーマン神殿は、ガーネフがその身柄を隠しておいただけの場所であり、実際の封印の地はここである。
「くどい。我ら竜族はもう、お前たち人間と関わるつもりはない」
目の前の旅装束の男に、ガトーは冷たく言い放つ。
「暗黒竜を打倒し、平和を形作るかと思いきや、それぞれの国がそれぞれに恨みつらみを掘り返し、恩はまるごと忘れ、ついには自分達が祭り上げた英雄さえ守りきれぬ。
どこまで。
どこまで愚かなのだ!
やはり、関わったのが間違いだったのだ。
竜族が神聖であるとも、賢いとも、わしは口が裂けても言わぬ。
しかし、お主ら人間どもに失望せぬ言い訳にはならん!!」
男は、ゆらりと体を揺らし、傾いたままの格好で告げる。
「ええ、そうでしょう。
そもそも関わらなければよかった。
しかし、アンリを導いた事。
ファルシオンやアイオテの盾を授けた事。
その事がどういう混乱を招いているかおわかりですか?
もう関わってるんですよ。
貴方には責任がある。
逃げる自由など、無い」
「なんと言われようと、これ以上・・・・・・」
「なら、こうするまでです」
ズルゥッ・・・・・・
「!!!!!!!!!!」
痩せこけた少女が、光の中から引っ張り出され、男の手のひらに宿る力を喉元に突きつけられる。
「貴様っ・・・・・・!!」
「さあ、どうします?」
「その子がそこまで痩せこけている理由を知っても、まだそのような・・・・・!!」
「彼女がこの子の血を持っているのは聞きましたよ。ガーネフを倒して、闇のオーブを手にしているだろうこともね。
ならば、それを打ち破る光のオーブは是が非にでも必要だ。神竜の力も借りられないとなれば尚更ね」
ガトーは、どうしようもなかった。
チキは、最後の神竜族。
ガトーの唯一の同胞だった。
言われるままに、光のオーブを渡す。
オーブを手に入れた後、男はにやりと顔を歪めると、
「これでもうあなたに用はない」
「!!? き、貴様ッ!!」
かざした手から吹き荒れる魔力。
チキの治癒にその魔力を限界まで使っているガトーが、その刃から身を守る術を持つ訳もなく。
魔法の刃は、ガトーを切り刻んだ。
一瞬のことであった。
「悪く思わないでください。彼女が竜の血を飲んでいるというなら、僕達にも必要なんだ。
数百年の単位で寝る事で戻る、血の回復を待ってなんていられない。
でも、これ以上血を抜けば、チキちゃんは死んでしまうでしょうね。
ならば、『こうするしかない』」
ビュォウッ・・・・・・!
隙間から入る風でフードがめくれる。
マリクの、恐ろしい程に冷たく凍った光を宿す目が、老人の死体を見下ろしていた。
「ああ、その意味では、嘘をついてしまいましたね。
むしろ、あなたに最後の用がある」
せいぜい、役に立ってくださいよ。
極寒の神殿で、その言葉を聴く者はもういなくなっている。
「エリス様。あなたの無念を晴らします」
もう、幸せにすることなど出来ないから。
代わりに、あの女を引き裂いてやろう。
「文字通りの、八つ裂きにしてやるッ!!」
誰も、その言葉を聞いてはいない。
・
暗黒戦争からちょうど4年後の今日。
ハーデインはアカネイア帝国に戦線を布告する。
故夫の国であるアリティアと、その兄弟国グラ。そしてグルニアを併合したアカネイア帝国。
それはまるで、アカネイア大陸を真っ二つに裂く様な形の国土だ。
ドルーアを占領した新生マケドニアと手を組んで、国家間の挟撃を開始したオレルアン王国。
数ヶ月前、兄王に毒をもられかけ、ハーディンは覇王となる決意をした。
強い者は上に立つ義務がある事を、ハーディンはようやく知ったのである。
そして、望まれる英雄たるものは、既に今は自分しかいないのだと。
今、英雄たる自分に望まれている事は決まっている。
魔女ニーナを、殺せ。
続く