「兄様を・・・兄様をどこへやった!!! 返せっ・・・兄様を返せぇっ!!!!!!」
あれはにいさまではない。
かえして。わたしのにいさまをかえして。
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マケドニア王オズモンドはミシェイルの手によって殺された。
アカネイアに恭順して大丈夫だろうかとはミネルバも思っていたが、ドルーアと手を組んで上手くいくとは思えなかった。
ドルーアにしてみればどちらも人間の国。
どうせ滅ぼすつもりに決まっている。
しかも、既に妹マリアを帝国の人質に差し出したと言うのだ。
王を平気で殺した、兄の姿を奪った魔物。
妹はならば只の捨石だ。
恭順をみせたふりをし、好機にはなんの躊躇いもなく見限るだろう。
それまではマリアはドルーアでなく、ミネルバにとって人質なのだ。
魂の牢獄。
自分は、どこに行くことも出来ない。
己より大切な物が、敵の手にある。
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オルレアン壊滅の一番槍を取らされたのはいうまでも無くミネルバ。
ドルーアに少しでも疑いを持たれたくないミネルバの必死の戦いぶりは、皮肉にもドルーアの侵攻速度を飛躍的に高めた。
憎むべき味方から疑われながら、唾棄すべき敵に恐怖され、妹の命を盾にされて血を被る。
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「・・・マルス王子?」
カチュアが話すアリティアの若者の話には、正直懐疑的だった。
いろいろな事が限界に来ていたとはいえ、その人柄に全てをかけて、もし・・・
マリアだけは失えない。
全てなのだ。
彼女は世界と等価値なのだ。
だが、だからこそ・・・
僅かな希望に、その誘惑に逆らえない。
敵の司令官の人質を救出?
こんな勝手な申し出があるか。
しかも出来高払いの裏切りが報酬だなどと。
もし・・・
もしもこの話が上手くいくなら、マリア以外の私の全てがどんな形で汚されようと・・・
私は捧げよう。
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ジューコフの突撃命令はミネルバを窮地に追いやった。
まだマリアの安全が確保されていないのに、嬉々と下るわけにはいかない。
だが、そのマリアを救出する為に動いてくれているかも知れぬ部隊に槍をむけるのも言語道断。
しかも密かにマルスのみ連絡を取ったカチュアの策が裏目に出たか、その部隊のいくらかは弓を向けてくる。
「私は、マルス王子を探しているのです!」
この混戦の中、祈るような叫びもただ掻き消えた。
ミネルバは強い。しかしそれは騎士としてだ。
ミシェイルとよく似た怜悧な瞳のせいで誤解され、それゆえに歪んだ他人の心を感じる機会が少なかった彼女の心は、あまりにはかなく、初心(うぶ)であった。
敵も味方も敵、降るも戦うも地獄。
ましてや死んだところで何も救えない。
知らない町で迷い子になったような思いで、顔がくしゅりと歪む。眼には涙さえ浮かぶ。
マルスが目にすれば、あるいはシーダなら。
たすけて。だれかむかえにきて。と、あゆむ少女に見えたかもしれない。
だが奇怪な軌道をしながら無意味に槍をふり、血走った眼で眉間にしわを寄せた美貌は、控えめに表しても魔女であった。
やっとマルスが近づいて、声が届きかけた時。
「ミネルバァァァァァァァァァァッッツ!!!!!!」
オレルアンの騎士だった。彼にしてみれば国仇の血姫である。そして、多くの仲間と、誓いさえあった親友の、
「オルガの、仇ッッッッツ!!!」
騎士の魂の全ての篭った一閃のきらめきが、ミネルバの右眼に突き刺さる。
「ぅぐっっ!!」
刹那に脳まで達し、皮質をえぐった鏃は、正に必殺の一撃であった。
竜共々墜ち、崩れた騎士は、もう数秒で只の肉くれとなる。
身体に力が入らない。
こんなはずでは、という思考さえ纏まってくれない。
「マリア・・・」
何時以来かの涙は、脳漿と血が混ざり、美しささえ消えていた。
その眼はすでに、光を映していなかった。
すでにマケドニアに深く覆いかぶさる闇は、またいっそう濁り、濃くなることとなる・・・
終