天使達の鎮魂詩   作:おかのん

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第4弾 マリア編

ふと、マリアは目が覚めた。

マケドニア城の、与えられた寝室。小さいけれど、いつもなら深く眠りに付ける、心地よいベッド。

 

一人で寝るようになって、どれくらい経っただろう。

身を滑らせる時に少し寒い、だれも先に入って温めてくれない床に入るのはもう慣れたが、起きた時に一人なのは、夜中だとまだ心細い。

 

なぜか、また寝てしまおうと思えなかった。

その小さな胸に手を当て、マリアは外に目をやる。

 

「・・・?」

 

夜の闇の中、さらに濃い闇が蠢いた。

今マリアのいる、同じマケドニア城の、ひと際大きな窓。

 

何だったのだろう?

 

・・・それが闇のオーブの力の発現の余波だと彼女が知ることはない。

 

 

カッ、カッ、カッ・・・・・・

 

 

規則正しく跳ねるような、小気味良い足音。

 

・・・ミシェイル兄様だわ。

 

安堵して、息をつく。

彼がそばにいるなら、なにも心配は要らない。

足音は、部屋の前で止まる。

 

 

「マリア」

 

「お兄様・・・?」

 

声をかければ優しい兄だが、あまり向こうからはかまおうとしないミシェイル。

こんな夜中に妹の部屋を訪ねるというのは珍しい。

ミネルバは逆に、ヒマを見つけては会いにくる。

 

マリアはどちらも愛していた。

 

 

「どうしたのお兄様」

 

廊下の逆光でよく見えないが随分と汚れている。

匂いも、いつもの香水ではない。

 

 

「オズモンドを殺してきた」

 

「・・・・!?」

 

父の名だ。国王の名だ。兄にとっても親だ。

殺した? なぜ。 

 

 

 え・・・?

 

 

 

 

ミシェイルは、マリアにこの先の彼女の運命を告げに来た。

 

「お前はドルーアに行け。人質としてな」

 

2秒。

 

「はい」

 

マリアは、はっきりとそう言い、微笑んだ。

とまどったのはミシェイルの方だった。

 

 

「・・・随分冷静だな」

「お兄様が、お兄様のままだったから」

「俺が・・・?」

 

父を殺してきたと言ったのを、理解していないのだろうか?

 

「もし兄様が、魔物にとって変わられてでもいたのなら、私のことはどうでもいい筈よ。

騙し続ける必要があるのならともかく、人質として遠ざけるのならなおさら。

部下に命じて薬でもかがせるか、むりやり連れて行けばいい。

 

でも、にいさまは御自分で告げにきたわ。

それは、私のことを気にかけてくだされるからですよね?」

 

絶句した。

利発だとは思っていたが、ここまで頭の回る妹だったのか。

自分でも説明の付かない、黒い感情の渦巻く中で、再認識させられた。

 

俺はこの国を、妹達やレナ、民達を愛していると。

 

 

野望を抱き、手を血に染めることを厭わぬほどに。

 

 

「ドルーアに行くというのも、良いかも知れないわ。

クーデターが成った今、担ぎ出すものはない方がいいわ。

人質は生きていなければ意味はないのだから、むしろ安全かも」

 

一瞬、手元においておいたほうがいい気がしたが、もう人質として送ると言ってしまった。

軽く後悔したが、安全性で言えばやはりこれで正解と思い直し、息をつく。

 

「父様のことは悲しいけど・・・ 私もアカネイアに希望は持てない。

 

戦争、なのね」

 

その身を捧げるように立ち上がったマリアに手を伸ばす。

血で汚れているのに気付き、手を引こうとすると、

 

「いいのよ。兄様」

 

その手をとり、握ってくれた。

震えて、いた。

 

 

「お姉さまには・・・ 会えないわよね」

 

どんな騒ぎになるかわかったものではない。

ミシェイルは何も言わなかった。

 

 ・

 

 

マリアが受け入れてくれたことで、ミネルバとやり合う時は、冷徹な魔王でいられた。

兄を恨むがいいミネルバ。

万が一俺がしくじったら、お前にこの国を任せる。

だからこそお前は下の妹のように聡くてはいけない。

本気で悲劇の姫でなくてはならん。

 

 

 ・

 

 

囚われの城でマリアを迎えたのは冷たい槍の一突きであった。

騎士が何も語らなかった為、マリアは彼がドルーアの者かマケドニアの者か、それともまったく別の軍の者なのか、それすらも分からなかった。

 

「・・・ミネルバ・・・姉さま・・・」

 

絶命した後なのは救いなのだろうか。

その遺骸は数度床や壁に叩きつけられた後、格子から放り出され、数十メートルを落下し、二目と見られぬ姿であったという。

 

マケドニアに最も必要であった、美しく聡い至宝の姫君は、家族の誰にも、民にも愛されながら、冷たい牢で一人きり、息絶えた。

 

ミシェイルの怒りは、自責と共に計り知れぬものだっただろう。

 

思い出される、かつての妹の幻影。

その言葉。

 

 

にいさまはつめたい、と、マリアにあまりかまわないミシェイルにミネルバが腹を立てる。

お前は構いすぎだ、と、兄も憤る。

きまって、マリアがなだめるのだ。

 

「けんかしないで。わたしはおにいさまもおねえさまもだいすき。

だから、ふたりがけんかするのはとってもかなしいの」

 

 

大切にしてきた言葉だった筈なのに、いつしか忘れていた。

 

(その罰ならば、俺を殺せ)

 

 

 

・・・それが許されるような世界ではない。

 

 終

 

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