「・・・私には、帰る場所がありません」
マルス様に助け出された時に、待っている人のところへお行きという彼に告げた言葉。
お父様が、私の帰る場所だった。
お父様は、ガーネフに殺された。
仇を、討つ。
それは当然の誓いだった。
だがしかし。
その思いが強くなればなるほど、満ち溢れていた彼女の魔力が消えてゆく。
どうして!?
必要なのに。
ヤツを殺すために必要なのに!!!!!!
オーラには、ミロア大司祭の施した『制約』があった。
『復讐』の心に反応して、光を失う制約だ。
ガーネフは、ミロアと共に大賢者ガトーの弟子。
オーラの後継者に選ばれなかったことに憤り、復讐心でマフーをあみだし、メディウスを復活させた。
だからこその、制約。
これで、オーラは悪用はされない。
少なくともガーネフには使えない。
が・・・・・・
その制約は、オーラを授けた愛娘の力になることも不可能にしてしまった。
愛した父の仇を討つ。
その思いが強くなるほど、制約は強まるのだ。
不幸なことに、リンダはその制約を知らなかった。
リンダはオーラが使えない原因を、自らの修行不足だと信じて疑わなかった。
奴隷として身を隠すうちでも、精神を磨くのを怠らなかった。
父の仇を討つ。
その思いが光を遠ざける。
それだけ大切だっただけなのに。
彼女にも責はある。
ミロア大司祭はリンダを逃がすために死んだようなものだ。
責はそこではない。
ミロアは今際のきわに、リンダに告げた。
「神よ。この子に・・・ ご加護がありますように」
最後まで光であろうとした、誰かの幸せを願った、父のようにあろうとすれば。
自らのもつ力を、そのためにと誓えば。
正に全能の魔導『オーラ』は、どれほどこの戦いの助けになっただろう。
その瞬間までそうしてきたはずであった。
「おとうさまみたいに、みんなのひかりになるの!
しあわせのまほうをつかえる、だいしさいに!」
彼そのものが自分のせいで失われた時、それを忘れた。
だれが責められるだろう?
だが結果、それが・・・
オーラが継がれなかった理由なのだ。
魔法の使えない魔導士は、研究者であることも手伝ってか、戦いに関しては一般人以下の能力だ。
彼女は、策はあるとうそぶいて囮をかってでる。
握り締めたオーラの魔導書の切れ端。
追い詰められ、命の危機でも訪れれば、力が戻るかもしれないと、それにかけた。
今、彼女は、数ヶ月の孤独な研鑽と復讐心に沿う集中力で、ただのファイアーでさえボルガノンに匹敵する力を出せただろう。
オーラでさえ、なければ。
復讐でさえ、なければ。
そして、神は修羅と化した娘に加護を与えようとはしなかった。
「・・・・・・ッ!!!!」
気付いたときには遅かった。
戦場に降る岩の塊。滅多なことでは当たらぬはずの、シューターの一撃。
それがただの物理法則に従い直撃し、少女を骸に変えた。
ぐしゃり、という、彼女の内にこそ響く、骨の砕ける音。
血だまりと化した、聖者の娘。
「あ・・・・ぁ・・・ おとぅ ・・・さま・・・」
ミロアと懇意であり、リンダを守ってあげたいとマルスに告げたニーナ姫は、その亡骸と共に臥して泣いた。
父を殺した魔王が許せなかった。
それの何がいけなかったと言うのか。
だが、その思いは、彼女自身を大切に思う人の心を無視したものだ。
そう。
愛した父の心さえも。
「この子に、ご加護がありますように」
子は、父を愛していた。
しかし、父の思いは子に伝わらなかった。
愛して、いた。
終