音がする。
耳障りだが、まだ遠い。
「・・・んあ?」
「騒がしいのう」
トーマスが目をこすり、ぼやく。それにボアが答えるでもなく、応じる。
数日前から彼らはここに・・・
王族などが尋問するときのための、特別牢にいた。
アカネイア騎士の生き残りが、地下からここに移されたのはどういうことなのか。
「! ・・・戦闘が起こっているようです」
ミディアは軍靴の音を聞きつけた。
牢の中では外部の情報など手に入らない。
だが、王都パレスが戦闘状態ということは・・・
「「ニーナ様が軍を起こして帰還されたのだ」」
「・・・そう考えたいのう」
ミシュランとトムスが同時に語る。
それにボアが相槌を打つ。
ミディアは、高揚感を憶えた。
自分が雌伏に耐えた事は、無駄ではなかったと思えたからだ。
「けどよ。俺達がここに移された理由ってのはすると・・・・」
トーマスがふると、重騎士二人がそれぞれ、
「人質か」
「取引材料か」
と答えた。
「まあそんなとこじゃろう」
その時、弓兵と魔導師が部屋に入ってきた。
「あれか。見せしめに殺しておくという騎士達は」
敵の口から真実が漏れる。
「・・・もっと最悪だったか」
「時間が無い。さっさと殺すぞ」
「やめろっ!!!!!!」
構えられる矢の前にミディアが壁になる。
「ミディア。そりゃあ逆じゃ。
盾になるべきは老い先短いわしじゃろう」
ボアの言葉に、しかしミディアは耳を貸さない。
「いえ。誰一人失っていい仲間など・・・!」
「そりゃそうじゃがお前が一番死ねんじゃろうが。
アストリアはどうするんじゃ」
下唇を噛む。
「それでも・・・」
守りたかった。彼らを。
共に戦い、ニーナ様を守った仲間だ。
最後はカミュに敗北したが、カミュが出てくるまで持ちこたえたからこそ姫は逃げ延びた。
彼らが、いたから。
「ええいうるさいッ!!!!! やれ!」
ヒュッ!
「ぐうっ!!!!」
肩に刺さりこむ鏃。
「ミディアッ!! ・・うおおッ!!!」
ミシェランが庇おうとするが、狭い牢の中では上手くいかない。
壁を背にして、無傷でいられるのは1人かせいぜい2人。
トーマスはまるで動こうとしない。
目が死んでいる。
その彼が、ポツリと呟く。
「ミディア・・・」
「なに・・・?」
「俺さ。お前に惚れてたんだ」
は・・・・・!?
全員の目が点になる。
「この牢生活の中で、俺も歪んじまったけどな。
この部屋にまとめられる前・・・ 独房で、あの誰とも繋がれない地獄で、お前を犯すのを想像することだけが舌を噛まなかった理由だ」
今更なぜそんなことを。
いや、今だからか。
これが最後と思うなら、戦友のままでいたいとは思わなかったのだろうか。
思いを伝えるなら伝えるで、他に言いようはなかったのか。
ミディアが、応えた。
「・・・なら、ここから脱出出来たら一度だけ・・・
一度だけ、しようよ」
トーマスが、強張った。
身体を許す、とか、犯されてあげる、とは出てこなかった。
その程度には、見てくれていた?
しようよ。
「だから、あきらめないで。お願い」
「無駄だよ」
それは、まだわからないはずだ。
「あきらめるのは無駄だった時でいい!!!!!」
議論の合間に、トムスの左腕がファイアーの魔法に焼かれた。
・
マルスがたどり着き、敵を叩き伏せた時には、すでにミディアはこときれていた。
トーマス以外は満身創痍だが、皆かろうじて生きていた。
ミディアは、最初に受けた矢の位置が悪すぎたのだ。
「遅かった・・・・か・・・・」
言葉を交わす者もいない。
マルスは、鍵を持っていないといって、その場を離れた。
そして・・・
四人だけになった時、トーマスはあろうことかミディアの服を脱がし始めた。
見咎めたボアが叱り付ける。
「何をやっとるんじゃお前さんは!?」
「うるせえジジイッ!!!!!」
振り返った彼は眼が血走っていた。
彼の中に渦巻くものは何だったのか。
だがそれでも、この下劣な行為を、もう誰も止めなかった。
止めれば止められたろう。
しかし、止めなかった。
さらしを解くと、控えめな胸が零れ落ちる。
瞳に光はすでに無い。
「コイツと俺との、約束だ」
絹ずれと、ぴちゃぴちゃという卑猥な音だけが静かに響く。
「へへ、まだあったけぇや」
最低なセリフだった。
震えた声でなければ、さらに最悪だった。
死した骸への口付け。
それでもアストリアが・・・
恋人がするのなら絵になったのだろうか。
「ひひっ・・・ 出すぜ。アストリア」
血を吐くような音がする。
最悪を通り越して、冒涜であった。
命を結ばぬ、欲望の吐露。
それでも、もしかしたら。
繋ぎ止めたいと足掻いたのでないかと感じるのは。
好意的にとらえすぎであろうか。
・・・倒れる時に、トーマスを振り返り、ミディアは微笑んだ。
それを知っているのは、彼だけだった。
終