天使達の鎮魂詩   作:おかのん

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第6弾 ミディア編

音がする。

耳障りだが、まだ遠い。

 

「・・・んあ?」

 

「騒がしいのう」

 

トーマスが目をこすり、ぼやく。それにボアが答えるでもなく、応じる。

 

数日前から彼らはここに・・・

王族などが尋問するときのための、特別牢にいた。

 

アカネイア騎士の生き残りが、地下からここに移されたのはどういうことなのか。

 

「! ・・・戦闘が起こっているようです」

 

ミディアは軍靴の音を聞きつけた。

 

牢の中では外部の情報など手に入らない。

だが、王都パレスが戦闘状態ということは・・・

 

「「ニーナ様が軍を起こして帰還されたのだ」」

「・・・そう考えたいのう」

 

ミシュランとトムスが同時に語る。

それにボアが相槌を打つ。

 

 

ミディアは、高揚感を憶えた。

自分が雌伏に耐えた事は、無駄ではなかったと思えたからだ。

 

「けどよ。俺達がここに移された理由ってのはすると・・・・」

 

トーマスがふると、重騎士二人がそれぞれ、

 

「人質か」

「取引材料か」

 

と答えた。

 

「まあそんなとこじゃろう」

 

その時、弓兵と魔導師が部屋に入ってきた。

 

「あれか。見せしめに殺しておくという騎士達は」

 

敵の口から真実が漏れる。

 

「・・・もっと最悪だったか」

「時間が無い。さっさと殺すぞ」

「やめろっ!!!!!!」

 

構えられる矢の前にミディアが壁になる。

 

「ミディア。そりゃあ逆じゃ。

盾になるべきは老い先短いわしじゃろう」

 

ボアの言葉に、しかしミディアは耳を貸さない。

 

「いえ。誰一人失っていい仲間など・・・!」

 

「そりゃそうじゃがお前が一番死ねんじゃろうが。

アストリアはどうするんじゃ」

 

下唇を噛む。

 

「それでも・・・」

 

守りたかった。彼らを。

共に戦い、ニーナ様を守った仲間だ。

最後はカミュに敗北したが、カミュが出てくるまで持ちこたえたからこそ姫は逃げ延びた。

彼らが、いたから。

 

「ええいうるさいッ!!!!! やれ!」

 

ヒュッ!

 

「ぐうっ!!!!」

 

肩に刺さりこむ鏃。

 

「ミディアッ!! ・・うおおッ!!!」

 

ミシェランが庇おうとするが、狭い牢の中では上手くいかない。

壁を背にして、無傷でいられるのは1人かせいぜい2人。

 

トーマスはまるで動こうとしない。

目が死んでいる。

 

その彼が、ポツリと呟く。

 

「ミディア・・・」

「なに・・・?」

「俺さ。お前に惚れてたんだ」

 

は・・・・・!?

全員の目が点になる。

 

「この牢生活の中で、俺も歪んじまったけどな。

この部屋にまとめられる前・・・ 独房で、あの誰とも繋がれない地獄で、お前を犯すのを想像することだけが舌を噛まなかった理由だ」

 

今更なぜそんなことを。

いや、今だからか。

 

これが最後と思うなら、戦友のままでいたいとは思わなかったのだろうか。

思いを伝えるなら伝えるで、他に言いようはなかったのか。

 

ミディアが、応えた。

 

「・・・なら、ここから脱出出来たら一度だけ・・・

 

一度だけ、しようよ」

 

トーマスが、強張った。

 

身体を許す、とか、犯されてあげる、とは出てこなかった。

その程度には、見てくれていた?

 

 

しようよ。

 

 

「だから、あきらめないで。お願い」

「無駄だよ」

 

それは、まだわからないはずだ。

 

「あきらめるのは無駄だった時でいい!!!!!」

 

議論の合間に、トムスの左腕がファイアーの魔法に焼かれた。

 

 ・

 

マルスがたどり着き、敵を叩き伏せた時には、すでにミディアはこときれていた。

トーマス以外は満身創痍だが、皆かろうじて生きていた。

 

ミディアは、最初に受けた矢の位置が悪すぎたのだ。

 

「遅かった・・・・か・・・・」

 

言葉を交わす者もいない。

 

マルスは、鍵を持っていないといって、その場を離れた。

 

 

そして・・・

 

四人だけになった時、トーマスはあろうことかミディアの服を脱がし始めた。

 

見咎めたボアが叱り付ける。

 

「何をやっとるんじゃお前さんは!?」

「うるせえジジイッ!!!!!」

 

振り返った彼は眼が血走っていた。

 

彼の中に渦巻くものは何だったのか。

 

だがそれでも、この下劣な行為を、もう誰も止めなかった。

止めれば止められたろう。

しかし、止めなかった。

 

さらしを解くと、控えめな胸が零れ落ちる。

瞳に光はすでに無い。

 

「コイツと俺との、約束だ」

 

絹ずれと、ぴちゃぴちゃという卑猥な音だけが静かに響く。

 

「へへ、まだあったけぇや」

 

最低なセリフだった。

震えた声でなければ、さらに最悪だった。

 

死した骸への口付け。

 

それでもアストリアが・・・

恋人がするのなら絵になったのだろうか。

 

「ひひっ・・・ 出すぜ。アストリア」

 

血を吐くような音がする。

最悪を通り越して、冒涜であった。

命を結ばぬ、欲望の吐露。

 

 

それでも、もしかしたら。

繋ぎ止めたいと足掻いたのでないかと感じるのは。

好意的にとらえすぎであろうか。

 

 

・・・倒れる時に、トーマスを振り返り、ミディアは微笑んだ。

それを知っているのは、彼だけだった。

 

 終

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