ダンジョンに番長がいるのは間違っているのか? 作:ジャッキー007
…押忍番の曲が熱いのが悪いんや
今より昔、天上での生活に退屈していた神々は、娯楽を求め地上へと降り立った。
神は人とともに暮らし、彼らに様々な恩恵を与えてきた。
そんな神と人が、特に多く集まっている一つの街がある。
迷宮都市『オラリオ』。
世界でも唯一、ダンジョンと通称される地下迷宮の上に造られたこの街には、様々な神と人がともに暮らしている。
神々は人と
下へ下へと降りていくにつれ強力なモンスターが現れるダンジョンの49階層。
其処では、様々な人種がその手に武器を取り、襲い来るモンスターに抗っていた。
杖を持つ翠髪の美女が。
斧を持つ屈強な体つきをしたドワーフが。
銀色の髪と、同色の体毛をもつ耳と尻尾を生やした男が。
褐色の肌を持つ二人の女戦士が。
それぞれの武器を手に、己が得意とする戦いを行なっている。
彼らを指揮するのは、道化師の描かれた旗を持つ少年…否、少年と見間違える外見をした男。
フィン・ディムナ…
そして…フィンの隣に、彼は居た。
黒く裾の長い上着で、其処には鎧と見紛うばかりに鍛え上げられた肉体を隠し。
足には二枚の歯が特徴的な木製の履物…東洋で「下駄」と呼ばれるものを履いている。
頭部には着ている服と同じ黒い帽子を被っているのだが…それによって多少軽減されてなお、鋭い眼光は目の前で繰り広げられる戦いを見据えている。
「左翼の防衛が弱まってる…このままじゃマズいかな」
視野を広げ数十人単位で人とモンスターが入り乱れた戦場を見つめ、フィンが小さく呟く。
如何に陣形が、布陣が完璧であっても其処に居るのは人だ。
度重なる攻撃の波に疲弊し、呑まれる事もあり…それによって、命を落とす事もあり得る。
前線でモンスターを蹴散らす、ファミリアでも上位の冒険者に左翼の支援を支持しようとフィンは口を開いた。
だが。
「っ!」
その前を、黒い塊が横切った。
隣に目をやれば、先程まで居た「彼」の姿が何処にも見当たらない。
視界の端には、途轍もない速さで遠ざかっていく黒い背中が見える。
「まったく…あの坊主はまた持ち場を離れおって」
「あはは…でも、それが彼じゃないか」
自身の側に控え、背後で呪文を紡ぐエルフ…リヴェリア・リヨス・アールヴの護衛を行なっているドワーフ、ガレス・ランドロックがぼやくのを聞きながらもフィンは小さく、清々しそうに笑みを浮かべ男が走って行った方を見つめた。
モンスターの攻撃により、ついに崩れた左翼の防衛線。
必死に陣形を立て直そうと冒険者達は盾を構え、モンスターを食い止めるが、留まる事のない波が一体、また一体とモンスターを防衛線の中へと浸入させる。
「レフィーヤ!」
モンスターが振るった棍棒により体勢を崩された冒険者たちの中に、一人の少女が居た。
薄桃色を基調とした衣服を纏い、絹糸の様な金髪を一つに結わえた彼女の名は、レフィーヤ・ウィリディス。
ロキ・ファミリアに所属する第二級冒険者の一人で、魔法による攻撃を得意とするエルフの少女だ。
モンスターの攻撃による余波で転倒したレフィーヤは、体を起こし体勢を立て直そうとするが、彼女の視界に自身に向けて棍棒を振り上げるモンスターの姿が映った。
周りの音が消え、時間がゆっくりと流れるような錯覚のなか、モンスター…フォモールが振り下ろした棍棒が自身に近づいてくる。
しかし、それは自身に触れる事は無く。
次の瞬間、レフィーヤの視界に映ったのは
黒い塊に吹き飛ばされるフォモールの姿だった。
フォモールを吹き飛ばしたもの…それは、フィンのもとを飛び出して行った男が放った拳だった。
「ぁ…」
その呟きは、誰が発したものか解らない。
だが、その場に居た全員が、男の背中に見惚れていた。
「…無事か」
小さくも太く、存在感のある声が男の口から洩れる。
その言葉は、簡素で無愛想ながらも聞いたものに安心感を与える声音で
「ぁ…」
レフィーヤを含むその場に居た全員が、表情を変えた。
ロキ・ファミリアには一人の男が居る。
男は、ファミリアに入って僅か1年で第一級冒険者に上り詰めた。
男は、武器を持たず、己の拳で並み居る強敵に立ち向かい、勝利を掴んだ。
それでもなお、男は己を痛めつけ、前へと進み続ける。
全ては、己の目指す高み…漢の頂に至る為に。
そんな男に神々から授けられたのは
男が居た世界で、男の中の男に与えられ、名乗ることを許された称号
「番長さんっ!」
『番長』…そう呼ばれる男の名は。