ダンジョンに番長がいるのは間違っているのか? 作:ジャッキー007
ダンメモで石を貯めてぶん回しを繰り返し、気づけば後章アリアが4凸、オルナが3凸しました
アル?クロッゾ?まだ2凸だよ
「休日?」
ロキ・ファミリアに入団をして早くも2週間が経とうとしたある日、フィンに呼ばれた俺にこの言葉を言い渡された。
「あぁ。この2週間、君…休んでないだろ?」
「?睡眠時間は取れてるし、身体に不調はないが…」
フィンの言葉にこれまでの事を思い出す。
食事と睡眠はしっかりと取れているし、身体は健康そのもので問題はない。
だが、その言葉にフィンは苦笑し同席していたリヴェリアとガレスは頭を抱えている。
「タケシ…君がオラリオに来て一月半ずっと見てきたが、準備期間から今までまともに、一日休んだのを見たことがない」
表情を切り替えて、改めて俺を見るフィンの言葉にこれまでの行動を思い返してみる。
最初の一ヶ月…リヴェリアやフィンから教わっている時以外は延々と文字の読み書きや顔見知りだったティオナ達と会話、あとトレーニング
今…ダンジョン以外は食事と睡眠、入浴…あと、トレーニング。
「…日本にいた時と変わらんな」
『はぁ…』
何か問題でもあったのか、3人が揃って溜息を吐き残念なものを見るような目で見てくる。
「…とにかく、今日は一日休むように。ダンジョンは勿論、トレーニングも禁止だ」
「む…」
「とは言え、どうしたものか…」
フィンから急な休みを言い渡された俺は、仕方なくオラリオの街中を歩きながら何をするか考え流。
身体を休め、筋肉の回復を図るという意味で言えば、今日の休みは願ったりだが…これまで身体を動かさない日が無かった事もあり、何をしようか悩んでいた。
「お、タケシじゃねぇか」
「む」
露店の並ぶ街道を歩いていると、不意に言葉を掛けられる。
声の主を探し視線を動かしてみれば、其処に居たのは見知った顔。
アラン…オラリオの一角で八百屋を営む男で、デメテル・ファミリアと契約し野菜を卸して貰っているらしい。
「アランさんか…腰の具合はどうだ?」
「おぅ、もうこの通りよ!今日はダンジョンか?」
アランさんは屈強な身体つきをしているが、俺の親父と変わらない。
年には勝てないのか、数日前に腰を痛めたばかりだ。
だと言うのに、今目の前に立つ彼は完全に治った様子…治療院で診て貰ったのだろう。
「いや、フィンからの命令でな…今日は休みだ」
「カカカッ、お前さんでも【勇者】にゃ勝てねぇか!」
質問に答えると腹を抱えて笑うアランさんの姿に顔を顰める。
怒っている訳ではない…改めて、超えると誓った好敵手の背中がまだ遠いと改めて認識させられただけだ。
「んな顔するなよ、お前さんはまだ駆け出しだが…器のデカさじゃ負けてねぇ」
「あぁ…っ」
俺の顔を見たアランさんは、肩を竦めると後ろに積んだ荷物から林檎を取り出して俺に放ってきた。
「これは…?」
「デメテル・ファミリアから届いたばかりの上物だ、一つやるよ」
「そうか…いくらだ?」
「貰っとくれ、ウチの亭主が腰痛めた時に手伝ってくれた御礼だよ」
林檎の代金を払おうとすると、横からまた声を掛けられる。
其処に居たのは恰幅の良い女性…アランさんの女房であるレイラさんだった。
「…そう言う事なら、有難く戴きます」
別に礼を求めて行った事では無い。
困っていたから手伝った…ただ、それだけの事だったのだが、2人からそう言われると断るにも断れないため戴く事にし、また困った事があったら手助けする事を約束して店の前を後にした。
「おぅ、タケシ!こないだは助かったぜ、コイツは礼だ!」
「あら、タケシじゃないか。良かったら持ってお行き…って、何払おうとしてんだい!お代は良いから!」
アランさんの店を後にして、街道を歩けば色んな人…お節介から手助けした人々に色々と手渡され、気付けば手ぶらで歩いていたのが荷物で一杯になってしまっていた。
(参ったな…皆、人が良いから断るに断れず…)
小さく溜息を吐く。
皆から貰ったのは、彼らが生きるうえで大事な売り物…それも、上物で安くても普通の品より少し高い値がつくものばかり。
普通に店頭で買おうものなら総額で破産しても可笑しくない。
厚意で戴いた物だから無碍にする訳にもいかないため、どう処理しようか考えていた時…視界の隅
普段ならば見逃しているだろう路地裏へと視線が向かった。
其処に居たのは、1人の女性と数人の男達。
恐らく…いや、十中八九言い寄っているのだろう。
明らかに怯え、嫌がっているような表情を見せる女性の姿が目に入ってしまった。
「…ふむ」
アンナ・クレーズはオラリオで花屋を営む両親と暮らす、至って普通の街娘だ。
だが、その容貌はオラリオでも上位と言われており、滞在している男神から求婚ほどの美貌と噂されている。
その美貌から、神だけでなく街の男達も放っておくことはなく…アンナは今、冒険者と思われる数人の男達に言い寄られていた。
「なぁ、良いだろ?」
「いえ、ですから…」
「家の手伝いなんて何時でも出来るだろ。それより…俺たちと遊ぼうぜ?」
ガラの悪い男達数人に囲まれ、戸惑いと恐怖の混在する中、アンナを助ける者は居ない…筈だった。
「何をしてんだ?」
大通りに繋がる出口から、低い声が聞こえた。
その場に居た全員が視線を動かした先に立っているのは、1人の男。
見たこともない黒い衣服に木で作られた履き物、両手には2つの紙袋を抱えている。
「なんだ、テメェは?」
「質問には質問で返すなと教わらなかったのか…?何をしているか、と聞いてるんだが?」
男達の1人が凄んで睨みつけるが、紙袋を抱えた男…剛士は動じた様子を見せず、淡々と質問を繰り返す。
その異様な姿、毅然とした態度に楽しみを中断させられた男達は苛立ちを見せる。
「さっきから何ゴチャゴチャと言ってやがる!」
「なぁ、其処のアンタ…コイツらは、アンタの知り合いか?」
苛立ち声を荒げる男を余所に、剛士は視線を
アンナへと移す。
急に自身へと話を振られた事に驚くも、咄嗟にアンナは首を横に振った。
其れを見て、小さく数回頷くと…剛士は口を開いた。
「成る程…つまり、アンタらは見ず知らずの女の子を数人がかりで囲ってナンパしていた訳か」
剛士の口から発された声は、決して大きなものでは無い。
にも関わらず、その声は良く通り…通りを行き交うなかで耳にした人々が1人、また1人と視線を路地裏へと向けていく。
「〜っ、クソ…!」
次第に増えていく観衆に男達は忌々しげに剛士を睨む。
この状況で此方が手を出せば、騒ぎを聞きつけたガネーシャ・ファミリアの団員達が駆け付けるだろう事は容易に想像出来る。
事を大きくすると自分達が更に不利になる事を察した男達は、逃げるようにその場を後にして、残ったのは剛士とアンナだけとなった。
「…大丈夫か?」
「は、はい…助けていただき、ありがとうございます」
初めは身構えたものの、剛士が自分を見る目に下心がない事を理解したのか、アンナは安堵したような表情を浮かべて感謝の言葉を口にする。
「気にするな、単なるお節介って奴だ」
「あ、あの!何かお礼を…」
その言葉に小さく会釈で返し、剛士はその場を後にしようとするが、アンナは慌てて呼び止めようとした。
「…別に見返りを求めた訳じゃねぇ。困ってる奴を助けんのは、人としての道理だ」
しかし、剛士としては困っていたから手を差し伸べたに過ぎず、肩越しにそう口にするとアンナに背中を向けてホームへと歩いて行った。
「やぁ、タケシ。休日はどうだった?」
休日が終わって次の日、一人で処理するには多過ぎる貰い物をいつもの面子で食べていると、後ろからフィンが声を掛けてきた。
「休んだ気がしない1日だったな…だが、悪い気はしなかった」
「そうか、それは良かった」
アランさんから貰った林檎を齧りながら答える俺に、フィンは小さく笑いながら頷く。
そして、ふと思い出したように俺を見て切り出してきた。
「そういえば、昨日女性を助けなかったかい?」
「…覚えてないな」
次回、迷宮番長!
【死闘】
「…俺の歴史に、また1ページ」