プロローグ
春の陽気を感じるある日の朝、一人の男が海岸沿いの道を歩いていた。いや、男といってもその姿はまだどこか幼さの残る青年であった。そんな彼は真っ白な軍服を着ていた。
「噂には聞いていたがひどいなこれは……」
青年はつぶやきながら自らが歩いて来た道を振り返った。修復されているが道の至る所に破壊された道路や建物の残骸が散らばっており、周辺に家々が見えるが人の気配が全くないのだ。
「……あー、こりゃ鎮守府の方もまともじゃないだろうな……」
しばらく歩くと赤煉瓦の建物が見えてきた。周囲には復旧作業を行う者たちがあちらへこちらへ走り回っているのが見える。しかし、その者たちは人間ではなかった。ちょうど人間の手のひらに乗るぐらいの小さな小人のようなソレらは人類が妖精と呼ぶ存在であった。どこからやってきたのか……いつから存在していたのか……その生態は全くもって不明であるが、驚くべき技術をもった存在であるということだけは分かっていた。しばらく妖精たちを眺めていると妖精の一人が青年に気づいたようで仲間たちに声をかけてゾロゾロと青年の前に集まってきた。青年は一度小さく咳をしてから敬礼し、彼らに向かって言った。
「あー、みんなおはよう。今日からここに着任する提督の飯野勇樹だ。階級は少佐だよろしく頼む」
『ヨロシクオネガイシマス!』
「……いまだに信じられないけどここは佐世保鎮守府であっているよな?」
『ソウデスヨー』
「派手にやられたんだなぁ……廃墟にしか見えん」
『スグニナオスカラマッテテ!!』
「いや、無理せず君たちのペースでやってくれていいぞ」
『リョウカイデス!』
「まあ、終わったらご褒美をあげるから頑張ってくれ。俺からは以上だ」
『ホント!? アイスタベタイ!!』
「了解だ。では俺はこれで」
『ハーイ!!』
妖精たちと別れた俺は唯一修復の終わっている建物の中に入り執務室を目指した。建物の内部は修復によってだいぶきれいになっており、実はけっこう不安な気持ちになっていた俺の心を落ち着かせてくれた。ゆっくりと深呼吸をして[執務室]と書かれたプレートが掛かった扉をノックする。
〈ドウゾナノデス!
反応を待ってから扉を開けると中にいたのは一人の少女だった。紺色のスカートとセーラー服を着ており、ふわふわしていそうな茶髪をもつ見た目中学生ぐらいの少女である。少女が敬礼してきたのでこちらも敬礼する。
「本日付けで佐世保鎮守府に配属になりました暁型駆逐艦4番艦の電です!どうぞよろしくお願いしますなのです!!」
「本日付けで佐世保鎮守府の提督に着任する飯野勇樹だ。階級は少佐だ。よろしく頼む」
「さっそくなのですが、明日までに提出となっている書類がこれだけあるのです!」ドンッ
「えっ……」
「これでも先程まで電が頑張って処理していたのです!」
「そうだったのか……ありがな電」ナデナデ
「はわっ!?……し、司令官さん、その、あの///」
「髪ふわっふわなんだな……癒やされる~」ナデナデ
「はわわわ……///」
「手伝ってくれたらもっと撫でてあげるぞ」
「がんばるのです」
「んじゃ、やろうか」カキカキ
「……司令官さんはとても若く見えますけれど、いくつなのですか?」カキカキ
「22だよ」カキカキ
「えっ、すごく若いのです!」カキカキ
「士官学校出てすぐにここに配属させられたからな」カキカキ
「すごくエリートなのですね」カキカキ
「エリートがこんなとこに配属させられるか普通……」
「佐世保の復旧を任されるぐらいに認められているのだと思うのです」カキカキ テガトマッテルノデス
「……そうかね」カキカキ
電と話しながら俺はここに来るまでの出来事を振り返っていた。
ーーーーーすべてが始まったあの日をーーーーー