皐月と提督とバーニングラブ×2   作:TS百合好きの名無し

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演習本番

 

 

 

 飯野提督率いる佐世保組が特訓に励んでいる頃、対戦相手である中将の鎮守府ではいつもの光景が広がっていた。執務室にて卑田の前には作戦から帰投した第一艦隊の榛名たちが並んでいた。艦娘たちの姿は悲惨なものであり、全員の顔に濃い疲労の様子が見てとれた。

 

 

「で、また失敗したと?お前らはいつになったらこの海域を攻略してくるのだ。今すぐバケツを被ってもう一度出撃して来い」

 

 

 そう言い放った卑田の前に榛名が進みでる。ぼろぼろの改造巫女服のような服にもとは綺麗な黒髪であっただろうが乱れてしまった髪、欠けた電探のカチューシャという姿の彼女は卑田に言う。

 

 

「お、お願いします!せめて1時間でいいので休憩をください……」

 

 

「休憩だと?兵器が疲労なんぞする訳がなかろう。お前たちは何も言わず私に戦果だけを持ってくればよい」

 

 

 ジロリと卑田が冷たい目を向ける。

 

 

「み、見て分からないんですか!?みんな限界なんです!」

 

 

「うるさいぞ!お前といいあの小僧といい、私を怒らせるな!!」

 

 

「ひっ!」

 

 

 榛名を怒鳴りつけた卑田だが、そう言った後に少し考える仕草をした。

 

 

「……そうだ。あの生意気な少佐との演習は2日後だったな。仕方ない、お前らにはそれまでいらぬ休みを与えてやる。万が一にでも負けることがあってはならないからな」

 

 

「演習……」

 

 

「一体どんな奴なのかと調べてみたが、士官学校の成績も提督になれるギリギリのたいしたことのない男だった。おまけに艦娘を人間扱いする変人だった!艦娘を人間扱いするなんて奴の気が知れん。反吐がでるわ」

 

 

「艦娘を人間扱い……ですか」

 

 

「資材と材料でいくらでも生産できる艦娘を人間扱いするのも信じられんが、あいつはこともあろうに少佐の分際で私を無能だと馬鹿にしおった。加えて駆逐艦の素晴らしさを見せるだと?弾除けにしかならん駆逐艦で何が出来るのだ。数は多いくせにロクにダメージを与えられない主砲、紙同然の装甲しか持たぬ駆逐艦が戦力になるとは思えん」

 

 

「……」

 

 

「奴らを完膚無きまでに叩き潰すために準備しておけ」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 艤装の修復を終えた榛名は自室でベッドに倒れ込んでいた。

 

 

(兵器……)

 

 

 榛名のいる鎮守府は艦娘を完全に兵器として扱うブラック鎮守府と呼ばれる場所だった。海域の攻略が始まれば攻略できるまで休み無しで出撃させられ、失敗するたびに叱責や暴力が卑田中将から与えられた。特に被害に遭っているのは駆逐艦の娘たちで、弾除けとして出撃させられ、何人も沈んでいった。助けて、見捨てないでと言いながら沈んでいった彼女たちの最期を榛名は忘れることができないでいた。

 

 

(確かに榛名たちは普通の人間ではありません。でもこうして現代へと蘇り、この体を与えられて人々と触れ合うことが出来ると嬉しく思っていたのに・・・・・・)

 

 

 ……榛名の心は既に限界だった。

 

 

(榛名はもう大丈夫じゃありません……誰でもいい……助けて……)

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 とうとう演習本番の日がやってきた。俺たちは今、卑田中将の鎮守府で中将たちと向かい合っていた。

 

 

「逃げずにちゃんと来たようだな」

 

 

 卑田中将は開口一番にそう言ってきた。肥えた体に丸刈りの髪の40代くらいの男である。彼の後ろに控える艦娘たちは無表情な者ばかりだった。

 

 

「ご冗談を。うちの鎮守府はまだ建造システムが復旧していないため、今回の演習では他の鎮守府から時雨、夕立、飛龍の3名を加えさせていただきます」

 

 

「構わん。弾除けが二隻と空母が一隻増えただけだ。……それにしてもそのメンバーで中将であるこの私に喧嘩を売るとは、馬鹿にしてるのか?負けた場合、お前はただじゃ済まないのだぞ?」

 

 

 卑田中将は皐月たちを見て小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。怒りを抑えながら俺は彼の顔を睨みつけて言い放つ。

 

 

「本気です。彼女たちは俺の()()()()ですよ」 

 

 

「ふん、後悔するなよ」

 

 

 卑田もまた、俺を睨みつけてきた。

 

 

 そして演習が始まった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「いよいよ本番だね」

 

 

「そうだね」

 

 

「夕立たちがいれば大丈夫っぽい!」

 

 

「でも、相手の艦隊のメンバーはすごい人たちばかりなのです」

 

 

「相手のメンバーは榛名、陸奥、加賀、赤城 愛宕、高雄……叩き潰す気満々だね」

 

 

『確かに強敵ばかりだが、そんなに心配せんでもいいと思うぞ』

 

 

「どういうこと?」

 

 

『すぐに分かる。飛龍、制空権はどうなってる?』

 

 

「拮抗状態に()()()()()

 

 

『んじゃ、そろそろ攻撃隊がやって来るな』

 

 

「ああ、確かに実際にやってみた方が分かるかもね」

 

 

「なのです?」

 

 

 しばらくすると5人の前方の空に相手の艦載機の姿が見えてきた。

 

 

「全然減ってないっぽい」

 

 

「ワザとかい飛龍?」

 

 

「当たり前よ。せっかく対空戦の訓練をしたのに私が全部撃墜したら意味が無くなっちゃうじゃない」

 

 

「ええっ!?本気で戦ってくれてないの?」

 

 

「今はね。皐月ちゃんたちがこの演習の主役だもの」

 

 

『よし、総員対空戦用意!攻撃の合図は旗艦の皐月に任せる!』

 

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

 

 みるみる相手の艦載機が近付いてくる。皐月はそれを睨みながら合図を出した。

 

 

「……3,2,1。攻撃開始だよ!!」

 

 

 機銃が火を噴き、空に大量の花火を咲かせていく。

 

 

「……あれ?」

 

 

「……なのです?」

 

 

 皐月たちは見事な連携で艦載機を一つ残らず撃ち落としていった。あっという間に艦載機が全滅する。

 

 

「動きが遅いしすごく読みやすかった……」

 

 

「面白いほど当たったのです」

 

 

「私の艦載機で訓練したんだから当たり前よ」

 

 

『これだけ出来る時点でお前らはもう立派な戦力だよ。今頃あちらさんは驚いているだろう』

 

 

 

 

 

ーーーーーー同時刻 中将艦隊

 

 

 

 

 

「加賀さん、赤城さん、制空権の方はどうですか?」

 

 

 旗艦の榛名が加賀と赤城に状況を聞く。

 

 

「……こちらが押してるけど拮抗状態よ。相手は今のところ艦戦しか出していないわ。私たちを1人で抑えるなんて相手はかなりの手練れのようね。けど少し妙だわ」

 

 

「そうですね」

 

 

「加賀さんと赤城さんの2人を相手に1人で拮抗状態にもち込んでいるのですか……妙、とは?」

 

 

「被害を減らすために相手は少しでもこちらの艦爆、艦攻を減らしたいはずなのに、相手の艦戦は一度もこちらの攻撃機を狙ってこなかったんです」

 

 

「……まるでワザと攻撃隊を見逃したようだわ」

 

 

「攻撃隊を見逃した?一体どうして……」

 

 

 そしてしばらくして攻撃隊からの報告が返ってくる。加賀と赤城の表情は驚きに満ちていた。

 

 

「……攻撃隊、全滅よ」

 

 

「……私もです」

 

 

「えっ……?」

 

 

『ふざけとるのか貴様ら!!』

 

 

 中将艦隊に動揺が広がる。卑田が叱責を飛ばしているが、彼女たちはそれどころではなかった。愛宕が呆然とつぶやいた。

 

 

「一体どうやって……」

 

 

「普通に機銃で落とされたようです」

 

 

「機銃でって……無傷の攻撃隊を駆逐艦だけで全滅させたの!?」

 

 

「相手の被害は!?」

 

 

「……5隻とも無傷です」 

 

 

 艦隊が静まり返った。彼女たちはもともと、この演習は艦載機による開幕爆撃で終わると予想していたのだ。相手は鎮守府に着任したばかりの新人が率いる駆逐艦ばかりの艦隊、自分たちに挑むのも無謀なレベルである。

 

 

「……でも、これでコレを使わなくてはいけなくなったわね」

 

 

 陸奥はそう言いながら自身の主砲に手を置いた。榛名、愛宕、高雄の3人も自身の主砲に目を向ける。そこに装填されているのは演習弾ではなく実弾だった。彼女たちは反対したが卑田がそうさせたのである。

 

 

(……使いたくはなかったのですが。いえ、それよりも彼女たちは一体何者なのでしょうか?メンバーは確か皐月、電、時雨、夕立、飛龍……)

 

 

 榛名の記憶が何かに反応する。

 

 

(……待ってください。()()()()()()?ーーーーーーまさか彼女たちは!)

 

 

 自然と彼女はその名をつぶやいていた。

 

 

「〈大天使〉と〈悪夢〉と〈天〉……」

 

 

「えっ?」

 

 

「5隻のうちの3隻はあの横須賀第二支部の3人なのでは?」

 

 

「横須賀第二支部って……」

 

 

「噂には聞いたことがあるわ」

 

 

「でも、彼女たちは提督を失って落ちぶれていたのでは?」

 

 

「落ちぶれてもその実力は確かということね」

 

 

「なぜそんな艦娘たちが今回の演習に……」

 

 

(確かにそれが分からない。彼女たちを率いているのは新人提督のはず、彼女たちは扱いが難しい問題児としても有名なのにそれを従えている彼は何者なのでしょう)

 

 

「飯野少佐……ですか」

 

 

『横須賀第二支部だかなんだか知らないが、貴様らが万が一にでも負けることがあれば他の艦娘がどうなるか分かっているな?』

 

 

 卑田の言葉を聞いた中将艦隊に緊張が走る。

 

 

「…っ!?勝ちます!勝ちますから彼女たちには手を出さないでください!!」

 

 

 榛名は必死に懇願した。だが、中将はそれ以上何も言わない。それがますます彼女の不安を煽っていく。

 

 

(勝たなきゃ……勝たなくちゃみんなが)

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 皐月、電、時雨、夕立の4人は飛龍を後方に残し、飛龍の索敵をもとに榛名たちのいる場所を目指していた。

 

 

「飯野提督、相手の水上機を発見したよ」

 

 

『そろそろ戦艦の砲撃がくるな』

 

 

 皐月たちも時雨の視線の先を見るが何も見えない。

 

 

「本当に時雨って目がいいよね。ボクたちには何も見えないよ」

 

 

「ぽい!」

 

 

『……できれば早いとこ相手に近づきたいんだが。時雨、あとどのくらいだ?』

 

 

「ここで戦艦の攻撃を回避しながら進んだ先で重巡と出会うことを考えると、夜戦開始の少し前には砲雷撃戦の距離に入ると思うよ」

 

 

『飛龍がつかんだ相手の動きをでは、こちらに距離を詰められないように動き回っているらしい。徹底的に遠距離からの攻撃で一方的に攻めて終わらせるつもりだな』

 

 

「面倒だね」

 

 

『俺としては夜戦に余裕をもって入れるようにしたい。お前たちの動きで相手を焦らせ、そのまま夜戦に入りさらに追い詰めるという流れがベストだ』

 

 

「回避しながらだと航行のスピードは落ちるから難しいね」

 

 

『電と夕立に重巡の相手を任せる。あと、時間短縮のため時雨には本気を出してもらう』

 

 

「僕は既に本気だけど?」

 

 

「ビリヤードを頼む」

 

 

「どうしてそれを……」

 

 

『聞いたことがあるだけだ』

 

 

「ん?ビリヤードって何だい時雨?」

 

 

「何かの暗号なのですか?」

 

 

『見た方が早いぞ』

 

 

「戦艦の砲撃がくるっぽい!」

 

 

 夕立の言葉に全員が構える。砲弾が4人へと迫って飛んできた。

 

 

『時雨、頼んだ』

 

 

 時雨の砲撃によって空中で大爆発が起こった。時雨が戦艦の砲弾を自身の砲撃で撃ち落としたのだ。絶妙な角度で撃たれたそれらは爆発したものの、時雨たちに大きな被害はない。そうなるように時雨が撃ったのだ。

 

 

「な、何今の!?」

 

 

「はわわわ……」

 

 

「砲弾を撃ち落とすってなんなのさ……」

 

 

 皐月が呆れの表情で時雨を見る。

 

 

『これで足を止める必要はないだろう』

 

 

「噂に違わぬ実力なのです……」

 

 

 皐月たちが時雨の神業に感嘆する中、当の本人は険しい顔していた。それに気付いた皐月が時雨に問いかけた。

 

 

「どうかしたの?」

 

 

「ちょっとね。夕立、気付いたかい?」

 

 

「……ええ」

 

 

 夕立もまた、険しい顔をしていた。

 

 

『ん?何かあったのか?』

 

 

「今の爆発の規模は演習弾のものではありえないよ。飯野提督、おそらく相手は実弾を使っているよ」

 

 

『はあ!?これは演習だぞ!?沈める気満々じゃねーか!!それに時雨たちは他の鎮守府の艦娘なんだぞ、一体何を考えているんだ!!』

 

 

「それこそ、沈めて君に責任を押し付けるためじゃないかな?実弾を使われましたって言っても中将が認めなければそれまでだ。少佐と中将じゃ階級に差がありすぎて誰も飯野提督を信じないだろうしね」

 

 

『ふざけやがって!!』

 

 

「司令官、大丈夫だよ」

 

 

『皐月……?』

 

 

「ボクたちは負けないし沈まないよ。信じて」

 

 

『……そんなの当たり前だ』

 

 

「ふふ、焦っちゃって可愛いね」

 

 

「……ええい!とにかく沈むんじゃないぞ!キツい一撃をぶちかましてやれ!」ブツッ

 

 

「あっ、切られちゃった」

 

 

「言われた通りがんばるのです!」

 

 

 皐月たちはお互いに笑いあい、しっかりと前方を見据えた。相変わらず砲弾が飛んでくるが、時雨によって撃ち落とされていった。そんな中、時雨は同時に疑問を持ち始めていた。

 

 

(そう、飯野提督は着任したばかりの新人で少佐だ。だから気になる……)

 

 

 砲弾をまた一つ撃ち落とす。

 

 

(どうして彼は砲弾撃ち(ビリヤード)のことを知っていたんだ?これはまだ横須賀第二支部の3人と野木提督しか知らない僕の隠れた特技なのに……)

 

 

(金剛たちが誰かに喋った?いや、僕たちはそこまで他の鎮守府と交流は無かったし、僕の噂にもそんな内容のものはなかったはずだ。)

 

 

(飯野提督……君は何者なんだい?)

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「……嘘でしょ?」

 

 

「……いいえ、榛名の水偵からも同じ報告が入ってきています」

 

 

「戦艦の砲弾を撃ち落とす駆逐艦なんて聞いたことがないわよ!?」

 

 

「信じられませんが事実なのでしょう……」

 

 

「こんな駆逐艦がいるなんて……」

 

 

「……愛宕さんと高雄さんは彼女たちのもとへと向かってください」

 

 

「……了解したわ。援護をよろしくね」

 

 

 

「……みんなのためにも榛名は負けるわけにはいきません」

 

 

 

 

 

 




今さらだけど、横須賀第二支部の方たちがチートすぎる……
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