ボクの朝は電と一緒に司令官を起こしに行くことから始まる。
「司令官さん、朝なのですよ~」
「とうっ!」バッ
「ぐえっ!?」ボフッ
ボクは司令官の上に飛び乗った。実はボクたち艦娘には上官に逆らえないようにするシステムのようなものがあって、これはその鎮守府の提督がON/OFFを設定出来る。これが有効になっていると艦娘は上官に暴力を振るったり出来なくなる。でもボクたちの司令官はこれを無効にしているから多少乱暴なことも出来てしまう。信頼してくれているようで嬉しい。
「起きたかい?」
「もうちょっとマシな起こし方はないのか」
司令官はそう言って涙目でボクを睨む。
「普通にやっても起きないじゃないか」
「俺は疲れているんだよ。あと30分寝かせてくれ」
「昨日司令官さんは早く寝てたのです。ただ仕事したくないだけなのです。皐月ちゃん、遠慮はいらないのですよ」
「よおし」
「分かった分かった!起きるから!」
「あ、電、さっきの書類を取ってくれ」
「これでしょ?」ヒョイ
ボクは司令官に書類を見せる。
「あ、ここにあったのか。すまんな」
ボクは今司令官の膝の上に座っている。ここはとても落ち着くんだ。本来ならこの時間は鍛練をする時間なんだけど・・・・・・決して寂しいから座っているのではないよ。うん。
「なあ、そんなに俺の膝の上っていいもんなのか?」
「落ち着く」
「安心するのです」
「はぁ・・・・・・よく分からん」ナデナデ
「あの、皐月ちゃん、あとで電に交代してくれませんか?」
「あと1時間ね」ナデラレナデラレ
「俺の意思は関係ないのか・・・・・・」
「ダメ?」
「いや、ダメではないが・・・・・・皐月、そろそろ訓練に行ったらどうだ?」
「電は秘書艦の仕事をしているし、榛名さんはまだ寝込んでいるし訓練って言ったって実質ボク1人の自主練じゃないか・・・・・・1人でやってもつまんないよ」
「毎日の鍛練は欠かすものではないぞ?」
「今日はここにいたいんだよ・・・・・・」
そう言って上目遣いに司令官を見つめてみる。
「う、・・・・・・仕方ないな」
「やった!」
「はぁ・・・・・・」
「あ、そういえばさ、司令官に聞きたいことがあったんだ」
「何だ?」
「時雨たちの2つ名の由来って何なの?ほら、〈大天使〉とか〈悪夢〉ってやつだよ」
「そういえば電も詳しく知らないのです」
「聞きたいのか?」
「うん」
「なのです」
「それじゃまず時雨からだな。全盛期の彼女は戦場で艦娘と人間をたくさん救っているんだ。艦娘のピンチにどこからともなく駆けつけてきて守り、負傷者を医者も驚くほどの手際よさで処置してちゃんとした治療が出来るまでの命を繋いでいる。実は、彼女の艤装には治療用の道具がいくつか搭載されているんだ。また彼女は決してこのことを自慢せず、むしろ彼らの運が良かっただけだと言ってお礼を決して受け取らなかった。そんな彼女を周囲の人々が〈大天使〉って呼んだのが始まりだよ」
「今度時雨に会ったら天使様って呼ぼうかな」
「なのです?」
「彼女はこの名で呼ばれることを恥ずかしがっているからやめてあげなさい」
その顔が見るのがいいんじゃないか。
「えーと、次は夕立だな。・・・・・・夕立に関しては電は演習で夕立の本気で戦う姿を見ているからなんとなく想像できるんじゃないか?」
「・・・・・・あの時の夕立ちゃんは本当に怖かったのです」
電が小さく震える。
「え、そんなに?」
ぽいぽい言ってる明るい人ってイメージしかないんだけどなぁ。
「夕立は普通の艦娘と違って海面を駆けたり跳んだりできる。その変幻自在な動きと駆逐艦とは思えない威力の砲撃で相手を攻撃し、さらに時限式の魚雷を敵に投げつけて沈めるんだ。また、彼女自身がかなりの戦闘狂であることからもまさに〈悪夢〉なんだ」
「あの時の夕立ちゃんはまさしく悪夢そのものなのですよ・・・・・・」
「夕立さんって呼んだ方がいいかな?」
「なのです・・・・・・」
「次は飛龍だ。彼女はとにかく艦載機を操る能力が飛び抜けている。彼女は制空権を取っていない状態でもある程度友永隊だけで戦えてしまうな。彼女の操る友永隊はまるで生き物のように砲撃を避けて敵に攻撃を当てるんだ。そのあたりから〈天の飛龍〉って呼ばれている」
「確かに飛龍さんの操る艦載機はすごかったのです」
「・・・・・・制空権に関係なく戦えるっておかしいよ」
友永隊って艦爆の何倍も撃墜されやすい艦攻って種類の艦載機じゃなかったっけ・・・・・・?
「演習では本気を出していなかったが、本気の彼女が制空権を取られることはなかなかないよ」
「だろうね」
これで残るはあと1人か。
「・・・・・・最後は金剛だな」
なんだか司令官の表情が暗くなる。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
「・・・・・・どんな人なんだい?」
「金剛は・・・・・・なんというか物凄い努力家な艦娘だ。彼女自身、最初はこれといった特技はなかったがとにかく明るい艦娘で横須賀第二支部のムードメイカーだった。時雨たちが特技を身につけていく中、なかなか彼女は自分の特技を見つけられず、自分にも何かが欲しいと提督に頼み込んだらしい。そして彼女はある技術を得た」
「どんな技術なんだい?」
「皐月、俺がお前に教えたものだ」
「えっ?」
「彼女はお前が身につけた[相手に動き出しや移動を感知されにくく、もしくは誤認させる技]をさらに洗練させたものを持っている。加えて、彼女は積み重ねた経験から相手の動きを読むのがとても上手い。戦いを重ねた彼女は攻撃のタイミングを完全に予想して砲弾を手ではじくことすらやってのける。彼女は戦艦であり、戦艦は駆逐艦のように相手に近付いて戦う必要はない。だが彼女はあえて近付くんだ。砲弾を手ではじき、必要のないものはかわし、近距離から敵の弱点部位に最大威力の攻撃が確実に当たるように砲撃する」
「・・・・・・戦艦が相手に近距離まで近付く?」
戦艦が逆に近付いてくるとか何だかすごく怖いんだけど。
「ああ、決して退かず、流れるような動きで攻撃をかわしながら相手に近付き、当たったと思ったら手で砲弾をはじく。最終的には敵の目の前にいて敵が木っ端みじんだ。彼女は畏怖され〈鬼の金剛〉と呼ばれるようになった」
「ある意味夕立ちゃんよりも怖いのです」
「でも、努力家か・・・・・・」
「ああそうだ。時雨には広く周りを見渡せる良い目があり、夕立は海面を走るためのバランス力があり、飛龍には艦載機を操る天才的なセンスがそれぞれあったのに対し、彼女にはそういったものが全くなかった。むしろ普通よりも劣っていたほどだ。彼女の強さは日々のたゆまぬ努力によって得られたものだ」
「なんだか好感が持てる人だなあ」
「電も、頑張る人は好きなのです」
「ふふ、彼女は実際多くの艦娘から尊敬されていたよ」
そう言って司令官は笑った。何故か嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか?
「でも本当に司令官は彼女たちのことに詳しいよね。何か理由があるのかい?」
「まあ士官学校時代にちょっとな」
「ふーん」
「さて、早く仕事を終わらせねば」
「手伝おうか?」
「・・・・・・出来るのか?今あるのは判子を押したり丸を付けるだけの書類じゃないぞ」
「ボクだってそれくらい出来るよ」
何だい、その疑わしい目は。
「お前、自分の名前を漢字で書いたり出来るのか?」
「それくらい出来るよ!バカにしないでよ!!」
この後、めちゃくちゃ仕事した。
「さて、今日の昼はミートパスタだ」コトン
「わ、美味しそう」
「パスタはあまり食べたことがないのです!」
食堂で司令官がボクたちに昼食を用意してくれた。こういうのって司令官の仕事じゃないと思うんだけど、うちの鎮守府には間宮さんも伊良湖さんもいない。あ、でも彼女たちが来たら司令官の手料理が食べられなくなるのか。それは嫌だな。
「どうだ?」
「美味しいのです!」
「美味しいよ!」
「おう、ありがとな」
「司令官って本当に料理が上手いよね」
「電もそう思います」
電も料理が出来る。多分榛名さんも雰囲気的に出来そうなイメージがある。……あれ?もしかして出来ないのはボクだけ!?
「ね、ねえ司令官。今度ボクに料理を教えてくれる?」
昼食後、執務室に戻ろうとしたところ司令官から榛名さんの部屋に料理を持って行くように頼まれた。
「榛名さーん、皐月だよ。昼食を持って来たから開けてくれないかな?」
榛名さんの部屋の扉に呼びかけると、しばらくして扉が開き榛名さんが顔を出す。
「ありがとうございます。あの、中へどうぞ」
榛名さんの部屋はとても殺風景だった。部屋の模様替えもせず、ずっと寝込んでいたようだ。
「これ、司令官が作ったミートパスタだよ」コトン
「て、提督が昼食を作ってくださるのですか!?」
「うちには間宮さんも伊良湖さんもいないからね。でも味は保証するよ。食べてみて」
榛名さんがミートパスタを食べ始める。
「美味しい・・・・・・」
たわいもない話をしているうちに榛名さんが料理を食べ終える。
「昨日の料理担当は電だったけれど、今日は司令官さ。実は祝勝会の時の料理も司令官が電と作ったものなんだ」
「そうなのですか!?・・・・・・あの時の料理も提督が・・・・・・・はうう」
「はぁ・・・・・・まだ気にしているのかい?司令官は別に気にしてないって」
「で、でも!提督にあ、あんな姿をお見せしてしまって榛名は大丈夫じゃないです・・・・・・」
榛名さんが真っ赤になって俯く。本当に可愛いなこの人。
「ああもう、ほら!一緒に行ってあげるからついてきて!」グイグイ
「ううううぅぅ・・・・・・」
「司令官、失礼するよー」コンコン
「皐月か、開けていいぞ」
「もう面倒だから榛名さんを連れてきたよ」ガチャ
「ううぅぅ・・・・・・」
ボクの背中に引っ付いて榛名さんも執務室へと入った。
「榛名・・・・・・言っただろう。別に俺はあの時のことを気にしていない」
「榛名は気にするんです・・・・・・て、提督にあのような姿をお見せしてしまうなんて」
「だからといって部屋に引きこもるのはやめてくれないか?お前の姿を見ないと俺が不安になってしまう」
「そ、そうなのですか?」
「寝込んでいると聞いて心配してたんだぞ。しかも原因は俺なんだ」
「て、提督は何も悪くありません!」
「なら、部屋に引きこもっていないで俺に元気な姿を見せてくれ。甘えてくれても別にかまわん」
「あ、甘えるだなんて・・・・・・」
「はあ、ちょっとこっちに来い」
「・・・・・・?」オソルオソル
「・・・・・・」ナデナデ
「ふわあ!?」ナデラレナデラレ
「遠慮はいらん。俺たちはもう家族も同然の仲間なんだ、もっと素直に甘えてくれればそれでいいんだよ」
「提督・・・・・・」
榛名さんが完全に乙女の顔になってる。
「でしたら、あの、は、榛名に秘書艦をやらせていただけませんか!?」
「うん?」
「なのです!?」
おっと、電のポジションがピンチかな?
「い、電ちゃんと交互で構いませんので、お願いします・・・・・・」
「んー、まあ別に構わんよ。秘書艦の経験は豊富だろうしな」
「頑張ります!」
「はわわわ・・・・・・」
「電もいいか?」
「は、はい・・・・・・電だけが司令官さんを独り占めするのもよくないですから」
あ、譲っちゃうんだ。電は優しいなぁ。
「電さん、ありがとうございます」
「なのです・・・・・・マケナイノデス」ボソッ
意外と榛名さんは攻めるんだな。榛名さんと司令官かあ・・・・・・お似合いだと思う。でもなんかモヤモヤとする。なんだろうこれ。
「・・・・・・皐月?どうかしたのか?」
「えっ?何でもないよ・・・・・・」ホオプクー
「そ、そうか」
ああ、でも佐世保鎮守府のこのゆるい雰囲気は本当にボクは大好きだ。そしてそれをつくっている司令官も。
「・・・・・・ねえ司令官」
「何だ?」
「ボクも秘書艦やっていい?」
「ええっ!?」
「なのです!?」
叶うならこれからもみんな一緒に・・・・・・
……さて次は金剛さんだ