皐月と提督とバーニングラブ×2   作:TS百合好きの名無し

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沖ノ島

 

 

 

 沖ノ島周辺海域。そこは深海棲艦が数多く出現する激戦区で有名な海域だ。深海棲艦の基地が所々に散在しており、生半可な覚悟で挑むと返り討ちにあうのが当然と言われている。しかし、この海域の特徴はそこではない。この海域は深海棲艦が出していると思われる特殊なジャミングがあり、GPS等も効かない魔の海域なのである。その上、羅針盤が狂うために敵の主力部隊を見つけることが非常に困難なのだ。

 敵の本隊を見つけられず、ひたすらよってくる深海棲艦の相手をさせられる。新人提督のほとんどがここで挫折を味わう。だが、この海域を突破した者は大規模作戦に参加する資格を得ることが出来るため挑戦する新人提督が後を絶たない。

 

 

「沖ノ島……か」

 

 

 士官学生時代の俺───野木提督であった頃、俺は金剛、飛龍、時雨、夕立の4人でこの海域に挑戦した。そして地獄を味わった。道中大破なんて当たり前、羅針盤が狂いまくった。夕立ですら「ちょっとパーティーはお休みっぽい……」と言い出し、飛龍は「飽きた」、時雨はうわごとのように「……いい雨だね」と、雨の日なんて全然なかったが。金剛に至っては「テートクの期待に応えないと帰れマセン!!」と言って、大破で進撃をしようとすることが多々あったので説教と拳骨をしなければならなかった。

 

 

「……またあの日々がやってくるのか」

 

 

 また羅針盤に泣けと言うのか……

 

 

「あー、鬱だ」

 

 

「金剛に任せるデス」

 

 

 今日の秘書艦は金剛だ。彼女は椅子に座る俺に後ろから覆い被さるような格好になっている。俺の両肩に自分の腕を乗せて頭は俺の頭のすぐ横。もはや恒例だ。油断すると膝の上に乗ってくるのでこれで妥協してもらった。仕事しろと言いたいが彼女は非常に優秀で仕事がすぐに終わるのだ。故に自由な時間が多くなる。

 

 

「……気休めでもありがとな」

 

 

「んぅ?テートク、ワタシたちは別に新人じゃないんデスヨ?正直、過剰戦力だと思いマス」

 

 

「いや確かに戦力については問題ない。しかし羅針盤が……」

 

 

「金剛に任せるデス」

 

 

「話聞いてた?」

 

 

「問題ナッシング」

 

 

「……」

 

 

「少しは信じてくだサイ……」シュン

 

 

「しかし、こればっかりは運じゃないか?」

 

 

 何故か進路を決める際に妖精が回す羅針盤。行き先はランダム。そもそも羅針盤は回す物じゃないんだが……

 

 

「うぅ……」

 

 

「……少しは嫁さんを信じてやるかな」

 

 

「!?テ、テートク、もう一度お願いしマス!!」

 

 

 ボソリと呟いた一言に金剛が食いつき顔をさらに寄せてきた。

 

 

「頑張ってくれ金剛」

 

 

「そ、そうじゃないデス!も、もう一度!」

 

 

「頑張れ鬼」

 

 

「悪くなりマシタ!」

 

 

「行ってこい」

 

 

「いけず!!」

 

 

 そっぽを向かれてしまった。

 

 

「なんかそう言われるのは新鮮だ」

 

 

「言ってくれたらすぐに海域を突破してきてあげマスヨ?」チラッチラッ

 

 

(どうやってだよ……)

 

 

 だが、ダメ元でのってみるのもいいかも知れない。

 

 

「嫁の活躍を期待しているよ」

 

 

「Love is power!!」ギュウ

 

 

「耳元で叫ぶなよ……」

 

 

 鼓膜が破れそうだ……

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 次の日、俺たちは沖ノ島攻略を開始した。メンバーは旗艦皐月、随伴艦に金剛、榛名、飛龍、時雨、夕立である。

 

 

「……そろそろ海域に到着した頃だろうか」

 

 

 なかなか仕事の書類に集中出来ない。この執務室で艦隊の勝利と帰還の報告を待っている時間が非常にもどかしい。

 

 

「俺も現場に行きたい……」

 

 

「戦場に司令官さんが行ってどうするのですか……」

 

 

 電が呆れたように言う。

 

 

「心配なんだ」

 

 

「気持ちは分かるのです。でも、信じて待つのが司令官というものなのですよ」

 

 

「だがな……」

 

 

「さっさと仕事をするのです」

 

 

「な、なんか最近、俺に冷たくないか?」

 

 

「気のせいなのです」

 

 

 電は明らかに頬を膨らませている。

 

 

「そ、そうか」

 

 

「最近司令官さんはちっとも電にかまってくれないのです」

 

 

「……すまない」

 

 

「……別に司令官さんが誰と仲良くなろうと電には関係ないのです。でも、寂しく感じるのです……」

 

 

 手を一旦止め、電に向き直る。

 

 

「俺は……電のことは前から妹のような存在だと思っている」

 

 

「……妹、ですか?」

 

 

「ああ」

 

 

 電は少し考えるような仕草をしてからこちらを見上げるようにして言った。

 

 

「じゃあ……お兄ちゃん?」

 

 

「」ピシャアアン

 

 

 全身に雷に打たれたような衝撃が走った。

 

 

(な、なんだこの感じは……!)

     

 

「え?今なんと言ったんだ?」

 

 

「お兄ちゃん……」

 

 

「おお……」

 

 

 不思議な高揚感で心が満たされる。

 

 

(こ、これは……すまん妹よ、お前の「お兄」も良いが電の「お兄ちゃん」の破壊力が高すぎる)

 

 

「司令官さん?」

 

 

「……な、なんでもない。仕事をしようか」

 

 

「お兄ちゃんと一緒に頑張るのです!」

 

 

「ごはっ!」

 

 

 

 

 

 

「「むむっ!?」」

 

 

「……どうしたの2人とも」

 

 

「お姉さま、い、今何か……」

 

 

「テートクが誰かに誑かされていマス!」

 

 

(えぇ……?)

 

 

 困惑する。よく見ると金剛さんはアホ毛が、榛名さんは電探がピコピコと動いていた。一体何を受信しているのだろうか。

 

 

「2人とも、もうすぐ沖ノ島海域に着くから……」

 

 

「仕方ありマセンネ」

 

 

「はい……」

 

 

(というかなんでボクが旗艦なんだろうか……)

 

 

 考えているうちに目的の海域へと到着する。

 

 

「……着いたね」

 

 

 時雨の言葉に全員の表情が引き締まる。

 

 

「さて、みなさんちょっと心の準備をお願いしマス」

 

 

 唐突に金剛さんがそう言って停止した。

 

 

「金剛さん?」

 

 

「早くこの海域を攻略するためには雑魚相手に時間を使うわけにはいきマセン」

 

 

 静かに金剛さんが目を閉じると彼女が纏う雰囲気が変化していく。

 

 

「もしかして……」

 

 

「……金剛さん本気?」

 

 

「み、みんな早くかまえるっぽい!気を抜いていると倒れるっぽい!!」

 

 

 時雨たちは何か気付いたらしく、夕立に至っては顔が真っ青になっている。

 

 

「お姉さま?」

 

 

「……榛名、気を抜かないでくだサイ」

 

 

(金剛さんは一体何を───)

 

 

 次の瞬間、辺り一帯を濃密な殺気が突き刺した。

 

 

「「「「「ーーーっ!!」」」」」

 

 

「か……はっ」

 

 

 呼吸がうまく出来ない。身体中を何かで貫かれるような感覚と圧迫感に堪らず膝をついてしまう。

 

 

(い、意識がもっていかれそう……!!)

 

 

 金剛さんを中心に死を強烈に意識させるような殺気が放たれている。気付くと体まで震え始めていた。本能が警告している。「彼女はヤバい」と。

 

 

「久々に感じたけどこれは……」

 

 

「金剛さんの本気の殺気なんて普通は当てられただけで卒倒モノよね……」

 

 

「ぽいい……」

 

 

 時雨たちはなんとか立っていられるようだ。彼女たちはある程度慣れているらしい。それでも怯えが見てとれるけれど。

 

 

「は、榛名さ…んは……」

 

 

「は、榛名はだいじょ…うぶです……」

 

 

 榛名さんも顔を青ざめて膝をついているがボクよりは平気そうだ。

 

 

「これで道中の邪魔な深海棲艦はほとんど出て来ないはずデス……妖精さん、お願いしマスネ?」ニコッ

 

 

 羅針盤係の妖精さんが必死な顔でブンブンと頭を上下させている。すごい震え様だ。

 

 

(す、すごい……これが金剛さんの本気の殺気……)

 

 

 これを浴びせられても平気になれる日なんてくるのだろうか。無理な気がする。

 

 

(そういえば艦時代の金剛さんって最年長の戦艦なんだっけ……この貫禄、これが金剛おば───)

 

 

「……Hey皐月、ワタシに何か言いたいことが?」ニコニコ

 

 

 笑顔なのに絶対笑ってない。そんな気がしてならない。

 

 

「何でもありません!サー!」

 

 

「あらあら、今のリーダーはあなたデスヨ?」

 

 

(あ、完全に立てなくなった……)

 

 

 

 

 

 

 なんとか金剛さんの殺気に慣れてきた頃、ボクたちは進軍を開始した。道中は驚くほど深海棲艦に遭遇せず、ボクたちはどんどん最深部へと進んで行った。羅針盤の妖精さんはずっと冷や汗をかきながら羅針盤をいじっている。……頑張れ妖精さん。

 

 

「!……敵主力部隊と思われる艦隊を発見よ!」

 

 

 飛龍さんの彩雲が敵の本隊を発見したらしい。しばらくするとその姿がかすかに見え始めた。

 

 

(あれは……)

 

 

 魚雷のような黒く長い体をもつ一つ目の駆逐ニ級が6体……どれも上位個体であるエリート特有の赤いオーラを纏っている。

 

 

(駆逐ニ級……確か現在確認されている敵駆逐艦の中で最強の駆逐艦だったはず)

 

 

 続いてさらに後方に全身黒ずくめのスレンダーな女性の姿が見えた。両腕に砲のついた盾のような巨大な艤装を装備している。戦艦ル級と呼ばれる黒髪のその女性は6体おり、その内4体がエリートであり残りの2体は黄色いオーラを全身に纏ったーーー

 

 

「戦艦ル級のflagshipが2体!?」

 

 

 冗談ではない。ただでさえ6体も戦艦がいるのにこれは───

 

 

「……」

 

 

 その時、ボクは見た。不敵に笑うル級flagship2体が金剛さんに視線を向けた瞬間、僅かに後ずさったのを。

 

 

「さぁて、無事に敵の本隊に出会えたデース」ニイ

 

 

 金剛さんの目は完全に獲物を見るソレだった。

 

 

「ひ、飛龍さんは艦載機を!ボクたちは突撃を開始します!」

 

 

「「「「りょ、了解!!」」」」

 

 

 戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

「皐月!そっちにニ級が1体行ったよ!」

 

 

「了解!!」

 

 

 姿勢を低くして右手で抜刀し、飛びかかってきたニ級を斬りつける。奇声を上げるソレに向かって離脱しながら魚雷を放つ。命中し爆発する。

 

 

「なかなか刃が通らない……」

 

 

「残りのニ級と2体のル級エリートは僕と夕立と飛龍でなんとかするから皐月は金剛と榛名さんの援護へ!」

 

 

「任せたよ!」

 

 

 ボクは金剛さんたちのもとへ向かった。

 

 

(金剛さんたちは……)

 

 

 ル級の砲撃の中を金剛さんが突き進む。金剛さんが手で砲弾をはじき、かわす度にル級flagshipの動揺が大きくなっていく。至近距離まで近付いた金剛さんはまず最初の砲撃で1体のル級flagshipの右手の艤装を吹き飛ばし、残りのル級たちの射線上にflagshipが来るようにうまく立ち回って同士討ちも狙っている。艤装を吹き飛ばされたflagshipが激昂し金剛さんに残っている砲を向ける。

 

 

「勝手は榛名が許しません!」

 

 

 しかし、絶妙なタイミングで榛名さんの援護射撃が入りル級flagshipが炎上。続けて金剛さんに今度は体ごと砲撃で吹き飛ばされた。重装甲も金剛さんのゼロ距離射撃には耐えきれないらしい。

 

 

「まずは1体ネ」

 

 

 ル級3体からの砲撃をかわしながら金剛さんが呟く。

 

 

「さすがですお姉さま!」

 

 

「榛名!残りもさっさと片付けるデス!」

 

 

「はいっ!」

 

 

「金剛さん、援護に来たよ!残りは3人で1体ずつ相手をしよう!」

 

 

「了解ネ!」

 

 

「分かりました!」

 

 

 金剛さんがflagshipへ、榛名さんが片方のエリートへ、ボクはもう片方のエリートへとそれぞれ突撃した。

 

 

(目を狙う!)

 

 

 ボクは左手の連装砲でル級の目を狙って砲撃する。ル級は一旦砲撃を止めて艤装で顔を守った。当然、艤装に傷はつかない。

 

 

(でもこれで接近出来る!)

 

 

 ル級へと接近し、砲門を一つ刀で斬り飛ばす。

 

 

(有効部位に魚雷を当てるタイミングを……)

 

 

 バキイイッッ

 

 

 突然そんな音が聞こえたと思った次の瞬間、ル級flagshipが吹っ飛んできてボクが相手をしていたル級エリートと激突、凄まじい衝突音をあげてから大爆発を起こした。

 

 

「え……!?」

 

 

「皐月ー!トドメは任せたデース!」

 

 

 見れば離れた所で笑顔で手を振る金剛さんの姿。

 

 

(え、そこから殴り飛ばしてきたの!?)

 

 

 魚雷を発射。水柱が上がり、ル級が2体とも沈んでいった。

 

 

「これで終わりっぽい!」

 

 

 夕立たちや榛名さんもそれぞれの戦闘を終え、こちらへ集まって来た。金剛さんがみんなを見回して言う。

 

 

「さて、今回は運よく初回で突破出来たデスネ」ニコニコ

 

 

「「「「「……」」」」」

 

 

 全員が沈黙。金剛さんが続けて言う。

 

 

「みなさん、テートクに余計な事は言わないと……分かっていマスネ?」

 

 

「「「「「サー!イエッサー!!」」」」」

 

 

 ボクたちはそれに美しい敬礼で返した。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「なっ!?一回で突破出来たのか!?」

 

 

 佐世保に帰り戦果報告をすると司令官が驚いてボクたちを見た。

 

 

「言ったじゃないデスか。金剛に任せるデスと」フンス

 

 

 金剛さんが得意気に胸を張る。

 

 

「疑って悪かった。一体どうやって……」

 

 

「運が良かっただけデス」

 

 

「そうか」

 

 

「「「「「……」」」」」

 

 

 ボクたちは誰も発言出来ない。出来るわけがない。

 

 

「みんなご苦労様。明日は休みにするからしっかり休んでくれ」

 

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

「テートク!ご褒美になでて欲しいデス!」

 

 

「本当にすぐ突破してきてくれたしな……まあこっち来い」

 

 

「バーニングラァァブ!」ガバッ

 

 

 

 執務室を出たボクたちは一斉に息を吐き出した。

 

 

(((((こ、怖かった……)))))

 

 

 金剛さんは怒らせないようにしよう。そう誓うボクたちであった。

 

 

 

 

 

 





羅針盤なんてなかったんや(白目)

嫁は強し。
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