私の記憶。
ーーー第三次ソロモン海戦 第一夜戦
「消火が間に合いません!」
「艦長!」
「我々は照明灯照射艦なのだ。覚悟の上だろう…それよりも暁の撃った魚雷で敵巡洋艦はどうなった?」
「恐らく機関部をやったと思いたいところです」
ああ、比叡さんと雷が見える。
「航行、操舵ともに不能!」
ごめんね。もう火が消えないし、私の船体は蜂の巣も同然のただの残骸……動くことも出来やしないわ。
戦場を漂流していく私。みんながどんどん離れていく……
「……味方の武運を祈る」
燃える私の船体に敵のさらなる砲弾が直撃した。
「ああ沈む……」
ごめんなさい、こんなところで沈んじゃ助けも来ないわよね……
混戦の極みの中、私───暁は沈んでいく。海へ落とされ泳ぎ出す船員たち……この状況で何人が助かるのだろうか。
……妹たちの轟沈を見ずにすんだことが唯一の救いね。
みんな、暁の分も頑張ってね……
1942年11月13日午前2時頃、暁型駆逐艦一番艦暁───轟沈。
ーーー数年前
目を開けるとそこは見たことのない場所だった。どこかの倉庫だろうか?いや、港と海ばかりしか見たことのない私だから知っている場所が少ないだけかも。でも、はっきりと分かったことは……
(どうして私が陸上に?)
見ればなんと自分の体が人間の体になっているではないか。私は混乱した。私は誰だっけ?暁型駆逐艦一番艦の暁だ。
(何で船の私が人間に……?)
『起きました?』
「わっ!?」
気が付くと足下に小人がいた。
「あなたは……?」
『私は建造されたばかりの艦娘に事情を説明する係の妖精です。結構流暢に喋れるので』
「よ、妖精?」
『では今からあなたが置かれている状況を説明しますね』
そう言って妖精は私の存在と日本の今の現状について教えてくれた。海に現れた深海棲艦とかいう怪物に対抗するための兵器として造られた艦娘という存在の一つが私らしい。
「私の他にも……例えば妹たちも同じように?」
『ええ、いますよ。多少の個体差はありますが同じ艦娘が一人どころか複数人います』
「えっ?」
『そういうものです』
「同じ艦娘が複数人……じゃあ私も一人目の私じゃないの?」
『はい。ですが、完全に同一人物というわけではないです。何かしらの違いを持つので』
それでもゾッとした。同時に少し寂しさを感じた。人間の体を得てなお、やはり自分は量産される存在ーーー兵器なのだと。
「人間の体を得て少しは期待したんだけどなあ……やっぱり船が人間と触れあってみたいなんて考えたらおかしいわよね」
『……』
いくらでも同じものを量産出来る兵器を丁寧に扱う物好きはなかなかいないだろう。
「でも、別れた姉妹に会えるなら悪くないのかもね」
『あなたが良い指揮官に巡り会えることを心より祈っています』
「ええ、ありがとね」
さて、いきなり実践投入されるのかと思いきや、私が連れていかれたのは海軍の士官学校だった。艦娘たちを率いる未来の提督たちの教育のために生徒1人と艦娘2人でチームを組み、授業内で実際に指揮の訓練や演習を行ったりするらしい。大勢の艦娘が広間に集められ、順番に来た生徒たちに選ばれてチームを組んでいった。やはり戦艦や空母、重巡洋艦が真っ先に選ばれていくので軽巡洋艦と駆逐艦の艦娘はみんな落ち込んでいた。こうもハッキリされると悲しいものだ。
(私だって艦時代は頑張ったのに……)
「やっぱり単純な強さだけ見たら駆逐艦なんて欲しがらないわよね……」
「おい、そこの君」
「え?」
突然声かけられた。声の主は黒髪黒目のまだどことなく幼さの残る青年だった。
「あれ?聞こえてるか?君とチームを組みたいんだが」
「え……私!?」
予想外の出来事に困惑する。まだ重巡洋艦や空母やましてや軽巡洋艦が残っているのに……よりによって駆逐艦の私に最初に声をかけるとはどういうことだろう。無知なのか?
「あの、声をかける相手を間違えてるわよ。私は駆逐艦よ?空母や重巡、軽巡はあちらにいる人たちよ」
「ん?艦種が何か関係あるのか?そっちから選ばないとダメなのか?」
不思議そうな顔をされた。
「そ、そういうわけじゃないけど私弱いわよ?あっちの人たちの方が強い人が多いし……」
「そうか?艦種の説明を受けたが俺は駆逐艦が魅力的に感じたがな。凡庸性が高いし動きが速く、コストも低い。それに夜戦では一番期待させてくれるらしいからな」
「装甲は紙だし夜戦の前に被弾したら終わりよ?」
「そこを戦略でなんとかするのが俺の仕事だろうが。どうだ、一緒にチームを組まないか?お前を見てビビっと感じるものがあったんだ。他の艦娘と比べて落ち着いているようにも見えるしな」
「諦めているだけよ……本当に私でいいの?」
「そう言ってるんだがな」
彼はからかっているようには見えない。
「し、仕方ないわね」
本気で自分を選んでくれたんだと分かり少し舞い上がってしまう。
「嬉しそうだな」
「そ、そんな事ないわ!私を選んでくれることに感謝はしてるけど!」
「ははは、その顔じゃ説得力ねえよ。名前は何ていうんだ?」
「そんな顔してな……名前?」
「ああ」
私は出来るだけ綺麗な姿勢をとり、彼に名乗る。
「暁型駆逐艦一番艦の暁よ。一人前のレディーとして扱ってよね!」
夜戦が好きだ。そう、私は夜戦が好きだ。
「はー夜戦夜戦……」
この体になった時、真っ先に考えたのは夜戦の事だった。早く夜戦がしたい。体があの刺激を求めてやまない。
「でも全然こっちに生徒さん来ないんだよねー」
生徒たちに選ばれていく戦艦たちを見ながら私は小さく溜め息を吐く。
「軽巡洋艦の何が悪いのさ、水雷戦隊の良さが分からないのかな……」
これでは夜戦が出来ない。私にとっては死活問題だ。
「……ん?」
〈一人前のレディーとして扱ってよね!
声の方を見れば、生徒の1人が駆逐艦の少女に話しかけていた。
「最初に駆逐艦に声をかけるなんて変わってるなあ……」
しかもどうやらチームを組んだらしい。なかなかの変わり者だ。
「……いや待てよ?」
自分は変わり者だ。いつも夜戦の事ばかり考えているから周りの艦娘からは引かれている。
「変わり者同士仲良くなれそうな気が……よし」
その生徒のもとへと歩き出す。後ろで教官が何か言っているがどうでもいい。彼らがこちらに気付く。彼らの前に立った私は大きな声で言った。
「川内参上!夜戦なら任せてよね!」
ポカンとする紺の軍帽と紺色に近い黒髪のセーラー服を着た駆逐艦の少女。一方黒髪の生徒の方は───
「へえ、お前夜戦が得意なのか。ちょうどいい、お前みたいなやつを探してたんだ。一緒に組まないか?」
あまりにも簡単に受け入れられてしまったので拍子抜けしてしまった。
「言っとくけど私はかなりの夜戦バカだよ?」
「俺はちょうど暁と夜戦メインの戦いを考えていてな、お前みたいなのは大歓迎なんだ。面白そうだしな」
「戦艦とかとチームを組まなくて本当にいいの?」
「戦艦も魚雷くらったら沈むだろ?」
「あはっ!やっぱりあなた最高だよ。これからよろしくね!」
「おう。さて2人とも、俺は飯野勇樹だ。これからチームメンバーとしてよろしく頼む」
「「はいっ!!」」
「おい、あれ見ろよ」
「ん?」
「駆逐艦だよなあれ。もう戦艦とかは残ってないのか?」
「いや、全然残ってるぜ」
「バカなのかアイツ」
「いや、選ぶ順番は入試の成績順だからただのロリコンだったりして……」
「真っ先に駆逐艦と軽巡洋艦とは……素人だな。まるで分かっていない」
飯野に連れられて歩く私たちを見て囁かれる言葉の数々……私は再び不安を感じ始めていた。
「……暁、絶対にギャフンと言わせてやるぞ。まあ俺はバカ呼ばわりされても気にしないがな」
「飯野……」
「私が夜戦で沈めてあげるよ」
「今は好きに言わせとけ、いずれお前たちを笑う者はいなくなる」
そう言う彼らの顔は冗談を言っているようには見えず、私は少し不安が取り除かれたのを感じた。
「頑張ろうな」ナデナデ
「うん」ナデラレナデラレ
ーーーーーー
飯野とチームを組んだ私たちはそれから4ヶ月ほど訓練や演習を繰り返していた。でも……
「そこまで!勝者は防衛サイド!」
「……暁、気にしないで。たまたまだから」
連日のように負け続けた私たち。飯野が励ましてくれたから耐えてこれたけどこの時ばかりは違った。
「…っ!慰めなんていらないわよ!」
私に声をかけてきたのは今回の対戦相手だった暁型駆逐艦二番艦の響だった。
私は同じ駆逐艦の妹にすら負けたのだ……
「暁姉さん……」
「……っ!」
どうしようもなく惨めで悔しくて情けなくて私は走って演習場を飛び出した。飯野と川内さんの引き止める声も無視して走り続けた。泣き顔を見られるのが嫌だった。
「……ここにいたのか」
「……」
「あちこち探し回ったが結局自室にいたとは盲点だった」
「……何しに来たのよ」
「そろそろ頃合いだと思ってな」
私の自室にやって来た彼はいきなりそんな事を言い出した。
「悔しいか?自分の弱さがよく分かったか?」
「バカにしに来たの?」
「違う」
彼はじっと私の目を見つめると満足したように頷いた。
「やっぱりバカに───」
「謝りに来た」
「え?」
「今まで俺はお前たちに俺が正しいと思う指揮をあえてとらなかった。それが必要だったからだ」
「……どういうこと?手を抜いてたっていうの?……そんなに負ける私たちを見て面白かったの!?」
「そんなわけはない。だが、もうやられっぱなしの日々は終わりだ」
「……」
「突然で悪いが俺が何故提督になりたいか分かるか?」
「海を守るため?」
「一番の理由はお前たちのためだよ」
「え……」
予想外の答えに私は戸惑った。
「俺は艦娘たちを兵器として見ない。いつか艦娘たちに今の日本と広い世界を見せ、体感してもらうのが今の俺の夢だ。出来ればもっと人とも触れあわせてやりたい」
「ねえ、それであなたは幸せなの?どこにもそれが見当たらないんだけど」
「あるさ、俺のもともとの夢は教師だ。そんな俺にとって艦娘は導くべき可愛い生徒たちも同然だ。これほどやりがいのあるものはなかなかない」
「おかしな人ね」
「何とでも言え」
「で?それが今までの指揮とどうつながるの?」
「俺は1人も自分の艦娘を沈めたくない」
「で?」
「慢心はもう無くなっただろ?」
「慢心なんて……」
「自覚は無くともあったはずだ。妹だから勝てて当然だと思っていたのもそうだな。お前はプライドの高い艦娘だ」
「そ、それは……」
私は彼の言葉に反論出来なかった。
「どんなに強い奴でも慢心していれば簡単に命を落とす。それが戦場だ。だから俺はお前たちにまず自分の弱さをいやというほど自覚させることにした。そういう奴ほど戦場で生き残ることが出来るからだ」
ふと、話している彼の目を見て気付く。
「あなたの目……少なからず戦場を知っている人の目ね。もしかしてこの戦いで誰かの死を見たの?」
「祖母と両親だ」
「……ごめんなさい。聞くべき事じゃなかったわ」
「かまわない。……もう慢心はないな?」
「そんなものもう無くなってるわよ……」
「よし、ならばこれからは本気で指揮をとる」
「でも本当に勝てるようになるの?」
「この4ヶ月、俺もただ戦いを眺めていたわけじゃない。この学校の生徒たちの戦術パターンはもう大体把握した。これを見てみろ」スッ
彼が懐から出した大量のメモの束の内容を見て私は愕然とした。
「な、何これ……」
そこに書かれていたのはこの学校の生徒一人一人のこれまでとった戦術とその結果をパターン化したものだった。確率まで書いてある。そして……
(対抗策もきちんと書いてあるし何より……)
拙いがどれも彼の指揮官としての才を感じさせるような内容だった。ただし、少しでも慢心すれば失敗するようなギリギリの作戦ばかりだが……これを見れば分かる。彼はーーー
(天才だわ……)
私はすごい人に選ばれたのかもしれない。
「すごい……」
と、そこで私の耳が遠くで誰かの足音をとらえた。少し待つと自室の扉が開く。
「おーい、話は終わった?」
川内さんが部屋にやって来た。
「……夜戦バカも慢心はもうないな?」
「な、何の話?」
「お前は暁以上に面倒だ。話があるからこっちへ来い」
「……何か怖いんだけど」
「これから俺たちの逆襲が始まるという話だ」
そう言って彼がニヤリと笑う。2人を見ながら私はこれから本気を出すという彼の言葉について考えながら静かに闘志を燃やし始めていた。
暁は可愛い(確信)
この作品を書いているのにもかかわらず「沖ノ島」を書いた後、変なテンションで別の作品を書いてしまいました(笑)。あの娘が可愛いのが悪い。どっちも駄文ですけどね……