「我ら佐世保艦隊は貴艦隊に助太刀する!!」
壊滅寸前の鎮守府のもとへ突如として現れた3人の艦娘はそう言った。空からやって来たことは驚きだが、たった3人しかいないのに艦隊とはどういうことだろうか?
(後から残りのメンバーが来るということかしら……)
いや、それよりも彼女たちはこう言ったのだ。「貴艦隊に助太刀する」と。
「援軍……」
とにかく助けが必要なこの状況でこの言葉は何よりも嬉しい。
「佐世保……?」
「……あそこは以前壊滅したと聞いてそれっきりよ?」
「そ、そんな鎮守府に援軍を寄越す余裕があるの?新人がここに来たってこの状況はどうにもならないわよ!?」
「援軍って……みんな駆逐艦じゃない……強いのはなんとなく分かるけど」
だがどうやら他の艦娘たちはまだ絶望した顔のままで、そんな艦娘たちに声をかけたのは川内さんだった。
「あんたたちは彼女たちの言葉が聞こえなかったの?」
「助太刀って、駆逐艦3人の援軍が何になるのよ……」
「そこじゃないよ。重要なのは彼女たちが言った自身の2つ名だよ」
「それがどうかしたんですか?」
「……そうか、あんたたちは産まれて1年も経ってない娘が多いから知らないのか」
「イガアアアアアーーーッッ!!」
《───っっ!!!!》
再び戦場に緊張が走る。我に返った一体の敵駆逐艦が砲撃を例の3人に向けて放ったのだ。
「危な───!!」
誰かが叫ぶが、私は落ち着いていた。金髪少女───皐月と名乗った彼女のことは知らないが、後の2人は存在だけとはいえ知っているからだ。そして彼女たちの司令官が誰なのかも……
「勇兄の艦娘たち……」
迫る砲弾に対して3人は避けるような動きを見せなかった。いつの間にか皐月が夕立と時雨の前に出るように低く構えて立ち、飛来する砲弾を睨んでいた。
ギイインッ!!
そんな甲高い音とともに皐月が砲弾を居合い斬りで叩き斬った。
《え……!?》
周囲の艦娘は目の前で起こったことが理解出来ず唖然とする。
「ふう、掴みはバッチリかな?」
「これで深海棲艦たちも少しは僕たちを無視出来ない脅威と認識するんじゃないかな」
「無視するなら沈めるっぽい……無視しなくてもすぐに沈めるっぽい」
気付くと周囲の深海棲艦たちの注意はどれも3人に向けられていた。それを見て皐月が不敵に笑う。
「敵意が集中したね……ふふ、ボクたちと殺り合う気なの?可愛いねっ!!」
それが戦闘再開の合図となり3人はそれぞれ飯野に言われた役割を果たすべく動き出した。
ーーーーーー
ーーー数時間前
『飯野っ!!お前さんが言っておった鎮守府から救難信号じゃ!!』
「本当に悪い予感はバカに出来ん!」
元帥からの連絡を受けた俺は目の前に並んだ皐月たち第一艦隊を見た。
「聞いての通りとある鎮守府が深海棲艦の大艦隊に襲われ壊滅寸前だ。そこで、一刻も早く現場へ向かうために前から考えていたある方法でまず皐月たちを現場に運ぶ」
「行くんじゃなくて運ぶ?」
「ああ、お前たちを飛龍の艦載機にワイヤーで吊して運ぶんだ。海路より空路の方が圧倒的に早い」
「「「「「「はい!?」」」」」」
「紫電改二部隊を一つ道中の護衛とし、烈風部隊を三つ皐月たち駆逐艦の運搬にあてる。頼んだぞ飛龍!!」
「ちょっ!?私の責任超重いじゃないですか!?」
「お前なら出来る!!失敗したら2週間酒は禁止だ」
「職権乱用ですよ!!」
「「それ以前に駆逐艦のことを考えて!!」」
「夕立たち空を飛べるっぽい?」
「ワオ……」
「え……」
「頼む!普通に向かっては間に合わないんだ!!」
無茶な事を言っているのは分かるが、俺は必死に頭を下げて頼んだ。
「「「「「「……」」」」」」
「仕方ないですね……まあ、ちょっと楽しそうですしやってあげますよ」
「飛龍、楽しんじゃダメデス」
「皆さんの無事を榛名は祈っています……」
「「うう……仕方ないか」」
「夕立は楽しみっぽい!空から登場するのはかっこいいっぽい!!」
「「……」」
「時雨は負傷した艦娘の撤退を支援、皐月と夕立は周囲の敵を引きつける係だ。飛龍は途中まで航行して皐月たちを運び終えた艦載機を回収後、航空部隊を編成し直してから戦闘に参加だ。護衛の紫電部隊はそのまま制空権争いに参加させてもかまわん。金剛と榛名は今すぐ海路で目的地へ向かってもらう。以上だ……質問はないな?では、出撃だ!!」
何とか一応は全員に納得してもらうことが出来たので、悲鳴をあげながら飛んでいく皐月と時雨、歓声をあげて飛んでいった夕立を俺は見送ったのだった。
「皐月たちはどうやら間に合ったようだな……」
執務室にてひとまず安堵する。
「良かったのです……」
「いや、まだ安心するのは早い。1人でも艦娘を沈められたら負けだ」
「その優しさは嬉しいのですがこれは戦争なのです」
どこか覚悟したような表情で電が言う。
「分かってるさ、だけど俺は欲張りな人間なんだ……金剛!!」
『ハイ!』
無線で金剛へと命令を伝える。
「誰も沈ませずに勝利しろ」
『Of course』
ーーーーーー
向かった先の鎮守府はかなりマズい状態だった。周囲にいるのは中破以上の艦娘ばかりで、中でも大破の艦娘が多すぎる。鎮守府もボロボロで攻め落とされる寸前となっており、よくここまで耐えたものだと思う。なんとか無事に現場にやって来たボクは敵の注意を引くべく、大勢の目の前で砲弾斬りを公開した。案の定、敵はボクたちに敵意を向け始めた。敵意はボクと先程からプレッシャーを放っている夕立に向けられたものがほとんどだ。
(これでいい……)
無事に注意を引き付けたボクたちはそれぞれの役割を果たすべく動き出す。
「そこの人!大破している艦娘をそちらの鎮守府へ撤退させたいから手伝ってくれないかい?」
「えっ?私?」
「見たところある程度の力量を持っているようだし、頼みたいんだ」
「そいつは光栄だね。了解、それと私は川内だよ」
「じゃあ僕が敵の攻撃を防ぐから川内さんは大破した艦娘をお願いするよ!」
「分かった!……攻撃を防ぐ?」
大破した艦娘たちのもとへ寄り肩を貸す川内は時雨の言葉に疑問を持つ。そうこうしているうちに敵艦の砲撃が川内たちを狙って放たれた。
(やばっ!ちょっと数が多すぎる!いくら〈大天使〉でもこれをどうするの!?)
恐怖する川内の前に立つ時雨は必死でその砲弾の数と角度、向かってくる順番を瞬時に把握する。
(数が多い!けど……)
「……やってやるさ」
時雨は
(でも、この状況ではこれほど役に立つ技術はない!僕にしか出来ないことなんだ!)
思考を加速させ、時雨の中で周囲の時間の流れが遅くなる。砲弾一つ一つを逃さず視界に収め、迎撃方法を選択していく。
「落ちろ」
砲撃。2つの主砲から絶え間なく放たれる砲弾が激しい金属同士の衝突音をあげながら飛来する敵の砲弾とぶつかり連鎖的に爆発を起こし、爆炎によるカーテンをつくる。
(連射するごとに精度が少しずつ落ちてる!やっぱり反動を制御しきれてない!)
「早く行って!」
「う、うん!」
慌てて去っていく川内と大破した艦娘たちをチラリと見た後、時雨は前を見据える。煙が風に流されて晴れていき、目の前に並ぶ深海棲艦たちの姿が再び現れる。こちらへと向けられた無数の主砲を見て、彼女は冷や汗を流す。
(……)
しかし、彼女の目に諦めの色はなかった。
「いくらでも撃ってこい。全部僕が落としてやるさ」
「ぽいっ!」
撃ち出された無数の魚雷を海面を蹴って移動することで、夕立は回避する。彼女の前に並ぶのは赤いオーラを纏い、顔の上半分を隠す仮面を被った深海棲艦特有の白い肌を持つ女性たちだ。だが、上半身は人型であるものの、その下半身は完全に機械の塊となっている。全体的にサイボーグのような姿をしたその女性の正体は、チ級と呼称される敵重雷装巡洋艦である。
(こいつら魚雷ばっかり積んでいるから面倒くさいっぽい……)
雷巡の特徴はその魚雷の装填数だ。死の槍を大量に放つ彼女たちは、特に夜戦で厄介な相手だ。出来れば昼戦のうちに撃破したい敵艦の一つである。
(それに……時雨の方は砲弾を捌くので手一杯みたいだし、あっちへ魚雷を撃たれるとマズいっぽい)
普段ぽいぽい言ってみんなからマスコットのように可愛がられている夕立だが、戦闘中の彼女の頭は冷静に戦況を判断する一面もしっかり持っているのである。
「……突撃するっぽい」
だがやはり彼女は夕立なのだ。考えても仕方ないと彼女は判断し、太ももに装着した魚雷発射管から一部が真っ赤に塗装された魚雷を、一本だけ引き抜く。
「……」
夕立によって前方に向かって投げられたその時限式の魚雷は彼女とチ級たちの間で爆発し、即席の目くらましとなる。
《……グガ?》
彼女を見失ったチ級たちは遅れていつの間にか、側面に出現した夕立を発見する。すぐに左手についた砲で彼女を撃つが、彼女はこれを再び海面を蹴って回避、そのまま海面に左手を突いてきれいな前方宙返りでチ級たちの目の前へとやって来た。目の前で披露されたアクロバットにチ級たちが僅かに動揺する。着地後すぐに動き出した彼女は一体のチ級へと肉薄し、胸元に主砲を突きつける。
「さよなら」
超至近距離から撃たれたチ級が上半身を吹き飛ばされ、真っ赤に燃える。夕立はすでに次の目標へと向かっていた。
《グガアアアアアッッ!!》
チ級たちの叫びにも動揺せず、夕立は駆ける。魚雷を周囲へとバラまきながら手頃な距離のチ級を砲撃する。チ級たちの統率がたった1人の駆逐艦によって、乱れていく。
「…………ぽい?」
気がつくと立っていたのは夕立だけだった。見回せば彼女の周囲には、チ級だった残骸が真っ赤に燃えながら漂っていた。
「もう終わりっぽい?」
直後、夕立のすぐ側に砲弾が落ちる。視線を砲撃してきた者に向けると、そこにいたのはビキニ水着のような露出度の高い服装にショートヘア、両手に大きな主砲を構えた少女たちと、目の部分だけ穴の開いた仮面と黒いぼろ切れを纏い、歯をあしらったような艤装の中に収まった少女たちがいた。それぞれリ級、ヘ級と呼称される敵の重巡洋艦と軽巡洋艦である。
(あははっ……!)
夕立の口が獰猛な笑みを作る。次弾を装填しながら彼女は駆け出した。
「あなたたちも夕立の色に染めてあげる。赤く、紅く、緋く!!」
時雨たちの様子を少し見ながらボクは敵の艦種と数を確認していた。
「おっと!」
一旦考えることを止め、慌てて飛んできた砲弾を避ける。先程からこんな事を繰り返している。
(うわぁ、ボクめちゃくちゃ狙われてるじゃん)
確認したところ、敵は雷巡チ級を中心した艦隊、重巡リ級を中心とした艦隊、水雷戦隊が3艦隊、2つの主力艦隊と思われるものからなる大艦隊である。とてもじゃないが鎮守府一つでなんとか出来るものではない。
「多すぎるよ……」
だが、やるしかないとボクは自身を奮い立たせる。敵の主力艦隊の一つは戦艦ル級3体と重巡リ級、軽巡ヘ級、駆逐ニ級各一体ずつからなる艦隊で、どれもエリート級だ。
(もう一つの主力艦隊に厄介なのがいる……)
巨大な口に手足の生えたような見た目のヌ級と呼称される敵軽空母と、そのヌ級に似た大きな帽子のようなものを頭に乗せ、黒いマントを羽織り、ステッキを持った海の魔女のような女性。空母ヲ級と呼称される敵空母であるそれは3体おり、取り巻きとしてヌ級が1体、ヘ級が2体である。空母が多いだけでも厄介なのだが、問題はそこではない。エリート級であるそれらの中に1体だけ黄色いオーラと蒼く輝く瞳を持つヲ級がいた。他の空母たちが黒くシャープな形状の艦載機を飛ばす中、それはただ静かに傍観しているだけだった。
(この外見……話でしか聞いた事がないけどヲ級改flagship!?)
「なんでこんな奴が……」
「ちょっとあなた!」
「え?」
「さ、さっきから敵の真ん前を1人で動き回ってるけれど、正気なの!?」
声をかけてきたのは紺色の髪をもつ軍帽を被ったセーラー服の少女。
「いや、近づかないと敵の編成がよく分からなくて」
「めちゃくちゃ狙われてるのにバカなの!?……うきゃっ!?」
少女の近くに砲弾が落ちる。
「道連れになっちゃったみたいだね」
「もとよりあなたたちにすべてを任せるつもりはないわ!」
どうやらこの娘はまだ闘志が十分にあるらしい。と、そこでボクは彼女が周りの艦娘たちと違い、どことなく手練れのような雰囲気を持っていることに気付いた。この状況でも比較的に冷静でいる事もそうだ。
(もしかして……)
実は出撃の直前で司令官が「暁という艦娘に渡せ」と言って渡してきたある物をボクは持ってきていた。
「キミが暁か……」
「え?」
暁に司令官から渡された物を放り投げる。彼女はそれを受け取った後、驚いたようにこちらを見る。
「これ……」
「渡したからね!」
「あっ!待ちなさいよ……!」
ボクたちの役目は
「本気で仕掛けていかないと被害が大きくなる!」
まず仕掛けるのはル級が旗艦の艦隊の方。
砲弾の装填を確認。
前方へ飛び出す。
戦艦が砲撃。
一閃。
刀で斬り落とす。
側面に回り込んで来たヘ級たち。
これは……逃げ場がない。
前方の戦艦、両側の軽巡、駆逐。
ああもう……
面倒だ!
加速して戦艦たちに突っ込む。
「ルオオッ!?」
まさか突っ込んで来るとは予想出来なかったル級は反応が遅れる。
「せいっ!」
右手で刀を振るうが艤装で弾かれる。
だが、
イメージは夕立。
「ふっ!」
ル級の艤装に手を引っ掛け、続けて踏み台にしてル級の頭上へと飛び上がる。
上からなら防御出来ないはず。
空中で身をひねる。
主砲の標準はル級の顔面。
呆けたように空中のボクを見たル級。
遅い!
「くらえっ!」
砲撃。
悲鳴をあげるル級。
ひとまず1体はしばらくまともに動けないだろう。
着地と同時に魚雷も撃っておく。
「次は……っ!」
しっかりとこちらに狙いを付けた無数の主砲。
たった今攻撃したル級を盾にこれをしのぐ。
「グギャーーーッ!?」
沈むル級。
同時に、
ボムッ
くぐもったような何かの音とともに辺りが煙で覆われる。
何も見えない。
煙幕だろうか?
「こっちよ!」
誰かに手をとられる。
「暁?」
手を引かれるまま、航行する。
「魚雷を用意して」
「う、うん」
言われるまま魚雷の発射準備をする。
「反転したら12時と2時の方向に!残りは任せて!」
「分かった!」
反転と同時に撃つ。
暁も撃ったが、魚雷の進行方向の様子は何も見えなかった。
ただ、灰色の世界の向こうで……
爆発音と深海棲艦の悲鳴だけが聞こえた。
「数が多いわね……それに改flagshipが一体いる。動いていないようだけど」
戦場で戦う紫電改二から情報を受け取り、焦ったように飛龍が言う。
「「改flagship!?」」
「……烈風部隊でそのまま戦えなかったのデスか?」
「皐月たちを運んだ時に負荷をかけた分、燃料が心許ないのよ。まあ、もうすぐ……あ、戻って来た」
烈風部隊を収容し、飛龍は航行部隊を再編成する。
「皐月ちゃんたちは……」
「榛名、少しは彼女たちを信じるデース」
「でもっ!」
「榛名さん、心配はいらないよ」
弓に矢をつがえ、飛龍は空を睨む。
「私の戦友たちは優秀だから……」
矢が放たれ、艦載機へと姿を変える。
「友永隊、頼んだわよ!!」
「……ヲッ!」
飛龍の紫電部隊は圧倒的な数の差がありながらも奮戦していた。だが、やはり戦力というものは「数×数×質」と言われている。次第に数を減らしていく紫電たち……
突然現れた艦娘たちというイレギュラーがあったものの、空母が残っている限り、鎮守府襲撃は上手くいくはずだ……ヲ級たちはそう考えていた。
「「「「!!」」」」
ヲ級たちが艦隊に接近してくる存在に気付く。
赤い日の丸のペイントがなされた緑の機体。
腹に抱えた魚雷から艦攻だと分かる。
その機体たちが持つのは飛龍のもとで戦ったかつての空の英雄たちの魂。
敵の砲火をくぐり抜け、狙うは敵空母ただ一つ!
友永隊が戦場へやって来る。
「……」
ヲ級改flagshipがそれに視線を向ける。
……あれは普通の艦載機じゃない。
彼女はそう判断した。
「ヲヲッ!」
友永隊に迫る敵艦戦、護衛も付いていない友永隊。制空権のない状態で艦攻を飛ばすなど自殺行為だ。
大量の敵艦戦に迎えられてなお、友永隊は避けるそぶりを見せない。敵艦戦の機銃が火を噴いた瞬間、突然友永隊の動きが変わる。
まるで生き物のように一機一機が独立して動く。
敵の機銃をかわし、お返しとばかりに自身の機銃でやり返す。
次々と敵艦戦の中を突き抜けてヲ級たちに迫る。
いつの間にかきっちりと揃えられた編隊。
そして、
死の槍が海中を進んでいく……
「「「「ーーーっ!?」」」」
次々と敵空母たちに炸裂する魚雷。爆音と水柱をあげてヲ級たちが沈んでいく。
「ヲ……」
ただ1人、ヲ級改flagshipの彼女だけは他のヲ級たちが盾となったおかげで無事だった。
何だこの艦載機は!?
彼女の頭はそれでいっぱいだった。
ヲ級たちが沈んだことで、敵艦載機があちこちで糸が切れた人形のように動きを止め、落ち始めた。
現れた謎の3隻といい、この艦載機といい、明らかに脅威だ。これでは鎮守府が落とせない!
彼女の頭部にある艤装から大量の白い顔のような球体の艦載機が飛び立ち、友永隊に襲いかかった。
「ああああっ!!やっぱりタコヤキが来やがったあああっっ!!」
「ど、どうしたのですか飛龍さん!?」
「ああ、アレデスか……」
「アイツらはきちんと有効部位に当てないと機銃が弾かれるくらい、装甲が硬いから嫌い!だいたい何で艦載機が球体なのよ!?意味分かんないわよ!!しかもやたらと攻撃力が高いし!!」
「落ち着くデス飛龍」
「やってやらあ!!ゆけ烈風部隊!!」
「口調を直すデス」
補給の終わった烈風部隊が飛んでゆく。
「どうなったの……?」
暁の放ったスモークグレネードによる煙幕が晴れていく。
「手応えはあったわよ」
まず目に入ったのは砲のひしゃげた中破状態のル級。続けて大破しているヘ級とニ級。どうやら魚雷は仕事をきちんと果たしたらしい。
「よく居場所が分かったね」
「耳でだいたいの位置が分かるのよ」
そう言って暁が得意気に笑った。
「助かったよ」
「あなたって本当にめちゃくちゃな戦い方をするのね。焦ったわよ」
「この戦い方を教えた司令官に言ってよ」
「好き好んでやっているように見えるけど」
「まあね。さて、とどめを……」
「ギャッ!?」
「あっ」
ル級たちに次々と砲弾が着弾する。遅れて聞き覚えのある発砲音。
「金剛さんたちだ!!」
「その人って……」
砲弾の飛んできた方向を見れば、金剛さんたち3人の姿が見えた。
「今のでほとんど減りましたね」
「ほとんど敵が残ってないネー。夕立あたりが暴れたに違いないデス。とりあえず時雨の所から片付けマス!」
「あああっ!?また友永隊がタコヤキに喰われた!!」
そこからは一方的な殲滅戦だった。金剛さんが突っ込み、敵を混乱させ、離れた場所から榛名さんが仕留める。攻撃力の高い戦艦や空母、雷巡のほとんどを失った敵艦隊に抗う力はなかった。何故か飛龍さんは若干泣いていた。
「!」
(あのヲ級改flagshipがいない!)
今回の深海棲艦の大艦隊の指揮をとっていたのでは、と思われるヲ級の姿はもう何処にもなかった。
「あのヲ級改flagshipなら、金剛さんたちが来てすぐに撤退していったわよ」
つまり、鎮守府の襲撃を断念したということだろう。
「はー……もう疲れたよ」
安心した途端、足の力が抜けて座り込んでしまう。
「ありがとう」
「……どういたしまして」
「暁ー!」
「川内さん!」
こちらに向かってきたのは、小さく両側で髪を結んだ黒髪の、全体的に赤い忍者のような格好の艦娘。白いマフラーのようなものを口元まで巻いているため、ますます忍者っぽい人だ。
「えーと、その、皐月だっけ?あんたたちのおかげで轟沈した艦娘は0だよ。提督が怪我をしたけど命に別状はない。鎮守府を代表してお礼を言うわ、ありがとう……」
「お礼なら司令官に言ってね」
「それもそうだけど、まずはあんたたちに言わないと」
「ええ、勇兄には後で言うわ」
勇兄とは誰のことだろうか?
「勇兄?」
「あなたの司令官は飯野勇樹という人でしょう?」
「うん……もしかして司令官の知り合い?」
「ええ、士官学校時代の付き合いなの」
(ああ、なるほど)
話している最中に通信が入る。
『皐月、これから俺もそちらに向かう。それまでそちらの鎮守府の修復を手伝ってやってくれ』
「大丈夫なの?」
『金剛たちを今から言うポイントまで向かわせてくれ。護衛を頼みたい』
「了解」
「ねえ、今話してる相手って勇兄?」
『この声……暁か?』
「私もいるよー」
『なんと言えばいいのか……久しぶりだな』
「ええ……」
「久しぶりー!……にしても勇兄の艦娘たちはすごいね。なんで横須賀第二支部の四天王がいるのさ?」
『それは……』
「勇兄が彼女たちの本当の司令官だからに決まってるじゃない」
「えっ」
『なっ!?』
「あれ?司令官の秘密ってボクたちしか知らないんじゃ……」
『そのはずなんだが……』
「ふふん、レディーを嘗めないでよね」
「私初耳なんだけど」
『とにかく、一度切る。そちらで会おう』
ーーーーーー
「この度は我が鎮守府の救援に駆けつけてくれて感謝している。まさかお前が来るとは思わなかったよ」
無事に襲撃を受けた鎮守府へとやって来た俺はそこの提督と対面した。眼鏡をかけた知性的な印象を与える顔の細い男で、俺の一つ上の先輩だ。右腕に大きなギプスをしており、頭にも包帯が巻かれている。
「俺を知っているのですか?」
「士官学校でお前を知らん奴なんていないだろう。ましてや俺の一つ下の後輩だ」
「はあ……」
「そいつが横須賀第二支部の四天王を率いていると聞いた時は、最強のタッグが組まれたなあと感じたよ」
「……」
「暁たちに会いたいか?」
「はい」
「やっぱりお前も寂しく思っていたようだな」
「え?」
「俺がこの鎮守府に配属されてすぐに、あの2人が補助として送られて来たんだがな、正直俺の手には余る」
「……」
「俺はお前たちの士官学校での戦いを何度も見ている。だからこの2人が送られて来た時、最初は喜んださ。なんていい艦娘が送られて来たんだってね……だが、この2人を指揮しているとずっと感じる事があった。」
「感じる事?」
「俺はまったくこの2人の力を引き出せてないってね。俺の指揮のレベルが彼女たちに合ってないんだ。俺にはお前のように彼女たちを指揮する事が出来ん」
そう言って彼は申し訳なさそうに笑った。
「別にそんな事は……」
「本当の事だ。それに彼女たちの心は常にお前のもとにある。時々寂しそうに呟いているのをこの一年、何度も聞いてきた」
「……」
「今回の襲撃でこの鎮守府はしばらく活動出来なくなる。俺はお礼として2人をお前の鎮守府に異動させるつもりだ」
「えっ!?」
「俺が良いと言っているんだ。2人にこれ以上寂しい思いをさせるな!」
そう言う彼は真剣な表情で、それが暁たちの事をきちんと考えての言葉だとすぐに分かった。
「……ありがとうございます」
「遅れたが俺は柳谷光一だ。階級は中佐。提督同士、これからもお互い助け合っていこう」
「はいっ!」
「勇兄遅いわね……何を話しているのかしら」
「嬉しいのは分かるけど落ち着いたら?」
「わ、私は落ち着いているわ!」
勇兄とここの司令官の話がだいぶ長い。比較的被害の少なかった一室であるこの部屋で待つように言われたが、いつになったら勇兄が来てくれるのだろうか?
「しかし、勇兄の艦隊のメンバーはヤバい人ばかりだよねー。少し…いや、かなりびっくりしたよ」
何でもなさそうに話す川内さんだけど先程から視線が扉へ行ったり来たりを繰り返している。
「勇兄の艦娘だもの、当たり前よ」
「それだと私たちも当てはまるんじゃ……どうしたの?」
足音が聞こえて来た。この音は勇兄の足音に違いない!
「来たみたい」
少しして扉が開き、懐かしい彼が姿を現す。
「久しぶりだな2人とも……」
「久しぶりー」
我慢していたはずなのに、自然と体が動いていた。
「うおっ!?」
彼の体に抱き付いて彼の体温を感じる。
「……」ギュウ
「あ、暁……?どうしたんだ?」
「勇兄、親しい人と離れて一年っていうのは、その人からすればかなり長く感じる時間なんだよ?」
「一年……か」
「暁は私が思っていた以上に勇兄になついていたみたいでね……ずっと寂しそうにしてたんだ」
「手紙くらい送ればよかったな……」
「ホント、勇兄は女の子の気持ちが分かってないねー」
「うぐ……」
川内さんがやれやれと首を振り、勇兄が気まずそうな顔をする。
「寂しかった……」
「すまん」
「いいの。どうせ私のワガママだし……レディーだもの、我慢出来るわ」ギュッ
「言動が一致してないんだが」
「しょうがないじゃない……勇兄にまた会えたんだもん」
「ごめんな。レディを待たせるのはよくないよな」
「ホントその通りだね」
「今度は一緒に来ないか?」
「「えっ?」」
突然の勇兄からの提案にびっくりした。
「ここの提督がな、とてもいい人で俺にお前たちを連れて行けと言ってくれたんだ」
「柳谷提督が?本当に?」
「ああ。自分にはお前たちが手に余るから今回のお礼として佐世保に異動させるそうだ」
「私たち手に余るなんてそんな事は……」
「遠慮するな。お前たちはハッキリ言って、俺の率いる佐世保第一艦隊のメンバーに引けをとらない艦娘さ」
「……足を引っ張るわよ?」
「お前たちを育てたのは誰だと思ってんだ。今の佐世保のメンバーを育てたのも俺なんだぞ?お前たちが遅れをとるわけがないだろう。俺はお前たちをすでに認めているんだからな」
「勇兄にそう言ってもらえると嬉しいもんだねえ」
「また、勇兄と一緒に……?」
「ああ、一緒に戦おう。また俺がお前たちを導いてやる……佐世保には色んな艦娘がいるから、1年前とはかなり変わった毎日になるだろうがな」
「勇兄、指輪してるもんね」
「えっ!?」
川内さんがさりげなく呟いた一言に驚き、慌てて勇兄の左手を見るとそこには銀色のリングがあった。
「ケッコンしたんだ……」
「ま、まあな」
「……ねえ知ってる勇兄?暁の練度はもう99なのよ?」
「そうなのか…………えっ!?いくつだって!?」
私は驚く勇兄を見てくすりと笑う。
「士官学校では練度なんて測ったことないからねー。まあ、練度は愛情を表すとか一部では言われているし、暁のそれは分からなくはないね。戦ってばっかりだったもん」
「そ、そうか……ちなみに川内は?」
「90ちょい」
「2人ともとんでもない戦力じゃないか!柳谷提督からはそんな事聞いてないぞ!?」
「1人で特訓もしてたもの」
「へ、へえ……」
「ねえ……暁も指輪が欲しいわ」ギュウ
抱き付いたまま彼の顔を見上げるようにして言う。
雑誌で男の人はこういう女の子の上目遣いに弱いって見た事があったからそれを意識してみた。
「う、ぐ……」
どうやらかなり効いたらしい。私にも女の魅力があるってことね。
「ふふふ……」
「うわあ……その顔でその仕草は反則だよ暁」
「この暁には勝てん……」
「レディーはちゃんと待てるわ。指輪はちゃんとお願いね?」
「お、おう。……まあ、とにかく2人とも、これからまたよろしく頼む」
「「はい!!」」
戦闘シーン難しい!
泣きかけの飛龍さんの頭をなでたい。
暁が完全にヒロイン化してる件。