皐月と提督とバーニングラブ×2   作:TS百合好きの名無し

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潜入者

 

 

 

「何?落トセナカッタダト?」

 

 

「ヲ……」

 

 

 蝋燭の灯りしかない薄暗い洞窟の中にその者たちはいた。岩の上に腰掛けたリーダーだと思われる女性に報告をしているのは1体のヲ級。黄色のオーラに蒼く輝く瞳……つい先日、とある鎮守府を襲った深海艦隊を率いていたヲ級である。

 

 

「シカモ増援ガ来ルノガ早カッタ……イヤ、ソレヨリモ増援ハタッタノ6隻トイウノハ本当カ?」

 

 

「ヲッ」

 

 

「ソノ上、6隻ノ内3隻ハ駆逐艦……ドコノ手練レダ?」

 

 

「ヲッヲッヲッ!」

 

 

「佐世保?……アソコハ壊滅サセタハズ……」

 

 

 腕を組んで考え込む女性。

 

 

「ソノ艦娘タチノ容姿ハ覚エテイルカ?」

 

 

「ヲッ」

 

 

 ヲ級の説明を聞く女性の顔が次第に険しくなっていく。

 

 

(実際ニコノ目デ見タコトハナイガ……ソイツラノ噂ハ聞イタコトガアルゾ!特ニアノ……)

 

 

「ヤツガ戻ッタノカ……?」

 

 

「……ヲ?」

 

 

「変ワッタ巫女服ニ栗色ノ長髪ノ艦娘……他ニソノ場ニ現レタ艦娘ノ容姿カラモ恐ラク……」

 

 

「……」

 

 

「撤退シタノハ正解ダナ。ソイツハ、レ級エリートスラモ1人デ倒ス事ガ出来ル化ケ物ダ」

 

 

「ヲッ!?」

 

 

「1年前ホドカラ姿ヲ消シテイタガナ。他ニモ同ジ容姿ノ者ハイルガ、ヤツトハ比ベモノニナラン」

 

 

「……」

 

 

 静かに女性が立ち上がる。

 

 

「イツモノツイデニ少シ調ベテミルカ……」

 

 

 ヲ級に待機を命じ、女性は動き出す…… 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

ーーー海軍本部

 

 

 

「で、これがこの海軍本部にいる全員の顔写真とデータなのか?」

 

 

 事後処理を済ませ、再び海軍本部に戻った俺は元帥が差し出してきたデータに目を通していた。

 

 

「それで全員じゃ」

 

 

「……」

 

 

 俺の目は先ほどから1人の人物の顔写真に留まっている。その人物はどうやらここの情報管理職に就いているようだ。

 

 

「怪しいと思う奴はおるか?」

 

 

「なあ、この写真の彼女はどんな人なんだ?」

 

 

「その人って……」

 

 

 その人物の顔写真を指で指して元帥に聞いた。横に控える皐月も覚えていたようだ。

 

 

「……んー、そうじゃな、いつもこうキリッとしておって、笑顔が可愛い女性じゃよ。何度か話したことがあるが、はきはきとした女性じゃ。ついでにコミュニケーション能力が高い」

 

 

「俺と皐月はこの女性に会ったが、全然聞いた様子と違うぞ?むしろ俺たちを避けているようにも見えた」

 

 

「彼女はそんな者ではないぞ?」

 

 

「軍帽の目深に被った暗い雰囲気の女性だった」

 

 

「確かにそんな感じだったね」

 

 

「どういうことじゃ……?」

 

 

「……それに付け加えると、俺は彼女からかすかに深海棲艦のような気配を感じた。あの頃感じた感覚によく似ている」

 

 

「深海棲艦の気配じゃと!?ここは海軍本部じゃぞ!?」

 

 

「えっ?」

 

 

「元帥、お茶と菓子の用意が出来ま───?」

 

 

 部屋の奥からお盆を持った大和が現れる。

 

 

「大和、元帥を頼む」

 

 

「はい?」

 

 

「元帥、今から確かめて来る」

 

 

「……気をつけろ」

 

 

「ああ」

 

 

 俺は軍刀の柄を握りしめ、部屋をあとにした。

 

 

 

 

 

 

「ふむ、今現在噂されている謎の新人提督……あの時会った青年があの艦隊の指揮をとっているのか」

 

 

(早く潰すべきだが、相手が悪すぎる……)

 

 

「まあいい、今日の分の情報収集は終わりにするとしよう」

 

 

 それからしばらくして情報管理室という部屋から出て来たのは、飯野たちが話していた例の女性だった。

 

 

「……」

 

 

 軍帽を目深に被り、海軍本部の中を歩く女性。本部の入口から外へ出た彼女はどんどん人気のない方向へと向かう。辺りはすっかり暗くなっていた。周囲に家屋が立ち並ぶが、人が全くいない。深海棲艦が現れてから、人々はさらに内地の方へ避難しているからだ。

 

 

「こんにちは。いや、もうこんばんはと言うべきか」

 

 

「……!」

 

 

 後もう少しで目的地というところで目の前にある建物の影から現れたのはあの日会った青年だった。 

 

 

「こんな時間に何処へ行く?ここは危険区域として立ち入り禁止となっている場所だぞ」

 

 

「……」

 

 

「お前は何者だ。何故深海棲艦の気配がする?」

 

 

(コイツ……!)

 

 

 質問しているがすでにいつでも飛びかかれるように構えている青年を見て彼女は警戒レベルを上げる。

 

 

「何か話したらどうだ……っ!?」

 

 

 青年が身を伏せると同時に、彼のすぐ側の家屋が爆発し炎上した。

 

 

「かわしたのか……運のいい奴だ」

 

 

 女性の体が変化を始める。

 

 

 長い黒髪、ネグリジェのようなワンピース。

 

 額に生えた一対の鬼のような角。

 

 胸元にも4本の小さな角が見える。

 

 こちらを睨む真紅の瞳に背後に展開された猛獣のような禍々しい艤装……

 

 その艤装の砲塔から煙が上がっていた。

 

 

「やれやれ…………モウバレル事ニナルトハ」

 

 

「姫……だと!?」

 

 

 驚愕する青年にさらなる砲撃が浴びせられる。走り、周囲の家屋を盾や隠れ蓑にしながら青年は必死に避ける。

 

 

「チョコマカト……!」

 

 

「人間を嘗めるな!」

 

 

 軍刀を抜いて姫へと駆ける青年。それを見て姫は笑う。

 

 

「バカメ!」

 

 

 自分から姿を砲の目の前に晒してくるとは愚かな……と姫が思い、彼に砲撃しようとした瞬間、

 

 

(───ッ!?)

 

 

 鋭い殺気を感じた姫が身をのけ反らせた。姫の首目掛けて振られた刀が空を斬る。

 

 

「ナッ!?」

 

 

 視界の端を横切ったのは2本の金髪のテール。彼女の死角へと密かに近付いた何者かが襲いかかったのだ。

 

 

(提督ノ青年ハ囮カ!)

 

 

「厄介ナ……」

 

 

 姫に接近戦の心得はない。相手が明らかに刃物を使いこなしている以上、地上で戦うのは得策ではない。装甲に自信はあるが、相手が狙っているのは人体における急所だ。

 

 

(分ガ悪イ……引イタ方ガ良サソウダ)

 

 

 周囲に滅茶苦茶な砲撃を行い、それによって生じた煙で身を隠す。

 

 

「けほっ!うわ、何も見えないよ司令官!!」

 

 

「すぐそこは海だ!けほっ!……おそらくそこから逃げるはずだ!」

 

 

「……ごめん、仕留められなかった」

 

 

「気にするな、姫がそんな簡単にやられるわけがない」

 

 

 時間が経ち煙がだんだんと晴れていき、周囲の家屋の残骸が目に入る。当然、姫の姿はなかった。

 

 

(走れば海はすぐそこだ、今から追っても間に合わないだろうな……)

 

 

「……ねえ、アレは何だったの?」

 

 

 刀を鞘に戻し皐月が尋ねる。

 

 

「戦艦棲姫。2年半ほど前の大規模作戦で海軍が取り逃がしたアイアンボトムサウンドの支配者だ。まさか奴に擬態の能力があるなんて……」

 

 

「アイアンボトムサウンド……」

 

 

「日本海軍が多くの犠牲を払った地獄の海域だ。軍艦においても艦娘においても多くがそこで沈んでいる」

 

 

「……」

 

 

「リーダー自らスパイとはとんでもないな。だが、これでもう情報漏洩はしないはずだ」

 

 

(他に擬態出来る奴が現れなければな……)

 

 

 

 

 

 

「戦艦棲姫じゃと!?」

 

 

 飯野が部屋を出て、しばらく時間は経ってからかかってきた電話に出た元帥は彼の報告内容に驚愕する。

 

 

『まさか擬態能力を持つ深海棲艦がいるとは思わなかったよ……てっきり深海棲艦に内通している人間の裏切り者だとばかり』

 

 

「よく生きていられたの」

 

 

『懐刀をいつでも忍ばせているんでな』

 

 

「本当にお前の所は優秀な艦娘が多いのう。やはり提督としての素質があるのじゃな」

 

 

『素質……、艦娘の魂に強く働きかけ、彼女たちの力を引き出すことが出来る度合いだったか?』

 

 

「うむ、提督となる者には大なり小なりその素質がある。その素質が高いほど妖精との意思疎通や艦娘の力を引き出すことが出来る」

 

 

『士官学校でも習ったが、俺はそれが高いのか?』

 

 

「異常なくらいな。海軍としてもお前を失うのは痛いんじゃよ。そう簡単に死なないで欲しいところだ」

 

 

『確かに姫だと分かった時は少し死を覚悟したが、俺には頼れる仲間がいる。心配はいらないさ』

 

 

「混乱を防ぐためこの件は誰にも喋ってはならぬぞ?警戒レベルは引き上げておくが」

 

 

『了解』 

 

 

「……ああそれとケッコンカッコカリの指輪は手配しておいたからの。そのうち届くじゃろう」

 

 

 急に話題が変わる。元帥は飯野が狼狽えるのが電話越しに分かった。

 

 

『りょ、了解……』

 

 

「モテモテじゃのう」ニヤニヤ

 

 

『くっそ!今絶対笑ってるだろ!仕方ないだろ、本人に催促されたんだ!』

 

 

『指輪はたくさん用意しておくからの』

 

 

『こ、今回のはただの戦力強化であって……』

 

 

「ほほほ、艦娘はそう思っておるのかのう?彼女たちにとってはかなり重要な意味を持つと思うんじゃがのー」

 

 

『俺のどこがいいんだか……』

 

 

「刺されるなよ?時々おるんじゃよそういう者が」

 

 

『怖いこと言うな!!』

 

 

 通話を切り、元帥は側で静かに控えていた大和に声をかける。

 

 

「頼めるか?」

 

 

「アイアンボトムサウンドの偵察指示ですか?」

 

 

「ああ、すぐに行動を起こすとは限らんが念のためじゃ。佐世保ばかりに苦労させるわけにはいかん」

 

 

「それもそうですね、規模の大きい鎮守府に頼んでみましょうか」

 

 

「うむ」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「それじゃ改めまして私は軽巡洋艦の川内!夜戦なら任せてね!」

 

 

「駆逐艦の暁よ。電は私の妹だけど迷惑かけてないかしら?」

 

 

 川内と暁を迎えた佐世保鎮守府は提督たちを待つ間、食堂で顔合わせ兼交流会を行っていた。

 

 

「電はいい娘だよ。僕たちも常日頃、彼女の料理にはお世話になってるしね」

 

 

「美味しいっぽい!」

 

 

「司令官さんには敵いませんけど……」

 

 

「電ちゃんの料理は最高にゃしい!」

 

 

「ふふ、私もそう思うわ」

 

 

「美味しい……です」

 

 

「島風も好きだよー」

 

 

「美味しいです!」

 

 

「仕事終わりの食事としては最高ですねー」

 

 

 一斉に電の料理を褒める駆逐艦たちと明石……やがて、照れる電をみんなでからかい出す。そんな彼女たちを見守る金剛たち。

 

 

「ちなみに姉さんは料理が出来るのでしょうか?」

 

 

「うえ?私は出来ないよー。夜戦の役に立たないし」

 

 

 何言ってるの?という顔で答える川内に神通がため息を吐く。

 

 

「女の子としてそれはどうなんですか……」

 

 

「じゃあ神通は?」

 

 

「提督に教わりましたから簡単な物なら作れます」

 

 

「よし、これからは急にお腹が空いたら神通に頼もう」

 

 

「姉さんも教わってみては?」

 

 

「勇兄と料理ねえ……」

 

 

「そういえば姉さんと暁ちゃんは提督のことをそう呼ぶのですね」

 

 

「本当になんていうか私としては勇兄のことを本当の兄のように思っているよ。暁は微妙だけど」

 

 

「微妙、とは?」

 

 

「暁は勇兄にケッコンカッコカリをお願いしたんだよ」

 

 

《……………》

 

 

 川内の言葉に場が静まり返った。

 

 

「え?あれ?」

 

 

「その話は本当デスか?」

 

 

「えっ、そうだよね暁」

 

 

「そ、そうだけど」

 

 

 帽子を押さえながら暁が照れたように言う。

 

 

「ありゃ、これは思わぬ伏兵かな?金剛さんは大丈夫だと思うけど……榛名さんは大丈夫?」

 

 

「……は、榛名は大丈夫です!」

 

 

 呆然と固まっていた榛名がハッとしたように反応し答えた。……声が震えていたが。

 

 

「本当に大丈夫……?」

 

 

「……」

 

 

「榛名さん?」

 

 

「これが運命ならば受け入れます……」

 

 

「心が轟沈しかけてるじゃん!ちょ、ちょっと私は榛名さんを慰めとくから後はよろしく!」

 

 

 轟沈寸前の榛名を飛龍が連れて部屋を出ていき、場に残った艦娘たちの視線が暁へと集まる。

 

 

「あ、暁お姉ちゃんの練度はもう最大なのですか!?」

 

 

「金剛さんの次に練度が高いってどういうことだい!?」

 

 

「夕立たちもまだ98っぽい」

 

 

「こ、これは思わぬ伏兵が現れマシタ……」

 

 

「べ、べべべ別に私は勇兄のことを恋人として見ているわけじゃないわ!」

 

 

 どもる暁に川内を除く全員が疑いの目を向ける。

 

 

「な、何よ……」

 

 

「恋人じゃないならどう思っているんだい?」

 

 

「お、お兄ちゃんよ……」

 

 

「ふうん、妹が兄に指輪をねだる……と」

 

 

「ちょっと怪しいのです」

 

 

「ただの戦力強化よ!」

 

 

「…まあ、ワタシはそれほど気にシマセン。テートクのハートはしっかり掴んでおくので」

 

 

 落ち着いた表情でそう言う金剛。

 

 

「思ったより金剛さんが余裕っぽい」

 

 

「それよりもワタシは士官学校でのテートクが知りたいデース!」

 

 

「いいわよ。どこから?」

 

 

《もちろん最初から!!》

 

 

 全員の声が重なる。

 

 

 彼女たちのお喋りは、提督と皐月が帰ってくる夜遅くまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

 





一区切りついたので(逃げた姫から目をそらし)次回からは日常?パートに入るつもりです。不憫な娘たちがいるので……
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