それでは、榛名編後編です。
改めて……榛名可愛すぎる。
とある艦娘の部屋でページを捲る音が響く。日記帳の中身を読む男の顔は真剣そのものであった。
『 ○月×日
川内さんと暁ちゃんが佐世保鎮守府に着任しました。2人は提督と士官学校の頃からの付き合いだそうです。学生時代の提督をよく知っていて、とても仲が良かったみたいです。それを聞いた時、榛名は少し怖くなりました。
そしてそれは正しかったのです。暁ちゃんの練度はなんとすでに99で金剛お姉さまの次に高い艦娘だったのです。その暁ちゃんは再会してすぐ提督にケッコンカッコカリを頼んだそうです……
それを知った時、目の前が真っ暗になった気がしました。金剛お姉さまに次ぐケッコンカッコカリ2人目……しかも提督とお互いによく知っている旧知の仲。
今度こそ榛名の居場所は無くなったような気がしました。もう身を引くべきでしょうか……提督のご迷惑にだけはなりたくありません。』
『 ○月×日
金剛お姉さまが最近榛名に気を遣うようになりました。心配で放っておけないらしいです。
そんなに榛名の様子はひどいのでしょうか……?
ワガママかもしれませんが今日もアピールを続けようと思います。例え提督に届かなくても。
……榛名は大丈夫です。』
「大丈夫じゃないだろうが……」
しばらくして男は日記帳を机の上に戻す。そのまま部屋から出て扉の横に背を預けると少女が戻って来るのを待ち始めた。
執務室にノックの音が響く。
「はーい、どうぞー」
扉が開きクッキーの乗った皿を両手で持った榛名が現れる。彼女はキョロキョロと執務室を見回すと椅子に座る本日の秘書艦に問いかけた。
「あの…飛龍さん、提督はどちらに?」
「提督ならもう仕事を終わらせて出てったよ。それは……クッキーか、もしかして提督用?」
「は、はい。差し入れにどうかと……金剛お姉さまに手伝ってもらった物ですけど」
「ふぅん……」
何やら考え込む飛龍。
「私も食べていいかな?」
「もちろんです」
「じゃあ榛名さんの部屋に行こっか」
そう言って飛龍が立ち上がる。
「えっ?」
「別にどこで食べたっていいでしょ?」
「何故榛名の部屋で?ここではダメなのですか……?」
「……いいからいいから!早く行こうか!」
榛名は飛龍に背を押されながら執務室を出た。
「あれは……提督?」
飛龍さんに言われるまま自室へと向かった榛名が見つけたのは、扉の横に背を預けて誰かを待つ提督の姿でした。
「よし、後は……!」
トンッと飛龍さんに背を小さく叩かれました。何かを見守るような目で榛名に言います。
「私に出来るのはここまで、全力で行って来るといいわ」
「どういう……」
あっという間に飛龍さんはどこかへ行ってしまいました。仕方ないのでそのまま提督に声をかけました。
「提督、何故こちらに?お仕事はもう終わったと聞いていますが……」
提督は顔を上げてこちらを見ます。
「……榛名か。いや、仕事でここに来たわけじゃない。お前とちょっと話でもしようかなと思っただけだ」
(……提督が榛名に話?)
提督の視線がクッキーへと移りました。
「それはクッキーか、量が多いが自分用か?」
「提督に差し入れで届けようと……でも執務室にいらっしゃらなかったので」
「ああもう、いい娘だよホントに……」
「え?」
提督の呟きは小さすぎてよく聞こえませんでした。
「何でもない、せっかくだから頂こうと思う」
「でしたら榛名の部屋へそのままどうぞ。地味な部屋ですが……」
(……とは言ったものの、何かしまい忘れている物はなかったでしょうか?)
「ではお言葉に甘えて……榛名?」
「あ、いえ!どうぞ!」
部屋に入った榛名はさっそくしまい忘れた物を発見しました。
(日記帳が出しっぱなしです!)
あれには普段言えない本音が書いてあるので提督に見られたら大変な事になります!
「て、提督はそちらにお掛けになってください、榛名はテーブルを出すので」
テーブルを出しながら日記帳をしまおうとした時、
「それ……」
「えっ!?あ、これは日記帳です。ここでの毎日を記録しておこうと思いまして……」
「……」
ふと、自室のカギをかけていなかった事を思い出しました。提督は扉の横に立っておられましたがもしかしてすでに一度部屋に入ったのでは……?
「な、中身はちょっと恥ずかしいのでお見せ出来ません……」
「そうか」
それっきり提督は何も言わなくなったので榛名はテーブルを出す事に集中します。出したテーブルの上にクッキーの乗ったお皿を置き、自室に備え付けの小さな冷蔵庫からお茶を出して紙コップに注ぎました。
(あ、あれ?そういえば今榛名は提督と自室で2人きりなのでは!?)
今更の事実に気付いて恥ずかしくなってきました。自室を見回します。他の皆さんの部屋と比べると、おおよそ女の子の部屋だとは思えない地味な部屋です。
「なあ」
「ひゃいっ!」
「なんか様子がおかしいが大丈夫か?」
「い、いえ!榛名は大丈夫です!」
「またそれか……ちょっとこっちに来い」
そう言って提督はあぐらをかいた状態でご自分の太ももをポンと叩きました。
「……?」
(よく分かりませんが、行ってみましょう……)
ゆっくりと提督に近付き彼のすぐ側までやって来た次の瞬間、腕を掴まれグイッと引っ張られました。
「きゃっ!?」
「よっと」
ふんわりと優しく受け止められ、気付くと提督に膝枕されていました。ガッチリとした男の人の体です。……膝枕!?
「て、提督!?一体何を……」
(て、提督のお顔をこんな近くで拝見したのはいつぶりでしょうか……)
「嫌だったか?」
「そ、そんな事はありません!光栄です!」
「膝枕が光栄って……」
「はうぅ……」
(あああ、榛名のバカバカ!これでは変な娘だと思われてしまいます!)
「ふふふ、可愛い奴め」ナデナデ
「ふわっ!?」ナデラレナデラレ
提督は優しく笑いながら榛名の頭をなで始めました。気持ちいいです……じゃなくて!
(どどどどうしたのでしょうか!?今日の提督は何か変です!!)
混乱する榛名の脳内に白い翼に天使の輪っかのある天使榛名と黒い翼に尻尾のある悪魔榛名が現れます。
『これは……チャンス到来です!』
『いえ、これは……』
『今こそ本で培ったテクニックを試す時!ここで攻めましょう!』
『その前に提督の変化の謎を……』
『何を躊躇しているのですか悪魔榛名!そんな事はどうでもいいのです、この千載一遇のチャンスを逃してどうするのですか!』
『天使榛名は提督の変化が気にならないのですか?』
『問題ありませんよ。ここで攻めなくていつ攻めるのです!だいたい何故そんなに弱気なのですか悪魔榛名、その黒い翼と尻尾は飾りですか!』
『で、でも……』
『このまま既成事実まで一直線で目指します!』
『そ、それは強引すぎるのでは?』
『恋は戦争って読んだ本にもあったでしょう!』
『ここはこう、もっとゆっくりと関係を深めて……』
『さあ行くのです榛名!自分を信じて!そのまま夜戦まで一直線です!』
『だ、ダメです!天使榛名は強引すぎます!ここは落ち着いてまずゆっくりと会話をしてみるべきです!』
叫ぶ天使榛名を悪魔榛名が必死で押さえ始めます。
『ええい、離しなさい悪魔榛名!』
『ダメよ榛名、絶対に暴走しちゃダメ!』
(ど、どうすれば……!?)
しばらくして提督がポツリと言いました。
「そういやクッキーがあったんだった。頂くぞ」
お皿からクッキーを一つ手に取るとそのまま一口。
「甘い……」
「お、お口に合いませんでしたか?」
「美味しいよ」
「あ、ありがとうございます」
飛び跳ねそうになる心を必死で抑えます。
『ふふ、いい感じですよ榛名』
『よかったぁ……』
「ほれ、榛名も一口どうだ」
提督が手でクッキーを一つ榛名の口元へと運んできました。
(えっ)
『あーんです!まさかの提督自らあーんをしてきました!』
『ま、まずは落ち着いて食べましょう』
ゆっくりと口で咥え、クッキーを咀嚼しました。甘い味が口の中に広がり、自然と頬が緩みます。
「美味しいです……」
「だろ?ま、俺が作ったわけじゃないが」
「実はこのクッキー……榛名が1人で作ったものじゃないんです」
「誰かに手伝ってもらったのか?」
「はい、金剛お姉さまに……」
「あいつも本当に料理が上手くなったなあ……最初の頃は電子レンジの中に大量のアルミホイルを突っ込んで爆発とかさせてたのに……」
遠い目をする提督。
「爆発するのですか!?」
「覚えとけ」
「は、はい」
「よく出来てるし榛名が作ってくれたってだけで嬉しいよ」
「美味しいのは全部金剛お姉さまのおかげです」
「そんな事はないぞ?このクッキーには榛名の愛情がたっぷり入っているからな」
「ふぇっ!?あ、愛情だなんて……」
「入ってないのか?」
「は、入ってます……うぅ、恥ずかしいです」
嬉しいのですがとにかく恥ずかくて提督と目が合わせられません……ですが、
(……やっぱり何かおかしいです)
急に提督が榛名にこのような事をしてきた理由があるような気がします。金剛お姉さまも提督に甘えていますが自分から頼んでそれを提督が受け入れるといった流れです。提督が自発的に金剛お姉さまに膝枕やあーんなんてしているのを見た事がありません。
「……榛名?」
このまま流れに身を任せるのも良いですが、勇気を出して聞いてみる事にしました。
「……今日の提督は変です。理由を聞いてもいいでしょうか?」
「やっぱり気になるか?」
「はい」
「……飛龍にさ、言われたんだよ。もっと榛名を見てやれってな」
「飛龍さんが?」
「俺もお前に表面的な変化が見られなかったから気付かなかったよ、でもアレらを見てしまって……」
「アレら……って?」
提督は申し訳なさそうな顔で言います。
「その……ベッドの下とか」
「え……」
(ちょ、ちょっと待ってくださいベッドの下には確かーーー)
「ま、まあ、そのなんだ……そういう事が気になるのも当たり前だよな……大丈夫、俺は気にしない」
「ま、待ってくださいあれはーーーきゃん!?」ゴチーン
「んぶっ!?」ゴチーン
慌てて起きたため榛名の頭が提督の顎をきれいに捉えて頭突きが決まってしまいました……
提督が悶絶しています……
「ぐおおお……」
「すすすすみません提督!ど、どんな罰でも受けるのでお許しを!」
「こ、こんな事で罰なんて、イテテ……いい頭突きだったぞ」
「だ、大丈夫ですか?」
「なんとか……それよりも何か言いかけてただろう?」
「はっ!?そ、そうでした!あの本の事なのですが……」
「俺は大丈夫だから」
提督が今までの中で一番の温かい目で榛名を見ていました。
「そ、そんな温かい目で見られても榛名は大丈夫じゃないです!」
「お、落ち着け、話は聞いてやるから!」
「れ、恋愛系の本は榛名の物ですが、それ以外は飛龍さんが勝手に持ち込んだ物です!」
「売り文句が確か……男性のハートを撃ち抜け~とか周囲をあなたの虜に~って感じの本は榛名の物って事か?」
「あああああ!言わないでください!」
「す、すまん……じゃあ夜戦の本は?」
「飛龍さんのです!」
「〈恋は戦争〉」
「飛龍さんのです!」
「〈ヤンデレ入門〉」
「……飛龍さんのです!」
「今の間は何だ!?」
(や、やっぱり提督はすでにこの部屋に入って……)
「……ところでだな、読んだのか?」
「読んだ……と言いますと?」
「飛龍が持ち込んだ本たちを」
「……」
「……」
すでに全部読んでしまいました……
『でも、おかげで榛名は物知りになったじゃないですか』
『すごい本でした……』
『必要な知識ですよ、さあ提督を押し倒しましょう』
『それはダメです!』
「すまん……俺は多分絶倫じゃないと思う」
そう言って謝る提督。
これは一体何の罰ゲームでしょうか。今すぐ自室に引き籠もりたいです……あ、自室はここでしたね。
「……」ジワッ
「お、俺が悪かった!だから泣かないでくれ頼む!」
なんとか榛名を落ち着かせた俺は現在土下座の真っ最中である。
「……女の子の部屋に勝手に入るのは良くないと思います」
「本当にすみませんでした!」
「次からは気を付けてくださいね」
「はい……」
「……ホントは別にいいんです、ただこれで分かったと思います。提督は榛名の事を大和撫子と表現しますが全然そんな娘ではなかったと」
「……普段の榛名はまさに大和撫子なんだが」
「大和撫子はあんな本を読まないと思います……」
「読んでたから問題ってわけでもないだろう。それよりも俺は失恋系の本があったことの方が気になる」
「それは……」
榛名が口ごもる。
「確かに普段から金剛ばかりに構っているし、最近じゃ暁の事もあるから不安になるのは分かる」
「……」
「だが俺はあの日『お前の事もきちんと見るようにするよ』と言ったんだ。決して金剛の言葉に流されて言ったわけじゃない」
「……」
「そこで、今日ある事を決めた」
俺は立ち上がると、正座をしたまま俺を不思議そうに見上げる彼女を正面から抱き締めた。
「て、提督?」
あわあわと慌て出す彼女を優しく抱擁する。
「榛名に関してはこちらから積極的に甘やかしにいく事に決定した」
「えぇっ!?」
ーーーーーー
提督が部屋を出て行った後も榛名はぼーっと部屋の扉に視線を向けたままでした。先ほどまで提督はずっと榛名を抱き締めながら頭をなでてくれていました。
「……」
ベッドに倒れて枕に顔をうずめます。ここで遅れて嬉しさと羞恥心が同時にやってきました。
「~~!~~~!」
必死に声を押し殺しながらゴロゴロとベッドの上を転がり続けてようやく落ち着きます。
「……日記に書かないと」
起き上がり日記帳を取り出して開くと、今日のページに何か書き込みがありました。
『今まで不安にさせて申し訳ないーーー』
(提督の筆跡……やっぱり日記帳も読まれていたのですね)
提督は日記帳については触れませんでしたが、これを読まれてしまったのはかなりショックでした。提督に余計な心配をかけた可能性が高いです。先ほどの喜びが一転して後悔に変わります。
(きちんとしまっておくべきでした……)
落ち込みながらも提督のメッセージを読み続けます。
『ーーーこれからは大丈夫じゃないと言うまでいじり倒してやるから覚悟しとけ。あと榛名の今のシャンプーの香りはすごく気に入っている。この前のいじった前髪も可愛かったぞ。……よければ今度の土曜は空けておいてくれ、菓子作りを一緒にどうだ?』
「……」
「……」
「……」
もう一度ベッドに倒れ枕に顔をうずめました。
挿し絵もどきの落書きのクオリティはしょうがない(諦め)
榛名が可愛すぎて描いた。後悔はない。
榛名の出番もっと増やそうかなあ……猛烈に榛名話を書きたくなってきました。(個人的には榛名の脳内の天使榛名と悪魔榛名も気に入っています)
では、みなさんの感想、評価、批評をお待ちしています。