ーーーーーー日本海軍本部ーーーーーー
楕円形のテーブルが置かれた日本海軍本部のある一室に元帥をはじめとする多くの将たちが集まっていた。彼らの表情はどれも硬いものだった。
「単刀直入に言う。ついに深海棲艦が日本の本土に攻めて来た」
「とうとう本土にも……」
「メディアにもこうなったらごまかせん」
「状況を教えていただけますか元帥殿」
「うむ、救護班について行った大淀の話では既に町は破壊されていたらしく、生存者は二人の兄妹だけだ」
「深海棲艦は既に撤退していたのですか?」
「……いや、全滅していた」
「は?」
「生存者の兄妹の兄の方の話では現場にいた妖精と協力して戦ったそうだ」
部屋中でざわめきが起こる。
「戦った……?ただの人間がですか?」
「本土に到達した深海棲艦の艦隊の規模はそれほど大きくなかったとはいえ抵抗してどうにかなるものでは……」
「調べたが、軍人の血を引いているものの彼はただの一般人だった」
「それで何故……」
「だが……艦娘の適性があった。」
「なっ……!?」
「それは……」
「妖精によると指揮官としての大きな才覚も眠っているらしい。すでに妖精と十分な意志疎通が出来る事も分かっておる」
「なら、彼は……」
「ああ、儂も彼をただの人間として見てはおらん。我々の窮地にこうして現れた彼は我々の希望になるかもしれん」
「希望……ですか」
「儂は彼を海軍に引き入れようと思う。今の我々には戦力が圧倒的に足りていない。反対の者はいるか?……いないようじゃな。では彼の身柄は儂が預かる。また、今回の件は他言無用じゃ」
「「「了解です!」」」
ーーーーーー
「会議で君の身柄は儂があずかることになった」
俺の病室に入るなりそう言った爺さんは海軍の元帥らしい。白の軍帽から覗く猛禽類のような鋭い目と顔のシワが合わさってとてつもなく怖い老人だ。筋肉もあるし。
「はあ……?」
「……理解しておるのか?」
「してますけど」
「まあ、これからは君たちを儂の養子として扱うことになったということじゃ。外部には公開しないがな」
「妹と俺を助けてくれたことは感謝してますけど、俺たちを養子とするということはまだ何かあるのでは?」
「……君に提督になって欲しい」
「俺が提督に……?」
「深海棲艦と艦娘のことは聞いたかね?」
「大淀さん?……にある程度は聞きましたけど詳しくは聞かされていません」
「では、改めて話そう」
ーーーーーー日本で深海棲艦が確認されたのは今からちょうど一年前じゃ。最初にヤツらの被害にあったのは日米間の輸送船じゃった。ある日突然アメリカからの物資が日本に届かなくなっての、次にアメリカへ向かった航空機までも行方不明になる事件が起こった。何かあったのだろうと日本政府はアメリカ政府に確認の連絡をしたんじゃが……返事は返ってこなかった。さらにアメリカ以外の国との間にも同じようなことが起こり始めたのじゃ。困った政府は衛星を使ってアメリカの姿を見た。そしてアメリカの現状を知ってしまった。
……アメリカはすでに滅んでいたんじゃよ。さらに日本の近海で謎の生物が確認され始めた。日本政府は大パニックじゃ。現れた謎の生物は日本の船や飛行機を襲って沈め始めたのじゃからな。しかもどんな武器を使っても全然倒せないし効いていない。ますますパニックになった。日本は制海権と制空権を奪われたんじゃよ。政府は国民が混乱することを恐れて黙っていたがな……誰もが世界の終わりを予想した。
が、ここで人類側に変化が起こる。各地に妖精が現れ始めた。なぜか見える者と見えない者がいるその謎の生命体たちは政府に深海棲艦についてこう言った。
『アレは戦争で悔いや恨みを残して沈んだ軍艦の魂の成れの果てです。負の感情の塊であるアレらには同じく軍艦の魂を持ったものでないと倒すことなどできません。私たちはあなたたちに力を貸すためにやってきました』
そして彼らは艦娘をつくった。
艦娘についても説明しておこうかの。
在りし日の軍艦の魂を込めた艤装と人間を組み合わせたものが艦娘じゃ。なぜか男性には適性がないらしく、被検体には孤児や軍の女性からの希望者などがなった。艤装に同調した人間の中に軍艦の魂が宿った彼女たちは水上を移動することができ、軍艦と同威力の兵器を持っていた。政府は彼女たちを使って奪われた制海権と制空権の奪還に乗り出した……じゃがここで問題が発生する。艦娘の消費が激しすぎたんじゃ。日本には彼女たちを指揮する有能な指揮官が数えるほどしかいなかったのじゃ。艦娘は次々と沈み、死者は増えていった。艦娘候補の女性も減っていく一方で政府は妖精たちにダメ元でこう頼んでみたのじゃ
ーーーーーー艤装を装着する艦娘の本体も資材でつくれませんか?
妖精はこれを受け、艦娘をつくった。つくってしまったんじゃ。資材と新たに追加された材料で初めから人間と艤装をセットでな……
それから艦娘の数は増え、徐々に制海権と制空権を取り返し始めたのじゃ。
ーーーーーー
「……資材から人間をつくった?」
「そうじゃ。そして生まれた彼女たちには自我があり感情もあった」
「それって……」
「妖精は資材と材料さえあれば何度でも同じ艦娘を建造することができる。記憶などは引き継がないがな」
「艦娘は……」
「今では艦娘を完全に兵器として扱う人間も少なくはない。なにせ、代わりがいくらでもいるのでな……そういう考えの者も出てくる」
「兵器……なんですか?」
「ふむ?」
「あなたにとって艦娘は兵器なんですか?」
「……」
「……」
「……艦娘をつくる資材につけ加えるようになった材料は何だと思う?」
「……分かりません」
「一部を紹介するとアンモニアや、炭素、硫黄などだ」
「……それが何か?」
「他にも色々あるが、ある共通点がある」
「共通点……」
「すべて人間の体のどこかに存在する物質だ」
「……ッ!」
「さらに儂の部下の研究員の調べでは、艦娘の寿命は人間と同じであり生殖機能もある。体の構造も完全に人間のそれと同じで歳もとるらしい」
「じゃあ艦娘は……」
「艤装を扱えるという事以外は本物の人間となんら変わりはない。儂は彼女たちを兵器として見ることなど出来 んよ……」
「このことを他の人たちは知っているんですか?」
「知っているのは儂と君と儂の部下の研究員だけじゃ。材料についても誰にも教えるなと妖精たちにキツく言われていてな。教えたら協力をやめると言っていたよ。実際、艦娘がいなければ既に日本は滅んでいる。どれだけ倫理に反することだとしても止められないのじゃ。それに……」
「それに?」
「彼女たちが言うんじゃよ。
ーーーーーーまた日本のために戦うことができて幸せです
ーーーーーー人と触れ合える日がくるなんて!
ーーーーーー陸上へ上がれるなんて最高です!
ーーーーーー食べ物ってこんなおいしかったんですね!
ーーーーーーこんなに笑顔の多い日本を見れて嬉しいです
とな」
「……」
「儂は彼女たちに今の日本をもっとみせてやりたいし触れさせてやりたいし楽しんで欲しい。そのためにもこの戦争を終わらせたいと思っている。これが儂の本心じゃ」
「艦娘たちがそんなことを……」
「君も彼女たちに会えばきっと同じように考えるじゃろう。艦娘が増えたと言っても、今回君たちが襲われてしまったように実際のところの戦況は芳しくないのだ。力を貸してくれないか?」
「俺の力が彼女たちの助けなるなら」
「君は優しいのじゃな、普通会ったこともない他人のためにそこまで尽くそうとする人間はいないよ」
「確かにそうですが、俺には妹がいます。聞いた話では妹と同じかそれ以上に若い少女たちも艦娘にはいるのでしょう?他人事とは思えません」
「そうか。確か君は大学に合格したばかりの少年じゃったな……君の将来の夢はなんだったんじゃ?」
「……教師です」
「ふふ、そうじゃったのか。ならば彼女たちを導いてやってくれるか?」
「はい!」
「よろしい!ただいまより君を横須賀第二支部の提督に命じる!階級は少佐だ!この国ため、彼女たちのため共に戦ってくれ!!」
この日、俺は提督になった。
たいてい場合、元帥はちょっと悪い役が多いですがこの作品の元帥はこんな感じです。