演習 VS呉鎮守府1「佐世保と呉」
「ほー、じゃあ問題は解決したのか」
『ああ、色々と気になる事もあるがひとまずは明石の薬でなんとかなっているよ』
執務室と思われる一室で電話に出ている金髪の青年は楽しそうに笑う。
「おう!そりゃ良かった。しっかし艦娘って本当に美人ばっかだよなあ……」
『ああまったくだ』
「男としては嬉しい事だけどなー」
『そういえばお前の所属先って呉鎮守府だったか?』
「合ってるが、俺が指揮をとっているのは呉の第二艦隊だぜ」
『やはり第一艦隊の指揮はとらせてもらえそうにないのか?』
「無理無理、だって第一艦隊の指揮をとってるのは俺の親父だぜ?」
『……会った事はないがかなり厳しい人だというのは聞いている』
「それにあの人が率いる主力艦隊にはヤバい奴らがいるからな」
『……確かにそうだな。是非ともうちの飛龍と一度やらせてみたい相手ではあるな』
「言うねえ……ん?」
コンコンとノックの音が青年のいる部屋の扉から聞こえてきたので青年は扉に視線を向けた。
『どうした?』
「すまん、誰か来たみたいだ。また後でな」
『おう、ではまたな』
通話を終え、青年は扉の方へと声をかける。
「入ってもいいぜ親父!」
扉が開き部屋の中へと入って来たのは右の頬に傷のある50代ほどの鋭い目つきの男だった。彼の名は内山剛毅、金髪の青年の父親で呉の第一艦隊を率いている呉鎮守府の提督で階級は大将である。
「話し声が聞こえたが、誰かと電話でもしていたのか?」
「佐世保の提督とちょっとな」
「佐世保……例の鎮守府か」
「例のって……珍しいな親父が他の鎮守府の事を気にするなんて」
「あそこにいる艦娘は有名だ。提督の方は名も知らない新人だがな」
「そんなにすげえ奴らなのか?後、提督の名前は飯野勇樹で俺の師匠だ」
「同期の人間に師匠など務まらんだろう、士官学校の訓練戦闘と実際の戦場は全くの別物だ」
「そうだとしてもあいつはただの新人じゃねえよ」
「随分と佐世保の提督を買っているのだな」
「当たり前よ!しかも今じゃ親父ですら気にかける艦娘たちを率いているんだろ?鼻が高いぜ」
「だがはたしていつまで率いていられるかな?」
剛毅の言葉に内山は眉をひそめる。
「あ?そりゃどういう事だよ?」
「佐世保に異動したメンバーはどれも他の鎮守府の連中にとって喉から手が出るほど欲しい存在だってことだ」
「……」
「数多の戦場を生き残り、いくつもの大規模作戦を成功へと導いてきた精鋭部隊……とても魅力的な存在だろうよ。地位を上げるための駒として欲しがる者、そのノウハウを是非自分の鎮守府の艦娘に学ばせたいと考える者と色々だ。今まで何度も彼女たちを自分の所へ派遣してくれとの要請が横須賀に送られていたらしいが彼女たちの提督は決してそれを受けなかった。何だかんだと理由を付けて返してくれなくなると分かっていたのだろう」
「……2つ名のある歴戦の艦娘たちだとは聞いてたけどかなりの人気者だったんだな」
「特に人気のある艦娘はその精鋭部隊の旗艦……〈鬼の金剛〉だ。彼女の戦績を知っているか?」
「いや、知らねえ」
「敵艦撃沈数が多いのはもちろんだが敵の主力撃破の記録が素晴らしい。鬼級撃破数6、姫級撃破数4だ」
「はあ!?鬼級や姫級なんてそうそう倒せる相手じゃないぞ!?」
あり得ない戦績に内山が驚きの声を上げる。
「歴戦の艦娘でも2、3体倒す経験があるかどうかだというのに、彼女の戦績は異常だ。こんな存在、周りの連中が放っておくと思うか?」
「思えねえな……」
「〈東国の鬼神〉と言われた彼女たちの提督がいなくなった直後は酷かった……どういうつもりか元帥は頑として派遣要請を受け入れなかったがな。だが、ついに元帥が許可を出した鎮守府が壊滅した佐世保……誰もがそこの新人育成のためにやっと元帥が彼女たちの派遣を始めたのだと考えた。あわよくば自分たちの所の要請も通るかもしれないと」
「……」
「しかし実際どうだ、いつの間にか彼女たちはなんと佐世保鎮守府の正式な艦娘になっているじゃないか」
「……あいつが率いるにはふさわしい艦娘たちだと俺は思うぜ」
「新人なんぞに任せられん、次の大規模作戦のカギを握るであろうメンバーを率いる事が出来るとは俺にはとても思えない。俺が率いた方が何倍もマシだ」
「なら、試してみたらどうだ?」
「……何?」
「親父は知らねえだろうがあいつは士官学校の時にはすでに新人のレベルじゃなかった。命を預けるに足る相手か親父が自分の目で確かめてみてくれよ。あいつをバカにされるといい気がしないぜ」
自信のあるような目で言い切った内山に今度は剛毅が眉をひそめた。
「演習をやってみろということか?」
「そうすりゃ分かると思うぜ」
「良かろう……新人に現実というものを教えてやる」
「テートク、主力メンバー全員の召集とは何か大規模な作戦でも始まったのデスか?」
執務室に集められた主力メンバーの中から金剛が代表して飯野提督に質問をする。
「いや、そうではない」
「では一体……」
「先ほど演習の申し込みがあった。呉鎮守府からな」
「呉!?」
呉と聞いて大きな反応を示したのは飛龍だった。
「そうだ〈不動の武蔵〉と……〈空の女王〉がいる呉だ」
「な、なんかすごそう……」
「呉との演習は初めてだがいい経験になる事は間違いない。相手は恐らく俺たちと互角かそれ以上だ」
「だ、誰が出るのですか?」
「とりあえず榛名、お前は出すぞ」
「えっ」
「皐月たちの経験を積まそうと思っていたが友人に絶対勝ってくれと言われているんでな。高練度の戦艦であるお前はまず外せない」
「りょ、了解です!!」
「テートク、具体的なメンバーの発表をお願いシマス」
提督は頷き、メンバーを発表する。
「旗艦は金剛、随伴艦は榛名、飛龍、夕立、川内、暁で考えている」
「ボクたちはお留守番?」
「そうではない。神通たちに鎮守府の警備を任せて時雨、皐月、電の3名も俺たちに同行してもらう。勉強と非常時のためだ」
「電も……ですか?」
「ああ、電にはこれから先の戦いにおいて俺の作戦指揮の補佐をしてもらいたいと考えているからだ。今回の演習を観戦して学ぶべきところを学んでくれ」
「了解なのです」
「他に何か聞きたい事がある者は?」
「演習の会場は何処なのさ?」
川内の問いに提督は困ったような顔をする。
「すまない、場所についてはまだ分かっていない」
「ま、何処であろうと暁たちは全力で戦うだけよね」
「ぽい!」
「……」
「飛龍さんどうしたの?」
「え?ああ……今回の相手に女王様がいるって考えたら緊張しちゃって……」
「女王様?」
「皐月は知らないんだったな……今回の相手の1人はあの戦艦大和の姉妹艦武蔵だというのも注意するべき事だがもう片方も脅威なんだ」
「〈空の女王〉って名前からして空母かな」
「軽空母鳳翔……それが呉のもう1つの切り札だ。日本で最初に作られた空母……彼女は空母たちの母とも言える存在で現在は前線を退いて弟子の教育にあたっているらしいが、まだ現役の空母だ、間違いなく出てくるだろう。2つ名がある事から実力も確かなのは間違いない」
「正直、私の艦載機がどこまで通用するか分からない……絶対に弟子も参加してくるだろうし、制空権を取るのは難しいかも」
「飛龍さんがそこまで言う相手だなんて……」
「勝つ事が出来れば嬉しいが相手は前線で戦っている大規模鎮守府の1つだ。胸を借りるつもりで挑むぞ」
《はい!!》
同時刻呉鎮守府。
「突然だが例の佐世保鎮守府との演習を近々行う事にした。勝手に決めてしまってすまない」
そう言って頭を下げる剛毅の前に並ぶのは今回選抜された呉鎮守府第一艦隊のメンバー。
「ふっ、謝る必要などない。あの横須賀第二支部の連中とやり合える機会をくれて感謝しているさ」
「あそこの金剛お姉さまは有名ですし、一度この目で見てみたいと思っていました」
「私もあそこの連中には興味があるな」
「〈天の飛龍〉も来るって事だよね……」
「ええ、ですが今のあなたなら互角以上に戦えると思いますよ……正直な所彼女の実力の底は分かりませんけれど、今回は私も一緒に戦いますから」
「うーん、雪風はいつも通り頑張ります!」
各々がやる気を見せる。
「……相手は新人提督だが手加減はしない。全力で行くぞ」
《応!!》
ーーーーーー
演習当日、呉の提督が用意した軍艦の上で両鎮守府のメンバーは向かい合っていた。
「まさか演習会場の海域まで実物の軍艦で行く事になるとは……周辺の警備もわざわざ向こうにやってもらっているし頭が上がらないな」
「船のワタシたちが船に乗るってなんだか変な感じがシマス」
飯野提督は改めて相手のメンバーを確認する。正面左から順に眼鏡をかけサラシを大胆に巻いた格好の大柄な肌黒い筋肉質な女性……一目で分かる、大きな存在感を放つ彼女が戦艦武蔵だろう。
次に金剛と同じ改造巫女服を着たおかっぱ頭のような髪型の眼鏡美人……こちらを値踏みするように見つめる彼女は戦艦霧島。
その次に並んでいるのはダルグレーの瞳と同じ色の髪をポニーテールにまとめ、薄紅色の着物にタスキをかけ紺の袴と下駄を履いたおっとりとした雰囲気の女性。右手のユガケと肩の飛行甲板から空母だと分かる。彼女と正面同士で向き合っている飛龍の緊張したような様子から彼女が鳳翔だろう。隣にいるのは彼女の弟子であろう白の鉢巻きを巻き青みがかった瞳に同じ色の髪を短いツインテールに、緑色の着物と暗緑色のミニスカート仕立ての袴、鳳翔と同じユガケに下駄、右肩に飛行甲板……空母蒼龍。
5人目は地面に届きそうな程長い黒髪のサイドテールに紫色の制服にタイトスカート、白のタイツにロングブーツのいかにも軍人といった厳かな雰囲気の長身の女性……重巡那智。
そして最後に雪風……佐世保にも雪風はいるがここの雪風とは比べものにないだろう。恐らくかなり厄介だ。
「本日は演習にお誘いいただきありがとうございます。会場の手配までお任せしてしまい申し訳ありません」
「これくらいはして当然の事だから気にしなくていい。それよりもお前が俺の息子が言っていた師匠とやらか?」
剛毅がジロリと飯野提督を威圧するように見る。
「確かにそのように呼ばれる時がありますが……」
「まだガキじゃねえか。こんなんで本当に四天王をきちんと指揮出来るのか?提督と艦娘が釣り合ってないだろう」
「……」
「……こいつらをまともに指揮出来ないようなら、きちんとした提督の下へこいつらを異動させてやった方がいいぞ?新人が持つには大きすぎる存在だ」
「……こいつらに見合うよう精一杯努力しているつもりです」
剛毅の鋭い視線に飯野は真っ正面から向き合い、目をそらさず答える。
「ならば見せてみろ。せいぜい俺を退屈させないように足掻いてくれよ?あっさり勝ってはつまらんからな」
「な、何ですかあなたは!」
「榛名、抑えなサイ」
剛毅の言葉に我慢出来ずに飛び出しかけた榛名を金剛が抑える。
「……榛名、彼は間違った事など言っていない。下がれ」
「……」
渋々下がった榛名だったがそのまま剛毅を睨みつける。気付けば他の佐世保メンバーも似たような状態であった。金剛だけは変化が見られなかったが。
「演習の前に何か質問は?」
「いいえ、ありません」
「今回の演習は拠点を守る防衛組とそれを攻める攻略組に別れて行う。勝利条件は拠点の制圧または旗艦の撃破だ。コイントスで担当を決めようと思うのだがお前はどちらを選ぶ?」
「表で」
剛毅が指で弾いたコインが回転しながら彼の手の甲に落ち、それを即座に手で隠す。
「本当に表でいいのか?」
「ええ、どちらでも構いませんから」
剛毅が手をどけると表を上に向けたコインがあった。
「……佐世保は防衛組を選択します」
「では呉は攻略組だ。これより30分時間をとる、作戦会議をするなら今の内にしておけ。後悔するぞ」
それを聞き待機場所へと移動する佐世保のメンバー。
「……」
その場を去っていく佐世保のメンバーを見送りながら剛毅は呟く。
「安い挑発には乗らないか……少なくとも短気な人間ではないようだな」
「お前の視線に対して目をそらさない若者などめったにいないぞ?お前の顔は頬の傷もあってかなりの強面だからな」
そう言って笑う武蔵。
「艦娘の方にはかなり睨まれたがな」
「それでも金剛だけは変わらないように見えたが……」
武蔵の発言に剛毅は首を振る。
「気付いてないようだが金剛なら器用に対象を俺だけに絞って軽い殺気を放っていたぞ」
「何?……気付かなかったな」
「それよりも……だ。お前は気付いたか?」
「……指輪をしているのが2人いたな」
「駆逐艦がその1人だというのも驚きだがもう1人はまさかの金剛だ。大々的に発表されていないがあの指輪は提督と艦娘の間に強い信頼関係が無ければそもそも使えない代物だ」
「それだけ強い信頼関係がすでに成立しているという事でしょう。どうやら場にいた全員に好かれているようでしたし」
鳳翔が会話に参加する。
「すでに艦娘たちから強い信頼を得ている……か。鳳翔、そして蒼龍、今回の演習はお前たちの航空戦がカギを握る。最後まで手は抜くなよ」
「承りました。呉の力を存分にお見せしましょう」
「はい!」
「あの人感じ悪いっぽい」
「ちょっと頭にきました」
「まあ勇兄は確かに新人だけどさ」
「あーもう、腹が立つわ!勇兄も言い返しなさいよ!」
「別に本当の事だろう?そう怒るなって」
「皆さん、落ち着いてくだサイ」
会議室に着いてもまだ怒りの冷めないメンバーを金剛がなだめる。
「金剛お姉さまはなんでそんなに落ち着いていられるんですか!」
「ワタシには彼が本気でバカにしているようには見マセンでした。……デスが」
「……お姉さま?」
「例え嘘だとしてもテートクの事をああ言われてワタシが平気でいると本気で思っているんデスか?」
「……」
一瞬だが金剛が見せた怒りに榛名が静かになる。
「お前たち、少しは落ち着いてくれ。時間がない」
《……》
「まずこれが今回の演習会場となる海域で、ここが俺たちの拠点だ。ここを制圧されるか旗艦の撃破で勝敗が決まる」
提督が机上に出した海図を全員が覗き込む。
「……島が多い海域なのです」
提督が指し示したのは一つの小さな島。周囲に島が散在しているが特に東と西に多い。少し離れた南には大きな2つの島があり、北にはあまり島が見られない。
「ここを防衛……」
「ちなみに呉の艦隊のスタート地点は南のかなり離れた場所からだ」
「南……」
「防衛組である以上、相手がどこから攻めてくるか考えなくてはいけませんね」
「……テートクはどう考えていマスか?」
「南7割、北3割だ」
「ワタシも同じデス」
「東と西は考えないのです?」
電の発言に何人かも気になっているようで提督を見る。
「東と西は島が多すぎる。動きが大幅に制限される上に待ち伏せされると相手としてはかなり厄介な事になる。島に隠れて艦載機の接近に気付けない…とかな」
「なるほど。では、北はどういう理由なのです?」
「南からやって来る呉の艦隊が周囲を警戒しながら俺たちの拠点の北側へ回り込むとどれだけの時間がかかると思う?」
「時間……」
「俺たちの艦隊は夜戦が得意な軽巡、駆逐が3人、相手は1人……向こうには武蔵がいるんだ、昼戦で一気にたたみかけてくる可能性が高い。わざわざ夜戦に突入しかねない作戦はとらないだろう」
「となると敵が攻めて来るのは南からと仮定出来ますね……問題は私の航空戦か」
「今回のカギはそこだな、呉の鳳翔の操る艦載機は相当の練度と聞く……正直俺もこの航空戦の結果がどうなるのか分からない。結果次第では立てた作戦が意味を成さなくなる」
「飛龍を信じマス」
全員が頷く。
「ちなみに司令官に今回の戦いにおける秘策は何かあるのかい?」
「……榛名に照明弾を持たせる。明石に頼んで光度を上げる改造をした特注品だ」
「えっ、榛名に照明弾ですか?」
「あれ?夜戦はしないんじゃ……」
「Hmm……」
「っと、そろそろ時間だな。全員準備に入れ」
金剛たちが出て行き、時雨、皐月、電の3人が場に残る。
「僕たちはどこに行けばいいんだい?」
「そこの入り口に立っている金髪に案内してもらえ」
「え?」
3人が部屋の入り口に視線を向けるとそこには金髪の青年が立っていた。
「なんだ気付いてたのか」
「当たり前だ」
「提督の知り合いかい?」
「士官学校の同期の内山修だ。こいつに観戦室まで案内してもらえばいい」
「分かった。お願いします……ええと」
「修でいいぜ」
「じゃあ修さん、よろしくお願いします」
「礼儀正しい娘だなあ」
「時雨たちを頼む」
「おう、……頑張れよ?」
「全力でやるさ……お前の親父さんはそれを望んでいるみたいだしな」
「言っておくが鳳翔さんとその弟子の蒼龍はかなり強いぜ。コンビネーションもバッチリだしとても空母1人で相手をするにはキツい組み合わせだ」
「知っている。だが……あまりうちの飛龍をなめない方がいい」
そう言って飯野提督は好戦的な笑みを浮かべた。
演習始まらず……
内山パパは呉鎮守府の提督でした。私の中では鳳翔さんってかなり強いお艦イメージがあります。実際、軍艦時代では彼女の元で多くの熟練パイロットたちが育てられたらしいですし。
……なんかハードル上げちゃった気がしますが戦闘シーンは手探り状態なのであまり期待しないでくださるとありがたいなぁ……と。
丁寧に書きたいので展開はゆっくりめです。
次回、航空戦。