文月を改二にしてあげたいのですが、今育成に資源を使うとイベントで死にそうなので我慢しています……
世に文月のあらんことを……
「「勝った!!」」
「勝ったね」
「……勝っちまったな」
内山たちが見つめる画面に映るのは大破した武蔵の姿。今頃演習終了の無線が入っていることだろう。
「確実に仕留められるタイミングで艦攻による集中攻撃かぁ……」
「突然現れてびっくりしたのです」
「呉側が最も警戒していたのは金剛だったけど、この演習を見るに一番危険なのは飛龍だったね。MVPは多分榛名さんだけど」
「あの数の艦攻を1人で捌くのはちょっと……」
「それ以前に島に上陸していたとは思わなかったのです」
「まあ色々言いたい事はあるけども、俺は那智が心配なんだが……大丈夫なのかあれ?」
4人の脳裏に浮かぶのは例の光景。金剛が突然那智に急接近し砲撃ではなく蹴りで攻撃した時、時雨と皐月の2人は心の中で合掌、電と内山はフリーズしていた。
「「「……」」」
「なんかこう、尋常じゃないスピードでぶっ飛んでいった気がしたが……」
「死ぬ事はないんじゃないかな……はは」
「やはり鬼を怒らせてはいけないね」
「……ふ、2つ名に偽り無しなのです」
「2つ名……そういえば、結局金剛さんって今回の演習で砲による攻撃してたっけ?」
「……」
「なのです……?」
「……対空戦以外で金剛が砲を使う場面無かったな」
「砲雷撃戦って何だろう」
金剛は絶対に敵に回さないようにしよう……そう誓う4人であった。
「お帰り、ナイスファイトだったぞみんな」
演習終了後、本部の軍艦を直接移動させ金剛たちは回収された。現在、艤装の修復などの指示を待っている状態である。無事に勝利を手に入れたことで全員満足して……いるわけではないようだ。
「どうやら今回の演習はいい経験になったようだな」
「私と暁はこんなレベルの艦娘たちと戦うのは初めてだったしいい経験になったよ」
「私ってこの中じゃ一番お子様なのね……ちょっとそれを自覚したわ」
「んー、暁はもう十分だと思うっぽい」
「きちんと反省しているなら心配ないだろう。ところで今回の演習……MVPには誰が一番ふさわしいと思う?」
俺がそう聞くと全員が榛名を見る。どうやらメンバーたちも俺と同意見らしいな。
「えっと……み、皆さん?」
「もちろん榛名に決まってマス!」
「私は最後の美味しい所をもらっただけだし、格上の武蔵さんとやり合った榛名さんがMVPだね」
頷く榛名以外のメンバーたち。
「そ、そんな……飛龍さんが制空権をとってくれていなければあそこまでは……」
「相手の砲をピンポイントで狙って砲撃していたそうじゃないか。俺も正直そこまでの技量を持っていたとは知らなかったぞ」
「お、お姉さまに鍛えてもらいましたから……」
「というわけでテートクはワタシを褒めるデス」
「さり気なく妹の手柄を横取りするな……まったく。褒めるのは全員に決まっているだろう」
ちろりと舌を出す金剛。お前にも感謝しているよと視線で伝えるとウィンクが返ってきた。
(意外と教官とか向いているのかもな)
そうして金剛から順に全員の頭を軽くなでていったのだが……
「て、提督、もう十分ですよ?」
遠慮がちにかけられた声を無視してなで続ける。
「……はうう」
顔を赤くし恥ずかしがって俯いてしまう榛名。だが彼女は特に労ってやりたいのだ。常日頃金剛と特訓をしていた事は知っていたが、まさか大和型とここまでやり合えるほどの技量を身に付けていたとは……ちょっと感動してしまった。しかも特訓の理由が「早くケッコンカッコカリがしたいから」なのだ。
まあつまり、ここまで健気で頑張り屋なこの娘をここで褒めなくてどうする!という事だ。
「無茶な指示だったがよくやり遂げてくれた。もうすっかりうちの主力艦だな」
「榛名にはもったいないです……」
「素直に受け取っておけ。武蔵とやり合った事は誇ってもいいんだ」
「はい」
榛名はこちらの顔を下から覗き込みながら小さな笑顔を向け……はっとしたようにまた顔を赤くしさらに俯く。
(うぐ……いつまでもなでていたいがまだ全員なでていない)
「本当に榛名さんは可愛いねえ。提督、私たちは後でいいからそのままごゆっくりどうぞ」
「そうもいかんだろ」
「手止まってないよ」
「無性になでたくなったんだ」
「「「「「分かる」」」」」
「うぅ……」
メンバー全員から優しい目を向けられ榛名が縮こまる。
「……お邪魔だったかな?」
不意にかけられた第三者の声に場が静まり返る。現れたのは呉の提督、剛毅だった。
「いえ、部下を軽く労っていただけです」
榛名から離れみんなよりも一歩前へ出る。
「そうか。今回の演習、互いに有益なものになっただろうか?」
「ええ、少なくともこちらは良い経験になりました」
「こちらも良い経験になったぞ。なかなか面白い戦い方をするではないか」
そう言って剛毅が笑いかけてくる。最初の強面なイメージからは想像出来ない柔らかな笑みを見せられ俺たちはポカンとしてしまう。
(この人、こんな顔も出来るのか……)
「あ、ありがとうございます」
「うむ、後で息子には謝らねばならぬな」
「え?」
「同世代の者にあいつの師匠など務まらんと言ったのだが、お前ならばと納得してしまった」
「師匠になった覚えも弟子をとった覚えもないんですが……」
「演習前は悪かったな、試した部分もあるがどうしてもお前の実力を見たかったのだ」
俺の性格を把握しようとしたのは本当だろう。しかし、相手に本気を出せさせるために煽る……この辺りはデジャヴを感じる。やっぱり親子だからだろうか。
「……急に態度が柔らかくなりましたね」
「自分が認めた相手には相応の敬意を払う……当然の事だろう」
冗談で……言っているわけではないと彼の態度から分かった。
「なんとなくあなたの事が分かってきました」
「そいつは結構。それから俺の事は剛毅でいい」
俺が笑みを返すとあちらもニヤリと笑い手を差し出してきたので握る。
「認めてやろう、お前はこの艦隊を率いるにふさわしい男だ」
「呉の提督にそう言ってもらえるとは光栄です」
「勝ったのだから堂々としていればよい。……ところで、この後少し話せるか?」
「はい」
笑みを引っ込め真剣な顔でそう言ってきた。恐らく重要な話なのだろう、断る理由はないので受ける事にした俺は彼と共にその場を後にした。
「なんか普通にいい人だったわね」
「ぽい」
「うん。それよりも……置いてかれちゃったけれど私たちはどうすんの?」
「じきに入渠の案内係が来てくれるんじゃないデスか?」
「軍艦にお風呂って……時代は変わったねえ」
「すまない、待たせたな」
「Oh、武蔵が案内係デスか?」
ボロボロの格好で金剛たちの前に現れたのは武蔵だった。全員を見回し「ついて来い」と背を向けて歩き出す。佐世保の艦娘たちもそれに続いた。
「皆さん、武蔵に付いて行きマスヨ……榛名はいい加減こっちに戻ってくるデス。もうテートクは居マセンヨ?」
「て、提督、もう榛名は十分で……はれ?」
「行きマスヨー?」
「え、あっ、ま、待ってください!」
武蔵に付いて艦内を進むとやがて大きな区画にたどり着く。中を覗くと脱衣所があり、ここがお風呂だと分かった。
実弾ではなく演習弾とはいえ受けたダメージは残るので傷を治すために入渠する必要があるのだ。特に武蔵は艦攻の集中攻撃を受けたため全身に痛みを感じているはずなのだが……まったくもって平気そうに見える。ボロボロであっても堂々とした姿勢を崩そうとしない所はさすが呉の艦隊総旗艦といったところか。
「ここが一応風呂もといドックだ。修復剤を投入してあるからすぐに出てもいいしのんびり寛いでも構わん」
「呉の他のメンバーたちは?」
「もうすでに中に入っている」
「分かりマシタ」
脱衣所で衣服を脱いで風呂場へ。大きくはないがだいたい20人くらいは同時に入れそうな広さであった。一体どれだけの予算を使ったのだろうか。
先に湯船に浸かっていた鳳翔たちは金剛たちを見ると小さく会釈をした。
「どれ、せっかくだ。私が背中を流してやろう。勝者の特権だ」
「あっ、ハイ」
「じゃあ私は鳳翔さんにお願いしよっかな」
「ふふ、いいですよ」
各自それぞれが体を洗い始める。飛龍は鳳翔に、金剛は武蔵の誘いで背中を流してもらっていた。
「背中はもう終わったが次はどうする」
「前は自分でやるので髪をお願いしましょうかネ」
「……長く美しい髪だな。髪は女の命とも言う、私に任せて大丈夫か?」
尋ねた武蔵に対して金剛は後ろへ半分振り返って小さな笑みを見せる。
「背中の時も意外と丁寧に洗ってくれていたので信用していマス。大和型に髪を洗ってもらう機会なんてそうそうありマセンから」
「姉とは一緒に入った事は無いのか?」
「無いデス、大和型では今回の武蔵が初めてデース」
「この私が一番最初か……ふっ、そいつは光栄だな。任せておけ」
「お願いシマース」
再び前へ向き直った金剛の栗色の長髪を武蔵は丁寧に洗い始めたのだった。
「隣いい?」
湯船に浸かっていた雪風は声をかけられ顔を上げた。声の主は暁であった。後ろには川内と夕立もいる。
雪風は彼女たちのために少し場所を空けて答えた。
「はい、いいですよー」
順番に湯船に浸かる暁たち。ちなみに少し離れた所では蒼龍が飛龍に九九艦爆乳を揉みしだかれパニックになっていた。鳳翔と榛名は止めるべきか…‥と考えつつ自分たちの胸部装甲を見て、次に二航戦たちのそれを見てため息を吐く。
「あなたって本当に強いのね。すっごく苦労させられたわ……」
「雪風には幸運の女神様がついていますから!」
「私たちの鎮守府にも雪風がいるんだけど、いずれあなたみたいになるのかしら」
「うーん、どうでしょう……。そういえば今回の演習、時雨ちゃんが出て来るのかなあと思っていましたけれど出て来ませんでした」
「ん?何で時雨?」
「2人はそれぞれ軍艦時代の活躍ぶりから〈呉の雪風〉、〈佐世保の時雨〉という呼び名でも有名だったっぽい」
「ああそういう……」
「同じ幸運艦と呼ばれた者同士、演習を通して仲良くなりかったんですが……」
「後でいくらでも話せばよくない?」
「多分時雨も興味を持っているっぽい」
「そうでしょうか?」
「ええ、お風呂を出た後みんなでお話しましょう?」
「……はい!」
「本当にゴメンナサイ!」
「えっ!?ああいや!別に気にしないでくれ、私が未熟者だっただけだ!」
体を洗い終えた金剛と武蔵が真っ先に向かったのは那智の元だった。頭を下げる金剛に慌てて声をかける。実際驚きはしたものの彼女は別にそこまで気にしてはいなかった。行う艦娘がほとんどいないだけで近接戦闘はきちんとルールで認められているのだ。
「金剛お姉さま、那智も気にしていませんから」
那智の隣で湯船に浸かる霧島が言う。
「トラウマになっていないか心配で……」
「私は軍人だ。驚きはしたが恐怖はしていない」
「だそうです」
ほっとする金剛。
「本当にお姉さまはお強いのですね。まったく勝てるビジョンが見えませんでしたよ」
「霧島の砲撃精度もなかなかすごかったネー」
「金剛は一度も直撃しなかったがな。ちょっと自信を無くしそうだよ」
那智が苦笑いで答える。
「避けるのは得意デース」
そのままお互いの長所を褒め合う金剛たちだったが、ふと武蔵が呟いた一言に金剛が固まる。
「……ところで、お前たちの提督は何者だ?」
「え?」
武蔵の視線は金剛の左手に向けられていた。
「たいした物は出せないが……」
剛毅さんについて入った一室で彼が茶菓子を出してきた。俺は今、彼と小さなテーブルを挟んで向かい合うように座っている。
「間宮の羊羹だ。お前の鎮守府にはもういるのか?」
間宮……そろそろうちにも呼ぶべきか?
「いえ、代わりに私がそういった物を作っております」
「提督自ら甘味を作るのか?」
彼が少し目を見開く。まあ確かに提督が艦娘の食べ物を作る鎮守府なんてそうそう無いだろう。
「変わった提督だな」
「そうかもしれません」
「本当に変わっている……」
「……」
「本題に入る前に聞きたい事がある」
彼がじっと俺の目を見つめる。
「お前は何者だ」
「何者……とは?」
「今回の演習……自分の艦娘1人1人の事をきちんと把握した上での配役、艦娘の戦意を上げる高い信頼関係、そしてその作戦指揮……とてもお前が新人提督だとは思えんのだ。お前は明らかにあのメンバーを扱う事に慣れていた」
「士官学校でも実技は得意でしたから」
「それでも説明出来ない部分がある。艦娘たちに……特に扱いが難しいとされていたあの4人に心から慕われている点だ」
「とても良い娘たちですから」
「本当にそれだけか?初対面の時にお前を煽った瞬間俺へと向けてきた敵意……たった数ヶ月で彼女たちがあそこまで心を開くのか?」
質問しているが彼はその答えをすでに確信しているように見える。
「間違いなくお前と彼女たちの関係は長い時間をかけて作られたものだろう」
「……」
俺は答えない。
「まあ金剛を見れば分かる事だ。金剛という艦娘は提督に対して大きな好意を持つ傾向が強く、基本的に相手との間に壁を作らない艦娘だ。スキンシップも積極的で提督に構ってもらいたがるというのも有名で、実際誰とでも仲良くなれる艦娘だろう」
だが、と彼は続ける。
「金剛という艦娘は決して自身の提督を裏切らず、一途に愛する」
「そう……でしょうね」
「彼女の提督を裏切るような真似はしないはず……例えば自身の提督以外と契りを結んだりとかな」
そう言った彼の視線は俺の左手にある銀のリングへ。
「〈鬼の金剛〉が契りを結ぶほど心を許す存在など1人しかいないと思うのだが違うか?」
どう答えるべきだろうか。別にそこまで徹底して秘密にしているわけではないし、今の俺は無事に本物の提督になる事が出来ているので彼女たちの提督を公言出来る。だが学生が提督をやっていたなどと、はたして彼は信じるのか。
「違いません」
「そうか……。では本題に入ろうか」
「えっ」
あっさりと流される。身構えていたが肩透かしを食らってしまった。
「細かい事などどうでも良い、俺はお前を認めた……それだけで十分だろう。自慢じゃないがこれでも一応人を見る目はあるつもりだ。仕事が出来るのならば問題ない」
本当にただ確認しただけだったらしい。
「は、はあ……」
「とにかく今は少しでも戦力が欲しいのだ。まずはこれを見ろ」
彼が懐から出したのは数枚の写真。海を埋め尽くす深海棲艦の群れが写っている。最初に目を向けた写真はほとんどが駆逐イ級であったが数が異常だ。熟練の腕を持つ艦娘でもこの数はキツイだろう。他の写真には空母や戦艦の姿も写っていたがそれよりももっと危険な存在たちが写り込んでいた。
「これは……!」
深海棲艦特有の真っ白は肌と白髪。ストレートな髪の一部をサイドテールでまとめており、ボロボロの黒いセーラー服とネグリジェをミックスしたような衣装、手足には甲冑を身に付けた美しい女性。その背後にはサメの頭のような見た目の禍々しい艤装とそれに付いているいくつもの砲が見え、艤装と露出した手足には赤い亀裂が走っている。
「空母棲姫……」
空母棲姫……空母型の姫級である。そいつが2体確認出来る上に俺にとっては初めて間近で見た姫級である戦艦棲姫の姿もそこに写っていた。
「つい先日本部に送られて来た物だ。現場へ偵察に向かった艦娘たちが命からがら届けた記録がこれらしい……場所は鉄底海峡───俺たち海軍が地獄を見たアイアンボトムサウンドだ」
鉄底海峡(アイアンボトムサウンド)……大戦時代多くの軍艦が底へ沈み、今から数年前の大規模作戦においても多くの艦娘たちが命を散らしていった海域。海軍が大打撃を被った地獄の海域であり、当時の作戦に参加した艦娘や提督の中には仲間たちを失ったショックから精神を病んだ者もいた。失った艦娘の数は公にされていないが当時いた艦娘たちの半数近くが沈んだと言われている。
何故そんなにも多くの犠牲が出てしまったのか───その大きな理由はアイアンボトムサウンドに展開されている闇である。夜でもないのに海域が闇で覆われ太陽の光が一切届かない。深海棲艦との戦闘において度々戦闘海域が夜のように暗くなる謎の現象は確認されているが、アイアンボトムサウンドほどではないと言われている。アイアンボトムサウンドの場合、完全に夜と言える状態になっているのだ。つまり行われる戦闘は常に夜戦。そして深海棲艦たちは闇に溶け込む黒い艤装と装甲を持つ。艦娘たちはどこから来るか分からない攻撃に怯えながら闇の中で必死に戦ったのである。
当たらない砲撃、味方の位置の把握が難しいため助けも間に合わない、降りかかるプレッシャー、周囲が全く見えないという恐怖……夜戦経験が豊富な高練度の艦娘たちがほとんどいなかった当時の犠牲が大きくなったのは当然の事であった。
「アイアンボトムサウンドに姫級が3体も……」
「ヤツらが集まっているのは間違いない。ここに写っていないだけで他にも脅威となる存在がいるかもしれん。だが現在分かっている情報だけでもかなり厄介だ」
「……空母棲姫は夜でも艦載機を飛ばす事が出来る」
先手を取られやすく、最悪の場合夜に艦載機を飛ばす事の出来ないこちらが一方的に嬲られる事になる。そもそも夜戦がメインとなるため主力艦隊へ空母を編成に入れる事がまず無い。
沈黙が流れ、やがて彼はポツリと呟いた。
「地獄の再来だ」
実際にこんなルールのイベントが来たら無理ゲーですね。夜なのに敵艦隊との会敵前に航空攻撃を食らう可能性がある艦これなんて……
5章本編はこれで終了です。閑話を少し挟みます。