「ようこそ佐世保鎮守へ。俺が提督の飯野勇樹少佐だ。うちの規律は厳しくないから敬語はとくに必要ない。今回は我が鎮守府の新人育成のためによく来てくれた、感謝する」
「「「「よろしくお願いします」」」」
俺は派遣されてきた大和、夕立、時雨、飛龍の4人と対面していた。4人の容姿をそれぞれ述べると、夕立はクリーム色のイヌミミのような癖っ毛のある髪を持ち、赤のリボンがついた黒のセーラー服に白のマフラーのようなものを着ている赤目が特徴的な駆逐艦だ。駆逐艦なのに出るとこが出ている。時雨は髪の片側を三つ編みにしている黒髪の駆逐艦でマフラー以外は夕立と同じセーラー服を着ている。こちらも垂れたイヌミミのような癖っ毛のある髪を持っている。飛龍は頭に日の丸が描かれた鉢巻を巻き、柿色の着物と草色のスカートを着た航空母艦だ。最後の大和は赤いラインが入った白いノースリーブの制服と赤いスカートを着た日本最強と言われている戦艦で、長い髪をポニーテールでまとめている。
改めて4人を見てみるが、大和に関しては問題ない。だが夕立、時雨、飛龍の3人は明らかに元気がない。少しやつれているようにも見える。
「さっそくだが、これから指導を行ってもらいたい。飛龍には対空演習、大和には砲撃演習、夕立と時雨は新人に駆逐艦の戦い方を指導してやってくれ」
「……あの」
「……何かな?」
「私たちってどこかで会ったっぽい?」
「なぜそう思うんだ?」
「なんか懐かしい匂いを感じたっぽい」
「匂い……?」
やっぱこいつは犬なのだろうか?俺の変装は匂いに関しても妖精の技術である程度誤魔化せると言われていたんだが。どう答えるべきか……
「やめなよ夕立、僕と君は長いこと一緒にいるけれどこの人の顔を僕は見たことがないよ」
「……確かにあの人の顔じゃないっぽい」
夕立はシュンと俯きそれ以上何も聞いてこなかった。
……心が痛い。でもここで打ち明けてしまうと彼女たちは間違いなく俺の鎮守府に来ようとするだろう。まずは今回の演習に勝って周りの評価を得ないと彼女たちを受け入れられない。
「あー……、では演習場へ行くのでついてきてくれ」
ーーーーーー
電と皐月の2人は演習場で飯野を待っていた。
「どうしたのですか?」
「いや、司令官が今日から教育係の先輩たちが来るって言ってたじゃないか。どんな人が来るのかなーって」
「普通なら軽巡洋艦の先輩が来ると思うのです」
「普通なら?」
「電たちの司令官はちょっと普通じゃないのです」
「中将にケンカを平気で売ったりするしね」
「おーい!お前ら集合だ!」
「来たみたいだね」
2人は声の方へ顔を向けた。
「あれが教育係の方た……え?」
「……どう見ても軽巡洋艦に見えないね」
「紹介する。左から戦艦大和、航空母艦の飛龍、駆逐艦の夕立と時雨だ」
「「大和!?」」
「驚いたか?」
「こんな人が来たら驚くに決まってるよ!?」
「あの、大和さんにも驚きなのですがそちらの3人はもしかして……」
「ああ、電の考えてることは合ってる。この3人は横須賀第二支部の者だ」
「〈東国の鬼神〉が率いた横須賀第二支部の四天王の3人なのです……」
「え?他も有名な人たちなの?」
「秘書艦の養成所で聞いたことがあるのです」
「えっと……どんな人たち?」
「……今から4年ほど前に横須賀第二支部にある人が着任したのです。名前は野木勇。着任当初はただの新人だったのですが徐々に戦果を上げて頭角を現し、多くの大規模作戦の成功に貢献した人なのです。そして、そんな彼には4人の優秀な部下がいたのです。それぞれが〈鬼の金剛〉、〈天の飛龍〉、〈悪夢の夕立〉、〈大天使時雨〉と呼ばれ畏怖されていました。……でも、一年ほど前から彼女たちは急に表舞台に出てこなくなりました」
「……どうして表舞台から消えたの?」
「ある日突然野木提督が辞任したらしいのです。本当に辞任したのかは分かりませんが彼の行方は何一つ分からず、指揮官を失った彼女たちは後任の提督たちとも馴染めず、以前のように活躍することはなくなってしまったと聞いているのです」
「そこまでにしてくれるかな電。ちょっと空気が重い……」
「え?あっ……」
夕立、時雨、飛龍の3人は俯いていた。
「ご、ごめんなさい!」
「……いいさ、実際僕たちはかつてのように戦える自信がない。一応指導はするけど期待しないでくれ」
「私たちは提督さんに喜んでもらいたくて戦ってただけっぽい……」
「……多聞丸と同じくらいあの人のことは尊敬してたよ」
「3人とも、今は落ち込んでる場合ではないわ。私たちの任務を果たしましょう。野木提督もきっとあなたたちが落ち込むことを望まないと思うわ」
「そんなにすごい人だったんですか?」
「……優秀な人だったけど、それ以上に僕たちを人間扱いしてくれる優しい人だった」
「……」
「……?どうしたんだい?」
皐月は3人の前に立つと頭を下げた。3人が驚いて皐月を見る。
「……お願いします。ボクたちを鍛えて下さい!どうしても見返してやりたい奴がいるんだ!それに……ボクを拾ってくれた司令官の優しさに報いたいんだ!」
「……拾ってくれた?君はドロップ艦なのかい?」
「捨て艦です。ボクは前の司令官に主力艦の弾除けにされて最終的に見捨てられました。でも、今の司令官はこんなボクのことを大事な戦力だと言ってくれてボクに優しくしてくれたんです」
「電たちの司令官も艦娘を人間扱いしてくれる優しい人なのですよ」
時雨が飯野をジッと見つめた。
「君にとって艦娘とはなんだい」
「戦う能力をもった人間以外の何者でもない」
「……ふふ、あの人と同じことを言うんだね」
「気に障ったか?」
「いいや、君のように艦娘に慕われている人に会えて嬉しく思うよ」
ほんの少しだが時雨の纏う雰囲気がやわらかくなる。
「……ボクたちを本気で鍛えていただけますか?」
「うん……気が変わった。僕たちなんかの指導でいいならいくらでもやってあげるよ」
「夕立も協力するっぽい」
「時雨たちが本気でやるなら私も本気で指導してあげるよ」
「ありがとうございます!」
「……よし!では、さっそく位置についてくれ!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
「こちら時雨、配置についたよ」
『分かった。ではこれより対空演習を始める!』
「皐月と電の2人はまず僕と夕立が手本を見せるからそこで見ててね」
「「はい!!」」
『行くわよ時雨、夕立。攻撃隊発艦始め!』
飛龍の掛け声とともに艦攻、艦爆の艦載機が飛び立ち時雨と夕立に襲いかかる。
「夕立、左は任せたよ」
「っぽい!」
迫り来る艦載機を時雨と夕立が機銃で迎撃する。機銃の砲身が不規則な艦載機の動きを捉え、次々と撃墜していく。ある艦載機の左翼に当たった銃弾が続けて他の艦載機の尾翼に当たり連鎖爆発を起こし、他の艦載機を巻き込んで墜落する。順調に艦載機の数を減らしていた2人だが、突然艦載機たちの動きが変わった。
「危ないのです!」
「っ!ぽいっ!」
「えっ」
しかし夕立が突然魚雷を空中へ放り投げそれを銃撃した。爆発が起こり煙が夕立と時雨の姿を一瞬だけ隠し、その隙に二人は立ち位置を変える。
「ありがとう夕立。これで終わりだよ!」
残った艦載機が撃墜された。
「む、無茶苦茶なのです」
最後の艦載の撃墜を確認し、二人は電たちのもとへやってきた。
「どうだい参考になったかい?」
「す、すごかったよ」
「並みの戦艦や重巡以上の対空能力なのです……」
「ふふん、褒められて悪い気はしないっぽい!」
「魚雷にあんな使い方があったのか・・・・・・」
「皐月ちゃん、普通は誰もあんなふうに使おうとは思わないのです」
「野木提督に『君たちは艦である前に人間なんだ。今までの常識にとらわれないほうがいんじゃないかな』って言われてから覚えた技っぽい」
「今までの常識にとらわれない……ですか」
「これはこういうものだ~ていう固定概念を無くせってことかな?」
「そういうことだね」
「次は皐月たちの番っぽい」
「よーし!」
「なのです!」
『2人とも準備はいいかー?』
「「はい!」」
『いくよっ!攻撃隊発艦始め!!』
飛龍の艦載機が迫る。皐月たちは艦載機に機銃の砲身を向け構えた。
「てえええい!」
「なのです!」
2人は機銃を掃射する……が、
「え、嘘……」
「一つも当たらないのです……」
艦載機たちは機銃にかすりもせずに2人へと迫る。
「マズい!!攻撃圏内だ!!」
「か、回避なのです!!」
しかし、一機も撃ち落とされていない艦載機の攻撃からは逃げられず、電が被弾した。
「はにゃーー!?」
「電!」
「電のことは気にしないで欲しいのです!」
「くそっ、なんで当たらないんだよ!」
艦載機たちは変幻自在に飛び回って機銃を回避する。皐月は必死で機銃を当てる方法を考えていた。
(さっきから一向に当たる気配がない……。艦載機たちの動きに追い付けない!どうすればあの動きに追い付けるんだ!?)
「……」
(追い付けない……いや、待てよ?
「当たれええっ!」
艦載機に皐月の機銃がヒットした。
「……へぇ」
「当たったっぽい!」
「皐月ちゃん、すごいのです!!」
「へへん、どんなもんだい!」
『気を抜くのは感心しないよー』
「えっ?うわあっ!?」
「皐月ちゃん!?」
『そこまで!演習終了だ』
ーーーーーー
「戦闘中に油断なんてしちゃダメよ?」
「ごめんなさい」
「まあ、5人ともお疲れ様。油断をしたのは良くないが、初めての対空演習で飛龍の艦載機を撃墜したのは見事だったぞ皐月」ナデナデ
「えっ?あ、ありがとう……」ナデラレナデラレ
「確かに飛龍の艦載機を初見で撃墜するなんてたいしたものだよ。皐月は才能があるよ」ナデナデ
「よくやったっぽい!」ナデナデ
「私も本気を出していないとはいえ、撃墜されるとは思わなかったわ」ナデナデ
「電は一つも当てられなかったのに、皐月ちゃんはすごいです!!」ナデナデ
「な、何でみんなしてボクをなでるのさ!?」
「「「「「可愛いからに決まってるじゃないか」」」」」
「あうう……」
「……そういえば、皐月ちゃんはどうやって飛龍さんの艦載機に機銃を当てたのですか?」
「……機銃の砲身を艦載機を追いかけるように動かしても追い付けないから逆転の発想で艦載機を待ち構えることにしたんだよ。艦載機の動きから通りそうな場所を予想してそこへ砲身を向けて、通るタイミングで引き金を引いただけだよ」
「あっ……なるほどなのです」
「それが正しい対空戦闘だよ。ただ、どの辺を通るのかと艦載機の動きを予想すること自体がなかなかできることじゃない。いいカンをもってるよ」
「夕立もそう思うっぽい!」
「誇っていいわよ」
「ありがとうございます!」
「というか基本的なやり方ぐらい提督に聞いてないの?」
「うぐっ、すまん……てっきり知っているものだとばかり」
「かつての軍艦の魂を持っていると言っても、艦娘によっては戦い方を詳しく覚えている娘とそうでない娘がいるからね」
「皐月ちゃんたちは覚えてないタイプだったみたいだね」
「建造の工程でそういう事が起こると学校で習ったな」
「まあ、上手くいったのでよしとします」
「すまんな皐月、電」
「別に気にしてないよ」
「電もです。……ところで大和さんはどこに行ったのです?」
「彼女には夕食の準備を頼んでいる」
「あれ?ここには間宮や伊良湖はいないのかい?」
「残念ながらいない。我慢してくれ」
「皆さーん!夕食の準備が出来ましたよー!」
「では行こうか。実は君たちのために俺特製のシフォンケーキを作ってあるんだ。よかったら食後に食べてくれ」
「ケーキがあるっぽい!?」
「いいわね!」
「司令官って料理できたのかい!?」
「普段は電に作ってもらってるが、多少はな」
「なら、普段から作って欲しいのです」
「仕事があるだろうが」
「ここでの仕事はもう覚えたので、司令官さんが作るときは電が仕事を代わるのです」
「たいしたもんは作れんぞ?」
「シフォンケーキを食べてから判断するのです」
「みんな早く行こうよ!」
「……」
「……?時雨、どうしたっぽい?」
「いや、なんだか懐かしい空気だなって思って……」
「夕立たちも早く来いよー!」
「今行くよ!」
余談だがシフォンケーキはめちゃくちゃうまかったらしい。
ーーーーーー演習まであと12日