時雨たちが来てから5日が経った。
「2人ともすっかり対空戦ができるようになったね」
「最初の頃とは大違いっぽい!」
「時雨さんたちがお手本として優秀なだけだよ……」
「電たちは見よう見まねでやっているだけなのです」
「いや、艦載機に攻撃が当たるようになってるし、間違いなく強くなってるよ」
「嫌というほど練習したからね……」
「2日目以降はスパルタだったのです……」
「1日中爆撃されてボク死ぬかと思った」
「トラウマになりそうなのです」
「ははは」
「時雨ちゃんも夕立ちゃんも最近よく笑うようになったのです」
「え?」
「あー、確かに最初と比べると表情がやわらかくなったよね」
「きっと君たちと提督のおかげだね」
「ぽい!」
「ボクたちのおかげ?」
「君たちとここの提督といると野木提督といたときに感じた心地よさと同じものを感じるんだ。そのせいか、ここに来てから体もあの頃と同じように動くようになってきたし」
「あれだけ動けて完全じゃないんだ……」
「ここは居心地がいいっぽい!」
「ふふ、気に入ってくれてなによりなのです」
「さて、早く提督の所へ行こうか」
「ふむ、対空戦についてはもう合格レベルだということか?」
「うん。そろそろ砲雷撃戦の訓練をするべきだよ」
「とうとう大和の出番ですね!」
「嗚呼、今日から資材が溶けるな……」
「大和さん、よろしくお願いします!」
「お願いするのです!」
「任せて!あなたたちを一人前にしてあげるわ!」
「いや、張り切らなくて大丈夫だ……」
「飯野提督はちょっと黙ろうか」
「時雨が辛辣に」
「資材なんてどうでもいいじゃないですか」
「飛龍、君は大和の燃費の悪さを知らんのか」
「いいからさっさと始めるのです」
「電!?」
「ぽい?」
「夕立、君だけが癒やしだ……」
ーーーーーー
「えー、まず最初に遠距離から飛んでくる砲弾の回避を練習してもらう。今回大和が使うのはペイント弾だ……当たるとけっこう痛いがな。君たちがスタート地点から大和の砲撃をかわしながら砲雷撃戦の距離まで近づくことが出来ればこの訓練は合格だ」
「絶対当たりたくないや」
「なのです」
「同感かな」
「ワクワクするっぽい」
「では配置に付いてくれ」
「え?こんな距離から?」
「これが大和の射程だよ」
「艦娘の大和さんの射程は2,30kmぐらいだと言われているけど、命中精度が低いからそれはやらないっぽい」
「大和さんの姿が見えないのです・・・・・・」
『今回は15kmで行う。では始め!』
合図ととも4人は全速で進み始めた。しばらくして時雨が全員に言う。
「……10時の方向に大和さんの水上機を発見したよ。すでに見つかってる。来るよっ!」
「えっまだ2kmしか進んでないよ!?」
「これが戦艦の射程だよ!!」
「砲弾が見え…」
「早く回避するっぽい!」
凄まじい轟音とともに砲弾が4人のそばへ落ち、遅れて砲撃音が聞こえてくる。
「ほ、砲弾が見えてから着弾までが想像以上に早いのです」
「2人とも目を凝らして耳をすますんだ!近くに来れば風切り音くらいは聞こえるはずだ」
「……見えたっ!」
「回避ーーーっっ!!」
「はにゃっ!?」
着弾の水しぶきで電の姿が見えなくなる。
「大丈夫っぽい!?」
「うぅ……ごめんなさいなのです」
再び電の姿が見えるようになると、彼女の体にはペイントがついていた。判定は中破だ。
「至近弾でこれなのか……電、大丈夫?」
「だ、大丈夫なのです」
「うーん、そろそろ本気でアシストしないと大和さんの所へはたどり着けそうにないね」
「どういうこと?」
「最初から僕たちの指示で動いていたら成長しないだろうと思ってね。でもこれからは指示を出すからその通りに動いてくれ」
「分かった」
「……2時の方向へ回避!」
「「「了解!!(なのです)」」」
4人が動くとすぐに砲弾が4人の背後に落ちたが、至近弾というほど近くではなかった。
「さっきよりも余裕がある……」
「近付くほど余裕はなくなるっぽい」
「10時の方向へ回避!」
砲撃をかわしながら4人は大和のもとへと進む。時雨が指示を出し始めてから4人に被弾はない。皐月は時雨の読みの正確さに驚愕していた。
(砲弾が見える前から指示を出してる……まるで最初からどこに飛んでくるか分かってるみたいだ)
「あと少しだ!」
(驚いてる場合じゃない。この技術をボクも身につけないと!)
「時雨ちゃんはすごいのです!」
(集中だ。感覚を研ぎ澄まして……何だ?変な感覚が……)
「次は」
「10時の方向……?」
「!……正解だ皐月」
砲弾をかわし続ける。皐月は感覚と着弾の様子について考えていた。
(この感覚は……2時の方向?)
「2時の方向へ回避!」
時雨はそんな皐月の様子を時々見ていた。
(僕の指示の前から動き始めてる……)
「ふふ……」
「時雨どうしたっぽい?」
「なんでもないよ。っと、11時の方向へ回避!」
そんな中、大和の放つ砲弾の数が増えていく。だが、4人の目に大和の姿が見えてきた。
「さあ、ここからが勝負だ。今まで以上に激しい砲弾の雨が来るよ!!」
ーーーーーー
「みんなお疲れ様」
「ふふふ、どうだったかしら私の砲撃は?」
最終的に時雨と夕立は中破判定で皐月と電は大破判定となっていた。皐月と電は地面に大の字で倒れ動かない。
「やっぱり大和の砲撃はすごかったよ」
「楽しかったっぽい!」
「……動けないのですぅ」
「……ペイント弾なのにものすごく痛かったよ」
「あとどのくらいまで近付ければよかったのですか?」
「あと50mで砲雷撃戦の範囲だったぞ」
「そ、そんな……」
「十分合格のラインなんだがな。そもそもこの大和は日本海軍の中でも有名な大和だ。姿の見えない距離から驚異的な命中率で相手を仕留め、近付けば近付くほど凄まじい砲弾の雨を降らし相手を寄せ付けないことから〈元帥の盾〉と呼ばれている人だ」
「完全に本気という訳ではなかったけど時雨たちがいなければ2人とも開始してすぐに大破していたと思うわ」
「あれで本気じゃなかったの!?」
「……大和さんといい、時雨ちゃんたちといいなぜこんなすごい人たちを司令官さんは呼び寄せることができたのですか?」
「それは僕たちも気になるな」
「た、たまたま伝手があっただけだ」
「……ふーん」
「まあ、そのうち分かると言っておく」
「まあそういうことにしておくよ」
「ありがとう」
「……こんな人たちに鍛えてもらえるなんてボクたちってけっこう幸せ者なのかもね」
「僕たちが指導しているからっていうのもあるけど皐月の成長ぶりに関しては皐月自身の才能もある」
「そうなのか?」
「皐月は物覚えが早いというか、自分の力を引き出すのがうまい。普通、頭で考えてもその通りに動くのは難しいはず……なのに皐月はそれができているように見えるんだ。天才肌っていうのかなこういうの」
「時雨が認めるなんてすごいな。さすがだな皐月」ナデナデ
「まだまだ未熟だけどね」ナデナデ
「夕立も認めるっぽい!」ナデナデ
「電も負けていられないのです!」ナデナデ
「とてもやりがいがあるわ」ナデナデ
「う、う……ええい!みんなしてなでないでよまったく!」ナデラレナデラレ
「と、言いつつも抵抗しないんだな」
「夕食ができたわよー!」
「今日の料理担当は飛龍か」
「それじゃ、今日はここまでだ!皐月、電の2人は大和に運んでもらえ」
ーーーーーー
夕食後、俺は執務室で今日の訓練の結果をまとめていた。改めて内容に目を通す。……皐月の成長ぶりがすごい。対空戦における撃墜数は日に日に増えているし、時雨の話では今回の大和との訓練では途中から時雨の指示よりも先に動き出して砲弾を回避していたらしい。
「こりゃとんでもない逸材かもしれん」
突然扉をノックする音が聞こえ、俺は資料から目を離し扉を見つめた。
「失礼するよ司令官……」
入ってきたのは皐月だった。
「どうした?何かあったのか?」
「教えて欲しいことがあるんだ」
「言ってみろ」
「……今日の大和さんとの訓練のことなんだけど、途中まではなんとか回避出来ていたんだ。でも、砲雷撃戦の距離に近付くにつれてどうやっても回避できないと感じる砲弾が出てきたんだ……」
「相手は歴戦の大和だ。仕方がないだろう」
「でも、演習相手の卑田中将の鎮守府にも戦艦や重巡がたくさんいる。よけられないなんて言ってられないんだ」
「それで?」
「よけることが出来ない砲弾をなんとかする方法を教えて欲しいんだ」
「なるほど……」
「何か無いかい?強くなってるのは確かだけど今のままじゃあの鎮守府には勝てないと思う。無理なお願いだとは思うけれど……」
「いくつかある」
「えっ」
「簡単な話、砲弾をよけなければいい」
「ど、どういうこと?」
「時雨たちを含めた横須賀第二支部の四天王の最後の1人を覚えているか?」
「確か……〈鬼の金剛〉さんだっけ?」
「彼女は回避の間に合わない砲弾を手で弾いていたよ」
「そんなことが出来るの!?」
「きちんと受け流さないと爆発して大惨事になるがな」
失敗してアフロになった金剛を見て笑った覚えがある。
「……でもボクの場合は駆逐艦だしそれはできないよ」
「いっそのこと刀なんかで斬り飛ばせばいい。お前は砲撃の精度が特別高いわけではないし、まだ3次元的な動きが出来る訳ではないから他の方法はおすすめしない」
「他の方法が気になるけど、斬り飛ばすってそんなこと出来るのかい?」
「出来る」
「なんで断言できるの……」
「やったことがある」
「えっと……誰が?」
「俺が」
「君は本当に人間かい!?」
若干引かれてちょっぴり傷ついた。
(確かに自分でもおかしい思うけれども……)
「人間だよ。どうだ、やってみるか?」
「本気?」
「冗談は言っていない」
「……教えて下さい」
「本当にお前は頑張り屋だな」
「中将を見返してやりたいのもあるけどそれ以上にボクはあなたの優しさに報いたい」
「別に俺のために戦う必要はないぞ」
「ここでの毎日は楽しいし、何よりボクは君が大好きだからね」
そう言って皐月が俺に笑顔を向ける。自然と頬が熱くなった。
「……そうか」
「あ、照れてるのかい?可愛いね!」
「お前の方が可愛いよ」
「うぇっ!?//////」
さて、可愛い可愛いこいつのために最高の刀を用意せねば。
ーーーーーー演習まであと7日
皐月は可愛い。