その夜、俺は夕飯の準備を始めた。
妹と二人暮らしを始めて、妹が食事を作ってくれることになっている。そのはずだが、昼間の一件のせいで俺が作ることとなった。あの話には続きがあった…
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「もう!兄さんなんて知らない!」
「いや、ちょ…」
「もう出てって!今日は夕飯作ってあげない!兄さんが私の分まで作って!」
「まだ話が…」
「出てけーーーー!!」
俺は何も言えなかった。話したかったことがあったが妹に止められてしまった。
そして妹に身体を押されて部屋を出た。
「…ま、いっか。夕飯は作ってやるから、出来たら下に降りてこいよー」
「…」
返事はなかった。
俺は流されるままに階段を降りた。
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そんな事を思い返しつつ夕飯が完成した。
リビングの食卓に俺と妹の分を用意して並べ、あとは妹を呼ぶだけだ。
「花ー、夕飯出来たぞー」
…返事がない。
やはり昼間の一件があったからか、恥ずかしくて顔を合わせづらいのだろうか。あれは俺が悪いのか?と思うが、妹のことだ、仕方ない。
「俺が悪かったよー、早く食べないと冷めちまうよー」
今日の夕飯は妹の大好きなオムライスだ。
別に妹の機嫌を直そうとして作ったのではない。簡単に作れて時間も短く済むからだ。
うまく出来たかは知らない。
とにかく冷めてしまったらもったいないので、早く下に降りてきてほしい。
(ドンッ!)
天井から物音がした。
「なんだ?」
「部屋まで持ってきてェ!」
「は、はぁ…」
俺は実際何もしてないと思うが、妹には何かしら迷惑な行為をしたのかもしれない。妹のことだ、仕方ない。
出来立てのオムライスを妹の分だけ持って、開かずの扉の前まで行くことにした。
(こんこん)
「花ー、持って来たぞー」
「そこに置いといて!」
ここまで来てもやはり出てこないのか。どうしよう…このままだとこんな生活が続いてしまう。俺は勇気を出して、
「花!いや、千寿ムラマサ先生!」
「!?」
「さっきは急なことでビックリしただけなんだ!まさか妹が、俺の憧れのムラマサ先輩だったなんて知らなかったんだ!」
「なっ///」
「妹の正体が分かったからって、花に迷惑をかけることはない! 花が憧れの作家だとしても、血は繋がっていない関係だとしても、花は俺の妹だ!俺は花と家族になりたいんだ!これからも妹として大切にしていくつもりだ!だから聞いてくれ!」
「…」
「合作小説のイラストをエロマンガ先生に任せたいんだ!」
「え…」
「今、お前がアイツと喧嘩しているのは分かっている!でもどうか!アイツと一緒に最高に面白い作品を作らないか?」
「なんでそうなるの…」
(ガチャ)
扉が静かに開き始めた…
「兄さんはなんでそんな勝手なことを言うの!なんで私の気持ちを分かってくれないの!なんでそこまでしてエロマンガ先生に関わるの!」
扉が全て開き、妹と目が合った。以前味わった場面とはまた違う、少し怒りを感じるような…妹の目にはうっすらと涙が流れていた。
「せっかく兄さんと最高に面白い作品を作れると思ったのに…なんでそこにまたアイツが出てくるの!」
どうして妹は俺に反発してきてるのか分からなかった。そして妹が扉を開けた理由も分からない。
「アイツに聞いたよ…最近裏でも仲が良いらしいじゃないか!」
「そ、それは違うんだ!誤解だ!」
「うるさいうるさいうるさーい!」
「えぇ…」
いくらなんでもそれは酷すぎやしないか…
「代わりは私の担当絵師にでも頼んでおく!」
「ちょっと待ってよ…」
「とにかくそれでいいの!!」
…俺は何も言い返せなかった。
「…」
「…」
お互い無言の時間が続いた。いつもは気にしないことだが、今日は特別に長く感じた。
いつもは兄の言う事をきちんと聞いてくれる優しい妹で、多少の喧嘩でも話し合えばすぐに仲直りをするはずなのに、今回ばかりは上手くいかない…
なにか特別な理由でもあるのか?
そこで一つ気になったことを話した。
「なんでエロマンガ先生にそこまで対抗するんだ?」
「そ、それは…」
「妹のお前なら俺に仲良しの絵師が居たって気にすることないだろ」
「…」
正論を言ったはずだ。決して誤ったことを話してはいない。俺はそう思っている。
と、そこで俺はある一つの結論にたどり着いた。
「もしかして、お前エロマンガ先生に嫉妬しているのか?」
「!」
「兄がエロマンガ先生に取られたように思えて嫉妬しているのか??」
「!!」
妹は顔を赤くして下を向いていた。
「お、お前…」
「ち、ちがう!私が兄さんと近づきたいとか、そういうのではない!」
妹は赤いトマトのように顔をさらに赤くしていた。
「もう!違うと言っているだろ!決して兄さんのことが好きとかそういうのじゃないか、ら…」
自分では気づかなかったが、俺も顔を赤くしていた。それを見た妹は急に会話を途切らせて、
「に、兄さんの変態!今絶対変なこと考えた!」
「ち、違うって!痛ッ!」
俺は新品の10冊入りノートで叩かれていた。
「もう!今言ったことは忘れて!」
「ちょ、やめろ花!」
妹はやめなかった。
「いい?合作小説を執筆している間は絶対にアイツとは関わらないこと!」
「そ、そんな…」
「じゃないと兄さんとたくさん話せなぃ…(小声)」
「え、今なんて言ったの…」
「今日はもういい!出ていけー!」
「ちょ、ま…」
(バタン!)
俺はそのまま妹に部屋から追い出された。
まだ話を続けようとしたが、やめた。
今日は何を言っても無理だろう。
「あ、オムライス…」
肝心な妹の夕飯を渡し忘れてしまった。
「はぁ…ここに置いとくぞー」
妹の分を扉の前に起き、俺は階段を降りて、リビングで俺の分を食べることにした。
結局その日はもう何も無かった。
正直開かずの扉の前で起こった出来事は、はっきりとは覚えていない。俺も何を話していたのかも曖昧だ。ただ一つ、確実に分かったことがある。
俺の妹──和泉花は、エロマンガ先生を嫌っている。
(合作小説どうなることやら…)
そんなことを考えつつ、その日は眠りにつくことにした。
この話は次の章へと繋がります。
お楽しみに。