悲しみがあった、仲間と思っていた人物の裏切り。
それに伴いカルデアスタッフの過半数が死に、所長のオルガマリーもカルデアスに放り込まれ分子レベルで分解されて消えてしまった。
それでも何とか、崩壊する特異点Fから奇跡的とも言える帰還を果たした人類最後のマスター。
しかしながら無事に戻ってこれても問題は山積み、今や人理継続保障機関フィニス・カルデアは機能不全一歩手前にまで落ち込んでいた。
それでもなんとかしなければならない、そうしなければ人類は完全に滅びてしまう。
何者かによって行われた人理焼却を防ぎ修復するために、またはその何者かを打倒するためにカルデアは無理やり動いていた。
施設の修繕を開始し、何とか稼働させられる目処が立ち、その間のマスターの休息を経て、人理修復のための戦力を増強を図ることになった。
守護英霊召喚システム・フェイトを用いり、人類最後のマスターと呼び出される英霊の合意の元、カルデアにサーヴァントたちが降り立つ。
「おっと、今回はキャスターでの現界ときたか。 ああ、あんたらか。 前に会ったな」
特異点Fで出会い協力したサーヴァント、キャスターのクー・フーリン。
「召喚に応じ参上した。 貴様が私のマスターという奴か?」
特異点Fで立ち塞がったサーヴァント、セイバーのアルトリア・ペンドラゴン[オルタ]。
ちょっとした諍いが起こりそうになったが、協力していくことを前提で召喚に応じたために場は収まった。
人類最後のマスターである藤丸 立香、そのマスターを守るシールダーのマシュ・キリエライト。
近接戦では無類の強さを誇るだろうセイバーのアルトリア、ルーン魔術の汎用性から火力役も支援役もそつなくこなせるキャスターのクー・フーリン。
なかなかにバランスの取れた編成、戦力的にも問題が無い様にみえるが、待ったをかけるのは医療部門トップであり、所長代行を行うロマニ・アーキマンだった。
マシュはともかく、クー・フーリンとアルトリア・ペンドラゴンは人類史上に名を残す偉大な英雄たちではあるが絶対の存在ではない。
戦闘か或いは他の事情で戦線離脱となった際に、送れる代わりの戦力が居ないと立香の危険度が跳ね上がることになる。
カルデアの崩壊もそうではあるが、人類最後のマスターである藤丸 立香が死亡したその時点で人類の滅びが確定してしまうこととなる。
それを避けるためにも、せめて後一体のサーヴァントを予備戦力としてカルデアに置いておこう。
ロマニのその提案に誰も反対はせず、三度英霊召喚の儀が行われた。
マシュの宝具である十字の大楯を置き、システム・フェイトの補助のもとに召喚サークルが起動する。
光が溢れ、青い光輪が大楯の上に並んで広がり、すぐさま縮小して光が一点に集る。
光が実像を結び始める、それだけで立香とマシュの呼吸が止まった。
「下がれ、マスター」
「ちっ、こいつは何が来やがったんだ?」
アルトリアは黒き聖剣を、クー・フーリンは杖を取り出して臨戦態勢。
光が人型を結ぶに連れて場を満たすのは濃密な神秘、誰もが意識せざるを得ない圧力。
光が収まり、大楯の上から下りたのは酷くくすんで解れも見える黒いローブの、フードを目深く被った存在。
長い袖から見える手も硬質さを感じさせる籠手を着け、唯一見える肌はフードから覗く口元だけ。
その肌は生気の感じられない白さ、唇も色を無くしたように薄い。
「答えろ、何者だ」
アルトリアが威圧的に言う、それも当然で二体のサーヴァントが武器を取り出したように、呼び出された存在も武器を取り出していたから。
右手には刺剣を、左手には長めの杖を持ち、戦うための準備を整えていたから。
緊張した場面、一触即発の空気、今にもアルトリアが斬りかかり、クー・フーリンが魔術を放っても何らおかしくない。
『待って! 待ってくれ!』
それを止めるのはやはりロマニだった。
『召喚は双方の合意時のみ召喚されるんだ! 初めから敵対的だったりすると呼び出せないんだ!』
カルデアの敵ならばシステム・フェイトが初めから除外する、それを前提としたものであるためにローブ姿のサーヴァントは本質的には敵でないはず。
それを説明したロマニは二人を止めて武器を下ろさせ、改めてローブ姿のサーヴァントに向かって話しかけた。
『はじめまして、僕はロマニ・アーキマンと申します。 姿を見せず声のみで大変の失礼かと思われますが、何卒ご容赦の程を申し上げます』
尊敬と畏怖を持ってロマニは語り掛ける。
『我々は意図して敵対する気はなく、行き違いの争いを無くすために、相互理解のための話し合いを望んでいます』
そう話すロマニではあるが、ローブ姿のサーヴァントは話を聞いている素振りを見せずにアルトリアとクー・フーリンに警戒を払っていた。
『……あの、御身がどこの英霊かは存じませんので、真名をお聞かせいただきたいと……』
あれ、これ無視されているんじゃ……と凹み掛けていたロマニではあったが、二人が武器を下ろしていたためかゆっくりとではあるが武器を下ろした謎のサーヴァント。
「………」
話してくれる気になったかと待っているも、一向に口を開く気配すらない様子。
『……真名を聞かせる危険性は重々理解しております』
多くの英霊たちのそれぞれの逸話には、その殆どに死因が載っている。
言わば弱点だ、それを突かれれば如何なる強力な英霊でもあっさりと打倒されかねない。
敗北することが確定する英霊なら尚の事、なんとしても知られることを避けたいだろう真名。
真名を教えてくれない理由はそれに因んでいるからだろう、どうしても教えたくないというなら仕方がないと別の切り口を掛けようとしてロマニは止まった。
「………」
その理由は、ローブ姿のサーヴァントが小さく口を開いてすぐに閉じたため。
教えてくれる気があるのか? と待っているとまた口を開いて閉じた。
何度かそれを繰り返す、声が小さくて聞き取れないのかと集音をかけるも発声自体を行っていない。
もしかすると何らかの呪いでも掛けられて、自身の真名を喋れないのではないかと推測。
『……何らかの事情で真名を話せないのでしたら仕方がありません、こちらからは聞かないように致します』
代わりと言っては何だが、フードの下にある顔を見せては貰えませんかとロマニ。
それに対してフードの下で首を軽く横に振るサーヴァント、ゆっくりと右手をフードに掛けて脱ぐ。
「……私の、名前は」
フードの下から露わになる素顔、それを見てロマニは驚愕のあまり完全に停止した。
「……オルガマリー」
何故ならばその姿は分子レベルで分解されて消えたはずの、オルガマリー・アニムスフィアその人であったからだった。