ダイの大冒険異伝-火水の法則-   作:越路遼介

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パプニカ滅亡

 ダイがパプニカの民に討たれてしばらく経った。ここはデルムリン島。勇者ダイの故郷である。バーンの死後、ここはモンスターたちの楽園となっていた。

 ダイの育ての親ブラスは高齢のため、もはや故人ではあるが、クロコダインやチウ、ヒムはこの島で生活していた。ブラスが亡くなったため、すでにロモスより派遣されていた兵士たちもすでに帰郷していたが、ブラスの家はそのままチウが使っていた。そしてそこにポップは来た。

 

「そうか…亡くなられたのか…」

 ポップはブラスの祭壇の前に腰を下ろして手を合わせた。チウがいる。チウはポップの言葉に頷き、改めて訊ねた。

「ダイ君が殺されたって…本当かい?噂には聞いたのだけど信じたくなくて…」

 ポップは祭壇を見つめ深いため息をつき、重く話した。

「本当だ…。これじゃ何のためにバーンを倒したのかな…」

 祭壇の上には、チウがつたない画才で描いたブラスの肖像画があった。その絵の中のブラスは何も知らないように幸せそうに笑っている。

「しかしブラスじいさんは幸せだ…。少なくともあんな悪夢を知らずに逝けた…」

 チウも深いため息をついた。目には涙も浮かんでいる。

「で、どうする気なんだい」

 いつの間にか、チウの家の入口にヒムとクロコダインが立っていた。ポップは静かに立ち上がり、ヒムを見つめて言った。

「パプニカを攻める。みんなの仇を討つ。だが俺一人ではやるにはパプニカは広すぎる。だから助勢をアンタたちに頼みに来た」

 クロコダインとチウはこのポップの言葉に絶句した。あれほど平和を望み、そのために命がけで戦ったポップが自分から戦争を起こすつもりなのだから。

「ちょっと待てポップ!自分が何を言っているのか分かっているのか?そんな復讐戦争起こして何になる!たとえ勝ったとしても何も残らず、ただの人殺しになるのだぞ!」

 クロコダインはポップの右肩を掴んで必死に諭す。

「ボクだってマァムさんの無念をはらしたいよ。でも怨みに怨みで返すのはもっとも愚かな事とブロキーナ老師が…」

「それじゃあ気が済まないよなあ…ポップ」

 ヒムは腕を組みながらえり首をつかまれているポップに言った。

「ヒム!貴様!」

 クロコダインはヒムを一喝するもヒムは引かない。

「俺はよう、ヒュンケルを殺した人間どもが許せねえ。あいつがどれだけ平和を望み命賭けて戦ったか…何度も戦った俺には分かる。こんな田舎に引っ込んでいても、いつかあの男ともう一度戦いたい。それが俺の望みだったんだ!」

 ヒムは余りある怒りを一気に言葉で吐き、息を荒げた。

「それを奪った人間を…俺は絶対に許さねえ…」

 室内には少しの沈黙が流れた。ヒムは続けた。

「オッサンとチウは助勢を断るようだが、俺は行くぜ。パプニカの人間は皆殺しだ!」

 ポップは自分の襟首をつかんでいるクロコダインの手に触れた。

「ありがたい…ヒムが協力してくれるなら、もう無敵だぜ」

 そう言い終わると同時に魔法力でクロコダインの手を弾いた。

「じゃあバルジ島でパプニカの状況を見て作戦を立てよう。あそこならパプニカを一望できる」

 クロコダインは火傷を負った手をさすり言った。

「本気…なのかポップ」

「聞けばパプニカは城下の長老だったジジイが仮の政権を立てたのち、俺を賞金つきの指名手配にしたそうだ。俺が仕返しに動く前に殺すつもりなのだろう…」

 ポップは鼻で笑った。

「『狡兎死して、良狗烹らる』勇者や魔法使いとしての力はバーン亡き今、無用の長物。逆に人々から恐れられ、忌み嫌われる。だからアンタたちもこんな田舎に引っ込んでいるのだろう」

 ポップは決意したまなざしをクロコダイン、チウに向けた。

「人間がそのつもりなら、人間そのものを無くしてやる。バーンが健在ならどのみち人間は滅んだんだ。この平和はいったい誰のおかげだと思っていやがるんだッ!」

 先ほどのヒムのように、ポップは息を荒げ、一気に怒りのたけをまくしたてた。

「ダイたちを殺したこと。そして俺に喧嘩を売ったことを、骨の髄まで後悔させてやる」

 クロコダインとチウはもう何も言えなかった。それは少なからずポップの気持ちが分かるからだろう。

「じゃあ行こうぜ。まずはバルジ島だったな」

 ヒムもポップと同じく復讐の銀髪鬼となっていた。ポップはその言葉にうなずき、ブラスの家を出た。

「ああ、そうそう。オッサン、以前ヒュンケルに言ったそうだな。『人間はいいぞ、今度生まれるなら俺も人間に』…と」

「…ああ、確かに言った」

 ポップは苦笑いをしてクロコダインに言った。

「やめたほうがいい…。人間なんてつまらないぜ…」

 ポップはヒムに触れた。

「ルーラ!」

 

◆  ◆  ◆

 

 バルジ島、かつてパプニカ本土からこの島に攻め込んだ経験を持つポップだが、今回は皮肉な事に逆となった。ハドラー率いる魔軍総攻撃とフレイザードとの戦いの舞台となった中央の塔でポップとヒムはパプニカ全体の地図を見て作戦を練っていた。

「パプニカの国土は広いが人口のほとんどは城下に集中している。これならベタンで十分に先制を加えられる」

 腕を組み、あぐらをかき地図を見ていたヒムはポップに訊ねた。

「そんなに広範囲にできるものなのか?」

「バーンを倒した当時は不可能だったろうな。でも今はできる。ダイが死んでから俺も遊んでいたわけじゃないからな」

 ヒムは感心したような視線でポップを見つめた。

「そして海沖でもベタンを使い津波も誘発させる。そのあとは俺が空からメラミとイオラ、ギラの嵐を吹かせる。パプニカの人口はおよそ一万。ほとんどがこれであの世行きだろう」

 ヒムは地図上のパプニカ城を指した。

「こういう城には緊急用の脱出口があるのが定番だが、そこは押さえたのか?」

「パプニカ城内の詳細を知る者が、すでに我らの仲間にいる。そのものがすでにパプニカに潜み、そこを塞いでいるはずだ。また念を押しパプニカの水源に毒を撒くように伝えてある。バブルスライムから抽出したもので、効き目はほんの数日だが、身体を鍛えていないただの人間には十分に効果はあるだろう」

「なるほど用意周到だな。で俺は何をすればいい?」

 ポップはヒムの言葉を制した。と同時にヒムも気配に気づいた。

 

 誰かが手を打ちながら塔の最上階に繋がる階段から人が降りてきた。

「見事な作戦だな。ポップ」

 真っ白なマントが夜の月に美しく映えた。

「ラーハルト!?」

「お前どうしてここに…」

 ヒムはラーハルトが人間側につくならここで始末しようと思い、身構えた。

「どうしてここに…じゃないぜ。探し回ったぞ」

 ポップを見つめて、ラーハルトはしみじみと漏らした。よほど方々を探したようだ。

「探していた?俺に何か用か」

 ラーハルトは地図を広げて作戦を練る二人の下に行き、目線で座っていいかと聞いてきた。ポップは頷く。

「俺もダイ様の仇を討ちたいと思ったが、一人ではいささか手に余るのでな。お前に加勢してもらいたいと思い探していたのだ。人間に復讐する気が無いのだったら、何とか説得するつもりだったのだが、手間が省けたな」

 地図上のパプニカ城にラーハルトはナイフをグサリと刺した。

「ダイ様の仇を討つ。その話、俺も乗せてもらおう」

 利害の一致したポップ、ヒム、ラーハルトはパプニカへの攻撃を二日後の夜明けと定めた。たった3人だが、1人1人が厄災級の力の持ち主だ。そんな彼らが攻めてくることも知らず、パプニカの国民はつかの間の平和を楽しんでいた。

 

 2日後の夜明け。パプニカの大陸が一望できる海岸に3人はやってきた。

「さて、大暴れするか。ポップ覚悟はいいな!」

 ヒムは右手の拳を左手にパンと当てて言った。ポップはバルジ島からうっすら見えるパプニカ城を見つめ、ニヤリと笑う。

「さあ、ショータイムだ」

 

 パプニカ最期の日が始まった。

 

 突如大地震のごとく、巨大な重力が城下町に襲い掛かった。家々は潰れて子供、年寄りは、ほぼこの重力によって肉塊となった。そして津波が二波三波と押し寄せてきた。パプニカ中には水源に撒かれた毒により原因不明の中毒が猛威を振るっており、ひとたまりもなかったろう。

 津波が引いた後、ヒムが西からラーハルトが東から攻め込んで来た。ほとんどの領民は抵抗らしい抵抗もできず、彼らの手にかかり死んだ。そして空からメラミ、ギラ、イオラの雨が降ってきた。

 城下はほんの数刻で生ける者のいない焦土と化した。残るはパプニカ城。ポップは城門で城の中の人間たちに告知した。

(勇者ダイを殺した者たちの首を持ってきたら、他の者の命は助ける)

 

「…なるほど、面白い趣向だな。エイミさん」

「ええ。今ごろは恐怖にかられて、あの外道どもをよってたかって殺しているかと」

「ちがいない…できることなら茶と菓子でも楽しみながらその光景を見てみたいぜ…クッククク…」

 城の前。樽の上に腰を下ろしているポップの左右にはヒム、ラーハルトそして元パプニカ三賢者の一人エイミがいた。彼女はポップの指示で前もってパプニカに潜み、水源に毒を撒き、城の緊急脱出口すべてを塞いだのだ。

「それにしても脱出口が塞がれていることを知ったあのものたちの顔。さぞや情けない顔だったでしょうね。ぜひ見たかったわ。フフフ…」

 

 今のエイミには昔の優しい女性の面影は何ひとつ無い。

 彼女はパプニカ陥落後、カールにいた。そして姉マリン、同胞アポロ、そして最愛のヒュンケルの亡骸に改めて向かい合った。涙はもう無かった。

 1人1人の顔に死に化粧を施すエイミの顔は無表情だった。美しかった姉マリンの顔はすでに性別も分からないほど切り裂かれ、どんなに死に化粧を施しても美しいマリンの顔には程遠い。化粧道具を床に放ったエイミは短刀を取り出した。

「…私にはもう失うものは何も無い…あるものは憎しみ…復讐の炎…」

 エイミは姉マリンの首に短刀を刺し、肉をえぐった。大動脈を切ったのに血は噴出さない。冷たい血が重力にしたがい、したたり落ちるだけである。彼女はマリンの首からえぐった肉を食らい、そしてしたたり落ちる血をすすった。アポロの亡骸にも同様なことを行った。

「私は三賢者の中で一番魔法が使えなかった。だから姉さんとアポロの力を貸して…」

 エイミはヒュンケルの亡骸を見る。ダイの亡骸を抱きながら無数の槍に貫かれ、ところどころ斧で斬られたヒュンケルの体はもはや人の形さえしていない。エイミはひとつひとつの傷を縫い合わせた。

 そして改めて新しい傷をヒュンケルにつけた。マリン、アポロと同様、首にである。そして血をすすり、肉片を食らった。彼女は自分自身の首も短刀で斬り、その部分をヒュンケルの首の傷に触れさせた。互いの血と血が一つになる。

「冷たいね…あなたの体…。本当のあなたは…誰よりも暖かくて優しくて強くてカッコよくて…でも今、とても冷たいね…」

 3人の肉を食らい、血をすすったエイミの唇は血だらけであった。それを拭い、彼女はヒュンケルの唇に自分の唇を重ねた。これが愛してやまないヒュンケルとの最初で最後のキスであった。

「もう、あなたは戦わなくていいの…安らかに眠ってね…そして私が代わりに戦ってあげる」

 首元から、自分とヒュンケルのが混ざった血を自分の唇に塗った。鮮やかすぎる紅がエイミの唇を彩る。

「ヒュンケル、姉さん、アポロ、私はみんなの血と肉を食べ、すすった。今から私はいつもあなたたちと一緒。だから見ていて私を!必ず仇を取ってあげる!許さない!決して許しはしない!パプニカの領民、私が皆殺しにしてやる!」

 エイミはヒュンケル、マリン、アポロの遺体が安置されている部屋から出て行く。そして二度と振り返らなかった。彼女は向かった。パプニカ領民を全員八つ裂きにするための力を身につけるべく修行の地へ。

 

 ポップはダイの死後、人間への復讐を誓い、妻のメルルと名前もつけていない子供を捨て、カール王国の『破邪の洞窟』に入った。かつて大魔王バーンのバーンパレスを止めるための呪文『ミナカトール』があった洞窟である。そしてポップはその洞窟探検中エイミと再会した。

「エイミさん!?」

 疲れ果て、食料も水も薬草も底を尽き、瀕死の状態でエイミは倒れていた。

「ポ、ポップくん…どうしてここに…」

「そりゃこっちの台詞ですよ。いま治療しますんで」

 エイミは足も折れ、自力で立つこともできなかった。ヒュンケル、マリン、アポロのカタキを討つため、この破邪の洞窟で力を得ようとしたが、志半ばで彼女は倒れてしまった。仇も取れず死ぬ事がエイミは悔しかった。だがもうどうすることもできない。無念の涙を流している時、聞き覚えのある声が自分の名前を呼んだ。

「ベホマ」

 ポップの最大回復呪文がエイミを癒す。全身の傷と骨折が瞬時に癒えた。ポップの渡す水と食料を胃に入れて、ようやく一心地ついた。

「ふう、ありがとうポップくん。助かったわ」

「いやなに、でもどうしてここに?」

「…たぶん、ポップくんと同じ理由だと思う」

「ヒュンケルとマリンさん、アポロさんの仇を?」

 エイミは首を縦に降ろした。そしてエイミは見た。ポップがまだ無傷であることを。

「ポップくんはダイくんとマァムの仇を討つために?」

「そうです。パプニカの領民を皆殺しにするために…もし俺の邪魔をしようと言うなら…」

 エイミは首を振る。

「邪魔などしないわ。私もパプニカの領民を皆殺しにしたいのだから」

「じゃあ一緒にやりませんか。2人の方が手早く片付けられるでしょうし、互いに抜け駆けも心配しなくて済みます」

「そうね、一緒にやりましょう」

 エイミは立ち上がり、久しぶりに充分に動いてくれる自分の体の感触を確かめ、そして言った。

「泣き寝入りはしない。絶対に仕返ししてやる」

「もちろんだ」

 その言葉を自分にも改めて言い聞かせるように、ポップも答えた。

 本来、この洞窟は迷宮脱出呪文であるリレミトは通用しない。しかしポップの魔力はすでに洞窟が持つ封印を越えていた。いつでも地上に撤退できる。だからポップとエイミは力の全てを前進に使える。彼らはどんどん最下層をめざし、あらゆる呪文、特技を貪欲に吸収していった。やがて数日後、2人は最下層まで到着した。

 エイミもまた、ポップほどのレベルアップは無理であったものの、破邪の洞窟での修行によりバーンを倒した当時のポップに匹敵、いやそれ以上の魔力を身につけていた。ポップは洞窟内で得た『力の種』『すばやさの種』『かしこさの種』『スタミナの種』『ラックの種』『いのちの木の実』『ふしぎな木の実』をすべてエイミに提供した。もはやポップには必要が無かったからである。広大な迷宮で宝箱の数も豊富な『破邪の洞窟』得られる魔法の種の量も膨大であった。

 それによりエイミは階段で上がるがごとくのレベルアップを繰り返した。たび重なる戦闘もポップと組んでのことならば苦にもならなかった。最下層にたどり着いたころには、もうエイミの顔は変わっていた。ヒュンケルに恋し、顔を赤らめていたころの彼女の面影は欠片もない。なんと彼女は必殺の『メドローア』さえ体得し、パラディン最高の特技『グランドクロス』やゴッドハンドの『アルテマソード』も使える。エイミは破壊の賢者へと変わった。まさに憎悪と復讐の念がエイミを強くしていったのである。

 

 そして洞窟を出たあと、ポップとエイミは別行動を取った。エイミはパプニカに潜入して城の脱出口をふさぎ、水源に毒を撒くため。ポップはパプニカ領民根絶やしを確実のものとするためにヒムかクロコダインを仲間とするためにデルムリン島に行ったのである。

 

◆  ◆  ◆

 

「そろそろかしらね…」

 エイミが時間を計るように太陽を見つめて言った。城門が開き、生首3つが運ばれてきた。まぎれもなく、ダイに槍を突き刺した男3人である。エイミがそれを確認した。恐怖に狂った城内の者はポップの告知後すぐ彼らを集団で惨殺したのだ。

 

「ククククク……ハッハハハハハ……」

 

 ポップは突如笑い出した。エイミも薄ら笑いを浮かべている。

「馬鹿が!本当にその三つの首を出せば命を助けると思ったか!逆に貴様ら一丸となって、この外道どもを庇えば気まぐれで命は助けたかもしれんがな!」

 腰抜けの即席大臣は仰天した。

「そ、そんなあの状況であんなこと言われれば誰だって…!」

 このときエイミの剣がうなりをあげ、大臣の首を斬った。

「ふん、屑が!」

 エイミは落ちた生首に唾を吐きかけた。そしてポップは樽から降りて左右に言った。ゾッとするような冷たい顔と声で。

 

「皆殺しだ…!」

 

 阿鼻叫喚の叫びが城内に響いた。給仕の少女まで彼らの刃にかかり、医務室の生まれたばかりの赤ん坊もポップの放つ炎で瞬時に蒸発した。

 ポップの決意の通り、パプニカの領民は後悔しただろう。勇者ダイを殺した事を。ポップの逆鱗に触れたことを。それこそ骨の髄まで。

 恨みが恨みを呼ぶ。だからこそポップたちは後々の憂いを絶つため、生き残りを出さないことを徹底した。

 

 パプニカは滅亡した。

 

 仮の国王だった城下の長老と、ダイを抱いたままのヒュンケルを殺した者たちパプニカ城陥落後に城門前の広場に引きずり出されエイミになぶり殺しにされた。一気に殺さぬように剣やナイフは使わず『ひのきの棒』と自分の拳骨と蹴りで死ぬまで打ち続けた。あっさり死ぬ事は許さず、死んだらザオリクを唱え生き返らせ、何度もエイミは殺し続けた。

 残酷な笑みと歓喜の声さえ上げて、かつての自国の領民をなぶり殺すエイミをポップたちは顔色ひとつ変えず眺めていた。

 

◆  ◆  ◆

 

 ここはカール城。城内にはダイ、マァム、ヒュンケル、アポロ、マリン、バダックの廟が作られた。

 ダイの剣もここに奉納されている。そこには彼らのために祈りにくる元パプニカの王女レオナの姿が毎日見られた。彼女自身、何を望んで祈りを捧げているのかは分からなかった。

 しかし彼女にはこの術しかなかった。毎日祈らなければ、自分自身がおかしくなってしまう気がしたからだ。レオナは現在カールに身を寄せている。しかし昔のような覇気溢れる彼女の顔を今は見ることができない。(シスターになって一生彼らのために祈り続けたい…)それが現在の彼女の望みであった。

 

 そんな傷心のレオナにまた、衝撃の事実が伝わるのである。レオナがいつものようにダイたちの御霊に祈りを捧げていると、廟にアバンが来た。

「姫、今日は冷える。それぐらいにしないと風邪をひきますよ」

「いいえ陛下…ここにいるとダイくんやマァムたちと一緒にいるみたいで暖かいのです」

 少しの静寂が二人の間に流れ、やがてアバンは意を決したように口を開いた。

「姫…落ち着いて聞いて欲しい…」

「…悪い知らせのようですね…」

 アバンは無念に目を閉じて言葉を絞り出した。

「パプニカが滅亡した…」

「え?」

「原因不明の中毒と津波と矢のような攻撃呪文で…パプニカは城も領民も…跡形もなく滅ぼされた…」

 レオナは言葉が出ない。引き攣るように微笑み

「へ…陛下…悪い冗談はお止めください…陛下の悪いお癖です…」

 アバンは目をつぶったきりそれに答えない。レオナはアバンに詰め寄った。

「冗談ですよね!冗談と言って下さい!」

 無言でアバンは首を振る。

「そんな……」

 レオナはアバンの前で絶望のあまり力なく座り込んだ。

「パプニカを滅亡させたのは…信じられないかもしれないが…ポップだ…」

「……!」

「ポップはダイくんの復讐のため、パプニカを攻め、あの時の反乱者たち、そして他の領民も皆殺しにしてしまった。ポップと共にいたのは3名。ヒム、ラーハルト、そして…エイミ…」

 レオナはピクリと体を動かした。そしてもうそれ以上の反応はない。ただただ絶望感で一杯だった。そしてにわかに立ち上がり、アバンの帯刀していた剣を抜き、自分に突こうとした。

「姫!」

 アバンはレオナを叩き、剣を取り上げた。

「死なせて下さい…もう嫌です…死なせてください!」

 廟にレオナの泣き叫ぶ声が轟く。アバンもそれ以上レオナに何も言えなかった。祭壇に飾られたダイたちの肖像画。それらはみんな笑っている。アバンにはそれが空しく見えた。

「……ポップ……」

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