ダイの大冒険異伝-火水の法則-   作:越路遼介

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ベンガーナの干殺し(後編)

 クルテマッカ七世の願いは受け入れられなかった。そのまま兵糧攻めは継続された。ヒムとラーハルトはいささか退屈な時間がまた始まりそうで、少し不満だったが人間を苦しめるにはこれ以上に有効な城攻めも無く黙って従っていた。

 

 ベンガーナ城の飢餓地獄は続いた。もはや城中の者に戦意はない。やせ衰えた体をひきずり、城壁の窓から、または上から帝国軍に許しを請う兵士や領民の姿が見える。声を出す気力もない彼らが声にならない訴えを帝国陣に向けた。もはや彼らは同士討ちをする気力もないのだろう。

(助けてくれえ…)

 まるで幽鬼のように痩せ細った体で帝国軍に許しを請っていた。

 

 それを楽しそうに魔法による遠目で見つめるポップ。まるで愉快なショーでも見ているかのように残酷な笑みを浮かべた。そして魔法を解いて部下に命じた。

「柔らかく煮た野菜のスープを用意しろ。城の者に食べさせる」

 その指示に驚いたサリーヌはポップに食って掛かった。

「今さら何を言うのですか!奴らの全滅は時間の問題。なぜ城兵を救うようなことを!」

 そんなサリーヌの言葉を無視してポップはラナルータの結界を解き、簡易太陽を消滅させサリーヌに向き命じた。

「言うとおりにしろ」

 サリーヌは大いに不満だが、ポップには逆らえない。

「御意…」

(チッ、今さら仏心出しやがって!そんな甘い性根で魔王を名乗るな馬鹿が!)

 

◆  ◆  ◆

 

 やがてポップの命令どおり、生き残った人間たちに配る大量の野菜スープが出来上がった。そしてポップは城門の入り口で城兵に言い放つ。

「ベンガーナの将兵、および領民たちよ。そなたたちはよく戦った。もはやこの上の戦線状態は無意味であろう。先日のクルテマッカ7世の降伏の要請を帝国は受け入れる。よって今から城内に入り、生存者にスープを与える。戦いは終わったのだ!」

 ポップの戦争終了宣言を聞き、城内の者は声に出せない歓呼の声を上げ、帝国軍の持ってくる食料の到来を心待ちにした。ややあって帝国軍は城の中庭に炊き出しの場を作り、スープを城内の生存者に配った。怪しい、毒入りではと考えた者も中にはいただろうが空腹と疲れほど人の判断を狂わせるものは無く、ましてや目の前には美味そうなスープ、抗うことなど出来なかった。ここまで極限に追い込まれると、いっそ毒でもいいから食べたいと思うのが人と云うものである。

 

 その中には痩せ細ったクルテマッカ7世の姿もあった。あの恰幅のよい王が骨と皮になり、帝国の配るスープをむさぼるように喰らいついた。

 その様子をポップは笑って見ている。エイミとサリーヌもその場にいたが、ポップの意図する事が分からなかった。なぜ今、ベンガーナの王や将兵、そして領民も救うのか。後日になり復讐の牙を磨き、逆襲してくる事は明らかである。たとえ百に満たない人数でも復讐に狂えば人間がどれだけ凄まじい力を発揮してくるか、エイミ自身、それは骨身に染みて知っている。そしてそれはポップも理解しているはずである。なのにポップは生存者に食料を与えた。

「エイミ様、あの粥とスープに毒でも入れたのですか?ならば閣下のなさりようは理解できますが…」

 サリーヌがエイミに訊ねた。

「いえ、それは私も考え、閣下に進言したのだけれど受け入れられなかった。あの野菜スープは毒入りでも何でもない。普通の食料です」

「陛下は何をお考えに…」

(ケッ、あとでこいつらが復讐に立って、テメェに刃を向けたとき、言ってやるからな。『それみたことか』と!)

 ポップの背中にサリーヌは心の中で悪口をついた。

 

 だが、それからしばらくすると、王や将兵、領民に異変が生じた。全員がほぼ嘔吐し七転八倒して苦しみだした。体力の残っていなかった彼らは次々と死んでいった。予想外の展開にエイミもサリーヌも驚いた。そしてポップは苦しむクルテマッカ7世の元に歩み寄った。クルテマッカ7世は憎悪を込めてポップを睨む。

「貴様…毒を…」

「クックククク…王よ。お前は基本的な家庭医学も知らないのか?あまりにも体が衰えていた場合、急激な食事がどんな結果をもたらすか…」

「……!」

「毒などは入れていない。お前らはただ、俺たちの出した粥とスープを体と相談せずに喰らい、そして死んでいくんだよ。お前らにとどめを刺したのは俺たち帝国じゃない。自分自身なんだよ!」

「無…無念…!」

 やがて嘔吐物が喉に詰まり、ベンガーナ王クルテマッカ7世は死んだ。

「ハーハッハハハハ!!」

 声高らかに笑うポップ。それを見つめてサリーヌは苦笑した。

(たいしたもんだ…魔族顔負けの残酷さだよ…)

 苦しみ悶えるうちに、エイミの足元に触れた男がいた。そしてエイミの足を掴んだまま絶命した。

「汚らわしいわね」

 その亡骸に足蹴を食らわせ顔に唾を吐いた。そして彼女は部下に城の中の清掃を命じた。

「帝国の支城となる、このベンガーナ城。ゴミどもをかたずけ、隅々まできれいにしておきなさい。明日、改めて閣下が入城される」

「「ハハッ!」」

 帝国兵たちは人間の亡骸をまるで生ゴミのように片付けだした。

 

 ラーハルトはこの時はベンガーナの城には行っておらず、自分の帷幕で鎧の魔槍を磨いていた。ベンガーナ城を完全に落とした事を聞いたヒムは、そのラーハルトの帷幕へと向かった。

「城は落ちたぜ。今日のとこは人間どもの亡骸をかたづけ、明日ポップが入城するそうだ」

「そうか、ようやく退屈な遠征も終え、帝国に帰れるな」

「まあ兵糧攻めが有効なのは理解できたが退屈でならんな。やっぱり男はこっちで攻めたいしな」

 ヒムはラーハルトに拳を見せて笑った。

「全くだな」

 ラーハルトは苦笑してヒムに答えた。ヒムはまた酒瓶を持ってきており、その瓶をラーハルトに見せた。

「どうだ一杯?共に魔将なんて言われているが、サシで飲んだこともねえだろう」

「そうだな。戦いも終えたことだし付き合うか、オイ!」

 ラーハルトは帷幕の外にいる部下を呼んだ。

「肉と魚を持て」

 

 2人は酒も入り、話にも熱が入りだしてきた。かつて共にポップ、ダイとバーンに挑んだ2人である。十分にお互いを認めていた。

「ベンガーナを落としたら次はカールかテランということになるが、ポップはそこを攻めるだろうか」

 と、ラーハルト。ヒムは骨付き肉をかじりつつ答えた。

「テランはバーン亡き後ポップが嫁さんと住んでいた国、で…カールはアバンが王様やっている国だ。でも攻めるだろうな。もうあいつにそんな情など残ってないぜ」

 グイと杯の中の酒を飲みラーハルトが続ける。

「かつての盟友、アキーム、チウ、クロコダインを何のためらいもなく殺す。俺たちもいつかポップに殺されるかもしれんな。『狡兎死して、良狗烹らる』の言葉もある…」

 ヒムは苦笑した。

「…確かに人間どもを掃討した後、俺たちは用済みとなるだろうな。しかしそれはお互い様だ。人間どもを絶滅させたら、俺とてポップと一緒にいる理由は無い。ヒュンケルを殺した人間ども…こいつを滅ぼすのが目的なのだから俺とてポップを利用しているのは変わらない」

 ふう、と酒くさい息をヒムは吐いた。

「俺の旧主ハドラー様はポップを認めていた。だから俺もヤツを認めている。バーンパレス脱出の時、グランドクルスやって死にかけた俺を助けてくれたのもヤツだ。だから目的が同じうちは手を貸すさ」

 

 ヒムとラーハルトの間に少し沈黙が流れた後、ラーハルトはヒムに語りだした。

「今やっている戦いは人間への復讐戦争であるが、またある意味我々にとっては自分の居場所を人間から勝ち取るための戦いでもある」

「居場所を人間から勝ち取る?」

 ふう、とラーハルトも酒くさい息を吐いた。

「…結局この世は人間と云う一種族のものだとバーンを倒してからつくづく思った。モンスターの血が流れる俺は宿にも泊まれず、酒場では門前払い。リンガイアの復興作業もヒュンケルと共に手伝おうとも思ったが、それも断られた…」

 自嘲気味の笑顔を浮かべるラーハルト。ヒムは黙って聞いていた。

「気がつけばヒュンケルとも別れ放浪の身、森の中を野宿する毎日さ。そんな生活にも飽きて、お前たちのいるデルムリン島にでも行き腰を落ち着けようと思った矢先、ダイ様の最期を知った…」

「なるほど…それがポップを神輿に選び、今の戦いに身を投じている理由か。居場所…俺もおそらくデルムリン島か魔界にしか無いのだろうな」

 ヒムはラーハルトの杯に酒を注いだ。

「平和が俺たちにとり冬の時代の訪れとは皮肉な事だぜ。居場所を無くすために必死にバーンと戦っていたなんて間の抜けた話だな…」

 ヒムは杯の酒の水面に映るランプの灯りを見つめて寂しそうに言った。ラーハルトはなお続けた。

「俺を迫害するのはまだ我慢できるが、ダイ様を殺した人間は許せなかった。俺の旧主バラン様はダイ様には人間を変える何かがあるとおっしゃった」

 めずらしく、ラーハルトがグチめいたことを酒の勢いで語りだしている。クール一辺倒だと思っていた男の思わぬ一面を見られて、ヒムは妙な嬉しさを感じていた。そしてラーハルトはなお語り続ける。

「長ずればダイ様のこと。それを人間全体に成し得たかもしれない。だが人間どもは、そのダイ様を殺した。ヤツらは我が旧主バラン様の言葉も汚したのだ…」

 持っていた杯がラーハルトの手の中で粉々に砕けた。語りながらラーハルトは再び湧いてきた怒りのあまり、まだ酒の入ったままの杯を握り砕いてしまった。

「俺はバラン様を主君であると同時に父とも思っていた。だからダイ様とお会いしたとき、俺は臣下の分をわきまえたが共に戦っていくうちに、いつしか弟のように感じてきたのだ。主君であり、我が心の弟でもあるお方を殺され…どうして人間を許せるか…」

 ヒムは自分の杯に酒を注ぎ、ラーハルトに言った。

「バーンが言うには、神話の時代、この大地は神により人間に与えられたと。それが本当なら、人間がこの地上で絶対種として君臨しているのは自然だと云うことになり、今俺たちがやっている戦いは神に対する挑戦と云うわけだ」

「…そうかもしれん。しかし人間が正しく、魔族が悪と云う概念はもううんざりだ」

 ヒムは新しい杯をラーハルトに渡した。目で今度は割るなよと言っている。

「俺たち魔族の居場所を勝ち取るための戦いか。何てことはないバーンがやろうとしていたのと同じってわけだ。でもお前と語り合って良かった。どうやら復讐以外に目標ができた。この上は大将ポップにどんどん勝ってもらわねえとな!」

 その夜2人は飲み、そして語り明かした。

 

◆  ◆  ◆

 

 ポップは兵士が城内を清掃したのち、ベンガーナに入城した。改修すれば現在のポップの居城ディーノ・キャッスルにも勝る名城となりえるほど立派な城だ。ポップはエイミと共に王の間のテラスに出て、城下全景を見渡した。

「海あり、山あり、住んでいた人間を除けば良い国だな」

「ええ、こんな緑豊かな国を軍事国家にするなんて、代々の王はよっぽど愚かだったと見えます」

「まあ少々荒っぽかったが、城以外は新地となり自然に帰ったと云うわけだ」

 ポップは海沖を見つめていた。そしてかつてダイとレオナと一緒にデパートで買い物に訪れた時、キルバーンの謀略により急襲してきたドラゴン数体と戦った事を少し思い出していた。

 あの時、命を賭けて城下町を救ったダイに礼も言わずに異端視し忌避の目で向けた領民たち。思えばダイの悲劇は、もうあの時点で始まっていたのだろう。

 いっそテランでバランと戦った時、こちらが勝利しなければダイは今ごろ大魔王バーンの重臣として生きていたのかもしれない。父バランと共に厚遇されていたかもしれない。バーンは人間のようにダイの特異な力を異端視せず、それどころか大いに認めて重用していただろう。

 無論、そんなことになれば自分はダイかバランに殺され、とうにこの世にはいないだろうが少なくともダイは生きていただろう。

「歴史と云うものは皮肉な事ばかりだな…」

「は?何か?」

 テラスで風に当たっていたポップはふとそんなことを考え、つい独り言が出た。そばにいたエイミには意味不明だったようだが…。

 あの日、ダイに忌避の目を向けた領民はすべて今回のベンガーナ攻めで死んだことだろう。どうして自分たちが殺されなくてはならないのか、それも分からないうちに殺されてしまった。

(ざまあみやがれ…俺の親友を化け物でも見るような目で見たてめえらが悪いのだからな…)

 

◆  ◆  ◆

 

「閣下、そろそろ予定の時刻ですが」

「ん?ああ、そうだったな。じゃそろそろ迎えに行こうか」

 ポップとエイミはルーラで上空へと飛び立った。行き先はランカークス村のはずれ。ロン・ベルクの私宅である。

 ロン・ベルク。神がかりとも思えるような武具を作ることの出来る魔族の男であり、畏敬の念を込められ敵味方にも『魔界の名工』と呼ばれている。剣技においてもダイとヒュンケル2人がかりでも軽くあしらうほどの武人だ。現在、ザボエラとの戦いで両腕を負傷しているが、野に置いておくには惜しい男でもある。

 破邪の洞窟の修行と人間への憎悪により人智を越えた強さを身に付けたエイミ。それにヒムとラーハルト。それにロン・ベルクが加われば、まさに魔王四天王。磐石の幹部体制ができるとポップは考えたのだ。ポップは大魔の洞窟で手に入れた名剣を手土産に持ち、またロンが配下になることを承知したならば両腕の負傷も治療するつもりであった。

 名剣。ポップが大魔の洞窟で発見した二本で対を成す双剣である。名称は不明だが材質がオリハルコンな事は明白で、タイプ的には大刀で竜騎将バランの愛刀である真魔剛竜剣と似ている剣であった。

 

 ポップの故郷、ランカークス村にほど近いロン・ベルクの小屋。バーンの死後リンガイアのノヴァがロンの元に鍛冶の修行に来ていた。

 この日、ノヴァは留守であった。ロンはお気に入りの椅子に腰をかけていた。両腕に痛々しい包帯を巻き、視線はつい先刻ノヴァが焚き付けていた炎を見ていた。そんなロンをポップとエイミは静かに見つめていた。

「ノヴァはどうした」

「今、村に酒を買いに行かせたばかりだ」

「そうか…そりゃちょうどいい」

 エイミに目で合図を送った。彼女は袋より二振りの大刀を出し、ポップに渡した。

「超魔双竜剣…」

「ほう、そういう名前なのか」

 ポップは大刀を持ち、ロンに近づいた。

「この大刀なら、お前の両腕に何の負担もかけず、星皇十字剣を使えるだろう…」

 ロンは剣を見つめる。ポップは2本の大刀をロンに突き出す。

「俺の部下になれ。そうすれば両腕を即座に治してやるし、この二振りをやろう。お前の名工としての腕が欲しいのは無論のこと、その卓越した剣技にも興味がある」

「……フッ、ハハハハハハハ」

 ロンは呆れたように笑い出した。

「こりゃ傑作だな。ジャンクの倅がこの俺に部下になれときたか!いっちょ前にバーンと同じ事を抜かしてやがる!クッハハハハハッ!」

「…馬鹿笑いはその辺にしときなさい。お弟子さんの命がどうなっても良いのですか?」

 ポップもエイミもロンの言葉に顔色ひとつ変えない。そしてエイミはしたたかにロンを脅迫した。

「そんな脅しに乗るか!俺は誰の部下にもならん。バーンと戦った時にそんなことも分からなかったのか!」

「自分の自由のために…てわけかい?」

 ポップは大刀を床に放り、ロンに言った。ロンは返事もせず、うなずきもしない。

「あの時、お前はバーンにこう言ったな。『お前の元にいたときが最も裕福だった。だが同時に退屈で自分が腐っていくのが実感できた時だった』と。俺はお前に退屈はさせんぞ。人間どもを根絶やしにしてもらうのだからな…」

 もはやロンはポップの方を見ようともしていない。しかしポップはかまわず言葉を続ける。

「もう一度言う。俺の部下となれ。ロン」

「気安く名前を呼ぶな!断る!とっととそのナマクラ持って消えろ!」

「…そうか。残念だな」

 ポップは床に放った大刀を拾った。が、その時!

「ぐあっ!」

 ポップは拾い上げると同時に双竜剣の一振りを抜き、ロンを逆掛けで斬った。

「グッ…貴様…」

 エイミは嘲笑している。

「何、その悔しそうな顔。魔王の要請を断るくらいなら、そのくらいの覚悟はできているでしょう?」

 次の瞬間、ポップは大刀を返し左胸に突いた。

「ぐあっ!」

「悪いな。一度やると言った物を突っ返されちゃ魔王の沽券に関わるのだよ…。だから二振りをちゃんと受け取ってくれ。何、礼には及ばんさ…」

 エイミが後ろからポップに言う。

「確かハドラーには両胸に心臓があったとか。その男も魔族ですからもしや…」

 そういえばそうだと、ポップは口元を歪ませ、もう一方の大刀を右胸に刺した。

「ぐああああああああ――――!」

 ロン・ベルクは自らの血の海に崩れ落ちた。

「腕が不自由とはいえ、魔法使いの俺の剣を避けられんとはな。とんだ見込み違いだったな。いや、俺が強くなりすぎたのか…ククク…」

 

◆  ◆  ◆

 

 ポップがロンの小屋から出ると、ノヴァが師匠の酒を大事そうに抱えて戻ってきたのと鉢合わせた。

「ポップ!?」

 ノヴァにとってポップは父バウスンの仇である。父の死を知ったとき、すぐにも仇討ちに行きたかったのだが、師のロンはノヴァではポップに返り討ちに遭うだけと考え止めたのだった。

(お前が最強の剣を作った時、星皇十字剣を伝授してやる)の言葉を支えに彼は修行に励んでいた。星皇十字剣ならポップを倒せる。実際にその技を間近に見た彼はそう信じていた。だが今、父の仇ポップは目の前にいるのだ。猛烈な怒りがノヴァに湧いた。

「ポップ!」

 酒瓶を抱えながらノヴァはポップに向かって走り出した。しかしポップはノヴァを相手にせずエイミと共に、そのままルーラでベンガーナの本陣へと戻っていった。ノヴァの前で彼は消えてしまった。仇を逃して悔しがるノヴァはハッと嫌な予感がして、すぐにロンの小屋に入った。

「………!」

 持っていた酒瓶が落ちる。呆然とするノヴァ。そこには変わり果てた師ロン・ベルクの姿があった。両胸に大刀が突き刺さり、青い血の海だった。

「せ…先生…」 

 無念だったのだろう。ロンの目は開いたままであった。

「ああああああああ――――――――!」

 狂ったように泣き叫ぶノヴァ。その悲しい泣き声は朝を迎えても途切れることは無かった。

「許さん…殺してやる。殺してやるぞポップ!」

 泣きはらした目に怒りが宿った。ノヴァはロンを荼毘にふし、墓を作った。そしてロンに刺さった二振りの大刀を両の手で強く握った。ノヴァはこの剣の銘こそは分からないまでも、ただの剣でない事は見抜いていた。

「この剣で貴様の首をはねてやるっ!」

 周りの木々が刃風でゆれるほどの、すさまじい一閃をノヴァは見せた。

「貴様と同じ空は仰がない!」

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