ダイの大冒険異伝-火水の法則-   作:越路遼介

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魔人大戦-壱-

 カール王国軍が野営をしていた陣に、ポップより書簡が届いた。

(タウラス平原にて雌雄を決しましょう。お待ちしております)

 カール軍の物見より、ポップ率いる帝国軍がタウラス平原の東に陣をしくと云うことは伝えられていた。

 帝国軍とカール王国軍、軍勢カール王国軍の方が多いが、兵個々の武力は帝国軍の方が上である。エルフ族は一人一人が攻撃呪文を会得しており、ドワーフ族は人間など比較にならないほどの攻撃力の持ち主である。マーメイド族はポップの力で必要に応じ下半身の尾ビレを二本の足に変化させる事も可能で、全員が槍術と攻撃補助系、回復系呪文が得意であり、ホビット族は肉弾戦、呪文をオールマイティーにこなす達人ばかりだ。

 ましてやそれらの種族は今まで多勢の人間たちに遠慮して生きていたが、ポップの度量で国を持てるまでとなったのである。ポップを勝たせることは無論のこと、せっかくつかんだ自分たちの国を守るための戦いなのだ。士気はカールに劣らなかった。

 

「タウラス平原…やはりここを戦場と選びましたか…」

 アバンは眼鏡の位置を直し、フローラが地形図を広げた。レオナ、ノヴァ、マトリフ、レイラ、ブロキーナもそれを見る。

「ここからタウラス平原に向かうと我々は西に陣をしくこととなります。右に山、左には森林と川。平原そのものは数千平方メートル。地形的にはカール軍も帝国軍にも有利にも不利にもなりません。好戦的な帝国軍は中央突破を図り、まず突撃陣形をしくと考えられます。我々は突出せず迎撃陣形をしくのが得策かと」

 フローラは理路整然と献策をした。

「この右の山を精鋭で越えて、ディーノ・キャッスルを急襲することは可能でしょうか」

 ノヴァは地形図の山を指して言った。

「無理だな。ポップは上空にもモンスター軍団を配備するはず。すぐに見つかりそれに殺される。この戦場で殲滅させるしかない」

 マトリフの言葉は正論だった。

「挟撃にしても、それを各個撃破されてしまうのが落ち。こっちのほうが軍勢は多い。下手な策を弄して、もし失敗すればせっかくの士気にも影響する。帝国軍の陣形より有利な陣をしき、何とか猛攻をしのぎきり、しかる後に全軍で突撃をする。無策かもしれんがこれしかねえ」

 一同はうなずいた。

「で、フローラ様、帝国軍の陣容は?」

 レイラはフローラに訊ねた。

「物見を放っているものの、あまり敵勢にも近づけないようで情報もまだまばらですが、先陣はヒム率いる獣人、鬼人系モンスター軍団。二陣はラーハルト率いる竜人、鳥魔人系モンスター軍団。三陣は参謀サリーヌ率いる魔道士系モンスター軍団、四陣はエイミ率いるドワーフ、ホビットの連合軍団。後陣は総帥ポップ率いるエルフ、マーメイドの連合軍団」

 改めて聞いて一同は帝国軍の陣容に息を呑んだ。兵個々の戦闘力差は否めない。

「空を飛べるものも多く、かなりの注意が必要だし、物資、兵糧も豊富だから、長対陣となった場合、兵糧を無くすのはこちらが先です。残念ですが分かっているのはこのくらいです。ただ後陣のポップが一番弱い兵力を連れているのが分かっていただけたと思います。四陣は崩れないものと思っているのでしょう。そこにこそ勝利の糸口はあります。たとえ兵個々の力はあちらが上でも」

 マトリフは腕を組んだ。表情は何やら忌わしげだ。

「…エルフとマーメイドの軍勢か。野郎のエルフもいるだろうが、おそらく大半は女だろう。戦場で女遊びでもする気か。あの馬鹿は」

 マトリフが吐き捨てるように言うと、レイラは苦笑いをした。

「しかし、何にせよ我々に対し油断をしているのであれば、フローラ様の云うとおり、勝利の糸口もあります。主人ロカと娘マァムのためにも、この戦いどうしても勝ちたいのです。そのために私は鎧をもう一度身にまとったのですから…」

「それはみんな同じさ…レイラ…」

 アバンはレイラの決心に応えるように言った。自分にも言い聞かせるように。

 

 そして決戦前夜、マトリフはこの時ばかりは楽しみにしている晩酌を辞め、瞑想にふけり、魔力の充実を図っていた。

 マトリフは幸か不幸か、パプニカの領民蜂起及び、陥落時には同国にいなかった。偽勇者一行と共にカール王国に来ており、アバンの私宅で居候として過ごしていた。ダイ生還の報を聞き、当然ながら彼もパプニカに行くつもりだったが、その当日彼は風邪をこじらせてしまい、弟のまぞっほもそれを移され寝込んでおりパプニカには行かなかった。

 まぞっほが行けないことから、でろりん一行もパプニカ行きを延期した。それが運良く、パプニカの領民蜂起にて命を落とさなかった理由である。また、レオナの去った後に政権を立てた者たちはダイの仲間たちを全世界に指名手配した。ポップが見越したように彼らが報復を恐れての処置であるが、その中にはマトリフもでろりん一行も含まれていた。やむなく一行はそのままカールに留まるしかなかったのだ。

 

 マトリフはポップがパプニカを陥落させたと聞いた時、愕然とした。お人よしと言っても良いあのポップが赤子をもためらいなく殺したと云う事実は、とうていポップを弟子とした事のあるマトリフには信じられなかった。だが、それは全て事実であったのだ。

(師の俺が討つしかない)

 こうしてマトリフは老骨に鞭打って今回の戦いに備えた。

 

「ふう」

 マトリフは瞑想を一時休憩し、かたわらに置いてあった急須からお茶を椀にそそいだ。

「…?誰だ」

 マトリフは自分の帷幕の外に気配を感じた。

「私ですよ。マトリフ」

「なんだアバンか。入りな、茶でも飲んでいけ」

 目の前に座るアバンに茶碗を渡し、温かい茶をそそぐマトリフは言った。

「何か言えよ。話があってきたのだろう…」

「…マトリフ…私たちがハドラーを倒し、バーンを倒した事は一体何だったのでしょう。平和を望むためだったはずなのです。その平和を掴むためにあれほど命がけで戦ったポップが、今は私たちの敵となり魔王となった。決戦を明日に控えたものが言うべきではないことは分かっています。だが…この空虚さは一体何なのでしょう…」

 マトリフは茶の水面を見つめている。茶柱でも立ってくれたら縁起がいいのにと、マトリフは思う。アバンの問いに答えた。

「たまたま、ポップが最初だっただけだ」

「最初?」

「ハドラー、バーンが死んでも人同士の戦いは無くならない。今までの戦いが異種族の魔族だったから、人は共同戦線を張っていたんだ。だが魔族が無くなったら、モンスターが無くなったら、人間は人間を敵とする。領土のため、金のため、とにかく己の欲のためにな。たとえポップが魔王とならずとも、必ず世界の覇権を握ろうとする馬鹿な奴はいずれ出てきたろうさ」

「マトリフ…」

「ハドラーの台頭前の歴史書を読んでみろよ。カールにしても、パプニカ、ベンガーナにしても代々の当主は白い手なんかしちゃいねえ。数多くの屍の上に玉座を築いているのさ。この大地は人間本来の歴史の泥流に突入するだけだ。人同士の戦いがな。その最初に世界の覇権を狙ったのが、たまたまポップだった。それだけだ。たとえ奴の胸中にあるのが復讐一色だとしてもな」

「それでは私たちのしてきたことは何なのですか!人間同士の戦争の歴史に幕開けの役割をしただけですか!」

 アバンは思わず怒鳴った。

「そうかもしれん『人の性は悪なり』と言うだろう。人間は自分より弱い者から何かを取り上げずにはいられねえものなのさ。アバン、お前は強い。だから人に優しくなれる。でも弱い連中はそうじゃねえ。弱さを隠そうとして人を攻撃する。だから人間同士の戦争は無くならねえんだよ」

 ふう、とマトリフはため息を出した。

「ハドラーとバーンの脅威が人を団結させていたってことさね。皮肉な話だがな」

 マトリフの帷幕の中にあるランプが風にあおられ揺れている。2人の間に沈黙が流れる。

「俺とてこんな冷めた言い方しているけどな、だからと言ってむざむざポップに殺されるわけにはいかねえ。奴を討ち取りゃ、しばらく戦争は無いだろう。少なくとも俺が生きている内にはな。あとは後世の連中が好き勝手やりゃあいい…」

 先ほどマトリフの入れてくれたお茶もすっかり冷めていた。

「人の世に永遠の平和は無いってことですか…。ですが貴方の言うとおり座しているわけにもいきません。ハドラー、バーンを倒した時と同様に、わずかな平和な時間を掴み取るため、私はポップと戦いましょう」

 アバンは冷めたお茶を一気に飲み干した。

 

◆  ◆  ◆

 

 ディーノ・キャッスル。このポップの居城にもダイたちを祭る廟堂が作られた。ポップは毎日ここで親友のダイや死んだ仲間たちの霊に祈りを捧げていた。

 カールの廟堂と異なるのは、かつてダイ、ポップと死闘を繰り広げた魔王ハドラー、その部下の親衛騎団、騎士シグマ、僧侶フェンブレン、城兵ブロック、女王アルビナスが祀られている点であろう。

 同じく親衛騎団だった兵士ヒムが望んだわけではない。ディーノ・キャッスル内にダイと仲間たちの廟堂を作る時にポップが命じたことであった。

 親衛騎団に至っては、オリハルコンではないものの、全員がミスリル銀と云う貴重な金属にて像として造られており、シグマの腕には『シャハルの鏡』のレプリカも飾られている。ハドラーの肖像画はポップが高名な魔族の絵師に描かせたと云われている。

 ハドラーの肖像画を守るように、五人の親衛騎団は立っている。味方であった人間に絶望したポップはかつての敵手の姿に何を見るのか。そして何を求め、物言わぬ彼らに語っているのか。

 

 エイミにいたっては、ヒュンケルの祭壇に日に三度も祈りを捧げているほどだ。

 出陣を明日に控え、城下では兵士たちがその前夜を祭りにして楽しんでいた。ポップは兵士の士気高揚を図るべく、最初の乾杯だけ付き合い、あとは廟堂の祭壇の前で過ごしていた。最近ポップはこの場所が一番落ち着くようだった。

「来てらしたのですか」

 祭壇の前の椅子に座っていたポップに後ろからエイミが声をかけた。手には花束を持っていた。

「今日もヒュンケルに祈りを、か」

 祭壇にはヒュンケルの肖像画と彼の使っていた鎧の魔剣と魔槍のレプリカが飾られていた。エイミもどうやらこの場所が一番落ち着くようだった。花束を肖像画前の花瓶に生けた後、彼女はひざまずき、祈りを捧げた。そんなエイミの横顔をポップは見た。

「その時だけは昔に戻るのだな…」

 エイミは祭壇にひざまずいたままヒュンケルの肖像画を見つめ、微笑んでポップに答えた。

「彼に…鬼女のような顔は見せられません…」

 エイミは祭壇に来る前、必ず化粧もしている。それほどまで彼女に愛されているヒュンケルは幸せ者だ、とポップは思った。かつてマァムへの恋から嫉妬も感じたこともある憎き兄弟子だったが、今ではそれも遠い過去の話だ。

「閣下…。私…時々思うのです。もしあの時自分がザオリクやメガザルを使えていたら、と。そうすればヒュンケルやダイくん、そしてみんなを助けられた。私のこともきっと伴侶と認めてくれたと思うのです。今、私はその双方の魔法を使えますが…もしこの魔法を使い彼を生き返らせることができたなら…私は真っ先に彼に斬られるでしょうね…」

 エイミは自嘲気味に微笑んだ。

「それは俺も同じさ。ダイが生き返ったら、真っ先に俺は斬られるだろう…。だが、俺は後悔していない…無意味な仮定と分かっていても、俺は心の中でそれを望んでいるような気がするな」

 祭壇に灯されている蝋燭の炎がゆらゆらとしていた。戦いの前夜は静かに更けていった。

 

◆  ◆  ◆

 

 翌日、ポップ率いる帝国軍は帝国ディーノよりタウラス平原に向け進発した。もはやポップもエイミも昨日の祭壇の顔ではない。

 留守は帝国の政務を担当しているドワーフの長とエルフの女王、ホビットの族長が部隊三千を預かり城の守りを固めた。帝国軍が蹴散らされたら、タウラス平原から帝国まで遮るものは何もない大陸航路の一本道。あくまで万が一のため、ポップの指示で配備された。

 晴れ渡った空に、飛行可能のモンスターたちが幾重にも飛んでいて、陸地を進むポップたちには少し日陰になる。だがその士気たるや天を突かんがばかりだった。

 そして帝国ディーノ軍とカール王国軍はタウラス平原にて対峙した!

 

 戦の儀式にのっとり、双方が陣太鼓を鳴らし、ラッパを吹く。そして両軍を代表する射手が互いに弓を射かけ、双方の陣の前に刺した。アバンは白馬に乗り自陣より出てきた。そして敵陣に呼びかけた。

「ポップ、出てきなさい」

 しばらくしてポップはドラゴンに乗って自陣より出てきた。黒衣に漆黒のマントを羽織るポップ。彼が漂わせる雰囲気は、正に『悪の波動』と言ってよいものであった。

「何か?」

 ポップにはもうアバンを敬う素振りは全くなかった。アバンとポップの間はおよそ30メートル。近そうであるが2人の間は遠かった。

「今さら命乞いですか」

 アバンはポップのあまりの変わり果てように一瞬声が出なかった。それはマトリフも同じであった。

「あれが…あれがポップなのか?」

 マトリフのかたわらにいたノヴァは言った。

「はい、あれが魔王ポップです」

 アバンとポップ、見詰め合うかつての師弟、今の彼らの間柄を表すかのように、二人の間につむじ風が吹いた。

「ポップ、貴方が狂ってしまった理由は分かる。だからと言って罪も無い人たちを虐殺するとはどういう了見か!」

「罪ならある。人間は、ダイを殺した。マァムもヒュンケルも…」

 ポップは目を剥き出しにしてアバンに言った。

「バーンを倒したあとに訪れた平和は誰のおかげだと思っているのか!俺のことなんざどうでもいいが、あいつらが平和を勝ち取るまで、どれだけ辛い戦いをしてきたか考えてみろ!」

 アバンの表情が曇る。彼自身にもそんなことは痛いほど分かっていたのだ。

「いや、あいつらだけじゃない。バダックさんも、アポロさんも、マリンさんも命を賭けて魔王軍に立ち向かった!何もしなかった人間はこの6人に感謝しても感謝しても感謝し足りないくらいなのに、こともあろうに殺しやがった!仲間としてこんなことを許せるものか!」

 気持ちは分かる。だが弟子のしでかしたことは許せることではない。

「だからと言って、今を平和に生きている人たちを殺していい理由にはならない!君はそのダイくんたちが必死に勝ち取った平和を壊しているのだぞ!あの世に行ったとき、ポップはダイくんにどの面下げて会えるのか!」

「今を平和に生きている連中。それは自分では何もせず、そしてダイたちの苦難も知らず、のんべんだらりとダイに与えられた平和に胡坐をかいている糞野郎たちのことだ。そんな連中に骨の髄まで教えてやる。ダイがいなかったらこの世はどうなっていたか。この俺がバーンに代わってな!」

「ポップ…君は狂っている…。自分の勝ち取った平和で人々が幸せに暮らす…。それがダイくんの望みだったではなかったのか」

 ポップはアバンのその言葉をあざ笑った。

「あんたの言葉を逆に言わせてもらうが…」

 そしてキッとアバンを睨む。

「だからと言って、用済みとなったダイを人間は殺すのか!」

「……!」

「あと…聞けば、ダイが殺されたとき、あんたもその場にいたそうだな…」

「ああ…確かにその場にいた」

「役立たずが…!」

 ポップはアバンに吐き捨てるように言った。

「俺を狂っていると言ったな。その通りだよ。しかし俺はあんたたちの正常に付き合う気はない。さあ、もういいだろう。自陣に戻るがいい。十分後に攻撃を開始する。俺に自説を通したければ、力で来るんだな」

 ホップは乗っていたドラゴンの手綱を引き、自陣に帰った。アバンもまた自陣に戻り、総大将の持ち場に着いた。

「気持ちを切り替えろ、アバン」

 マトリフがアバンを諭した。

「分かっています。やはりポップは倒し…いや殺さなければなりません…」

 その会話のかたわらでフローラは遠眼鏡でポップ軍の陣形を確認した。

「やはり、力に物を言わせ突撃してくる気だわ…よほど自信があるようね…」

 その言葉にうなずいたアバンは即、全軍に命令を出した。

「全軍、戦闘準備ッ!」

 義勇軍、有志隊のいる、いわば寄せ集めの軍とも言えたカール軍だが、さすがにアバンの号令である。陣形はすぐに整った。ポップの軍は矢印を象った剛槍の陣。突撃を旨とした攻撃力のある陣形だ。

 カール軍はその陣形から守るに適する重盾の陣。うまく各陣が連動すれば包囲攻撃も可能な攻防一体の陣形である。双方の陣形が整うと同時にポップは全軍に命令を出した。

「突撃―――――――ッッ!」

「迎撃―――――――ッッ!」

 

 帝国軍の先陣、ヒムの軍勢が弓を放たれたように敵陣に突き進む。第二陣のラーハルトは兵士を鼓舞する。

「良いか!この戦、閣下のためだけではない!人間から我々の安住の地を掴む戦いでもあるのだ!正義は我らにあり!進めェッ!」

「「オオッッ!!」」

 ラーハルトの軍勢は、この鼓舞でますます士気を上げた。

 

「さあ行くよ!人間たちをアタシたちの魔法で焼き尽くす!」

 サリーヌの鼓舞が魔道士兵たちの士気をあげる。帝国軍第一、第二、第三の隊が怒涛のようにカール軍に突撃した。

 後年『魔人大戦』と呼ばれる、タウラス平原の戦いは幕を開けた。

 

「では予ねての打ち合わせどおり始めますよ!フローラ、姫、レイラ、ノヴァ、こちらに!」

 アバンは本陣の中央に四名を集め、手を繋ぎ輪となった。そしてこの呪文の威力を更に倍増すべく、アバンは輪の中心に魔力増幅の羽、ゴールドフェザーを各々の前に置いた。

 以前、ダイたちがバーンパレスに対してこの呪文を使ったときはポップが中々に輝聖石を光らせることができず、呪文の発動まで時間を要したが今回は違った。各々に手渡された輝聖石は光を帯び、そして五つの光は金色の光の柱となっていった。

 輪の中に置いたゴールドフェザーはそれに反応するがごとく天空に伸びていった。

「ミナカトール!」

 光の魔法陣が広範囲に広がっていく。バーンパレスの時は空に作用させたが今回は大地に、しかも破邪呪文を得意とするアバンが加わり発動させたのであるから、前回とその威力が桁違いであった。

 その魔法陣は帝国軍本陣の鼻先にまで広がっていった。先陣で突撃をしたヒム隊、二陣のラーハルト隊の兵士たちはすべてモンスターであるからひとたまりも無い。体からみるみる力が抜けていった。彼らが馬として乗っているドラゴンも例外ではなく走るのもままならなくなっていった。

 

「チッ、ミナカトールだと!くそったれッ、力が抜けていきやがる!」

 ヒムは自分の握力が通常のものではないことを悟った。

「まあいい、ちょうどいいハンデってもんだ」

 ヒムが乗っているドラゴンも元気を失っており、ヒムはいきおい良く手綱を引く。

「オラァ!気合を入れろ!今朝あんだけ肉食わせたろうが!」

 

「ひるむな!やや力はこの魔法陣で奪われたが、まだ我らの方が人間より格段に強いのは明白である!このまま突入するぞ!」

 さきほどラーハルトの鼓舞で発奮したモンスター兵も何やら体が重たそうだ。ラーハルトも症状は同じであった。いつもより魔槍が重く感じる。

「バーンパレスの時のより、威力が格段に上だな。さすがはアバン、一筋縄ではいかんな…」

 ラーハルトは苦笑し、ドラゴンの手綱を引いた。

 

「やばいよ…。完全に魔力を封じられちまったじゃないか…。まさかミナカトールだなんて…」

 サリーヌは焦った。魔力を封じられては自分も兵たちも普通の人間と戦闘力は変わらない。むしろ剣や槍と無縁な魔道士軍団であるから、今アバンの本隊などと激突したら全滅は避けられない。

 アバンがいる以上、ミナカトールは想定し備えていても良いことであるが、何の備えもしてはいなかった。わずかずつだが、魔法力も減少していっている。

「くそ…ポップの野郎、今ごろアタシのこと参謀失格とか思っているんじゃないだろね。馬鹿野郎、戦況不利の全ては総大将の責任なんだぜ」

 勝手に被害妄想におちいっているサリーヌだが、とにかく今は後退して魔法陣の外に出なければならないことは十分に承知していた。側近の悪魔神官サイヴァに命じた。

「サイヴァ、本陣に伝令。敵のミナカトールにより、第三陣サリーヌ隊は戦闘不能。第四陣エイミ隊との交替を許可願いたいとね」

「御意」

 サイヴァは本陣へと走っていった。サリーヌはミナカトールの光の柱を見つめた。

「いまいましいが…何とも美しい黄金の柱だね…。さすがはアバンってことか」

 サリーヌは苦笑した。

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