「いってきます」
そう言って誰もいない、一人暮らしの部屋を出る。
私、海口宵明(うみぐち よあけ)。19歳、大学生。
田舎を出て東京で暮らし始めた。正直なところ、暑っ苦しい東京より、自然に囲まれた田舎の方が好きだ。
はあ…とため息を付きながら、向かうのは最寄り駅。人がたくさん。どうも苦手。友達という友達もいないし、足もとてもつもなく重い。やっぱりため息しかでない。親は東京の大学に行くことに全く反対せず、私は大事に育てられて来たのだろうかと不安になることさえある。私の家は共働きで、朝から晩までわたしは1人。ご飯なんて買ってくるお惣菜か、近所の人のおすそ分け、自分で作ってたべることしかしていないし、クラスの子が「お母さんのご飯美味しい」だのスーパーですれ違う親子の会話でよく聞く「明日はハンバーグにして!」なんて聞くばっかりで言ったことがない、羨ましい限りだ。大学は楽しいと小学生の頃聞いたのはいいものの、そんな言葉今のわたしには当てはまってもいない。一人暮らしもこれまでの生活の延長戦に過ぎないのだ。
ブーッブーッ
携帯が鳴った。
「はい、もしもし。海口です。」私はけだるさを隠し、一呼吸おいて電話に出た。
「俺だよ。覚えてる?中学校の頃の。」
「どちら様ですか。」
「あはは。忘れちゃったかな…笑笑」
名乗らないのに分かるわけがないであろう。オレオレ詐欺なのかと疑うのも許してほしい。
「雨宮ちとせ…だよ。元バスケ部の」
あっ…と思い出し、ごめんと謝る。
「いいよ別に。三年間ずっと一緒にいたわけでもないし、ね?」
雨宮ちとせ(あめみや ちとせ)
同じ中学校だった男の子。中学の頃はバスケ部に所属。
「う、うん笑」
苦笑いで返す。すると、ちとせが
「今日は学校だよね。明日って空いてるかな。いやー、急な電話申し訳ないね。やっぱ無理だよね…」
彼は人の話を聞かずに話を進めちゃうから、少し苦手だったりする。そういえば、今日は金曜日だし、休日も忙しいわけではない。
「明日でよければ空いてるけど…」
「まじ!?やったー!実は久しぶりに会いたいと思って。…てか、どこ住み…?」
まさか、この男は私の住んでいる場所も知らずに電話をかけてきたのか…
「私は…」
と、言いながら時計を見たら、時間がおしていた。
「ごめん切る!」
私の悪いくせだ。計画的ではない上、人との会話が曖昧になり話があわずにおわる。今までにどれほど経験してきたことか…
ごめんね、雨宮くん。
ブーッブーッ
確認している暇もなく電車へと駆け込む。私は1日に何回ため息を付けばいいのだろう…。
車内は人で混み合い、酸欠になる。もう少しもう少しと自分に言い聞かせ、この空間を我慢するのも日課だ。
二駅で大学のある駅に着く。さあ、頑張るぞ。