例のごとくオリジナル作品が書けなくて困ります(笑)
またまた短くなってしまいましたが、頑張ります!
時を少し遡る。
「すっかり夜ねぇ……」
分かりきった事を独りごちる。それが寂しいからだとは、全く思わない。思いたくもない。
十六夜咲夜。
紅魔館のメイド長であり、レミリア・スカーレットの従者である、人間。その能力は時空を操る強力な手札。
自分が今、その能力を僅かながら裏切りに使おうとしている事に、彼女は深い躊躇を抱えていた。今も門前で待ってはいるが、助けは来ていない。こうしている間にも、彼女はあの人間を、命令によって消去しようとしているだろう。自身の意思に抗う拳に、涙を流しながら。
「…………私の、バカ。何考えてるの。」
自分は、生まれつきレミリア様の従者なのだ。その方に抗う事など、元より許される訳がない。
地下室からはもう、妹様が出てきている。お嬢様が行動を起こすのも時間の問題だ。咲夜は、エプロンとスカートの隙間から懐中時計を取り出した。
予測通り、あの客室から尋常ではない妖気が感じ取れた。かちりと夜風を止めて、メイドは動いた。
「月が綺麗……か。」
―――――――
「…………私、死んだ?」
咏夢は、紅いカーペットの床にぺたりと座り込んでいた。傷は何も癒えていないが、場所が明らかに違う。
目の前は、転がり落ちたら痛そうな大階段。そして、その先の大理石の床を辿ると――
「えっ……?!」
立派な両開きのドアがあった。
咏夢は目を見張った。何かの見間違いなのかと、何回か目を擦るが、確かにドアはそこにある。
誰も知らない話ではあるが、全て紫の行動だ。大妖怪の与えた、彼女らへの一種のチャンスなのである。
当の咏夢は、もしやあのドアはあの世行きかもなぁ、そしたら天国と地獄分かれてるのかなぁ、等々と思考を巡らせているが。
「とりあえず、ここから出ないと……っ!」
咏夢は、脱力感に鞭打って、手すりに頼りながら立ち上がった。そのまま一段ずつ階段を下りていったが、最後の一段で足が縺れてそのまま冷たい床にドサリと倒れ込んでしまった。傷つけられた身体に痺れるような激痛が瞬間的に戻ってきて、思わず顔が歪む。
咏夢は、両手を付いて上半身を起こす。出口は、もうすぐそこだ。夜風に吹かれたか、両開きのドアが軋むような音を発てた。チラリと夜闇が見えた。
その光景に希望が芽生えたか、咏夢は必死に這っていって、両手をドアに付いた。後は力を込めて押すのみ。
「えいっ!」
ふと、目の端に映る銀の光。咏夢は、月明かりかと思ったが、ドアから漏れるのはただの夜闇。同時に響いた不自然な音に、咏夢は手を止めて目線を上げた。
「え、ナイフ?」
「そう、ナイフよ。私のね。」
「え?こんなとこに刺しとかないでください」
「そう?今投げたのだけど。」
「あ、そうなんですか……はっ!?え、誰?!」
咏夢がようやく後ろを振り向くと、呆れたような目をしたメイドが立っていた。
――――――
「お嬢様から逃げてきたというから、余程の手練れかと思ったけど……どうやら違うみたいね。」
咏夢を見下すその目には、呆れの色の裏にちらつく、失望があった。そもそもあれが手練れであれば、最初の攻撃から逃れる事が出来たはずだ。
もしそうであれば、彼女は、傷つくことはなかった。そして今だって、主従に縛りつけられる事もなかった。
「全て貴女のせいよ……青巫女。」
低く呟くと、咲夜は柄の赤いナイフを虚無から取り出して投擲した。
スペルカード、"ミスディレクション"発動。
鋭い風切り音、ナイフの大群がたちまち突き刺さる。何も動けずにいる咏夢、その目の前に。
照準のズレからも分かるように、咲夜は迷っていた。
忠誠心か淡い関係か、その中に突如現れた微かな可能性の存在。必然性に抗おうとする心を、抑え込んでいたというのに……
見たくなったのだ。
その可能性にある力の本質が、新たな光が。
主の力を持っても、結末の見えないという未来が。
(私は……)
時が止まって、動き出す。その瞬間、咲夜は咏夢の目の前に立っていた。そして、呆けた表情の彼女を立ち上がらせて、目を伏せたまま囁いた。
「私は、今から妹様のお相手をするわ」
「え……?」
「そろそろ月も昇るわね……行きなさい、早く!」
とある満月の五日前。
十六夜咲夜は、一人の人間であった。
ありがとうございました!
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