東方陰陽玉   作:咏夢

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↑別に間違えてないんです。

今回は少し頑張りました。が、まぁ話は進まないという。


偽符「クランベリートラップ」

 薄暗い廊下を抜けた先には、地下へと続く階段が開け放されている。背後から、声援にも急かすようにも見える弾幕が、絶え間なく放たれてくる。

 その速度より少し遅いが、自分の全速で走る咏夢は、微かに笑みさえ浮かべるほどだった。誰かと共闘するということは、経験済みではあるが、しかし、こんなにも心が踊るような余裕など、持てたことはない。

 咏夢は、今までに感じた事のない感情に戸惑いつつ、先を急ぐ。

 

――――――

 

 もう嫌だ。

「楽しい……」

 壊したくない。

「もっト、やっちゃえ。」

 怖い、怖いよ。

「これモ邪魔ヨ!」

 

 相反する声と声。握られた聖剣の熱で、シャンデリアの欠片が、無意識の内にまた一つ消えていく。返り血に染まった白いフリル付きのスカートが、絶え間ない爆風に揺れる。

 

「あーア、また咲夜に怒られちゃうナァ。」

 

 

――早く、来て。悪い子のフランを、叱って。

 

「ハハ、キャハハ……!」

 

――――――

 

 微かな笑い声。キャハハ、と無邪気な声音だ。この先には年相応の笑顔を浮かべる少女が居るのだろう。

 

 でも。

 紅いカーペットを踏みしめていた筈の両足が、震えて動かなくなって。咏夢は、ようやく気づいた。

 

「怖い……?」

 

 声に出して、やっと身体が動き出す。崩れ落ちる身体を両手で支えるのが精一杯で、掠れた声が響く。目の前が暗くなっていくのにも抗えずに、狂喜に震える笑い声にただ、一人の人間として怯えることしかできない。

 

「あ、あぁ……ぁ……!」

 

 冷たくなる指先はこれまでにないほど震える。いや、違う。何も知らなかったのだ。命を懸けた闘いも、本当の怖さも。いつも誰かに護られて、何かに頼っていた。それだけだったのだ。咏夢は、ふとその場に座り込んでしまった。その小さな肩はただ打ち菱がれていた。恐怖に支配された彼女の胸に、数分前の温かさも光も無い。

 孤独を知った一人の少女は、希望を忘れ……

 

―――――

 

(アイツ、何やってんの?まさか、途中で逃げたとか?)

 

 そんなわけない、と信じたい。けれどライバルである彼女が、一人の人間であるのもまた事実。そろそろ霊力にも限界が訪れるだろう。少し背を叩いてくるべきか?

 いや、此所を離れるのが賢明とはいえない。だから、今は……

 

「行け、咏夢ー!!!」

 

 やっぱり私らしくない。少し変わりゆく自分の心が、高鳴っているのを、橙は苦笑に表した。

 

――――――

 

 頑張れ。

 

 昔、誰かにそう言われた時、何て無責任なのだろうと思った。私は十分力を尽くしているというのに、と。今もそう感じているかと問われれば、否だろうけれど。

 

「ん……。」

 

 魔理沙は、誰かの声を聞いて目を覚ました。

 

 それは誰かへの声援、激励と取れる詞だったが、それにしても叫び過ぎだろうに。この夜中に、何を……。

 

 やっと意識が覚醒した。彼女は自分の寝ていたソファから飛び起きた。何も気にせずに動いたので、背中の傷が強く疼く。しかし、それも軽く顔をしかめただけで、魔理沙は難しい顔をしている。

 

(一体、誰が……?しかも、こんな夜中に……)

 

 まだ上手く回ってくれない頭を悩ませるのは、いくつもの可能性と矛盾。自分の知っているだけの真実では、何にも説明がつかない。そう結論付けられると、魔理沙は自分の帽子に手を伸ばした。月明かりで光って見える白いリボンに指先が触れる。

 

「――!?」

 

 磨かれた床に倒れ込み、衝撃音が鈍く響いた。今宵の大図書館は、遥かに大きな真実を隠している筈なのに。

 

「まったく、動いちゃダメって言いましたよ……私。

やっぱり帽子に催眠結界を張っておいて正解でした♪

魔理沙さん、催眠薬なんて効かなそうですし……ね。」

 

――――――

 

 そんな闇事件はさておいて――というか、誰も知るはずも無いのだが。

 大図書館の扉一枚挟んだ廊下を、叫びが駆け抜けた。魔理沙も確かに聞いた、決して無責任なんかではない、一つの詞。

 それは確かに、熱となり灯火となって、咏夢を動かした。凍りついていた身体が緩み、口許が柔らかく綻ぶ。新たな光の目覚めが、高らかに告げられた時だった。

 

「やってやろうじゃない……!」

 

 姉に似た、自信溢れる笑みを浮かべる少女。

 その姿は、未熟であろうと成り損ないであろうとも、一人の"巫女"であった。妖怪退治を生業とし、人と妖を統べる者。その才能は、遠い昔に継いだ血として、彼女の中に眠っていたのだから。

 

「やぁっ!」

 

 元々ガタが来ていたのか、大きな両開きの扉が幾つかの破片になって壊れた。砂埃の中から浮かび上がる人影は、咏夢の予想通り華奢なものだった。

 中では、パチパチと音を発てる残り火が部屋の惨状を明らかにしている。恐らくシャンデリアであった物は蝋で汚れ、上質そうなベッドのシーツには引き裂かれた跡。やはり、ただ者ではない。

 脳裏にちらつく弱気な思考を、口元の埃と共に振り払って、咏夢は宙に佇む元凶に大きく叫んだ。

 

「ちょっと、そこのヤツ!暴れるの止めなさい!」

「ウ……?」

 

 どうやら背中を向けていた様子の人物は……いや明らかに人では無いけれども、クルリと振り向く気配。徐々に鮮明になるシルエット、サイドテールが揺れているのが分かる。

 

「貴女ハ、ダァレ?」

「っ……教える必要無いでしょう!」

 

 というか、名乗っても誰だか知らないでしょう!とは言わなかったが、咏夢は少女の声の響きにある種の嫌悪感を覚えていた。昔に村で流行った喋る人形――何時でも構わず喋るのですぐ不評になったが――に似ている、まるで感情の隠っていない、嫌々出しているような声。

 すると、あちらも咏夢が見えないのか、小さな片腕で空を切り裂いた。砂埃が一瞬で晴れて、ついに少女の姿が明らかになった。

 

「フゥん、レイムに似テタケド違うノネ。」

「?悪かったわね、ソイツじゃなくて。」

 

 ほんのり赤い唇から発せられた声は、少し残念そうに聞こえて、咏夢はムッと言い返す。

 金髪のサイドテール、いつも被っている帽子は何処へ行ったのか、紅いリボンだけが結ばれている。すっかり汚れて所々千切れたシャツとスカートも真紅。同じ色のストラップシューズが、軽い音を発てて床に下りる。

 

 ただならぬ雰囲気を宿した濁った紅い瞳に、負けじと目を合わせた青い光が反射する。何者も踏み込めない、そんな気がする薄暗い闇。小さな両手は、あまり見たくない色に染まっているが、それを見つめ満足そうな笑みを浮かべる少女。

 

「私ハ……ウ~ン、"フラン"ッテ名乗ッチャダメヨネ?」

「わ、私が知るわけ無いでしょ!」

「フフ、ソウネ。"フラン"モアナタヲシラナイカラ。」

「で、結局誰なのよ?!」

 

 ペースを乱されてイラつくような声を上げる咏夢。少女は、にこりと笑った。そのまま再び空中へと舞い上がり、両手を広げて言った。

 

「ジャア……"シュガー"カナ。アタシハ、シュガーヨ!」

「私は咏夢、貴女を退治する巫女よ!」

「アナタニデキルノカシラ?マァイイワ……」

 

 咏夢は霊力を高めていく。シュガーの妖力が高まっていく。両者の力は、互いを導く。本能のままに、あるいはかつてのように。

 

「イクワヨ!」

「っ……こっちだって!」

 

 炎の聖剣を高々と振りかぶるシュガー。それを避けるべく意識を集中させる咏夢。

 そして事は、シナリオを超えて動き出す。

 

「エイッ!!!」

「うわっ!」

「アナタジャフランハ満足シナイシ、サッサト消エテモラウワ!"クランベリートラップ"!」

「負けない……絶対!」

 

 

 




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