「キャハハハハハ!モット、モットヨ!」
(またパターン変わるの!?)
正直もういっぱいいっぱいなのだが。咏夢は少し息を整えてから、キッと相手を睨み付けた。
これまで、シュガーは三枚ほどスペルカードを使ってきている。さすがの咏夢も、これには神経をすり減らされて疲労が溜まっているが、反撃をしようにも術がない。何故かと言われれば答えは一つ。
咏夢には、スペルカードが無いからだ。
今までに発動したスペルカードは、博麗などの修行で手に入れた、いわゆる借り物なのである。それを発動してみるには、いささか隙も余裕も足りない。
「っ……!」
「アラ、ヤット1回ネ。ソロソロ飽キチャイソウダッタケド、マダヤレソウジャナイ?」
「……当たり前でしょ!」
ここで負けるわけにはいかないのだから。今も自分を信じて待っている橙や、自分を護ろうとしてくれた魔理沙のために。……あれ、魔理沙ってどうしたんだ?、という疑問はさておいて。
周りの空気に溶け込め、全てを自分と繋げろ。
誰かの教えが思い出される中で、咏夢には自然と余裕が出てくる。セピア色の両手が背中を押してくれる。
「ソウ、ソウヨ!モット、モット遊ビマショウ!」
「いいよ、やってやろうじゃない!」
弾幕の回避には、当初のキレが戻り始めた。しかし、根本的な問題……すなわち、反撃の余地については未だ解決案は浮かばない。
今は防戦に徹するしかないだろう。そう考えた咏夢は、気合いを入れ直して前を見据えた。
―――――
(次は……突き……!)
残り4秒。それが自分に残された時間だと確認した彼女は、再び虚空へ刃を向ける。
ブンッと空気が切り裂かれる音、それをギリギリで避けたのを知覚した瞬間、手にしていたナイフを一気に投擲。
「また、避けられ……っ!?」
「口を開く余裕が、まだ貴女に有ったとは……驚きですね。十六夜、咲夜」
メイド服の裾を翻らせ、見事な跳躍で距離を取る咲夜を、美鈴は足を振り抜いた姿勢で無表情に見つめる。姿は出会った当時そのままであっても、今は完全なる敵。
何度目か分からない事実を自分に突きつけるけれど、それと同時にちらつく痛み。咲夜は、自分の弱さに唇を噛み締めた。
「甘い、ですよ。」
「ぐ……ぁっ!」
「貴女は、甘いんです。」
間合いを一気に詰めた美鈴の蹴りが、咲夜の体を捉えて壁へと吹き飛ばす。叩きつけられ、苦痛の声を上げる咲夜に、美鈴は淡々と告げる。
「私と、本気で闘わないつもりですよね?何を考えているんですか。妖怪である私と、人間の貴女。力量の差など、今さら説くまでも無いでしょうに。」
「……何を、考えて……ですって?」
「?」
息を乱しながら、咲夜は立ち上がる。そんなの、とうに決まっているだろう。それこそ……
「今さら、説くまでも無いでしょう?」
「ッ!?」
身体が強く震える。美鈴は、文字通り頭を抱えた。締め付けるような、それでいて心地よく感じる痛みの中に、初めて見えたのは、"絆"だった。
「ウ……アァ……ッ」
声にぎこちなさが戻り、呻き出す。それでも、美鈴はその意識を手放そうとはしなかった。
諦められない。その暖かさに触れたい、戻りたい。この心地好さは、本物では無いからだ。自分が本当に大切なのは、護りたいのは……
「ア、アア」
「美鈴――!」
柔らかな響き。あの日の感覚が蘇る。
最初はとても弱かった。背伸びをして頬をつついてきたり、館からモップを持ってきて柄で叩いたり。背が伸びると、手で頬を挟んできたり、その手も日に日に大きくなって。そしてついには、ナイフを向けてくるようになった。主譲りの技術力と、元の才が味方して、自分の相手が務まるようになった。
どんなに月日が経っても、その凛とした声は、自分を呼び続けてくれた。信頼と、微かな愛を込めて。
「美鈴!――お願い、"エターナルミーク"!」
「アアアああああッ!!!」
咲夜の宣言は、今度こそ明らかに主を裏切るものだ。それでも彼女は叫び、最後のナイフを投げた。
妖力の壁が、ささやかな破砕音と共に砕け散る。まるで受け入れるかのように、銀の輝きが美鈴の胸に突き刺さった。再び、特別な破砕音。
それは、矛盾した光が合わさった証だった。
――――――
目の前に広がる光景は四つ。
一つは、咏夢と橙を送り込んだスキマ。それは、橙のスペルカードと共に走り去った咏夢を捉えている。今は防戦一方なので、非常に悩ましい光景であることに間違いは無いのだが、それも一先ず置いておきたい。
次の一つは、通じていない。先ほどまでは、従者達である二人の戦闘を撮していたのだが……どうしたのか。時空でも歪んだかのように、白い光が揺らめくだけだ。
さらに一つ、完全に想定外の光景。舞台は大図書館。藍に調査させたところ、魔理沙が居るとのことなので、早速展開したのだが、そこには異様な気配があった。
魔力に一番似ているが、そこに何かが混ざっている。近づくのを躊躇ってしまうのはそのせいだ。目立った動きも、肝心の魔理沙の姿も見られないので、今のところは放置している。
そして最後の一つ。今観測中のスキマである。
見えるのは、高級そうなデスク。木目調のそれに写し出されているのは、館内の様々な光景。監視カメラのモニターのような構図から、現状把握のツールなのだろうが……
「筒抜け、なのよねぇ。」
もう一人の観測者・紫は、扇子で口許を隠し笑った。そうとも知らずに、映像の中の人影を撫でるように、指を滑らせる吸血鬼。その目には、闇にも成りうる程の愛が充ちている。
「恐ろしいものね、感情というのは。昂れば、人を安易に傷つける、凶器になる。」
この闘いが意味するものは、大方分かった。
あとは、ただここから見守るだけ。
紫は、一人の少女の力を信じている。
ありがとうございました!
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