東方陰陽玉   作:咏夢

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はっぴばーすでーとぅーみー!

頑張ります!第一章、これにて完結です!


神槍「スピア・ザ・グングニル」

「はぁ……はぁ……っ」

 

 終わった、のか。部屋に入ってきた時のような残り火が、自分が起こしたものであるとは、到底信じられそうにない。

 その真ん中で、フランは倒れている。どうやら気を失っているようだが、吸血鬼の回復力なら、すぐに治癒するだろう。そこまで考え、咏夢は自身の疲労を感じた。

 思わずその場に座り込んでしまうが、まだ全てが終わった訳では無いはずだ。此所で立ち止まっている時間は……

 

「大丈夫よ。よくやったわ、咏夢。」

「紫……さん……?」

 

 肩を後ろから抱かれ、今までで一番優しい笑みを浮かべる紫が、顔を覗きこんでくる。安堵のため息と共に、咏夢は意識を手放した。

 

――――――

 

「……そろそろ、限界なんじゃない?」

「さぁ……どうかしら、ね。」

 

 挑戦的な笑みを浮かべるパチュリー、しかしレミリアの言葉通り、実際には体力も魔力も残り僅かだ。庇うように前に立つ咲夜も、能力使用が続き息が上がっているし、彼女の戦力を頼るしかない。

 

「セイッ!」

「っ……この戦闘狂が……大人しくしなさい!」

「残念ながら、それだけは従えませんねっ!」

 

 死角から蹴りを入れる美鈴に、素早く突きを返すレミリア。先程からこんなやり取りが続いている。どちらも受けている傷は同じ……だが、あくまでレミリアは本気ではない。彼女のことだ。全員を気絶させるくらいに思っているのだろう。

 

(でも、私の読みが正しければ……)

 

「目を逸らすなんて、案外余裕ね……パチェ?」

「っ!?」

 

 しまった。パチュリーは咄嗟に上体を反らすが、バランスを崩し背中から倒れてしまう。壁に後頭部を強か打ち付けたが、それを気にしている場合ではない。

 咲夜は一足先に意識を失い、美鈴は足を切られているので動けない。辛うじて放ったレーザーを避けられ、術は無くなった……

 

「パチュリー様っ!」

 

 と、思った。本気で終わったと思った。パチュリーは思わず息を付く。目の前には、薄いブルーの壁。水属性を意味するその結界に、レミリアはナイフを下ろした。

 

「今度は何かと思えば小悪魔じゃない。貴女ごときが」

「パチュリー様、全て……全て終わりました!」

「「…………!」」

 

 作戦の終了を伝えるその一言に、パチュリーだけでなく、意味を悟ったレミリアまでもが息を呑んだ。

 肩の力を抜くパチュリーとは裏腹に、レミリアは書斎の机に駆け寄った。自分の開発した館内の監視システムを見ているのだろう、パチュリーは小悪魔に助け起こしてもらう。そして美鈴と咲夜の治癒を指示すると、自身はレミリアの隣へと立つ。ナイフをいつの間に手放したものの、薄れない圧でレミリアは問った。しかしやはり呆然としているようで、その声は細い。

 

「……パチェ、どういうこと?フランは……」

「もう治まったようね……不確定要素によって。」

 

 横目でレミリアに視線を送るパチュリー。机に手を付いたまま、目を瞑るレミリア。そして疲れきったように手を一振りして、モニターを消す。

 

「……アイツ、やはり捕まえておくべきだったわね。」

 

 ため息交じりに呟くその声には、気のせいか予想していたように聞こえて、パチュリーはわずかに苦笑した。どうやら、期待していたのは自分だけではなかったようだ。

 微かな変化に気づいたように、レミリアは踵を返して表情を隠した。羽はゆったりと落ち着きを取り戻し、微笑の気配を漂わせて部屋を出る。

 

「パチェ。その、手伝ってくれる……?」

「今さら断ることなんて無いでしょ?」

「……誰も拒否権があるなんて言ってないわよ!」

 

 空が白く染まり始めた頃、ほんのり赤く染まった頬が、全ての終わりを告げていた。

 

―――――

 

「…………?」

 

 金色の瞳が二度三度と瞬かれ、大きく見開かれる。そうだ、自分はどうなったんだったか?この事件の異変に気づき、外へ出ようと帽子を手に取り……

 

「っあ~……」

 

 かけた瞬間に、倒れてしまったのだ。あの時感じたのは確かかなり初級の魔力。結界の類いだろうか、そうだ、催眠結界なら自分だって使ったことがあるじゃないか。

 瞳と同じ金色の髪を払って、魔理沙は己の愚かさにため息を付いた。しかし、戦闘時の微かな地響きは伝わってこない。いつの間にもう一度寝かされていたソファから立ち上がって、傷の具合を確かめる。パチュリーの腕はやはり凄く、しっかりと塞がっている。万が一戦闘になったとしても、支障は無いだろう……。

 

「あら。やっぱり起きてるじゃない」

「えぇ~!使えるやつで一番の結界だったのに!」

「……そうか?けっこう初級編な感じだったぜ。」

 

 色々な突っ込みは置いておいて、魔理沙は振り向かずに答えた。声の主は咲夜と小悪魔、全て終わったと考えていいのだろう。尚も驚きの声を上げる小悪魔は救いようが無いので放置、咲夜に少し厳しい目を向ける。

 

「……そんな目で見られても、私は何も知らないわよ?」

「…………。」

 

 知らない訳無いだろ。

 全てはこの一言に尽きる。明らかに薄汚れたメイド服を一瞥して、さらに視線を送ると、咲夜は折れたように目を逸らして魔理沙の方へ近づいてきた。

 

「全てが終わった、それだけのことよ。パチュリー様が戻ってきたらにしましょう。」

「あぁ。分かったぜ」

 

 本当は今すぐにでも、真実を聞きたい所だが、魔理沙は妥協点として頷いた。彼女が目を閉じてソファに深く沈みこむと、咲夜は淡く微笑んだ。

 

――――――

 

 そこからの紅魔館は、とても忙しい日々だった。

 館内の修復、事実確認には多少の時間が必要だったが当事者が館内のメンバーだったので、さほど手こずる事は無かった。――ただ一人を除いて。

 

「咏夢、だったかしら?」

「は、はいっ。」

「……ごめんなさい。」

「のぇ?」

 

 呆けて奇声を上げる咏夢の向かいでは、レミリアが、あのレミリアが、視線を逸らして謝罪を述べた。事件時の面影など微塵も見せないその雰囲気のままに、

 

「貴女を、色々と巻き込んでしまって……」

「え、えぇと。私は、その、ただ首を突っ込んだだけと言うか……間が悪かったのは、私だし……」

「でも……」

 

 レミリアは、更に言葉を重ねるつもりか俯いている。どうしたら良いのか、全く分からずに座っている咏夢の肩をいきなり誰かが押し倒した。

 

「"スピア・ザ・グングニル"ッ!」

「っはああああ!?」

 

 どう考えてもスペルカード宣言である文言に絶叫する咏夢だったが、紅の槍は咏夢とその両肩を押さえつけ、あるいは退避させている人物の頭上を越えた。

 

「痛い!何するのよ!」

「それはこっちの台詞でしょうよ!このスキマ妖怪が!」

「あら、何でかしら?」

「……もう一発ご所望のようね?」

「あ、えっ……や、やぁねぇ~。そんな訳無いでしょ?」

 

 移動しましょう、と耳元で囁かれた咏夢は、起き上がったその人物の顔を初めて見ることができた。肩にかかる赤い髪、光沢のある緑のチャイナ服。

 

「……!」

「えへへ、どうも。お久しぶり……と、言える仲では、無いですけどね。」

 

 照れたような苦笑いを浮かべるその女性こそ、自分を襲った当人だったのだ。しかし、こちらも事件時とは、全く雰囲気が違う。人の良さが滲み出ている明るい瞳に多少の申し訳なさに曇っている気がして、咏夢は小さく首を振った。

 

「いえ……きっと、仲良くなれますよ。えぇと……」

「……はいっ!美鈴といいます、咏夢さん。」

「美鈴、さん……宜しくお願いします!」

 

 互いに笑みを交わして、壁際に立つとレミリアがちらと此方を向いて、凛とした声で言った。

 

「……準備は良いようね。咲夜、始めて。」

「ちょ、だから待っ」

 

 磔刑に処す。誰かがそう言ってもおかしくないような光景が一瞬にして現れた。先程の言葉からして、咲夜の所業だろう。いつの間に紫は文字どおり磔になり、咲夜の手には濃い紫の扇子が握られている。

 

「あっ、私の扇子!ちょっと咲夜、って!?」

 

 何これ!?と叫ぶ紫を鬱陶しそうに見つめるレミリアは、咲夜に下がるよう言うと片手を掲げた。再び周りの空気が揺らぎ、光を放つ槍を創り出す。

 

「あの~、咏夢?」

「頑張って下さいね紫さん。私、此所で見てますから。」

 

 これまでにないほど、爽やかな笑みを浮かべて、咏夢は助ける意思など微塵も無い事を示した。

 

「この件……お前だけは許さない、この場で地に這え!」

「嘘でしょ――!?」

 

 本日二度目の宣言と刹那の突風。今まで積み重なった怒りを晴らさんとばかりに、レミリアは槍を片手に紫へと飛びかかった。

 結局、その戦闘には途中から魔理沙も加わって、午後のティータイムまで続いた。美鈴と咏夢、咲夜は交流を深めた一方、館の修復が再度行われたのもまた事実なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 




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