あああ……休みは終わりますね……。
見事に大破した襖の奥から、爆発的な突風が突き刺してくる。悲鳴を上げる咏夢を伏せて、自身も片膝を付く橙。辛うじて右目だけ前を見据えると、ぼんやりとした人影が倒れている。
「――!藍姉っ!?」
「っ、咏夢!」
危ない、と叫ぶ橙の声が再びの突風に掻き消される。シュガーは、すがるようなフランに頷くと、前へと必死に駆けた。流石の身体能力で咏夢の肩を掴むと、少女は驚いて振り返る。
「シュガー……!」
「何やってんだ咏夢!今そいつに触れれば、お前まで氷漬けになるぞ!」
「えっ?!」
ぐいっと咏夢を引き戻すと、シュガーは冷静に諭した後にも関わらず、部屋の中に向かって右手を広げた。左手で肩を掴まれたままの咏夢は、慌てて橙を見るが消耗しているようで止められそうにない。
「ちょっ!シュガーってば、ねぇ!」
「――煩い、狙いが逸れるだろっ」
「え……?」
真剣に紅い瞳を細めるシュガーの狙いは、一体。咏夢は、藍姉の部屋の内装を思い浮かべようとした。
(あれ……?)
そういえば、見たことがない。一度も彼女の部屋に、入ったことがない。咏夢はもう一度霞む部屋を見た。
「っ、"壊す"!!!」
「わっ……!?」
顔を背けた咏夢の頬を、鋭い破片が掠める。ピリピリした痛みを感じながら、シュガーに抱かれた咏夢はその瞳に宿る警戒心の強さに、焦燥感を覚える。
「……いて、は…………じ……よ……」
「っ、誰か……居るの……?……藍姉……?」
少し震えた声に応えるような冷気。今までとは違い命を刈り取る気配は無いが、静けさを身に浴びたような、恐ろしく冷たい香りだ。
橙がようやく立ち上がり、咏夢の隣に並ぶ頃には、氷の粒は溶けて襖を濡らし、靄は晴れて少女の姿を露にしていた。
「"現人神の掟に於いて、春を凍らせ封じこめよ"……。」
「藍、姉……?」
それは咏夢の知る、穏やかな少女では無かった。神の力を解き放った、彼女の髪は氷のような水色に染まり、白い指先は霜に覆われている。
「あらひとがみ……って、ど、どういうこと……?藍姉は、……何を、してるの……?」
「…………ごめんね、咏夢ちゃん。私だって、こんな事したくない……。でも、これが掟。私への"罰"なの。」
「……分からないよ……どうして?掟って何、藍姉が何をしたの……?!」
哀しく透き通った瞳に、咏夢は必死に呼びかけた。掟に縛られた理由は無くても、償うべき罪はある。藍姉の犯した、たった一つの罪。
「まだ償えない……償うには、足りないの……」
過去に憑かれたように、両手を広げる藍姉。その周囲を冷気が包んでいく。咏夢はまだ必死に、彼女の名前を叫んでいたが、橙が無理やり引き剥がす。
「藍姉ーーっ!!!」
「っ、……"凍った白鳥の湖"。」
薄い氷が刃になって、四人に襲いかかる。藤原藍姉、始めてのスペルカードだった。
ありがとうございました!
感想等お願いいたします!!!