辺りの気温が下がり、藍が毛布を用意してから、血相を変えたフランが飛び込んできた間は、僅か4分程度。その間に何が起きたかは分からないが、紫は苦しげな橙を見るなり目付きを厳しくした。それは彼女の主たる藍も同じで、すぐに胸に手を当て妖力を練る。
「おい!何があったんだ紅魔!」
「私は紅魔じゃなくてその妹です!そうじゃなくて……元凶が居たんです!橙はそれにやられました。」
「何?!」
「……それは由々しき事態ね。」
そう言う割には、紫は席を立つつもりもないみたいだった。フランは、部屋を駆け出していこうとするシュガーの羽を後ろから引っ掴んだ。
「っでででで!!!何……」
「今行っても何も出来ないでしょ!」
「んな事言ってて、アイツが死んだらどうするんだよ!」
その言葉に、場が静まる。咏夢が死んだら、どうするのだろう。黙り込むフランに、紫は微笑んだ。
「大丈夫よ、フラン。シュガー。」
「え……?」
「あの子は死なないわ、絶対にね。」
「そんなの……どうして言い切れるんだよ!」
決まっている、と紫は笑った。遠い昔の彼女を、彼女の大切な家族達が、どんなに優しく見守っていたか。
「だって、仮にも"博麗"ですもの。神にだって負けたりなんかしないわ。」
そうでしょう?零華――。
――――――
気を抜けば、意識を刈り取られるであろう事は明白。咏夢は、気に入っている巫女服を今だけ恨んだ。
「藍姉……!もう、もう止めようよ!」
「…………春は、まだ来させない。」
フランとシュガーは立ち去った。紫を呼びに行ったのだろうが、それだけならすぐに戻ってくるはずだ。
つまり。
(また、試されてる……。)
博麗の成り損ない――幻想郷にいるという本物の博麗の巫女は、まだ見たことがないが――である咏夢は、紫にその実力を計られている。そう感じていた。
それならば、勝たなければなるまい。
大切な人に会うため、彼女に認められなければ。
――紫ではない、大切な彼女にも。いつか。
「……、私は藍姉を退治しなくちゃいけない。」
「!」
「だって私は、この村の"博麗"だから……!異変解決、世界平和なんだからっ!」
札を構える咏夢、ついに双方が敵意を見せた。親友、家族、そんなものは関係ない。これは異変だ。元凶と、それを退治する巫女が向き合った。ただそれだけの事。
「"封魔陣"……!」
「"紅のダイヤモンドダスト"!」
札に込められた霊力が、冷気に微かな抵抗力を持って飛んだ。しかし、放った三枚の内、藍姉に触れたものは一枚も無かった。
動体視力は鍛えてある方だと自負している咏夢は、紅に染まった氷の欠片を、藍姉に近づこうとしながら避けていく。しかし、密度の高くなっていく大小さまざまな氷に肌を切り裂かれ、少し顔を歪める。
一方の藍姉も、もはや容赦は無かった。冷気を無意識下に高めると同時に、氷を打ち付けるように浴びせる。巫女を前にして戦ううちに、藍姉は口の端に笑みを浮かべていた。
(もっと……もっと、強く……!)
あの日のように、私を燃やし尽くしてくれ。
藍姉の願いが届いたかのように、咏夢が大きく距離を取った。ふっと目を閉じて、白紙の札を構える。それが青く染まり始め、彼女の青い瞳がさらに深く染まる。
彼女が意識的に"能力"を発動したのは、これが初めてだった。
「"レーヴァテイン"……!」
豪雪を溶かすような炎が巻き上がる。藍姉はその温度に目を細めたが、そこに宿る闘志はより一層濃くなったように思えた。
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