東方陰陽玉   作:咏夢

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 閑話的な、関わりのあるようなないような。

 そんな無駄話です。思い出せそうで、届かない。


博麗のキオク①

 その時、確かに動き出した歴史。それを感じたのか、一人の少女は目を覚ました。

 

「誰……」

 

 そう呟いたのは、微かな神力を感じたから。それと、凍りつくような冷気も。少女は、すっかり暖かくなった縁側で、どうやら居眠りしていたらしい。

 

「……?」

 

 境内には誰も居なかった。例年通りの春の陽射しが、チクチクした指先を癒していく。少女はそれを拒むように、咄嗟に手を胸に握り込んだ。

 

 ふとした胸騒ぎは、少女が数日前に聞いた、妙な噂を思い出させた。何でも、数週間前に紅魔館が半壊したというのだ。意味が分からない、と一蹴した少女に、妖精は本当に見たんだと喚いた。

 

(そういえばチルノ、魔理沙も見かけたって言ってた?人里の子供を連れてたって話だけど……大丈夫だったのかしら。)

 

 箒で飛び回る親友の姿を思い浮かべる。まぁ彼女なら心配は無いだろう。そして、その当人を最近見ていない事に気づく。

 だが、少女は打ち消すように首を振った。それこそ、自分には関係のない事だ。スキマ妖怪も訪ねてこない、なんて平和な日々なのだろう。少女は満足そうに口元を緩めた。

 

 そこで、自分が謎の行為をしていることに気づく。胸に抱え込んだ違和感と、自らの両手を見つめて、少女は一転瞳を細めた。

 

「寒い……、怖い……強く、なりたい……、?」

 

 渦巻く感情を吐き出す。自分では全く心当たりのない事案ばかり。一つ目は気象としてあり得ないし、二つ目はさらによく分からない。三つ目は――

 

「っ!?」

 

 少女は鋭く息を詰める。脳裏を過った声は、確かに、強くなりたいと、そう叫んでいた。幼く、自分に似た声だった。

 

「……これは、私?それとも……」

 

 混沌とする思考、誰かと繋がるような温もり、それを絶たれる痛み。全てを、自分で感じてきたように震える手を、少女はもう一度ゆっくりと抱きしめた。

 

「何も、分からない……私は……」

 

 何にも例えられない、鋭い痛みが走る。

 

『貴女に過去なんてない。貴女だけが博麗の巫女。』

 

『貴女に――

 

 

 

 

 

 家族なんて居ない。そうでしょう?』

 

――――――

 

「……む、霊夢!」

 

「ん……?魔理沙じゃないの。」

「何やってんだよ。もう夕方だぜ?」

 

 いつから寝てたんだ、と苦笑交じりに問われる。霊夢はこてんと首を傾げた。いつからだったか。さっきか?それとも朝からか?自分の間抜けさに少々呆れながら、親友に笑う。

 

「さぁね。忘れちゃったわ。」

「……そうかよ。ま、お邪魔してくぜ~」

「じゃあ貴女が作ってくれるのね、夕飯。」

「しゃーないなぁ……何がいい?」

 

 霊夢は、ふと呟いた。何とは無しに、ただの思いつきだった。あるいは、まだ寝ぼけているのかもしれない。

 

「おふくろの味……」

「……はっ???」

 

 台所から怪訝そうに顔を出す魔理沙に、慌てて笑顔を向けた。一体何を言っているのだろう。

 

「ううん、何も言ってない。」

「そ、そうか?あっ、味噌汁とかどうだ。」

「それいいわね。採用!」

 

 上機嫌で居間に座った少女は、ちょっとした噂話や、ついでにその関係者の事も、すっかり忘れていた。

 

 無論、触れてはいけない"記憶"の事も。

 

 あの日の声は、まだ届かない。

 

 

 

 

 

 




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