そんな無駄話です。思い出せそうで、届かない。
その時、確かに動き出した歴史。それを感じたのか、一人の少女は目を覚ました。
「誰……」
そう呟いたのは、微かな神力を感じたから。それと、凍りつくような冷気も。少女は、すっかり暖かくなった縁側で、どうやら居眠りしていたらしい。
「……?」
境内には誰も居なかった。例年通りの春の陽射しが、チクチクした指先を癒していく。少女はそれを拒むように、咄嗟に手を胸に握り込んだ。
ふとした胸騒ぎは、少女が数日前に聞いた、妙な噂を思い出させた。何でも、数週間前に紅魔館が半壊したというのだ。意味が分からない、と一蹴した少女に、妖精は本当に見たんだと喚いた。
(そういえばチルノ、魔理沙も見かけたって言ってた?人里の子供を連れてたって話だけど……大丈夫だったのかしら。)
箒で飛び回る親友の姿を思い浮かべる。まぁ彼女なら心配は無いだろう。そして、その当人を最近見ていない事に気づく。
だが、少女は打ち消すように首を振った。それこそ、自分には関係のない事だ。スキマ妖怪も訪ねてこない、なんて平和な日々なのだろう。少女は満足そうに口元を緩めた。
そこで、自分が謎の行為をしていることに気づく。胸に抱え込んだ違和感と、自らの両手を見つめて、少女は一転瞳を細めた。
「寒い……、怖い……強く、なりたい……、?」
渦巻く感情を吐き出す。自分では全く心当たりのない事案ばかり。一つ目は気象としてあり得ないし、二つ目はさらによく分からない。三つ目は――
「っ!?」
少女は鋭く息を詰める。脳裏を過った声は、確かに、強くなりたいと、そう叫んでいた。幼く、自分に似た声だった。
「……これは、私?それとも……」
混沌とする思考、誰かと繋がるような温もり、それを絶たれる痛み。全てを、自分で感じてきたように震える手を、少女はもう一度ゆっくりと抱きしめた。
「何も、分からない……私は……」
何にも例えられない、鋭い痛みが走る。
『貴女に過去なんてない。貴女だけが博麗の巫女。』
『貴女に――
家族なんて居ない。そうでしょう?』
――――――
「……む、霊夢!」
「ん……?魔理沙じゃないの。」
「何やってんだよ。もう夕方だぜ?」
いつから寝てたんだ、と苦笑交じりに問われる。霊夢はこてんと首を傾げた。いつからだったか。さっきか?それとも朝からか?自分の間抜けさに少々呆れながら、親友に笑う。
「さぁね。忘れちゃったわ。」
「……そうかよ。ま、お邪魔してくぜ~」
「じゃあ貴女が作ってくれるのね、夕飯。」
「しゃーないなぁ……何がいい?」
霊夢は、ふと呟いた。何とは無しに、ただの思いつきだった。あるいは、まだ寝ぼけているのかもしれない。
「おふくろの味……」
「……はっ???」
台所から怪訝そうに顔を出す魔理沙に、慌てて笑顔を向けた。一体何を言っているのだろう。
「ううん、何も言ってない。」
「そ、そうか?あっ、味噌汁とかどうだ。」
「それいいわね。採用!」
上機嫌で居間に座った少女は、ちょっとした噂話や、ついでにその関係者の事も、すっかり忘れていた。
無論、触れてはいけない"記憶"の事も。
あの日の声は、まだ届かない。
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