ぐだぐだっとした番外編を挟むかもしれません。
全てを終わらせた咏夢は、そのまま意識を放った。力は一握りも残されていないし、立ち上がる事さえ困難。よくもまぁこれだけの力を放出できたものだと、迎えに来た藍は、呆れるように笑った。
「まずは此方からだな。」
藍は、倒れた藍姉の手を握ると、気絶しているだけであることを確かめた。そして、破壊された姿見の脇から探し出したチョーカー……"封印のシルク"を手に取ると首元にそっと結ぶ。
冷蔵庫を開け放したようだった辺りが、ゆっくりと春の暖かさを取り戻していく。その光に照らされて、静かな寝息をたてる、二人の少女。
(異変の元凶と、それを抑えた巫女か。まったく、そうは見えないがな……。)
本当にまだ、幼い巫女だ。自分の知る博麗とは、三つか四つ下だろう。それなのに、親から引き継いだほんの少しの血縁で、力を発揮してしまうとは。やはり何か、底知れぬ才能が眠っているのかもしれないな、と藍は顎に手を添えて思った。
そこで我に返って、早く主の所へ戻らなくてはと咏夢をそっと抱き上げる。姉に似て細っこい奴だ。この距離で見ると、何とも可愛らしい……年相応という意味だ。藍は極力静かに、あどけない顔をした少女を運んだ。
――――――
それから数日して、静かな春の訪れに一歩遅れて活気づいた村では、あちらこちらで花見客が戯れていた。獣のような奴から普通の人間まで、色々な人妖が混じっている、その雑多な光景が――眩しかった。
「楽しんでますか?」
「!文さん!」
団子を片手ににこりと微笑む文。咏夢はぱあっと顔を明るくしたが、文は心配そうに目線を低くした。
「なんだかボーッとしてましたよ?何かあったら言ってくださいね!咏夢!」
「は、はい!ありがとう、ございます!」
もう一度微笑みかけると、カメラを構えて飛び去った彼女を見て、咏夢は少し萎んだ顔をした。色々あって、疲れてしまったのもある。だが、一番に気掛かりなのは自分の"力"の事だ。
(私、あの時一体何を……)
「それはまだ解らないわ。私にも、貴女にもね。」
「うわぁぁぁっ!!?」
自分の手のひらを見つめていた咏夢に、突然応える紫。飛び退いた彼女に、妖艶な笑みを浮かべて訊ねる。
「貴女は、"本物"になりたい?」
「っ!……はい。」
「周囲から認められるということは、命を狙われる覚悟を必要とする。それでも……貴女は"力"を選ぶ?」
それさえも承知の上だった。咏夢は、澄んだ蒼い瞳を虹色に揺らめく結界の先に向けた。そこは、残酷な楽園であり、唯一つ大切な人の手掛かりである場所。
「幻想郷で、あの人に逢うためなら、私はどんな危険も犯します。禁忌だって破る。認められ、本物になれた時、彼女に会えるなら……何にだって耐えてみせる。」
「…………。」
その危うさは、母親譲りだった。紫は亡き友に想いを馳せると、記憶にそっと問いかけた。
(ねぇ、零華。貴女の娘はどうして、こんなに私を……)
答えに、紫はふっと笑みを溢した。そんなの決まっている。彼女の血を継いだのだ、どんな無茶もやり遂げてみせるだろう。
それに困らされて、救われてきたのは、いつも私だけじゃない。胸の内で紫もまた、覚悟を決めたのだった。
「貴女に、"試練"を与えましょう。まだ覚醒には至っていない、貴女の真の力を試す、"博麗の試練"を。」
「――!」
「一ヶ月待ちましょう。それまで、貴女の力を磨く事ね。」
文字通り消えた紫と入れ替わりに、母屋から藍姉と橙が駆け寄ってくる。その暖かさに、咏夢は毅然と大空を見つめた。
(大丈夫だ、きっと。)
だって、こんなにも暖かい。仲間の温もりは、彼女を一番に奮い立たせた。まだ確信は無いけれど、乗り越えられると、そう信じる事ができた。
彼女、咏夢はまだ知らない。
"本物"になるという事が、どれだけ歴史を塗り替えるのかを。そして――まだ見ぬ彼の事も。
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