②も書くはずです。多分。
橙は凍えていた。もともと妖獣ではあるが猫なのだ。炬燵で丸くなっていたいのだ。それでも、目の前を早足で歩く彼女は、目が離せないから。
――――――
出会いは突然だった。
「橙、少し出かけるわ。ついてきてくれる?」
「!……はいっ」
留守番を頼まれることは多々有れど、同行を頼まれるのは久しぶりで、とても光栄な事だった。すぐに身支度――といっても大した準備は要らないが――を済ませ、主のスキマに入る。
甘い声と、可愛らしい仕草も忘れずに。あくまで純朴で素直な子猫のように。それが、橙の強みであり戦法である、キャラクターというものだった。
上空に出たので、慌てて手を動かす。簡易結界を足場にして、落ち着いた後で隣を見やる。眼下の小さな村を眺めながら、何かを探しているような目付きだ。此処に何があるのか、橙にはさっぱり分からなかった。
「……?」
「――在ったわ。行くわよ、藍、橙。」
紫は滑るように移動した。その後を慌てて追うと、某神社とは違う、綺麗な神社が建っていた。中から賑やかに談笑する声が聞こえる。
「ふーん……少しちょっかいを掛けてくるわ」
「えっ?ちょ、ゆ、紫様!?」
藍が声を上げる頃には、もう中から悲鳴が聞こえた。なるほど、スキマを使って遊んでいるに違いない。隣で頭を抱える主、ある意味橙よりも幼い紫を宥めるのは、至難の技であった。だから、橙はいざというときに、今の"子供らしい自分"を捨てる。ただし、藍には内緒で。
「?」
「行こうか、橙。紫様を止めなければ。」
「はい!」
紫様の居場所を探り、追随する。目を開けると、紫はスキマから身を乗り出して誰かと話しているようだ。橙は、藍に続いてそこからぴょこんと降りると、少女達をしばし眺めた。
蒼い瞳の巫女、銀髪の少女。で、射命丸文。コイツ何やってるんだろう、とか考えながら、橙も少しイタズラすることにした。
「あら?……大丈夫かしら、この子達。」
「だから驚かし過ぎだって、言いましたよね?私。」
藍のため息が聞こえる。それを横目に見ながら、目を見開いて固まっている二人の頭をゆっくり撫でる……と同時に、大体の力量を把握しようと考えた。
(まずは、こっちから。)
抑え込まれた力の奔流を感じる。その力は恐ろしく、強い。氷雪系の神力だろうか。何故抑えられるのか疑問に思うほど、強大な素質を持っている。
人間特有の霊力も感じるので、現人神というやつかなと結論付けて、隣の巫女に移る。
「……!」
何だこれは。橙の手が止まった。実に不思議な出来事だった。懐かしいような恐ろしいような、読み取れない力が渦巻いている。けれどもそれは、まだ表に出てきた事の無い、秘められた力。
呆けた顔をしている巫女の少女を観察するが、特に、変わった所は――。
「あ……」
そして、橙はうっすら感じたのだ。
主たる紫が、何故わざわざ此処に来たのか。
この少女が、本当は何者であるのか。
幻想郷の巫女・博麗霊夢は、代々継がれてきた博麗の
何代目かだ。正確な歴史を橙は知らないのだが、先代は実の母親だったらしい。何度か紫が口にしていた、零華という名前は、きっとその先代巫女のものだろうと推測している。
(きっと、この巫女は……博麗の、……)
何の前触れもなく、思考にノイズが走る。橙は、反射的に少女から手を離した。認識阻害を受けている事は、日頃の鍛練の成果として読み取る事が出来たのに、その術は今までに感じたことの無いほど、強力で何者も拒むような感覚だった。
「行くわよ、橙。」
「……!」
落ち着いた声に意識を引き戻された時には、何か秘密に触れたことさえ、橙の記憶からは消されていた。ただ一つ、この少女を護らなくては、という理由の解らない衝動が、彼女の胸に焼き付いた。
―――――
とりあえず仕切り直した。村巫女の名前は咏夢というらしい。藍に促されて、紫が本題に入る。
「橙と闘ってみない?」
咏夢と目が合う。歳は同じくらいの、幼い少女。正直相手にならないだろう、と心の中で嘲笑う。橙はできるだけ無垢な、あどけない表情を作った。何も知らない、小さな村の"自称"博麗の巫女に……。
(負けるわけ、ないじゃん。)
紫の意味深な笑みと、藍の親バカとも言える激励に見送られて、咏夢と境内で向き合う。気合いの入った様子で、こちらをまっすぐに見ている少女の姿に、純粋な瞳を向けるフリをする。
「あーゆーれでぃ?」
「……っ」
「?」
紫の声で、弾幕ごっこが始まった。咏夢は素早く宙へ飛び上がる。なるほど、基本的な事は出来るみたいだ、と橙はそれを見守っていた。そして、指の動きで結界を張ると、そこに勇ましく突っ込んできた咏夢を笑った。
(馬鹿みたい。ホントに巫女なの?コイツ)
ここからは自分の力を出さなくてはならない。藍や紫に声の聞こえない距離を探り、咏夢と空中で二人きりになる。
さっきので結構頭に来ているのか、札を撃ちまくってくる咏夢に、余裕の笑みを見せつけながら避けていく。
その猛攻も長くは続かず、橙は勝利を確信した。元よりこんな人間風情が、自分に敵うはずは無かったのだ。
「何してるの?」
「……。」
咏夢はじっと黙りこんでいる。力の差に気づいたのか、しかしもう遅い。一歩ずつ距離を詰めていく。屈辱的な敗北を味わわせてあげよう。
「ねぇ、何して」
「此所だああぁぁぁっ!!!」
「!!?」
大声と共に、咏夢が札を叩きつける。橙が、後退するよりも速く。周りに配置された札が、強固な結界を創ると、咏夢は瞳を輝かせた。
なんて純粋なんだろう、と橙は思った。
自分の策が一つ成功したくらいで、何でそんなに。橙は、咏夢の策はここまでだなと笑った。こんな初級の、バラバラに配置された札が創る結界なんて、爪の一振りで崩れるだろう、と。
しかし、結界は緩むことなく、その光を強め始めた。橙は訝しげな表情を浮かべて、目の前の咏夢に浮かんだ不敵な笑みの意味を探った。
(これって、まさか……!?)
「"二重結界"ッ!!!」
「"飛翔晴明"――ッ!」
橙は、内心焦りに焦って、スペルカードを宣言した。咏夢の発動した技は、不完全ではあったが"博麗"のものだ。触れてはどうなるか分からない。
相殺された自分のスペルを眺めながら、橙は自分が、笑っている事に気づいた。心の底から、楽しかった。
そして、決めたのだ。
――自分はきっと、この少女と共に歩むのだと。
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