東方陰陽玉   作:咏夢

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 (行き詰まったので)閑話として橙sideです。

 ②も書くはずです。多分。


猫のキモチ①

 橙は凍えていた。もともと妖獣ではあるが猫なのだ。炬燵で丸くなっていたいのだ。それでも、目の前を早足で歩く彼女は、目が離せないから。

 

――――――

 

 出会いは突然だった。

 

「橙、少し出かけるわ。ついてきてくれる?」

「!……はいっ」

 

 留守番を頼まれることは多々有れど、同行を頼まれるのは久しぶりで、とても光栄な事だった。すぐに身支度――といっても大した準備は要らないが――を済ませ、主のスキマに入る。

 甘い声と、可愛らしい仕草も忘れずに。あくまで純朴で素直な子猫のように。それが、橙の強みであり戦法である、キャラクターというものだった。

 

 上空に出たので、慌てて手を動かす。簡易結界を足場にして、落ち着いた後で隣を見やる。眼下の小さな村を眺めながら、何かを探しているような目付きだ。此処に何があるのか、橙にはさっぱり分からなかった。

 

「……?」

「――在ったわ。行くわよ、藍、橙。」

 

 紫は滑るように移動した。その後を慌てて追うと、某神社とは違う、綺麗な神社が建っていた。中から賑やかに談笑する声が聞こえる。

 

「ふーん……少しちょっかいを掛けてくるわ」

「えっ?ちょ、ゆ、紫様!?」

 

 藍が声を上げる頃には、もう中から悲鳴が聞こえた。なるほど、スキマを使って遊んでいるに違いない。隣で頭を抱える主、ある意味橙よりも幼い紫を宥めるのは、至難の技であった。だから、橙はいざというときに、今の"子供らしい自分"を捨てる。ただし、藍には内緒で。

 

「?」

「行こうか、橙。紫様を止めなければ。」

「はい!」

 

 紫様の居場所を探り、追随する。目を開けると、紫はスキマから身を乗り出して誰かと話しているようだ。橙は、藍に続いてそこからぴょこんと降りると、少女達をしばし眺めた。

 

 蒼い瞳の巫女、銀髪の少女。で、射命丸文。コイツ何やってるんだろう、とか考えながら、橙も少しイタズラすることにした。

 

「あら?……大丈夫かしら、この子達。」

「だから驚かし過ぎだって、言いましたよね?私。」

 

 藍のため息が聞こえる。それを横目に見ながら、目を見開いて固まっている二人の頭をゆっくり撫でる……と同時に、大体の力量を把握しようと考えた。

 

(まずは、こっちから。)

 

 抑え込まれた力の奔流を感じる。その力は恐ろしく、強い。氷雪系の神力だろうか。何故抑えられるのか疑問に思うほど、強大な素質を持っている。

 人間特有の霊力も感じるので、現人神というやつかなと結論付けて、隣の巫女に移る。

 

「……!」

 

 何だこれは。橙の手が止まった。実に不思議な出来事だった。懐かしいような恐ろしいような、読み取れない力が渦巻いている。けれどもそれは、まだ表に出てきた事の無い、秘められた力。

 呆けた顔をしている巫女の少女を観察するが、特に、変わった所は――。

 

「あ……」

 

 そして、橙はうっすら感じたのだ。

 

 主たる紫が、何故わざわざ此処に来たのか。

 この少女が、本当は何者であるのか。

 

 幻想郷の巫女・博麗霊夢は、代々継がれてきた博麗の

何代目かだ。正確な歴史を橙は知らないのだが、先代は実の母親だったらしい。何度か紫が口にしていた、零華という名前は、きっとその先代巫女のものだろうと推測している。

 

(きっと、この巫女は……博麗の、……)

 

 何の前触れもなく、思考にノイズが走る。橙は、反射的に少女から手を離した。認識阻害を受けている事は、日頃の鍛練の成果として読み取る事が出来たのに、その術は今までに感じたことの無いほど、強力で何者も拒むような感覚だった。

 

「行くわよ、橙。」

「……!」

 

 落ち着いた声に意識を引き戻された時には、何か秘密に触れたことさえ、橙の記憶からは消されていた。ただ一つ、この少女を護らなくては、という理由の解らない衝動が、彼女の胸に焼き付いた。

 

―――――

 

 とりあえず仕切り直した。村巫女の名前は咏夢というらしい。藍に促されて、紫が本題に入る。

 

「橙と闘ってみない?」

 

 咏夢と目が合う。歳は同じくらいの、幼い少女。正直相手にならないだろう、と心の中で嘲笑う。橙はできるだけ無垢な、あどけない表情を作った。何も知らない、小さな村の"自称"博麗の巫女に……。

 

(負けるわけ、ないじゃん。)

 

 紫の意味深な笑みと、藍の親バカとも言える激励に見送られて、咏夢と境内で向き合う。気合いの入った様子で、こちらをまっすぐに見ている少女の姿に、純粋な瞳を向けるフリをする。

 

「あーゆーれでぃ?」

「……っ」

「?」

 

 紫の声で、弾幕ごっこが始まった。咏夢は素早く宙へ飛び上がる。なるほど、基本的な事は出来るみたいだ、と橙はそれを見守っていた。そして、指の動きで結界を張ると、そこに勇ましく突っ込んできた咏夢を笑った。

 

(馬鹿みたい。ホントに巫女なの?コイツ)

 

 ここからは自分の力を出さなくてはならない。藍や紫に声の聞こえない距離を探り、咏夢と空中で二人きりになる。

 さっきので結構頭に来ているのか、札を撃ちまくってくる咏夢に、余裕の笑みを見せつけながら避けていく。

その猛攻も長くは続かず、橙は勝利を確信した。元よりこんな人間風情が、自分に敵うはずは無かったのだ。

 

「何してるの?」

「……。」

 

 咏夢はじっと黙りこんでいる。力の差に気づいたのか、しかしもう遅い。一歩ずつ距離を詰めていく。屈辱的な敗北を味わわせてあげよう。

 

「ねぇ、何して」

「此所だああぁぁぁっ!!!」

「!!?」

 

 大声と共に、咏夢が札を叩きつける。橙が、後退するよりも速く。周りに配置された札が、強固な結界を創ると、咏夢は瞳を輝かせた。

 

 なんて純粋なんだろう、と橙は思った。

 

 自分の策が一つ成功したくらいで、何でそんなに。橙は、咏夢の策はここまでだなと笑った。こんな初級の、バラバラに配置された札が創る結界なんて、爪の一振りで崩れるだろう、と。

 

 しかし、結界は緩むことなく、その光を強め始めた。橙は訝しげな表情を浮かべて、目の前の咏夢に浮かんだ不敵な笑みの意味を探った。

 

(これって、まさか……!?)

 

「"二重結界"ッ!!!」

「"飛翔晴明"――ッ!」

 

 橙は、内心焦りに焦って、スペルカードを宣言した。咏夢の発動した技は、不完全ではあったが"博麗"のものだ。触れてはどうなるか分からない。

 相殺された自分のスペルを眺めながら、橙は自分が、笑っている事に気づいた。心の底から、楽しかった。

 そして、決めたのだ。

 

 ――自分はきっと、この少女と共に歩むのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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