東方陰陽玉   作:咏夢

34 / 41
咏夢は元気です。夏バテしません。


出会い⑤

 それから数分後、大した怪我はしていないが、脱出も出来ていない咏夢は、大きくため息を吐いていた。辺りはそろそろ黄昏時を迎えて、残り数分で夜が包むはずの空を照らし出していた。

 

「何あの狼人間……強すぎる……」

「おねーさんだいじょーぶー?」

 

 待っている子供達も、もはや呆れ顔である。咏夢にも意地があるので、ここで負けてやる訳にはいかない、のだが……強いのだ。今の咏夢一人では一匹も倒せそうにないような、狼やら猫やらの獣人が入口を見張っているのだ。威勢よく飛び出しては、鋭い爪や牙の猛攻に即刻逃げ帰ってくる。そんなことを繰り返すこと10回。

 

「どうしよう……もう誰でもいいから、助けて~……」

 

 精魂尽き果てた咏夢の祈りが通じたわけではないが、その時洞窟の入口近くに、救いの勇者が降り立った。

 

――――――

 

「さて……連れ去られてみたのはいいが、どこだここ?湖はもう見えないな……まあ、どうにかなるか。」

 

 幼い子どもを狙っているからか、見張りは三匹ほど。優希はしばらく辺りを見回していたが、自分をさらってきた獣人が目を覚ましそうになっているのを見て、正面から討ちかかる事にした。

 

「あ?誰だてめぇは?」

「妖怪に名乗る理由はないよ。」

「ひゃひゃひゃ!人間ごときが調子に乗りやがって……ん?あーあ、また出てきやがったなアイツ。」

 

 優希が自然な立ち姿で獣人と会話をしていると、洞窟の方から小さな足音が聞こえてくる。普通の人間よりも高い霊力を持っているようで、優希はその様子を見守る事にした。

 

「よい、しょ……今度こそ倒してやるんだから!」

「ひゃひゃっ!笑わせるぜ、何回逃げるつもりだぁ?」

「う、うるさいな!子供達をいい加減離して!」

「あん?あんまり調子に乗ってると、大事な札切り裂いちまうぞ?」

「うっ……そ、それは……」

 

 強い力を持った護符を大事そうに握りしめる少女に、リーダー格の狼は再び大声で笑い出すと、白い爪をちらつかせながら近づいていく。

 優希は、そこまで静かに様子を見ていたが、腰の刀をサッと抜くと声をかけた。

 

「そこまでだ。さすがに手を出すのは見てられないな。」

「あ?まだ居たのかよ、人間。さっさと消えねーとお前も……」

「聞こえなかったのか?」

 

 優希の瞳が細められる。一段低くなった声で、獣人の喉元に刃の切っ先を向けながら、最後の警告を促す。

 

「そこまでだ。この洞窟を捨てて、今すぐに立ち去れ。」

「な、何怯えてんだよ!相手はたかが人間一人だ!」

「……そうか。仕方ないな。」

 

 落ち着いた色の瞳が、全てを見透かすように見つめ、やがて閉じられる。そして再び刀を構えた彼は、獣人を全員視界に捉えると言い放った。

 

「君たちはもう、攻略済みだ。」

「やれーっ!」

「はっ……!」

 

 獣らしい唸り声を上げながら、猫の獣人が飛びかかる。優希はそれを刀で防ぐと、俊敏な動きで隙を突くと勢いよく刀を振り抜いた。

 

「ここだっ!」

「あああ!?俺っちの爪があああ!?」

「お、おいバカ!」

 

 猫は叫んでいる間に、肩からすっぱりと斬られて近くの茂みへ倒れ込む。狼が慌てて臨戦態勢に入るが、優希は刀を一振りすると誰に聞かせるでもなく言った。

 

「君らの爪は諸刃の剣、ただの脅しにしか過ぎない。」

「ひゃひゃ……だから何だ!俺様の牙には敵うまい!」

「どうかな。」

 

 狼は、少女から完全に興味を無くして、優希の喉元へ飛びかかる。対する彼は冷静に刀で受けると、勢いよく振り払う。しかし、狼はすぐに立ち直ると足元に突進を喰らわせる。バランスを崩した彼の襟元に、器用に爪が突き刺さると、狼は彼を宙に吊り上げた。

 

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

「や、やめなさい!」

「っ、何で……」

 

 優希は自分の置かれた状況より、少女がまだそのまま立っていた事に焦っていた。明らかに無防備な、巫女服の一枚では、攻撃の一つも防げない。

 

「いい加減にして!この犬野郎!」

「あぁ?今何つった。喧嘩売ってんのか!?」

「やめろ……湖の方に逃げるんだ……!」

 

 優希がそう声を上げるが、少女はその場を動かない。地面に投げ捨てられた優希は、咄嗟に受け身を取ることができずに、後頭部と背中を強か打ち付けた。上手く体を持ち上げられない。このままでは、間に合わない。

 

「やめ……!」

「まずはてめえからだぁ!」

 

「――"封魔陣"!」

 

 少女が、凛と声を張り上げた。ぱっと広がった光に、思わず目を庇う。次の瞬間に優希が見たのは、二枚の札に縛られた狼の姿だった。

 

「!」

「今ですっ……!」

 

 優希は刀を手に立ち上がると、素早く地を蹴り気合いと共に振り下ろす。少女の後ろで目を輝かせる子供達を視界に捉えて、手に込められる力が一層強くなる。狼の悲鳴で軋む光の輪に、両手で妖怪を押し込める。刹那、破裂音のようなものが響き、その場からは跡形もなく獣の姿は消えていた。

 愛刀を鞘に収めると、その音が引き金になったように子供達が歓声を上げた。身体の力が抜けそうになるが、少年少女が手を取り合っている様子に、自然と力が沸く感覚がした。せめて、彼らを里に送り届ければと、優希は自分を奮い立たせた。

 

――――――

 

 歓声を上げた子供達が、昼間会った青年に礼を言う。咏夢もあっと気づくと、青年に頭を下げた。

 

「あのっ、ありがとうございました!」

「いや……勝手に来ただけだしさ。とりあえず。」

 

 人里まで行こう、と歩き出す青年に、咏夢は子供達の手を引いて付いていく事にした。慧音に何か報告をしておかないといけないなと思ったが、藍姉に二回目の発動成功を報告したいな、とも思った。

 

 森を抜けると、青年の後ろ姿が最後の黄昏に照らされて、柔らかく暖かい光に縁取られていた。

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

感想等お願いいたします!!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。