東方陰陽玉   作:咏夢

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 生存報告代わりの、短文。

 受験生は死にそうです。しばらく見る専になります。


一閃「黄昏の彼」

 咏夢は、非常に焦っていた。そして、後悔もしていた。

 

(やっぱり、一人で来るんじゃなかった!)

 

「ガルルルァァァ……」

「えい、やっ!わあっ!?」

 

 気迫と悲鳴が口を突く。ぴょんぴょんと跳びはねながら、獣型の妖怪を相手にする巫女は、背中に小さな包みを背負っていた。無論、"あの人"に渡すためである。

 

「もうっ!何で、こんなっ、多いの!」

 

 運悪く群れに遭遇してから、かれこれ10分。既に涙目の咏夢は、威力の全く可愛くない猫パンチを避け、すぐに首もとを狙ってくる物騒な横っ腹を叩き、彼女らしく奮闘していた。

 しかし、人間にはスタミナというものが存在する。

 

「もう、動けなっ、やあっ!?」

 

 伸び放題の草に足を取られ、少女は派手に転んだ。札をすぐに握るが、反動でそれは破れてしまっている。

 

「え、嘘ぉ……。」

「「「ガルルァァァ!!!」」」

「いやぁぁぁ!チェエエエエン!」

 

 前述の通り小さな包みを背負って、咏夢は必死に結界を張った。霊力だけで出来たそれは急ごしらえにしては上出来な方だが、到底太刀打ちできるものではない。

 故に彼女は、ここにいない相棒の名前を叫びながら、大きく首を縮めた。こうなるなら、人里にまっすぐ向かうんだった。そうやって今さら考えながら。

 

―――――

 

 人里から、さほど離れていなかったのが幸いした。手の隙間から見えていた牙が、一瞬で砕け散ると、咏夢はぽかんと口を開いた。

 

「……え?」

「えっと、大丈夫?君……咏夢、だっけ。」

「な、何で、私の名前を……?」

「橙が教えてくれたんだ。あー、昨日振りだね。」

 

 咏夢はその言葉に、ようやく相手が誰であるかを理解した。ぱっと顔を明るくして、慌てて立ち上がる。刀を片手に提げた青年に、ぺこりと頭を下げた。

 

「こんにちは!また助けてもらっちゃいましたね。」

「ああ……まあ、そうなるかな。こんにちは。」

「えっと、橙から聞きました。優希さん、ですよね。」

「うん。よろしく、咏夢。」

 

 頬を掻きながらそう言った彼は、鞘に刀を収めて湖の畔に座った。咏夢も隣に並ぶと、背中に背負っていた紺色の風呂敷をはいっと手渡す。

 

「これは?」

「昨日貰ったお礼です!やっぱり、優希さんにと思って……迷惑だったら、ごめんなさい。」

「いや、ええと……ありがとう。貰っておくよ。」

 

 小さく笑った彼は、咏夢に誘われて、互いの事を話した。自分は巫女であること、勇者(種族としての勇者であり、決して自惚れではない。)であること。同じ村から来たこと、人探しをしていること。今は人里の近くで暮らしていること、人助けは単なる善意であること。

 

「あっ、そうだ。私、優希さんにお願いがあるんです。」

「ん?何かな。」

「――私に、戦い方を教えてくれませんか。」

 

 咏夢の真剣な様子に、優希は迷うような仕草を見せ、まっすぐ目を見て言った。

 

「それは、咏夢にとって大切な事なのか。」

「はい。私が……私が、本物になるために、どうしても強くならなくちゃいけないんです。お願いします!」

 

「……分かった。俺に何が出来るかはわからないけど、やってみようか。」

「わあっ!ありがとうございます!」

 

 咏夢がにこりと笑うと、優希はそれを優しい目で見つめていた。包みをほどいて中に入っていた果物を、一つ咏夢に差し出す。そうして、二人は並んで甘い果汁に舌を濡らしたのだった。

 

 そうして、また日は傾いていく。

 

 咏夢と優希の新しい日々が、ようやく始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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